TOPIC No.4-28 u-Japan(ユビキタスネット・ジャパン)計画

01. ユビキタスネットワークの世界 by情報通信白書 for Kids
02. [特集]e-japan戦略の本音 CNET JAPAN
03.NICT情報通信ベンチャー・フェア2005 開催報告 〜ユビキタスネット社会におけるベンチャービジネスの可能性を探る〜
04.u-Japanと企業価値創造(2005.02)村上輝康 by NTT西日本
05. u-japan(ユビキタスネット・ジャパン)by 総務省
06. 「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」最終報告書  平成16年12月17日総務省
07. 平成17年度 総務省 重点施策
08. 平成17年度 ICT政策大綱(ユビキタスネット社会の実現へ向けて)平成16年08月総務省
09. u-Japan構想 byマルチメディア・インターネット事典
10. u-Japanとかソフトウェア企業とかwinnyとか その1 May 16, 2004
11.総務省 ICT強化プログラム
12.ICT 国際競争力強化プログラム(平成19年5月22日) by総務省(MIC):Ministry of Internal Affairs and Communications
13.【インターネットはもう古い】 新世代ネット開発に着手 来年度予算で78億円要求 by2チャンネル

IT対応度、日本19位 スイス機関の報告書

2008年04月09日 中日新聞

 【ジュネーブ9日共同】ダボス会議で知られるスイスの民間経済研究機関、世界経済フォーラム(WEF)は9日、情報技術(IT)対応度をランキングした2007−08年版の報告書を発表、世界127カ国中、日本は前回調査から5ランク落とし19位となった。

 報告書は各国がどれだけ効率的にITを活用できるかを規制やインフラ環境など幅広い側面の指標や経営者のアンケートから分析、順位付けした。

 首位デンマーク、2位スウェーデンは前年と変わらず、アジアからは19位から9位に躍進した韓国と5位シンガポールがトップテン入り。米国が4位で、他は北欧を中心に欧州勢が上位を占めた。

 日本は個人向けブロードバンド通信のコスト(首位)や企業の研究開発投資(3位)では高い評価を受けた半面、政府部門のIT活用や経営者育成分野などの評価が低く、全体の順位を引き下げた。

総務省、新世代ネット研究開発に着手へ 今秋にも産学官連携の組織設立

2007/08/18 The Sankei Shimbun WEB-site

 ブラジル訪問中の菅義偉総務相は17日午後(日本時間18日未明)、ブラジリア市内で同行記者団と懇談し、現在のインターネットに代わる「新世代ネットワーク」の研究開発に着手する方針を明らかにした。高速大容量でサイバー攻撃にも強い技術を世界に先駆けて開発することで、日本の国際競争力を強化するのが狙い。欧米各国も「ポスト・インターネット」を見据えた通信技術の研究開発を検討していることを踏まえ、アジア諸国との連携を目指す。

 総務省は、ICT(情報通信技術)の分野で世界の主導権を握ることを目標とする「ジャパン・イニシアチブ・プロジェクト」の中核に新世代ネットワークの開発を位置付け、今秋にも産学官連携の組織を設立。平成20年度予算の概算要求に関連経費78億円を盛り込み、平成32年の実用化を目指す方針だ。

 現在のインターネット技術は、ブロードバンド(高速大容量)化の進展に伴い情報量が急増した半面、通信速度の確保やセキュリティー(安全性)に問題があると指摘されている。

 このため総務省は、新世代ネットワークが備える特徴として、利用者が求める一定の通信速度を必ず確保するとともに、ネットワークが自律的に故障や災害時の通信途絶を復旧したり、有害情報やコンピューターウイルスの攻撃を遮断したりする機能を想定している。

 菅氏は記者団に「残念だがインターネットは米国が進んでいて、何をやっても追いつかない。日本がインターネットに代わる技術で主導権を回復したい」と述べた。(共同)

「ユビキタス特区」が来年登場

2007年06月20日 ITmedia News

総務省は来年1月をめどに、北海道や沖縄に「ユビキタス特区」を創設する。次世代携帯電話やネット家電などに関連する開発・実証実験などを行う。

 総務省は、「ユビキタス特区」を北海道や沖縄などに08年1月をめどに創設する。利用されていない周波数帯を活用し、通信と放送を連携したサービスや、次世代携帯電話、ネット家電に関連する開発・実証実験などを行う。

 特区では、利用されていない携帯電話用の周波数帯を、混信が生じない範囲で有効活用できる環境を整備。短期で免許処理できる実験用無線局制度も作り、無線を利用した実験が行えるようにする。

 固定・移動通信、放送を連携させたサービスの開発や、次世代携帯電話に関する実証実験、自動車、家電、ロボットと通信を組み合わせたサービスなどを開発するプロジェクトを実施する。他国に「ユビキタス姉妹特区」を創設するようにも働きかける。

 北海道と沖縄のほか、情報通信技術の研究を行う企業や大学の研究所が複数存在するエリアにも創設する。IT技術の国際競争力強化などを目指す「ICT改革促進プログラム」の一環。

File No. 202-004 「ICT国際競争力強化プログラム」の公表 日本: 総務省 (MIC)

2007年05月22日 デイリーウォッチャー[文責:DW編集部]
 

 平成19年5月22日、総務省は産学官の連携を進め、ICT産業の国際競争力を強化するための政策プログラムをまとめ、公表した。

 2011年までの実現を目指し、7つの基本プログラムと7つの個別プログラムを計画し、各プログラムを効果的に推進するための、税制、財政金融、ODA活用の支援措置を検討する。

 ◇基本プログラム:  「ICT国際競争力会議」の設置  「ユビキタス特区」の創設  「ジャパン・イニシアティブ・プロジェクト」の推進  重点分野における基本戦略の推進  「技術外交」の戦略的展開  通信・放送分野の改革の推進

 ◇個別プログラム:  ICT研究開発強化プログラム  ICT標準化強化プログラム  ICT知的財産強化プログラム  ICT人材育成プログラム  ソフトパワー強化プログラム  ICTブランド向上プログラム  国際展開支援プログラム


IT社会への政府計画「具体策に乏しい」 自民特命委が批判

2006/02/14 The Sankei Shimbun

 自民党の「u―japan特命委員会」は14日、党本部で会合を開き、最先端の情報技術(IT)社会を目指すとした政府の「IT新改革戦略」について「具体的な対応策に乏しく実現に強い危惧(きぐ)を覚えざるを得ない」として取り組み強化を求める申し入れ書をまとめた。15日に安倍晋三官房長官に提出する。

 出席した中川秀直政調会長は、納税手続きなどの分野で2010年度のオンライン利用率を50%以上とする政府計画について「このままでは目標達成は100パーセント不可能だ。数兆円の国費を投じながら由々しきことだ」と批判した。会合では、目標達成に向け具体策を3月末までに示せない事業は、06年度の予算凍結も含め見直す方針を確認した。(共同)

暮らしの構造改革(u-Japan戦略)

平成17年5月1日号 政府広報

 u-Japan政策は、ICT(Information and Communications Technology:情報通信技術)を利用して、「いつでも、どこでも、何でも、だれでも」がネットワークにつながり、安心・安全・快適に暮らせる「ユビキタスネット社会」を2010年までに実現することを目指すものです。こうしたユビキタスネット社会の実現のためには、プライバシーや情報セキュリティなどの課題を解決することが不可欠です。日本は、世界に先駆けて、ユビキタスネット社会に適応したICT利用の指針を策定し、世界に発信していくこととしています。

Vol.76 u-Japan

2005/04/14 日立総合計画研究所・編

  「u-Japan(ユビキタスネット・ジャパン)」とは、総務省が2004年12月に策定したIT政策です。総務省ではu-Japanを、IT戦略本部が策定したe-Japan戦略の後継として位置付けています。e-Japan戦略に沿って我が国のIT化が進む中、その期限である2005年末が迫りつつあります。

  2001年に策定された我が国最初のIT国家戦略であるe-Japan戦略では、「2005年に世界最先端のIT国家になる」という目標が掲げられました。e-Japan戦略の策定を契機にネットワーク・インフラの整備は大きく進展し、その後、IT戦略本部は2003年にe-Japan戦略IIを策定し、国民に身近な分野でITサービスの利活用を促進するという新たな方向性を打ち出しました。

  u-Japanでは、e-Japan戦略で整備されたネットワーク・インフラやITサービスをさらに発展させ、2010年を目標に日本を世界最先端の「ユビキタスネット社会」へと発展させていくことを目指しています。ユビキタスネットワーク社会とは、誰もが、いつでも、どこでも、ネットワークを利用してサービスを受けたり、情報をやり取りしたりできる社会のことを意味します。

  連続しているように見えるe-Japan戦略とu-Japanですが、その策定母体が違うという事情があります。e-Japan戦略は日本のIT政策をまとめるIT戦略本部が策定しましたが、u-Japanはあくまでも総務省が独自に策定した政策なので、総務省以外の府省が管轄している分野の政策については、他府省との協力が必要不可欠となります。今後はIT戦略本部の戦略とu-Japanとの整合性をいかに取るかが課題となるでしょう。

 ■四つの意味があるu-Japanの「u」

  u-Japan の内容についてもう少し詳しく説明しましょう。u-Japanの基本理念は、一つの「U」と三つの「U」から構成されます。一つの「U」は上記の「ユビキタス(Ubiquitous)」ですが、それ以外の三つの「U」は、「ユニバーサル(Universal)」と「ユーザー・オリエンティッド(User-Oriented)」、「ユニーク(Unique)」を意味します。

 ■u-Japanの基本理念を示す一つの「U」と三つの「U」

  総務省は、2004年3月から「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」を開催し、民間の構成員を中心にユビキタスネット社会の実現方策について議論を行ってきました。同年12月には最終報告書を発表し、その中でu-Japanを実現するための政策として「u-Japan政策パッケージ」を発表しました。u-Japan政策パッケージは、(1)ユビキタスネットワーク整備、(2)ICT(Information & Communication Technology)利活用の高度化、(3)利用環境整備、という三つの柱からなります。これらの政策群の中には、総務省が従来から取り組んできた政策も多く含まれていますが、u-Japanとしてまとめることによって、今後のIT政策の方向性を国民に分かりやすく提示する狙いがあるようです。

e-Japan の次は u-Japan

2005年03月01日 PUICPプログ 五十崎(ikazaki)

 2001年1月に計画されたe-Japan戦略が5年計画だったので、今年で終了するので、総務省が今度の5年計画は、u-Japanと言うものにしたいようですね。

 2010年に日本をユビキタスネット社会にするための道筋をつけるために「u-Japan政策」と言うのを今年12月末までに作るようです。 ユビキタスネットと言うのは、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットにつながる社会を意味していて、家庭や会社からPCを使ったネット接続だけでなく、携帯、冷蔵庫、ホームエレクトロニクスなど、さまざまな機器がネットワーク越しに相互に接続、特に意識しなくても連携して動作して、誰でも安心して簡単に利用できることを目指しているようです。

 2000年のミレニアムプロジェクトから、e-Japan戦略と、今年まで色々な計画が練られて来ましたが、結局、何処まで計画が進行して、何が成功で何が失敗だったのか、と言う検証はしているのでしょうか。住基ネット、電子自治体、高速のETC、遠隔医療などなど。官主導のものはなかなか美味くいっていないように思えます。「2005年に世界最先端のIT国家となる」という計画の一部の、2005年までに常時接続可能な環境を、ADSL/CATV を3,000万世帯、FTTH を1,000万世帯まで拡大させる、という目標は、孫さんのヤフーBBによる民活効果によってここまで来たと言うことは否めないのでは無いでしょうか、政府は、もっといろいろな規制を緩和すべきかもしれません。

 ユビキタスネット社会を実現するとは言っていても、具体的にどうするのか、セキュリティ上、利用上の不安をどう解決して行くのかなどの課題が残されいるので、懇談会では10の課題を設けてワークグループで月1回の検討をやって今年の12月に取りまとめをするようです。

 u-Japanで解決されるべき主要な課題

 【結:Connection】

 ・緊急時の安全・安心    災害等の緊急時において、安否状況等を登録し、家族などの第三者が被災者の安否を迅速に確認し、必要な情報のやりとりができる

 ・医療の安全・安心    病院等が診療情報を電子的に交換する(電子カルテネットワーク)ことで医療の質的向上や効率化を図り、患者指向の医療サービス提供が受けられる

 ・食の安全・安心    食品(青果物、食肉、鮮魚、加工品等)に電子タグ等を貼付し、生産履歴や流通履歴データを管理し、そのデータの閲覧を消費者も容易に行える

 ・環境の安全・安心    家庭及び事業所から出る一般廃棄物について、分別後に収集単位に電子タグを貼付し、ごみ種別に応じた回収量の把握、リサイクルや処理の適正化を確保する

 【優:Communication】

 ・生活のゆとり    高齢者、共働き家庭や独身者等を対象として、各種センサーや家電の動作状況等などから位置や状態等をモニターし、基本的な生活をサポートする

 ・公活動への参加    会社や自宅等からもネットワーク経由で投票などを可能とすることで、身体に不自由のある方々などの住民投票等の行政過程への参加率の向上、書き損じを低減、集計時間の短縮を図る

 ・安全で快適なモビリティの向上    交通情報、経路情報等の充実による渋滞解消や、渋滞情報と連動した自動車走行支援システムを活用し高速道路の渋滞ポイントでの渋滞を抑制したり、自動車自律系システムと車車間・路車間通信等、情報通信の高度化などにより、交通事故を削減し、安全で快適なモビリティを確保向上する

 【湧:Creation】

 ・人材の活性化    中高年層を中心とした人材ブリッジ、子育て等でキャリアが中断した女性の再就職や若年層の就職を支援するため、能力評価を行い求人情報にマッチングしたり、能力開発プログラムの紹介等を行う

 ・文化・芸術の活力の発揮    デジタル化されたコンテンツをメタデータ(コンテンツの属性情報等)などにより制御し、著作権保護の要請と利便性を両立させ、多彩な利用者端末において、いつでもどこでもどんなコンテンツでも利用できる

 ・流通の高度化    電子タグの利用等により、即時精算、自宅の情報家電との通信等による商品情報の提供、商品配置や動線の工夫、リアルタイムの在庫管理等を実現し、効率向上と楽しい買い物を両立する

2010年の日本〜u-Japan〜実現に向けた取り組みについて

2005/02/23 japan.internet.com: 日本ユニシス 近藤 良子

  米国においては製造と流通の中間層あるいはマネジメントの中間層の撤廃で非常に効率を求めた社会が形成された。一方、日本は遅いスピード感、物の高さに苦しむ時期が続いた。

 そうした中、2000年11月に IT 活用で活気付けることを目的に IT 基本法が制定され、2001年1月には全閣僚参画のもと、5年以内で世界 No.1の電子政府実現に向けて「e-Japan 戦略」が打ち出された。

 2003年1月には高速ネット整備や使用料の定額制の実現で世界に先駆けた“早くて安いネット環境の実現”を成し遂げた。しかしながら、利活用が促進されない為、2003年7月に「e-Japan 戦略U」で先導的7分野に焦点を当てて施策を進めた結果、2004年世界11位に大きく躍進した。

 2006年以降も世界最先端の IT 国家であり続け、IT で活性化された2010年の社会を想定した場合、IT 自体が今のままで良いか考える必要が発生し、シーズで積み上げてきた政策を民のニーズに考慮する方針に軸足をおく政策に大きく転換した。

 <2010年の次世代 ICT(Information Communications Technology)社会>

 2010年へ向けた5,000人規模の生活者ニーズ調査より、次世代 ICT 社会では次の特質(課題)を備える社会として、4U=For You が理念に掲げられている。 (注 漢字でも You を意識した語呂合わせに For You を実感)

 ・Ubiquitous(ユキビタス): あらゆる人や物が結びつく〜「いつでも・どこでも・何でも・誰でも」簡単にネットワークへ

 ・Universal(ユニバーサル): 人にやさしい心と心の触れ合い

 ・User-oriented(ユーザ): 利用者の視点が融けこむ〜ネットワーク力で一億総「プロシュマー化」

 ・Unique(ユニーク): 個性ある活力が湧き上がる

 生活面・産業面の具体的な利用シーンは多岐にわたり事例が紹介されている。一方、ICT 産業は日本の技術的基盤の抜本強化と ICT 活用による社会的ジレンマの解消を役割を担い、ICT 産業自体の変革に取り組んだ結果として、成功の暁には、2010年に87兆6,000億円のユビキタスネットワーク関連の市場規模が見込めるとの予測が打ち出されている。特にサービスコンテンツとコマース分野に関しては1.5〜2倍という大きな伸びが予測されている。

  ユキビタスネットワーク整備/ICT 利活用の高度化/利用環境整備の大きく3つの政策パッケージが掲げられているが、特に「いつでも・どこでも・何でも・誰でも簡単にネットワークへ」の理念を中心に国民の100%が高速・超高速ネットワークを利用可能な社会とすべくユビキタスネットワーク整備を早期に実施する方針を掲げている。

 また、ユキビタスネットで最大限の利益を得る枠組の提唱と国際発信のため『ユビキタスネット憲章』を策定するという新しい試みも提示している。一方、利用環境整備では、“早くて安いネット環境の実現”の結果、自由に使えることと勝手に使われては困ることの両面が潜在する中で、社会的影響が高く対応策が不十分な21課題を重点戦略として策定している。

 ICT 利活用の高度化についての具体的施策は今後各省庁より提唱されると考える。政策実施の基本的な考えは、小さな政府を目指し官は環境整備や市場原理の補完を実行し、産学が主体で実施する構図が望ましいとされている。具体的な施策は「工程表」として明示されており、技術革新の激しい中、PDCA(Plan-Do-Check-Action)を実施し評価結果次第では政策の見直しを実施するとしている。

 <あとがき> 2010年の IT 社会を見据えた政策として、利用者の具体的な活用シーンを想定した政策パッケージとして提唱されており、非常にわかり易く、主体となる産学が本政策の精神を理解し推進することが躍進の鍵と考える。

 考察にあたり総務省 吉崎正弘様著『u-Japan 2010年の日本』における率直な見解を参考とし、特に「ICT を利用して再び元気な日本になってほしい」とし政策の具体的な捕らえ方、その心にまで言及した本書に賛同した次第である。今後の電子政府・電子自治体を推進する読者に一読をお薦めしたい。

 参考文献:『u-japan 2010年の日本』吉崎正弘著(発行)株式会社ニューメディア

 参考URL:「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」最終報告書 基本政策 WG(第8回)配布資料

 近藤 良子(日本ユニシス株式会社/官公庁事業部/官公ビジネス統括部/官公ビジネス二部)

総務省、ユビキタスネット社会 「u-Japan」 に向けた課題を発表

2004/12/20 japan.internet.com 編集部

 総務省は2004年12月17日、ユビキタスネット社会について、株式会社野村総合研究所を通じて行われた有識者アンケートの調査結果発表した。

 今回のアンケートでは、想定される課題をあらかじめ網羅的に列挙し、これらの課題の、「社会に対する影響の度合い」、「対応の未熟さの度合い」「ユビキタスネット社会との関わりの度合い」について調査した。

 この中で、「未熟さ」と「関わり」の度合いがともに大きいものは、「社会に対する影響の度合いが大きいにも関わらず、十分な対応がなされていない課題」として捉え、優先的に取り組むべき21課題として位置付けた。

 具体的には、「 医療におけるプライバシー保護のあり方」「公的機関や事業者の保有する個人情報保護のあり方」「一般ユーザの情報セキュリティ意識の向上」「情報ネットワークの脆弱性の克服」」「コンピュータウイルスへの対応」など。

 また、優先的に取り組むべき課題の他に、ユビキタスネット社会の実現に伴い顕在化が予想される特有の課題として、「金融・決済等にかかわるプライバシー保護」「ウェブサイトを利用した顧客情報の取得への対策」「生体認証の導入・普及のあり方」「位置情報の取り扱いルールのあり方」「電子タグの利用ルールのあり方」などを挙げた。

 さらに、同懇談会では、課題が解決された2010年の社会像として u-Japan(ユビキタスネット・ジャパン)を定義し、その実現のための政策パッケージなどを提言している。

次世代IT国家戦略「u-Japan構想」

2004年11月23日 seiron/ ニュースで追跡!マニフェスト:射場本 健彦

 平成16年8月、総務省は「u-Japan構想」を発表しました。これはe-Japan戦略及びe-Japan戦略2の成果を受けた2010年までの次世代IT国家戦略です。さて、政府は「u-Japan構想」を通して何を実現しようとしているのでしょうか?

 ■Uとは?ユビキタスとは??

 u-Japan構想の「u」は主に「ユビキタス」を表しています。ユビキタスを日本語に訳すと「遍在・あまねく存在する」という意味です。つまり、u-Japanではユビキタスにインターネットが存在し好きな時に好きな機器で接続でき、それを通じて誰もがコンピューター等を特別に意識しなくてもサービスを共有できる社会(以下ユビキタスネット社会)を目標としています。

 ■具体的にどんなことができるの??

 ユビキタスネット社会を実現するために、様々な技術が開発されています。その代表的なものが「IPv6」と「RFID」です。具体的には、全ての製品にRFIDという微細なチップをつけ、IPv6という技術を用いて固有の番号をつけるのです。

 実際にどのようなものになるかというと、以下のたとえ話で説明します。 ある農家が出荷時にキャベツの袋にRFIDをつけ、そのRFIDには「001」という固有の番号がついていました。このキャベツはいくつかの過程を経て、今、スーパーであなたの手元にあります。そして、健康に気を使うあなたはこのキャベツが国産なのかどうかを知りたいと思いました。そこで、キャベツの袋についているRFIDをスーパー備え付けの機械で読み取ることにしました。すると、001のキャベツはどこの農協から出荷され、等級はいくつで何キロ移動してスーパーに着いたという過程が、それぞれのポイントでキャベツのRFIDに書き込まれて記憶されていました。これを見てあなたは安心してキャベツを買うことが出来ました。

 このほかにも、過疎地・災害地での大学病院との協働による先端医療などに生かされようとしています。

 ■便利な面、隣り合わせの危険

 このようなユビキタスネット社会のイメージをみて、便利だなと思うとともに、怖いなと思う面はなかったでしょうか?それが今話題になっている個人情報の問題です。もし、あなたにRFIDがついていたらどうでしょう?あなたが駅へ行った、デパートへ行った、学校へ行ったという情報がRFIDに書き込まれていて、それが読み出されてしまったら個人情報はどうなるでしょうか?もちろんこれは極端な例ですが、現在○○産の野菜を持っているといったいう情報などが知られてしまうということは十分ありうることです。

 ユビキタスネット社会には、個人情報保護というような問題も含んでいます。そのため、「技術的に可能」と「倫理的に不可能」のさじ加減をとることが強く政治に要請されています。ですから近い将来、ユビキタスネット社会とその副作用が論点になる選挙があるかもしれません。それに向けて、「学生番号など個人が特定される情報は公開されたくないけど、年齢や性別といった属性ならいいや」・「学生番号と自分の氏名が公開されても気にしないけど、学生番号・氏名と買った本や服のデータが結びつくのはいやだな」というように自分の意見・立場を考えてみてはいかがでしょうか?

 上に示した個人情報の問題以外にも、ユビキタスネット社会に向けて解決しなければならない問題はいろいろあります。例えばインターネット接続に必要な周波数帯域の配分方法や、ユビキタスネット社会を生きるための情報リテラシーの格差といったものです。これらの問題も、今後seiron.orgでは取り扱っていく予定です。

総務省、“u-Japan”のネットワークインフラ開発に290億円を投入

2004/08/27 INTERNET Watch

 総務省は27日、電子政府の推進やユビキタスネット社会(u-Japan)の実現を目指す「平成17年度 重点施策」を発表した。あわせて同省所管予算に関する概算要求の概要や、「ICT政策大綱」なども公表している。

 重点施策にあわせて公表された「平成17年度 ICT政策大綱」は、これまでの「IT政策大綱」から名称を変更したもの。総務省では、「『u-Japan構想』を踏まえ増大するコミュニケーションの重要性を鑑み『ICT(Information Communication Technology)』と変更した」という。

 発表された重点施策では、「行政改革の推進」などに並んで「ユビキタスネット社会(u-Japan)の実現」「電子政府・電子自治体の推進」といった項目が盛り込まれた。u-Japanの実現については、トラフィックの爆発的な急増に対応できる分散型の次世代バックボーンや、IPv6によるユビキタスネットワーク基盤技術といったネットワークインフラの開発に注力。また、デジタルデバイドの是正として、ネットワーク環境の地域間格差や高齢者、障害者などへのPCやインターネットに対する障壁を解消する施策も実施する。予算額では概算要求で、インフラ開発に290億円、デジタルデバイドの是正に160億円が計上された。

 電子政府に関しては、オンラインによる申請や届出の手続きを国民に対して啓発するための集会や、汎用OSのソースコードを解析して評価する施策などを実施。電子自治体に関しては、住基カードや公的個人認証サービスの利用促進および利便性向上の研究を行なう。なお、電子政府関連の予算は62億円。電子自治体関連には22億円が計上されている。

 このほか、「国民の安心安全の確保」として個人情報の保護や情報セキュリティの向上にも言及。個人情報保護法や関連条例などの整備、不正アクセスやウイルスによる被害を防ぐための研究開発を行なうとした。

 ICT政策大綱では、「いつでもどこでも快適な社会が実現できる社会」「新ビジネスや新サービスが次々に生まれる社会」の実現などを政策に柱に、現状の課題や対応策を掲載。Gbpsクラスの超高速無線LANや、第4世代移動通信システムに関する研究開発などについても言及している。 ( 鷹木 創 )

総務省、ユビキタスネット社会「u-Japan」に向けた懇談会の中間まとめを公表

2004/07/02 INTERNET Watch
 総務省は1日、ユビキタスネット社会の実現に向けて具体的な姿や実現方策などの検討している政策懇談会の中間とりまとめを公表した。2010年の社会像として「u-Japan」(ユビキタスネット・ジャパン)を定義し、実現に向けた政策のあるべき姿や基本的方向性などの提言を行なっている。

 総務省で2004年3月から開催している「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」が今回公表した中間とりまとめでは、2010年に実現する新たな社会の姿を「u-Japan」を定義。「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークに簡単に接続でき、それらが統合された新たなICT(Information and Communications Technology)環境の整備によって、医療福祉や交通物流、環境・エネルギーといった国の課題が解決された状態であるとしている。

 u-Japanの実現に向けては、生活者のニーズを基盤とした課題の解決、ICT産業の活性化によるユビキタスネット社会の基盤構築、ユビキタスネット社会における障害や不安の解消という3つの道筋を中心に検討を深め、政策パッケージを策定する。

 生活者のニーズを基盤とした課題の解決については、医療や環境などの安全・安心に関わるテーマに強い生活者ニーズが存在するとして、それぞれに10の課題を抽出し、解決方策を提示する。ICT産業の活性化については、相互運用性の確保などによるダイナミックなeビジネス・コラボレーションの実現、IPv6への移行やセキュリティ確保などによる情報家電などネットワーク化への対応、コンテンツの潤沢な流通・自由で安全な利用の促進、人材・企業の育成などを目標達成のための検討課題としている。特に、ユビキタスネット社会を支える技術基盤の全体構造や規格の標準化における官民の役割分担と、各産業分野ごとに特に重点的に取り組むべき項目や目標設定については、今後の重要な検討課題として検討を進めていく。

 また、ユビキタスネット社会の障害や不安を解消に向けては、プライバシーの保護、情報セキュリティの確保、電子商取引環境の整備、違法・有害コンテンツへの対応といった10分野の課題を挙げ、それぞれの分野について10課題ずつ、計100課題を抽出。これらの課題に対しては、基本原則をまとめユビキタスネット社会の「憲章」を作成するとともに、社会影響度や対応策の充実度などにより各課題の優先度を定量化し、優先的に取り組む課題を明確化するとしている。 ( 三柳英樹 )

総務省:ユビキタスネット・ジャパン「u-Japan」を提唱

2004/07/01 Mainichi INTERACTIVE
 総務省の「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」は1日、ITにより社会の課題が解決された2010年の社会をu-Japan(ユビキタスネット・ジャパン)と提唱する中間報告書を発表した。

 現代社会の課題のうち、安全・安心な生活の実現のためには電子タグによる食品トレーサビリティシステム、少子高齢化への対応として介護福祉支援システム、新たな産業の育成にはデジタル情報家電の急速な普及など、IT技術の進展が課題解決への道筋となることが期待されている。

 u-Japanは、「いつでも、どこでも、何でも、だれでも」ネットワークに簡単に接続できる環境が整備され、個別のITサービスや技術だけでなく、それらが統合された新しい利活用ができ、課題の解決に貢献した社会としている。

 それに向けて今後の政策としては利用者・利活用の視点の重視▽中長期的・総合的視点にたった政策の樹立▽普段の見なおしによる実効性の確保が必要と指摘。基本的な方向性として、オープンな次世代基盤の確立、市場の活性化、アジアとの連携など国際的な取り組みの強化などを打ち出した。

 そして、目標として(1)ダイナミックなeビジネス・コラボレーションの実現(2)情報家電などのネットワーク化への対応(3)リッチ・コンテンツの潤沢な流通、自由で安全な利用促進(4)人材・企業の育成−−を挙げた。

 一方、プライバシー保護、セキュリティーの確保など、u-Japanの影となりそうな課題を10分野、100テーマ設定。優先度をつけて、課題解決にむけて取り組んでいくとした。【柴沼 均】

トロン:坂村健・東大教授が20年を振り返る

2004年06月02日 Mainichi INTERACTIVE
トロンの意義を強調する坂村教授

 1984年から始まったトロンプロジェクトが20周年を迎えた。プロジェクトリーダーの坂村健・東京大学教授が2日、記者会見を開き、トロンがこれまでに果たしてきた成果を強調した。

 坂村教授は、トロンプロジェクトの基本的な目的は「社会生活の至るところでコンピュータが稼働する“どこでもコンピュータ”を実現することにある」と語り、それが最近では「ユビキタス・コンピューティングとして普及するようになった」と、以前より世間に認識されつつあることを説明した。また、これまでの活動を振り返って「プロジェクトが始まった頃は“概念先行でもモノなし”と批判されていた」とも語っている。

 プロジェクトの哲学として、基本ソフト(OS)やハードウエアの仕様を公開する「オープン・アーキテクチャー」と「ロイヤルティー・フリー」があったことで、トロンが普及したと説明している。実際に「統計があるわけではないが、いろいろ調べてみると、トロンが数十億台に採用されている」として、組み込み機器向けでは圧倒的なシェアを維持していることを強調している。これに関連して、ロイヤルティー・フリーにしたことで「社会に10兆円は貢献できたのではないか」と話している。

 かつてBTRONやITRONなど四つの仕様があったトロンは現在、標準アーキテクチャー「T-エンジン」と、そのカーネル(中核)となる「T-カーネル」に統一されている。トロンプロジェクトから派生した「T-エンジン・フォーラム」には世界380社が参画している。

 最近のICタグについては「技術面での問題を解決するだけでなく、使う側の人間のコンセンサス獲得が必要」として「社会に定着するまでには10年はかかるだろう」との意見を表明している。【田中 寒村】

u−Japan構想を提案 IT関連の人材育成など

2004年05月11日(共同通信)YAHOO! NEWS
 麻生太郎総務相は11日の経済財政諮問会議で、情報技術(IT)関連の人材育成などを盛り込んだ「u−Japan」構想を提案した。

 いつでもどこでもインターネットにアクセスできる「ユビキタス」の「u」を構想名に付けた。現在進めている「e−Japan」計画を引き継ぐ形で、2010年までにユビキタス社会の実現を目指す。

 具体的には、IT専門大学院の支援など人材育成、地方自治体の情報システム標準化などに取り組み、10年の関連市場の経済波及効果を120兆円と試算している。

 また総務相は、防犯・防災の取り組みを支援する「地域安心安全アクションプラン」も提案。公民館などにデジタル防災無線や救助器具を優先配備したり、住民の自主的パトロールでも車両に回転灯を付けられるよう規制緩和する。

e-Japanの次はu-Japan

2004年05月11日 SLASHdo
すばらしいみらいのにほんへ 部門より.

 Anonymous Coward曰く、"アサヒ・コムの記事によると、麻生総務相がIT戦略「e-Japan」の後継となる次世代IT戦略「u-Japan」の骨格を固めたとのこと。これは3月から開催されている「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」において話し合われた内容と思われるが、e-Japanで整備されたブロードバンド環境をベースにしてあらゆる機器をネット接続しサービスを提供しようというもの。

 タレコミ子としてはちょっとネーミングにヒネリがないなあと思ったり、関連資料なんかを見ていると、何やら昔懐かしいニューメディアの香りを感じないでもない。いずれにせよ、e-Japan以上にソフトウェア面の強化が欠かせない内容と考えられ、「箱は強いが中身に弱い」役所がどのように構想を実現していくのか、興味深い。"

2010年、日本をユビキタス社会に - u-Japan実現へ政策懇談会開催

2004/03/01 MYCOM PC Web
 総務省は、2006年以降のIT政策への適用も視野に入れた同省の政策を決める「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」の第1回会合を開催した。2010年に日本をユビキタスネット社会へと発展させるための道筋をつける「u-Japan政策」を取りまとめることを目的としており、今年12月末までに結論を出す予定だ。

 ユビキタスネットとは、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットにつながる社会を意味し、家庭や会社からPCを使ったネット接続だけでなく、さまざまな機器がネットワーク越しに相互に接続、特に意識せずに、誰でも安心して、簡単に利用できることがメリットとされる。

 2001年1月のe-Japan戦略では、国内のブロードバンド環境において、2005年までに常時接続可能な環境を、高速(xDSL/CATV)3,000万世帯、超高速(FTTH)1,000万世帯まで拡大させる、という目標を立てていたが、2003年時点でxDSLは3,500万世帯、CATVは2,300万世帯、FTTHは1,770万世帯が利用可能になり、実際の利用はまだ進行途上であるものの(実際の加入世帯はxDSL約1,027万加入、CATV約247万加入、FTTH約89万4,000加入、いずれも2003年末、総務省調べ)、環境の整備は前倒しで進展してきた。その後e-Japan戦略II(2003年7月)では、基盤整備から利活用へと発展させ、「2005年に世界最先端のIT国家となり、かつ2006年以降も最先端であり続ける」との目標が掲げられた。

 今回の懇談会では、その2006年以降に到来するユビキタスネット社会の実現に向けてさまざまな議論を行うことが目的だ。しかしユビキタスネット社会の実現には、その方策に具体論が欠けている、セキュリティ上、利用上の不安が存在する、事業が成り立つ見通しが立たない、などの課題が残されいる。懇談会ではそれを解消するための方策を議論、2010年にユビキタスネット社会(u-Japan)を実現させるための全体概略設計図とその実現方策である「u-Japan政策パッケージ」を作成することなどを目指す。

 座長には野村総合研究所理事長の村上輝康氏が就任、「基本政策WG」(座長・村上輝康氏)、「IT産業WG」(座長・伊丹敬之一橋大学商学部教授)、「利用環境WG」(座長・堀部政男中央大学法学部教授)という3つのワーキンググループを設置する。基本政策WGがu-Japan政策パッケージの作成を、IT産業WGが技術開発、人材育成、基盤整備などの課題抽出や行政の役割を、利用環境WGがモラルやルールを整理、プライバシー保護、法的ガイドラインなどを、それぞれ議論していく。

 今後、各WGを月1回程度の割合で開催、第2回目の全体会合となる6月には中間の取りまとめを、12月下旬には最終の取りまとめを行う予定だ。

 会合の冒頭、挨拶にたった田端正広副大臣は「世界一安くて速いインフラが実現し、ユビキタスの環境は整いつつあるが、課題も残っている。(ユビキタスは)姿形が国民に分かりづらく、この懇談会でu-Japanの姿をよりはっきりさせてもらいたい」と述べ、国民に分かる形での政策が作られることを求めた。

「ユビキタスIDセンターとオートIDセンターは仲良し」坂村、村井両教授が対談

2003/12/12 MYCOM PC Web

 坂村健東京大学教授(左)と村井純慶應義塾大学教授 今年のTRONSHOW、もうひとつの目玉は、坂村健東京大学教授と村井純慶應義塾大学教授の対談だった。表題は「ユビキタスIDセンターとオートIDセンターは仲良し」だ。坂村教授は、TRONを核としたICタグを推進する「ユビキタスIDセンター」を率い、片や、米国マサチューセッツ工科大学を中心とするオートIDの標準化団体のリーダーだ。

 これまで両者は標準化を巡って対立関係にあるとみられてきた。この表題は、そのような印象を払拭することをねらってつけられた。そして、この席上、坂村、村井両教授から、両センターは共同実証実験をしていくことで合意、来年4月頃をめどに、具体的な作業を開始することが明らかにされた。双方の規格の相互運用性の確保、アプリケーションの互換性などを検証する意向だ。過去はともかく、現在、両者は敵対してはいないようだ。

 オートIDセンターは、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)内に99年設立されたが、現在は国際的な統一商品コードの管理機関、国際EAN協会と、米国の流通コード機関であるUCCが設立したEPC(Electronic Product Code)globalと呼ばれる組織に、標準化活動を移管、従来の組織はオートIDラボとして、研究開発に専念している。

 同センターは、流通関連での利用技術を焦点にしているが、ユビキタスIDは、すべてのものの認識を目指している。坂村教授は「役割が異なるのに、日本のマスコミの多くは、すべて同じもののように書き、どこか対どこか、というような構図を描く」と批判、両者は争っているわけではないことを強調した。

 また、坂村教授は「オートIDは米国で考え出されたものだが、日本では、米国万歳で、米国の決めたことに逆らうのか、というような論調が多い」と指摘、これに対し、村井教授は「流通業をみても、スーパーマーケット、小売店の事業モデルは日米ではちがうし、それぞれの状況にあわせていけばよい」と応じた。

 さらに、坂村教授は「これまで、ユビキタスコンピューティングが本格的に実現するまでには、あと10年はかかる、といってきた。もう少し検証を続けた方が良いことが少なくない。いまの段階では、技術研究、実験がより重要だ。米MIT、東大、慶大間で技術交流ができれば良い。オートIDは流通のためという使命があるが、ユビキタスIDは依然、研究に留まっている、という見解があるが、それは誤解だ」と述べると、村井教授も「実験、研究が重要のは明らかだ。ICタグによる認証は、日々使うものなので、開発した技術が、本当に受け入れられるかどうか、ユーザーとしての視点で慎重に判断すべきだ。研究は大学間、あるいは産学協同で進めなければならない」と指摘した。

 大学の位置づけについて坂村教授は「大学の果たす役割は重要だ。企業とは異なり、研究についてリスクを冒してやっていけるからだ。大学での研究、開発には失敗も多いが、失敗のない研究などありえない。我々が目指しているのは、あらゆるものを認識する技術だが、いまできることから社会に出していきたい」としている。

 最後に両陣営間の協力関係に触れ、坂村教授は「T-Engineで、オートIDをサポートする。技術の相互乗り入れでを検討していきたい」と、村井教授は「まず、実証実験をすることの意味は大きい」と語り、今後、相互協力していく意向で一致した。

日本オラクル、トロンへの取組みを始動

2003/12/01 日本オラクル
ユビキタス・コンピューティング環境の情報基盤となる超小型版データベースの「T-Engine」対応版を開発

 日本オラクル株式会社(代表取締役社長:新宅 正明、本社:千代田区紀尾井町4-1、以下日本オラクル)は、国産OSのTRON(以下、トロン)への取組みを始動することを発表します。ユビキタス・コンピューティング環境の情報基盤となる超小型版データベースの「T-Engine」対応版「Oracle Lite for T-Engine」を日本オラクルが開発し、12月11日?12月13日の3日間、東京国際フォーラムにて開催される「TRONSHOW 2004」に出展します。

 ユビキタス・コンピューティング社会とは、情報家電やデジタル家電がネットワークで接続され、規模の大小はありますが「生活空間のどこにでもコンピュータが存在する環境」のことを意味します。その環境の実現には、組み込み用OSであるトロンの搭載を欠かすことができず、すでに携帯電話などの携帯端末、自動車や家電などにおいて幅広く利用されています。「T-Engine」はトロンを基盤にした開発・実行環境であり、トロンの普及に付随して今後活用範囲の拡大が予測されています。このような動向の中、日本オラクルでは携帯端末だけでなく自動車、家電などにおいてもデータベースが搭載されることを見込み、トロンへの取組みを本格化します。まずは、日本オラクルがWindowsおよびPocket PC向けに提供してきた超小型版データベース「Oracle Lite」を「T-Engine」に対応し、「Oracle Lite for T-Engine」として「TRONSHOW 2004」に出展します。

 「Oracle Lite for T-Engine」は、「T-Engine」をベースとした携帯端末や家電機器内にデータベース機能を搭載するだけでなく、データベースサーバーとの連携も可能にします。データベースの最新のデータを携帯端末に切り離して持ち出したり、自動販売機などの組み込み機器で収集したデータを再度データベースに登録することができます。日本オラクルでは、今後「Oracle Lite for T-Engine」の製品化を目指すだけでなく、すでに提供を開始している、無線ICタグソリューションや位置情報サービス、モバイルソリューションなどとも絡め、ユビキタス・コンピューティングの実現に向けて力をいれてまいります。

 「TRONSHOW2004」概要 開催日程:2003年12月11日(木)?13日(土)           (中 略)

 <「TRON (トロン)」について>

 あらゆるものにコンピュータが入りネットワークでつながれるユビキタス・コンピューティング環境の構築を目指した、 オープンなリアルタイムシステム標準開発環境を提供するため、TRONプロジェクトでは、 T-Engine(ティー・エンジン)プロジェクトを発足させました。 T-Engineは携帯情報機器やネットワーク接続型の家電機器などを効率良く短期間で開発するのに最適な開発環境を提供します。 T-EngineはeTRONと呼ばれるTRONプロジェクトのネットワークセキュリティアーキテクチャに対応し、 セキュリティの完全でないインターネットなどのネットワークを経由しても盗聴、改竄、なりすましを防御して安全に目的の相手に電子情報を送る機構を備えています。効率のよい開発をサポートするために、規格化されたハードウェア(T-Engineボード)、 標準リアルタイムOS (T-Kernel)を定め、ミドルウェアを流通させることに特に力を入れています。 また、T-Engineは半導体メーカー、ハードウェアメーカー、ソフトウェアメーカー、 システムメーカーの縦方向の連携を円滑にし、相互のビジネスを活発化し、 開発期間や開発コストの低減により付加価値の高い製品を短期間で提供することができます。T-Engineは高度な半導体技術や実装技術、ソフトウェア技術を採用しており、他に追随を許さない先進的な応用製品の開発を行うことができます。

 <「T-Engine」について>

 組み込み機器のソフトウェア開発環境は、これまで標準化の遅れていた分野であり、ミドルウェアやドライバ等のソフトウェア部品の流通がスムーズではないという問題もありました。ユビキタス・コンピューティング環境を実現するには、ソフトウェア開発の効率化が重要な条件になっています。このような状況に対して、ハードウェアや開発環境まで含めた組み込み機器の開発プラットフォームの標準化を行い、ソフトウェア部品の流通促進や移植性向上を目指して開始されたのが「T-Engine(ティーエンジン)」プロジェクトです。本プロジェクトの推進母体として、日本の主要な半導体メーカー、ソフトウェアメーカー、組み込み機器メーカー、家電メーカーなどが多数参加する「T-Engineフォーラム」が結成されており、T-Engineアーキテクチャの研究開発および標準化活動を行っています。T-Engineプロジェクトの詳細およびT-Engineフォーラムに関しては、http://www.t-engine.org/をご覧ください。

【CEATEC JAPAN 2003レポート】ユビキタス社会の実現を垣間見ることのできる展示が多数登場

2003/10/9 PC Web

 CEATEC JAPAN 2003は通信・情報・映像関連の展示会と銘打たれているだけあって、展示内容も非常に幅広く、会場も大きく「電子部品・デバイス&装置ステージ」と「デジタルネットワークステージ」の2つに分けられ、多種多様な展示が行われている。展示内容については市販化間近なものはもちろん、今年のテーマ「ユビキタス・コミュニティー、次へ始動!」に沿った、来るべきユビキタス社会を睨んだ実験的な展示も多く見られた。ここではその中から幾つか興味深いものをご紹介する。

 ○ロボット、静脈認証、指紋認証……目に見える形でユビキタスを提案する富士通

 富士通ブースでは、同社のプレゼンス(状態告知)サービス基盤「FLAIRINC(フレアリンク)」を用いたGPSサービスのほか、非接触型手のひら静脈認証システムや、携帯電話からインターネット経由でコントロール可能な家庭用ロボット「MARON-1」などの展示を行っていた。

 これらは全て発表済みのものであるが、ユビキタス社会においてプレゼンスを認識することは非常に重要なこと(同社)とのことで、FLAIRINCというミドルウェアと、個人認証システム(静脈認証や指紋認証)や家庭ロボット(MARON-1)などのアプリケーションを組み合わせることによって、「あまねくところに情報があり、それに自由にアクセスし、暮らしやすさの向上を図る」というユビキタス社会の実現を目指すとしている。FLAIRINCと携帯電話のGPS機能を組み合わせたシステムについては既に開発が完了しており、商談段階にあるという。

 ○FOMAでAIBOをコントロール、年末を目処に市販化へ

 年末には市販化が予定されているFOMAによるAIBOコントロールキットの稼働例NECのブースで展示されていたのは「ロボット遠隔操作システム」と題されたもの。題名からするとやや堅苦しいものを想像してしまうが、実はFOMA端末でAIBOをコントロールし、留守番をさせてしまおうというもの。

 遠隔操作システムはカメラを接続したPCとFOMA端末からの信号を受けるゲートウェイで構成されており、PCと接続されたカメラの画像をFOMA端末で確認しつつ、[4]で左、[8]で前進、[2]で後退、[6]で右などAIBOをコントロールすることもできる。また、AIBOに搭載されたカメラの映像をFOMA端末で確認することも可能となっており、PCと接続されたカメラからではわからない情報についても、AIBOを使って確認することが出来るなど、まさに「留守番ロボット」だ。

 なお、このシステムは12月に市販される予定。現時点ではFOMA端末のからの信号を受信する為にゲートウェイを接続する形となっているが、コスト的な問題から、市販時にはFOMAカードを用意し、ゲートウェイとして利用する計画もあるそうだ。

 ○iVDR、まもなく離陸。来年前半には製品が登場

 日立製作所は、従来から存在する2.5インチや1.8インチHDDをリムーバブル化して使用するHDD規格「iVDR」の製品展示を行っていた。耐衝撃性、iVDR用コネクタ、ATAに準じる電気仕様などの特徴を持ち、PCのみならず、HDDレコーダのリムーバブルメディアとしての利用も視野に入れたものだ。

 展示されていたのは2.5インチ及び1.8インチHDDを使用したiVDRカートリッジで、内蔵型ドライブを使用し、HDDレコーダのリムーバブルメディアとして利用するものや、同社PCに組み込んだもの、また、I・Oデータ機器製のUSB 2.0インタフェース利用型なども展示されていた。価格などの詳細については未定だが、2004年第1四半期もしくは第2四半期には市場へ投入される見込みであるという。

 ○シャープ、画面から音の出る小型液晶

 展示品のサイズは4インチで、基本的にはモバイル機器などでの利用を見込むという シャープのブースでは、CGシリコンを利用し、オーディオ回路をガラス基板上に集積したオーディオ内蔵のシステム液晶を展示、来場者の関心を集めていた。展示されていたのはLCDパネル自体から音が出るタイプと、ステレオスピーカーを外付けするタイプ。ステレオスピーカーを外付けするタイプではパネル上に集積されたオーディオ回路が直接外部の圧電スピーカーを駆動、出力を行うことが出来る。

 出力については「携帯電話程度」とのことで、大出力は期待できないようだが、ガラス材自体は従来からの液晶と変わりなく、2004年中には量産出荷が開始される予定であるとのこと。同社では、PDAや電子ブック、カード型デジタルカメラ、モバイル放送端末などでの利用を見込むとしている。

 ○男の夢実現!? 合体分離型ケータイを三菱が展示

 三菱電機は、機能モジュールによる機能拡張が可能な次世代携帯電話を参考展示していた。この携帯電話は基本となる通話ユニットにカメラユニット、デジタルテレビチューナー、GPS、ゲームコンソールなどを脱着することで様々な機能拡張に対応しようというもの。きょう体を横にするスタイルにも対応し、各種の情報ブラウザとしても高い使い勝手を実現するように意図されている。

 全ての機能をひとつの端末に搭載するのではなく、モジュール交換によって機能を分担させようというコンセプトはPDAなどでは見られるものだが、携帯電話にこのコンセプトを持ち込んだものはauのPashaPa(パシャパ)などのみで、実用化された例は少ない。興味深い試みだけに、実用化を期待したいものだ。(渡邊宏)

マイクロソフトとトロンの和解?

2003/10/04 JANJAN
 9月25日、パソコン向けOS(基本ソフト)で世界的なシェアを持つWindowsのマイクロソフト古川享バイスプレジデントと、社会基盤システムOS(基本ソフト)「トロン(TRON)」から発した新しいシステムを提案する「T―エンジンフォーラム」の代表坂村健東大教授が家電等に組み込むOSの共通基盤を共同開発で技術提携すると発表した。

 このことに対してマイクロソフトとトロンとの係争のいきさつから、マスコミや各紙は「マイクロソフトとトロンの和解」を中心に取り上げたが、いつもながら見当違いが多かった。

 まず、「トロン」は「コンピューターを作動させる基本ソフト(OS)の1つ」と解説されたり、「教育用パソコンのOS」などと言われるが、当初から社会基盤システムOS(基本ソフト)として構想されており、単なる「コンピュータ」「パソコン」のOSではない。

 次に、T-Engineについても単なる組み込み基本ソフトウエア(OS)として取り扱われているが、坂村健教授はこの点について、既に5月に開かれた「IPA SPRING」(主催:特別認可法人 情報処理振興事業協会)の基調講演「ユビキタスコンピューティングとオープンアーキテクチャ・組込み」で、T-Engineは単なる組み込みOSではなく、どこでもネットワーク(ユビキタスネットワーク)を実現するために必要となるハードウェアプラットフォームと、その上で動くリアルタイムOSやインターフェイスを「T-Engineプラットフォーム」として標準化すると語っていた。

 T-Engineフォーラム http://www.t-engine.org

 前世紀の遺物であるマイクロソフトのWindowsOSは数々の構造的欠陥をクラッカー(コンピュータウィルスを作り出すような人々)により攻撃され、社会的に多大な損害を与えている。この点でも脱WindowsOSが問題になっており、MacOS、FreeBSDF、Linuxやこれから構想される「日中韓OSS推進フォーラム」で開発されるLinux系のOS、ロシアで構想されているOSなども重要である。

 今後、情報家電や携帯機器、トロンでいえばe-TORONカード(クレジットカード大のカード)や情報チップなどが「どこでもネットワーク(ユビキタスコンピューティング)」ではツールとなり、その仕組みのための社会基盤システムOS(基本ソフト)が重要となる。

 つまり、これからは「コンピュータ」「パソコン」の論議ではなく、「どこでもネットワーク(ユビキタスコンピューティング)」のトータルな論議や視座が必要とされる。

 一時話題なったが、紙面特集(ホームページの作り方の解説)で初歩的な間違いをする全国紙やメディアはこれに対応できるのだろうか。

付記

 「パソコン」のOSだけでいっても、WindowsOSと互換性のある、つまり、ウィンドウズ用のアプリケーションも、リナックス用のアプリケーションもどちらも使えるリンドウズ・コムの「リンドウズ(Lindows)OS」が販売されている。このLindowsOSには無体財産権上の問題は残るが、LindowsOSは快調に作動している。 (長岡素彦)

国産トロン注目 「世界標準」へ期待

2003年10月3日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 情報家電用次世代OS マイクロソフトと共同開発

 日本の研究者が開発したコンピューターの基本ソフト(OS)「トロン」が世界的に再び注目を集めている。パソコン向けOS「ウィンドウズ」で圧倒的シェア(市場占有率)を誇る米マイクロソフトと、新たなOSの共同開発で先月下旬、合意したためだ。今後は、携帯電話など「情報家電」の最先端商品の開発などで活用が見込まれる。情報家電分野で、日本発のコンピューター基盤技術が世界標準を獲得するとの期待も大きい。(小谷野 太郎)

 日本の競争力復活を

 <速さが魅力>

 OSは、インターネット通信の手順など、コンピューターの最も基本的な機能を定めるソフトで、システム全体を制御する重要な役割を持つ。

 トロンも、こうしたOSの一つで、坂村健・東大教授が1984年に開発した。

 トロン(TRON)は、「ザ・リアルタイム・オペレーティング・システム・ヌクリアス(非常に速い応答速度を持つコンピューターの中核)」の頭文字で、処理速度の速さが特徴だ。

 機能を絞って高速性を重視した特性を生かし、自動車のエンジン制御や販売時点情報管理システム(POS)など産業用機器、情報家電などの「組み込み型OS」では世界シェアは現在、約6割を占める。国内の携帯電話の8割がトロンを採用している。

 一方のウィンドウズは、パソコンで培った操作しやすい画面表示など、豊富な応用ソフトに対応できる点が長所だ。

 <協調へ>

 マイクロソフトが、トロン側との共同開発に乗り出すのは、情報家電向けのOSで立ち遅れた事情がある。パソコン向けOSでは世界市場の8割を占め、支配力を誇示するが、パソコンの成長にもブレーキが掛かり始めている。

 OSに「リナックス」など使用料が無料の「オープンソフト」を採用する動きが広がっているのも、マイクロソフトには逆風だ。

 今回の合意は、ネット化の進展で急速に拡大するパソコン以外の市場で、「ウィンドウズ包囲網」が形成されつつある現状を警戒したマイクロソフトが、「パソコン以外の市場で自社製品を普及させるため、独自路線から協調路線へと方針転換した」(業界関係者)と見る向きが多い。

 両者の合意を受けて、坂村教授が会長を務め、トロンの普及を進めている団体「T―エンジンフォーラム」と、米マイクロソフトは第1弾として、トロンとマイクロソフトのOS「ウィンドウズCE」が連動する仕組みを今年12月にも開発する計画だ。

 両方の利点を生かした新たなOSが開発できれば、情報家電が一段と機能アップすることが期待できる。

 例えば、デジタルカメラの場合、ピント合わせやシャッターは高速のトロン、画面操作などは利便性の高いウィンドウズの特性が生かされ、使いやすく高性能になると期待される。ビデオカメラでも、手振れを補正する機能はトロン、表示装置の操作はパソコンなどで使い慣れたウィンドウズというようにそれぞれのOSの長所に応じて役割分担できるのが強みだ。

 <ユビキタス社会>

 コンピューター業界は新技術が導入されるたびに、その基盤技術を確立した企業が「時代の勝者」となった。大型計算機では米IBMが、パソコンが普及した90年代は半導体最大手の米インテルとマイクロソフトが市場を席巻した。

 21世紀は携帯電話やデジカメに加え、冷蔵庫などの生活家電や食品の包装紙に至るまでコンピューターが組み込まれ、ネットワークで結ばれる「ユビキタス社会」の実現が見込まれる。

 こうした中で、マイクロソフトと手を結んだトロンが「OSの世界標準になりうる」(大手電機)との見方も強まっている。

 経済産業省は「パソコン市場は米企業に完全に支配されてしまったが、まもなく訪れる情報家電の時代は、国内の半導体や情報家電メーカーが再び世界市場で競争できる環境が整う」とし、日本の産業振興の起爆剤としてトロンに期待をかけている。

マイクロソフト、「トロン」と家電用OS共同開発――会見要旨

2003/09/25 NIKKEI NET
 長い間、“宿敵同士(?)”と見られてきたウインドウズ陣営とトロン陣営がガッチリ握手――。米マイクロソフトは25日、東京都内で会見し、坂村健・東大教授が中心となって設立したトロン開発団体「T―エンジンフォーラム」と共同で情報家電用OSを開発すると発表した。マイクロソフト製の携帯機器向けOS「ウインドウズCE」を改良して、トロンの発展形である「T―エンジン」と連携して使えるようにする。

 会見には米マイクロソフト・古川享バイスプレジデントと坂村教授が出席した。質疑応答の要旨は以下の通り。

 ――共同開発の中身は。

 古川氏 「ウインドウズCEを改良して、T―エンジンと連携して動くようにする。今年12月に開かれる展示会『トロンショー2004』にプロトタイプのデモを含めた共同開発の成果を発表する予定だ。改良作業には当社の調布技術センター(東京都調布市)に専門部隊を置くほか、米国のウインドウズCE開発担当者が加わる」

 坂村氏 「大変なのはマイクロソフト。T―エンジンの大改造は必要ないからだ。我々としては技術支援をする。このほか、まだどちらも手掛けていない分野の開発案件があれば共同で手掛ける」

 ――合意に至った経緯は。

 古川氏 「昨年、T―エンジンフォーラムが設立されたときから接触を始めていた。マイクロソフト社内で話を通したのは今年2月になってから。ビル・ゲイツに話したところ、『エキサイティングだ』と言って賛同してくれた。両OSが組むことで生まれる新市場の可能性と、技術的なチャレンジの2つの点でエキサイティング、という意味だ」

 坂村氏 「T―エンジンフォーラムはオープンな組織。こちらから声を掛けることはない。フォーラムでは約250の加盟企業が議論しながら物事を決める仕組み。マイクロソフトが独善的に何かを決めるということはない」

 ――「ウインドウズCE+T―エンジン」の強みは。

 古川氏 「ウインドウズはユーザインターフェースやパソコンとの連携に優れている。またアプリケーション開発に必要なツールやライブラリーが充実している。リナックスと違い、ウインドウズは当社が商用ソフトとして販売しているため、何かあったときの責任の所在や、ライセンス供与の条件などが明確だ」

【レポート】ワイヤレスIT産業強化シンポジウム(2) - 坂村氏の唱える国家レベルでのユビキタスインフラ政策の必要性

2003/09/18 PC Web

 YRPユビキタスネットワーキング研究所所長で東京大学教授の坂村健氏が、ワイヤレスIT産業強化シンポジウムにおいて、片山虎之助総務大臣の基調講演に続き「ユビキタス・コンピューティングと日本の情報戦略」と題した講演を行なった。

 坂村氏は、片山総務大臣の基調講演を受け、「とにかく競争力を高めて日本の産業を活性化していくということには大賛成」とし、競争力を高めていくために何をしなければならないのかを、自身の専門分野であるユビキタスネットワークという分野に焦点を当てて話を進めた。

 同氏は「産業には必ず節目がある」と述べ、今がその節目であると指摘。ユビキタスネットワークが世界的な注目を集めていることを紹介。特に日本では、世界に比べてユビキタスが非常に盛り上がっているとする。その一方で「盛り上がっただけで、実際には自分たちのやったことが日本の研究成果に活きないことが過去の例を見ても多々ある」と警鐘を鳴らす。

 ユビキタスネットワークの成功には、ユビキタスが基盤技術であるということを認識する必要があるとする。これは、ユビキタスとはチップを作って終わりというものではなく、システムとして考える必要があるということだ。同氏は、このようなシステムの構築は、日本が不得手とするところであると指摘する。しかし、その一方で日本の小型化の技術や組込OSの例を挙げ、日本はユビキタスネットワークの実現に非常に有利な面も持つとする。こういった有利な点を活かし、ユビキタスをしっかりとしたシステムとして成功させるためには、政府主導による社会インフラの構築として、ユビキタスネットワークを実現することが望ましいと説いた。

 また、日本でのOSや通信ソフトウェアなどの基盤ソフトウェア分野の現状も紹介。組込分野では日本発のTRONがNo.1の地位を獲得しているが、その他のPC分野のOS、通信ソフトウェア、セキュリティ用ソフトウェアにおいては日本の技術力が衰退し、欧米の技術の寡占化・覇権化が進んでいるとする。坂村氏は、このような現状に対してユビキタス社会を支える「基盤ソフトウェア技術」の壊滅の危機であり、「基盤ソフトウェア技術」が空洞化しては、もはやIT立国などあり得ないと、緊急に政府が対策をする必要があると訴えた。

 さらに、ユビキタスネットワークとIPネットワークの違いも強調する。IPは遠くのサーバに接続するもので、ユビキタスは近接通信技術であるため、両者は根本的に別物とし、ユビキタスがIPネットワークを利用することもあるが、これはたとえばバックエンドサーバの通信などに使われるもので、世間でいわれているようにIPv6があればすべてが解決するものではないとした。

 坂村氏は社会基盤技術であるユビキタスネットワークにおいて、アメリカに右にならえでは困ると述べる。たとえば周波数を例に挙げ、「RFIDで使われる通信周波数をアメリカにそろえてもしょうがない」というわけだ。「ユビキタスは生活密着型の技術なのでローカリティが非常に重要」(同氏)であり、日本の事情にあわせたシステムを作る必要性を強調した。

 セキュリティの問題にも触れ、ユビキタスネットワークは全ての生活、社会活動に関係するため、セキュリティが破られた場合の影響範囲が非常に広いこと、全ての人が関係するのでITスキルの無い人を前提として、なおかるセキュリティが守られる枠組みが必要なこと、多くの組織が連携するので確固としたセキュリティポリシーとそれを守らせる社会的・法的裏付けが必要なことを述べる。

 この他、最近のSCO訴訟にも触れて著作権がしっかりと管理されていることの重要性にも触れた。GPLは知的所有権と一緒に扱うことが非常に困難であるとして、オープンであれば良いとの考え方にも疑問を呈した。

 坂村氏はシステムとしての基盤、セキュリティポリシー、著作権の問題の3つをよく考えて、慎重にユビキタス社会の実現を進めていかなければならないとし、政府は保障機関として、ユーザが安心して使うことが出来るようなユビキタスの社会面や法律面での基盤を確立する必要があるとした。(大野晋一)

東大坂村教授、「ユビキタス社会実現まではあと10年」

2003/09/17 藤本京子(CNET Japan編集部)

 「ユビキタスコンピューティング」という言葉が文字通りどこにでも氾濫し、多くの企業で「ユビキタス事業部」なるものが開設される状況となった現在の日本。ユビキタスコンピューティング環境とは、日常生活で接するあらゆるモノにコンピュータが組み込まれるということだが、組み込み機器の開発を得意とする日本において、ユビキタス社会に向けた取り組みが盛り上がるのも無理はない。なかでも東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏は、20年前から「どこでもコンピュータ」というコンセプトを掲げ、ユビキタス環境を実現すべく研究を続けてきた人物だ。その坂村氏が17日、幕張メッセにて開催中のWPC Expoで基調講演を行った。

 坂村氏は、ユビキタスコンピューティング環境が実現するためには、いくつかの重要なポイントがあると語る。そのポイントとは、技術はもちろんのこと、政府のバックアップといった社会的な環境、またセキュリティ問題などである。

 技術的なポイントは?

 坂村氏は、ユビキタスコンピューティングで主役となる小型RFIDチップのみに注目が集まる傾向があるが、そのチップだけでは何もできないことを指摘する。たとえばモノを認識するため、そのモノが何であるかという情報をチップに詰め込むわけだが、情報を読み取るためにはリーダーが必要となる。坂村氏は自ら開発したユビキタスコミュニケータというリーダー機能を備えた機器を取り出し、かぜ薬についている小さなRFIDチップの情報を読み取るデモを行って見せた。リーダーは、「これはかぜ薬です」と、薬の情報を音声で伝え、服用の際の注意事項なども伝えていた。

 また、現在の小形チップはメモリの限界があるため、必要なモノ情報が全て入るとは限らない。その場合、必要な情報は外部から入手することになるが、そのためには通信機能も必要となる。つまり、「ユビキタス環境にはRFIDチップを用意するだけでは不十分。リーダーやライター、通信機能、また情報を蓄積させておくサーバなど、トータルなアーキテクチャとして考えなくてはならない」と坂村氏はいう。

 社会的基盤も重要

 技術面以外における重要なポイントとして、まず坂村氏は「国家の関与が必要だ」と語る。「全てのモノにコンピュータが組み込まれるということは、社会の基盤全体に関わること。国が全てをコントロールしろというのではないが、これだけの大きなプロジェクトは何らかの形で国家が関わらないわけにはいかない」と坂村氏。ユビキタス社会に向けての取り組みは各国で研究開発が進んでいるが、坂村氏は米国のUbiquitous Computing Projectsが国防総省国防高等研究事業局(DARPA)の主導で、また韓国のU-Koreaが大統領主導で実施されている例をあげ、資金面も含めたバックアップが必要だと語る。

 次に重要なポイントとして坂村氏が指摘するのは、ローカリティを重視することだ。同氏がいうには、ユビキタス社会で大切なのは、「今」そして「ここ」の情報、つまり地球の裏側にあるモノの情報より、目の前にあるモノが何であるのかを知ることだ。

 ユビキタスコミュニケータを使ってデモを披露する、東大教授の坂村健氏

 生活に密着した情報が求められる社会において、「日本が孤立するのは避けたいから世界に合わせる、という方向ではなく、文化的・社会的に日本に合ったユビキタス社会を作るべきだ」と坂村氏はいう。

 ローカリティ問題と同じ視点で坂村氏が主張するのは、電波の基準についてだ。同氏は、「ひとつの周波数で全てをカバーすることは不可能だ」と主張、チップをつけるモノの大きさや材質、読み取りの距離などによって、周波数や電波の強度などの選択基準は変わってくるという。また、現在ほとんどの周波数は携帯電話など他の用途に使われているため、あまっている周波数を使うか、周波数の割り当てを変更するかといったことが考えられるが、「割り当ての変更となると、その影響は計り知れないものとなる。割り当ての変更を考える前に、国益を考えるべきだ」と坂村氏。同氏は「デュアルバンドチップの製造コストもそれほど高いものではない。RFIDは使う環境に応じて電波を変更できるようにするのがいいだろう」と提案する。

 あらゆるモノ情報が簡単に読み取れる世界が実現すると、次に課題となるのはセキュリティだ。坂村氏はユビキタス社会に向けたセキュリティのポリシーがまだ定まっていないことに警告を発する。「セキュリティの基準は普及の前に決めるべき。そうしないとPCの二の舞を踏むことになる」と同氏は述べ、他国でセキュリティ基準を決める機関があるのと同様、日本でも情報セキュリティを保証する中立的な機関を作るべきだと語る。

 最後に坂村氏が語ったのは、知的所有権問題についてだ。同氏は現在、SCO GroupがLinux関連会社に対し訴訟を起こしている一件を例にあげ、「オープンソースには大賛成だが、GPLライセンスで公開している場合、今回Linuxが問題となっているように、変更や改造を加え、その中に知的所有権を侵す可能性のあるコードが含まれている場合、他の皆も知的所有権侵害コードを意図せずして使用してしまう可能性がある」と語る。そこでSCOのケースのように訴えられると、開発が終わった後にソフトを取り替えなくてはいけないことにもなりかねないが、組み込み製品となるとそれは大変なことだ。坂村氏はTRONがGPLを採用していない点を強調し、「TRONはオープンソースだが、改造を加えたコードまでオープンにすることは求めないし、こちら側で関与することはない。つまりTRONが知的所有権問題で訴えられることはないのだ」という。

 これらいくつものポイントを押さえた上で、本当のユビキタス社会が訪れるのはいつなのだろう。坂村氏は「10年はかけるべきだ」と語る。普及の前に全ての問題をクリアし、安全で便利なユビキタスコンピューティング環境の基盤を作るべきだと坂村氏。20年前から「どこでもコンピュータ」の実現に向けて活動を続けてきた同氏の研究は、これからも続く。

IT普及政策は「第二段階」へ、総務省が2004年度の「IT政策大綱」発表

2003/08/28 Internet Watch

 総務省は28日、2004年度の「IT政策大綱」を発表した。「ユビキタスネットワークの実現」「コンテンツの流通促進」「セキュリティ戦略の総合的推進」「ワイヤレスブロードバンド環境の構築」など、重点的に取り組むべき7つの分野を掲げている。

 ADSLやFTTHなど「高速・超高速インターネット」の整備が政府の「e-Japan戦略」を上回るペースで進んでいることを受け、今年度の大綱では、「これまでインフラの整備を中心に進められてきた第一段階から、本格的な利用拡大を目指す第二段階に政策を推し進め、さらには欧米等のIT先進国にキャッチアップする段階から、世界を先導するフロントランナーの役割を果たす段階」に移行する必要性を指摘。携帯電話や情報家電、デジタルテレビ端末、IPv6、アニメやゲームなど日本の得意分野を活かした「日本発の新IT社会」を実現し、これを世界に発信していくべきとしている。

 具体的な施策としては、例えばコンテンツの流通促進で「日々消失するWeb情報のアーカイブ化・利活用を促進するための技術・基盤の構築・実証」、セキュリティ戦略の総合的推進分野で「コンピュータウィルス等を収集・動態保存したデータベースとその研究のための模擬ネットワークによるテストベッド」などが盛り込まれている。 ( 永沢 茂 )

【レポート】TRONプロジェクト20年を迎えた坂村健教授「今は3度目のチャンス」

2003/07/29 PC Web

 東京大学大学院情報学環の坂村健教授は、東京大学安田講堂にて「ユビキタスコンピューティングの未来を目指して TRONプロジェクトの20年」と題する特別講演を行った。

 あちこちの講演会やセミナーに講師として引っ張りだこ、そして自身のプロジェクト「T-Engine」「ユビキタスIDセンター」では記者会見に追われ、ますます多忙な坂村氏だけに、実は東京大学で講演をする機会はあまりないという。この日は演題に「TRONプロジェクトの20年」とある通り、数々の苦労がしのばれるコメントも多かった。

 まず坂村氏は、TRONという名称について「The Real-time Operating system Nucleus」、すなわち「リアルタイムOS(RTOS)の核」を表す言葉であることを述べ、タイムシェアリングOS(TSS OS)との違いを説明する。「TSS OSは時間に従ってタスクを切り替えているが、RTOSはイベントの発生と優先度に従ってタスクを切り替える。RTOSはエンジンの爆発の制御といった、待ったなしの物理現象を相手にするOSなので、マイクロ秒以下のタスク切り替えが求められる。これはWindowsやUNIXのようなTSS OSにはどうがんばっても無理」と、タイムチャートを見せて解説した後に「これはWindowsやUNIXが悪いということではなく、もともと設計が違うということ。世の中はあまりこういう根本的なところに目を向けてくれない」と付け加え、人々はすぐに"TRON vs Windows"といった図式を作りたがるので困る、と話す。根本的に異なるものを比較しても仕方がないということだ。

 RTOSとTSS OSの違いを示し、制御用としてはRTOSが必須であることを説明

 坂村氏によると、組み込みコンピューター用の仕様「ITRON」は「かなり教科書的なつくり」をしているということで、実際に海外の大学では、ITRONの仕様書がリアルタイムOSを学ぶときのテキストとして使われている例もあるという。一方、PCやワークステーション用のOS仕様である「BTRON」は「かなり飛んでいる」設計で、アクロバティックなアイデアが詰まっているという。それは例えば、ツリー型ではなくリンク構造を持つネットワーク型のファイルシステム「実身/仮身モデル」であり、画面上だけでなくキーボードユニットまで仕様を定めた特徴的マン-マシンインタフェースである。

 特にTRONキーボードについて、以前のものは数千台作っただけで終わってしまったが、坂村氏は「(TRONキーボードの製作は)もう1回やろうと思う。CADの発達で、昔に比べればだいぶ安く作れるようになった」と語る。そもそもBTRONの発想自体「PC用OS」ではなく「コミュニケーション・マシン用OS」を目指したといい、人間と機械の接点となる部分を設計するものだとしている。「欧米は文字の種類が少ないからキーボードに抵抗がなかったというが、アメリカでもタイプライターの普及には50年かかった。しかも、QWERTY配列というのはタイプライターのアームが絡まないように改悪した配列。マン-マシンインタフェースは身体の健康にかかわる問題で、コンピューターの登場以前にはキーボード文化のなかったアジア圏でこそ、人間工学に基づいた理想的なキーボードを普及させるべき。それなのに、産業界は"グローバルスタンダード"という名の"アメリカ式"を選んだ」

 BTRONの大きな特徴である「実身/仮身モデル」やTRONキーボード

 坂村氏は、"アメリカ式"のやり方を批判することが多いようにも見える。しかし「私は決してアメリカ嫌いではない。むしろアメリカはすごいと思っている」と強調する。「アメリカの何に感心するかといえば、一番最初にやるということ。つまり真似をしないということ。昔から私が何か発表すると『アメリカでその技術は使われているんですか』、『アメリカの規格と違うけど大丈夫ですか』、こんなことを何回も何回も聞かれたが、そんなにアメリカが好きなら『一番最初にやる』ということを真似すればいいのに。優れたビジネスモデルほど、二番煎じは成功しない。シリコンバレーが成功したのを真似て日本全国に『何とかバレー』ができたが、どれも成功していない」

 ユビキタス社会の実現に向け、さまざまな技術の開発や規格作りに取り組み、熱を上げる坂村氏。なぜいま再び、ここまで情熱を燃やせるのか。「何か新しいことが起きるそのとき、いかにイニシアチブを取るかが重要。標準を取れるチャンスというのは、そうたくさんあるわけじゃない。50年のコンピューターの歴史の中では、数えるほどしかない。TRONの場合、これまで20年間やってきて、チャンスは2回あった。まず、組み込みコンピューターの世界標準というチャンスが1980年代初頭にあった。これはうまくいった。もうひとつは、1990年代に起こったPCとインターネット。ここでは残念ながら、我々は標準を取ることはできなかった」そして、21世紀になってようやく回ってきた3度目のチャンスが、ユビキタスコンピューティングというわけだ。

 ユビキタスIDセンターのロゴが付いたモノが身近に登場するのも近いのか

 「PCでは標準を取ることはできなかったけれども、PCが重要だということは気が付いていた。この『気が付く』ということも非常に重要。標準というのは、普及する前に気が付かなければならない。みんなが使うようになってから標準化を言い出しても既に手遅れ。ところが、普及する前の戦いは苦しい。20年間標準化をやってきて、本当に苦しかった。ただ、今日ここで『ひどい目に遭った』という話だけをすると、退官記念講演みたいになってしまう(笑)。大学にはもう少しいるので、未来を見据えていきたい」と、坂村氏はやや興奮気味に、いまユビキタスに取り組む意味を力説していた。(日高彰)

【レポート】情報処理学会セミナー - ユビキタス実現への課題を議論(1)

2003/01/31 PC Web

情報処理学会「連続セミナー2002 次世代ネットワークにおける基幹技術」の1日目には「ユビキタスコンピューティング技術」をテーマに、その動向と今後の研究課題について、講義およびパネル討論が行われた。

○「インターネット"も"重要」東京大学 坂村健教授

昨年はTRONを利用した組み込みコンピュータの開発基盤「T-Engine」を始動させ、最近では物を識別するためのユニークな識別子を整備する「ユビキタスIDセンター」の設立を発表した、東京大学教授の坂村健氏。

ユビキタスIDセンターを設立すると言えば、マサチューセッツ工科大学の「オートIDセンター」に対抗するのかと見られ、eTRON(Entity TRON、情報流通のためのセキュリティ基盤)での通信の必要性を挙げれば、インターネットプロトコルに対する挑戦と見られるなど、坂村氏が提唱するものは何かにつけて既存技術との競合と見られがち。しかし坂村氏は「戦っているわけではない」という。新たなシステムを構築する場合でも、従来と同様の問題は起こり得るので、優れた環境を作り上げるためには過去50年のコンピュータ研究の蓄積が役立つとする。氏がユビキタスコンピューティング研究でやりたいことはインターネットではないが、ネットワークのひとつとして「インターネット"も"重要」だと強調する。

「グローバルよりローカリティ」

坂村氏は、ユビキタス社会到来のためには「基盤技術」「開発体制」「運用体制」の3つを確立しなくてはならないとする。基盤技術としては、超小型チップのほか、GPSの使えない室内でも位置特定を可能にする技術、近接通信技術、近接通信が利用できない場合通信路を無線LANやPHSなどにシームレスに切り替える技術などの開発が必要。開発体制としてはT-engineを、運用体制としてはユビキタスIDセンターを挙げた坂村氏だが、特に「ひとつのプラットフォームではユビキタスは実現できない」ことについて詳しく説明する。PCはx86アーキテクチャのCPUが圧倒的だが、組み込み機器にはさまざまなプロセッサがある。また、IDを付与するセンターも「それぞれの国で立ち上げるべき」とし、ユビキタスは各国の商習慣や法律などに合った形で普及する「グローバルよりローカリティ」を重視するものであると述べた。

○「システムが適材適所を認識する」東京大学 青山友紀教授

ユビキタスコンピューティングを含め、将来のネットワーク社会はどうあるべきかについて研究する東京大学教授の青山友紀氏は、「ユビキタス」という言葉の認知度について「『ITの次はユビキタスだ』とばかり、永田町や霞ヶ関でもこの言葉が通用するようになった」と話す。そしてユビキタスのスローガンのように言われるのが「いつでも、どこでも、何でも」だが、これはインフラを提供する側の視点であり、「いまだけ、ここだけ、これだけ」利用できれば良いというユーザーの立場に立った考え方も必要なのではないかと指摘する。多様な端末がある中で、その場その時に応じて最適な端末をシステムが自動的に選定するような「適材適所」こそがユビキタスで得られるメリットであり、何でもかんでもが重要なのではない。

青山氏の研究室では、ユビキタスコンピューティングに関連したさまざまな機器を取り付けて実験を行える「ユビキタステストベッド」を設置している。そこで研究されている技術のひとつ「Dolphin」は、超音波パルスを利用した位置情報取得システムで、±約5cmの精度で測位できる。天井または床に一定の密度でセンサーを設置する必要があるが、センサーの位置決めを容易にできるよう、最初に3つほどのセンサーを手動で正確に設置すれば後はその周りのセンサーが自動的に位置を決定するという、再帰的な設定システムを目指している。

青山氏は講演中「ユビキタスであれができるこれができると叫んでも、『あれば便利』というだけでは普及しない。カメラ付き携帯電話のように、大きくブレイクするキラーアプリケーションが必要なのではないか」ともコメントしている。

○「既存の物理空間をユビキタス化する」慶應義塾大学 徳田英幸教授

慶應義塾大学教授の徳田英幸氏は「Smart Space」についての研究を行っている。徳田氏は、Smart Spaceを「(広義では)あらゆるものがネットワークにシームレスにつながり、人々の行動支援を行うことができる知的情報環境」と定義している。この分野での研究には、マイクロソフトの「EasyLiving」、ジョージア工科大学の「Aware Home」などがある。

徳田氏の研究室では、壁の中にさまざまな機器を埋め込むことのできる研究スペースを構築。部屋の中にもうひとつ部屋を作った「Box-in-the-box」の構造になっている。ここで基礎研究を行い一定の成果を上げたが、実験スペースまで行かないとユビキタスのメリットが得られないという反省点がある。Smart Space実現のために、部屋や駅など既存の空間を、実験スペースのように大きく変更するのは手間も費用もかかる。そこで、研究の第2段階として取り組んでいるのが「Smart Furniture」だ。

Smart Furnitureは、スタンドライト型やテーブル型など一見普通の家具に見えるが、その中にネットワーク機器や無線タグのリーダーや各種センサーなどが入っており、既存の空間に設置することでその空間をSmart Spaceに変える。近づいた人のスケジュールデータを自動的に表示したり、イスに座るとその人の好きな音楽が流れたりといったサービスを提供できる。公共の場所なら、例えばバス停のポールの形をしたSmart Furnitureを置いて、バスを待つ人の携帯電話に時刻表をダウンロードするといったことも可能だ。ただし、スタンドライト型のSmart Furnitureは、女子学生からはデザインが不評だったということだが……。

徳田氏は、ユビキタスアプリケーションは「非ITの人たちに使っていただかなくてはいけない。そういった層にいかに浸透していくか」を考えなければならないと話す。

【レポート】情報処理学会セミナー - ユビキタス実現への課題を議論(2)

2003/01/31 MYCOM PC Web

 講義に続いて、坂村健氏、徳田英幸氏に加え、セミナーのコーディネータを務めた産業技術総合研究所サイバーアシスト研究センターの中島秀之氏と、ウェアラブルコンピューティングについて研究する大阪大学助教授の塚本昌彦氏を交えてのパネル討論会が開かれた。まず冒頭、中島氏と塚本氏によって追加のプレゼンテーションが行われた。

 自らも無電源小型情報端末「CoBIT」など、ユビキタスコンピューティングに関連するデバイスの研究を行う中島氏は「ユビキタスコンピューティングはデジタル空間だけでなく実空間を意識したもの」「インターネットだけでは不足。求めるのはhigh-throughputではなくlow-latency」「光、振動発電などユビキタス電源が必要」といった点が、講演を行った3氏から共にコメントされたとまとめる。

 塚本氏は"モバイル"、"ウェアラブル"、"ユビキタス"という3つの言葉の関係について「モバイルを中心に言えば、持ち歩くモバイルの究極がウェアラブルで、持ち歩かない究極がユビキタス」と話すが、ネットワークなどユビキタスのインフラはウェアラブルでも利用するし、ウェアラブルデバイスはユビキタスコンピュータとも言え、それぞれ対極にあるものではなく本質的には同じ状況を描くものと説明する。そして、プレゼンテーションの機会がある度に話していること、と前置きして「ウェアラブルは1年以内にブレイクする」「近いうちに渋谷・原宿の若者の50%がHMD(Head Mounted Display)を装着するようになる」「10年後には赤ん坊がHMDを装着するようになる」と3つの"予言"をした。

 塚本氏の予言

 そして今日はこんな「スペシャル予言」も

 ○駅はユビキタスの実験場

 討論会は会場から寄せられた質問票の内容を紹介しながら進行した。「ユビキタス環境を駅や鉄道で構築することでどんなメリットが得られるか」という意見に対し、中島氏は「私がサイバーアシストの研究を始めた動機が『駅がどんどん不便になっている』ということだった。昔は駅員さんに言えば切符も乗り換えも案内してくれたのに、最近は券売機の操作が複雑になって切符の買い方すらわからない。ユビキタスコンピューティングというなら、人がやっていた以上のサービスを提供しなければ意味がない」と話す。

 徳田氏も「今は立ち止まらないで受けられるサービスが非常に弱い。駅に無線LANが設置されて乗り換え案内サイトが利用できるといっても、ユーザーがそこへ行って立ち止まり、PCやPDAを操作しなければならない。そうではなくて、ユーザーが歩いているだけで乗り換えるべき路線などが表示され、事故で不通になったらすぐに代わりの経路が出てくるようなものでないと意味がない」とし、アクセスポイントの整備だけがユビキタスではないと述べる。

 また、JR東日本のICカード式乗車券「Suica」について坂村氏は「プリペイドカード方式というのは現実的で賢明な判断」と評価する。「クレジット決済機能を持たせるなんて話もあるが、それだと公開鍵暗号方式を採用しなくてはならず、今の超小型チップの性能では1秒以内にゲートを開けるようなスピードは無理。PCやインターネットの世界でハッキングが起こっている現状を見ると、エンドユーザーに小型コンピュータを持たせて社会に導入するのは慎重に慎重を重ねないといけない」と指摘した。

 ○プライバシー、セキュリティ、利便性のバランス

 プライバシーとセキュリティの話題になると徳田氏は「IT関係の人たちはつながるメリットばかりを強調するが、つなげない権利、ディスコネクトできることを保証する技術も必要」と話す。「バスやタクシーの位置をWebで公開しているシステムがあるが、テロのない社会という暗黙の前提があるからできること。公開すること自体が危険性をはらんでいると意識する必要がある」という。

 一方で塚本氏は「なんだかネガティブな話になってきてしまったが、今日は皆さんにユビキタスを推進したくなる気持ちで帰っていただかなくてはいけないので(笑)」と注を付けた上で「いままでの現実社会だって危険なことはいっぱいある。街中でクレジットカードを使うことだってものすごく危ないことだし、インターネットも未成熟なままこれだけ社会に出てきてしまって、問題が起きている。確かに学会ではそれを議論する必要があるが、しかしそれとは別に、草の根のビジネスでいまからできることがあると思う」といい、ユビキタスはシステムや規範が整ってから推進するというよりも、やれるところから手をつけるべきとする。

 「隠すことではセキュリティは守れない」(坂村氏)

 坂村氏は「とにかく情報をオープンにすることが重要。システムの一部を隠すことでセキュリティを守るのが無理なのは明らか。プライバシーについても、このシステムはどんな情報を取っているかユーザーに公開する必要がある」としながら「『個人情報保護』というが、どこまでが個人情報か。名前だけなら公開してもいいという人がいれば、名前もダメという人もいて、プライバシーは100人100通りの考え方がある。究極的には、プライバシーが危険な区域はそう表示し、賛同しない人はそこに近づかないことだ」と話し、さらに踏み込んだ考えを示した。

 終わりに「携帯電話で周囲にどんなレストランがあるかわかるなど、既にLocation-awareなアプリケーションは存在している。これからはそういう原体験がある人ばかりの時代になるので、その世代がどんどん新しいアプリケーションを開発してほしい」(徳田氏)、「ユビキタスコンピューティングが急に叫ばれるようになったが、言っている内容はコンピュータの進化の延長上にある自然な話なので、5〜10年くらいでユビキタス社会と言われているような世の中になっていくのだと思う」(塚本氏)、「リアルタイムの組み込みシステムというボトムの部分を長くやってきたが、非接触通信ひとつ取っても非常に大変。そういった基盤部分をちゃんと解決しないと産業的にも広がらない」(坂村氏)と3氏からコメントが述べられ、討論会は閉じられた。(日高彰)

【レポート】「ユビキタス時代の主導権は日本が握る」- 第3回情報家電産業総合会議(1)

2002/11/22 MYCOM PC Web
日本能率協会は「第3回情報家電産業総合会議」を開催した。同会議は「情報化・ネットワーク化による快適で効率的な生活の実現」をねらいとし、情報家電の動向や展望についてさまざまなセッションが行われる。

初日にあたる19日のオープニングセッションでは、東京大学国際・産学共同研究センター教授の安田浩氏によるコーディネイトで、東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏、野村総合研究所理事の玉田樹氏、NTTドコモ取締役でiモード事業本部長の榎啓一氏が、それぞれの立場から見た情報家電について講演を行った。

 ○坂村健氏「ユビキタスコンピューティングと情報家電」

 東京大学 坂村健教授

 ユビキタスが喧伝される以前から「どこでもコンピュータ」を研究 情報家電に関連の深いキーワードである「ユビキタスコンピューティング」。坂村氏は、この言葉が盛んに聞かれるようになる以前から「どこでもコンピュータ環境」を目指した「TRONプロジェクト」の中心となって研究を行っている。

 携帯電話の普及やインターネット接続環境の向上が目覚ましい昨今だが、「ユビキタスコンピューティングとはそういった社会現象を指すのではない」と坂村氏は指摘する。ユビキタスコンピューティングの本質は「コンピュータやネットワークが人間の空間を認識するということ」だとしている。そのようなコンピュータが身の回りのあらゆるものに搭載され、コンピュータ同士が通信を行うことで、人間がコンピュータを意識しなくてもそれらが快適な生活環境を提供するという社会を目指している。

 ユビキタスコンピューティングの基盤として求められるのは、リアルタイム性と通信の安全性である。坂村氏は、既存のプラットフォームでこれらを実現するのは非常に困難で、ユビキタスコンピューティングのために設計された技術が不可欠だとしている。例えば、インターネットプロトコル(IP)はリアルタイム性に欠け、超小型の組み込みチップに実装するのが難しいし、既存PCのOSをベースにしたシステムでは、セキュリティ面で不安が残る。

 課題は山積みだが、日本の企業なら解決できるとする

 リアルタイム向けの仕様であるTRONに、OSレベルでセキュリティ機能を持たせることで、ユビキタスコンピューティングに適したシステムとすることができるが、しかし当然それだけでユビキタス環境を実現できるわけではない。無線通信、センサー、ユーザーインタフェース、自然環境への負荷低減など、まだまだ実現すべき課題は多い。しかし、だからこそユビキタスは日本で実現すべきだと坂村氏は話す。製造、販売、設計、研究などすべての部門が垂直統合された日本の電機メーカーは、近年カンパニー制を取ったり分社化を進めたりと構造改革が進んでいるが、坂村氏はそれは間違いだと主張する。組み込み分野に実績があり、メーカー内での結束が強い日本の電機メーカーこそ、ユビキタスコンピューティングの世界では主導的な役割を担うべきで、PCでアメリカにイニシアチブを奪われたからといって、それを後追いしても成功しないと述べた。

 ○玉田樹氏「ユビキタス・ネットワークと市場創造」

 野村総合研究所 玉田樹理事

 玉田氏はまず、ユビキタス・ネットワークを一言で「偏在から遍在へ」と表現した。ここでの「偏在」とは「PCに縛られている」ということを表しており、玉田氏は昨今のPCを中心にしたブロードバンドの台頭に危機感を感じているという。PCとブロードバンドに執着していては、日本はアメリカやアジア諸国に勝てないと玉田氏は主張する。

 ITバブルについては、「ドットコム企業への過剰な期待の反動」「ITは現場の効率化には役立ったが、経営に役立つものは少なかった」「パソコンバラダイムの行き詰まり」と3つの要因を挙げ、その崩壊を説明した。しかしながら「ITバブル崩壊の後も、世界経済を牽引するのはやはりIT」とも話す。では、従来のITと次世代のITは何が違うのか。次世代のITは、ゲーム機、携帯電話、PDAといったものや、そして情報家電が24時間生活環境をとりまく「ノンPCの時代」だという。

 「PCパラダイムは行き詰まる」

 PCの世帯普及率は約65%に達しようとしており、そのグラフはすでに右肩上がりから横這いになりつつある。しかし、このように市場が飽和する中でも「自分の不安や悩みを本当に解決してくれる製品やサービスなら、消費者はすぐに飛びつく」と玉田氏は述べる。健康や治安といった、現代人が抱える悩みを解決する糸口になり得るユビキタス関連分野こそ、真剣に取り組むべきであるというわけだ。

 坂村氏同様に玉田氏も「総合型企業はダメだと言われることもあるが、むしろこれから活きてくるのではないか」とする。ユビキタス・ネットワーク関連事業を手がけるには、部品や端末、サービス、金融といったさまざまな分野を統合する能力が必要だからだ。また、サービス提供者毎に端末が異なっていては利用者は混乱するので、「もちろん(メーカー間で)競争はしてもらいたいが、できるだけ共有化できる端末プラットフォームがほしい」と話し、技術のオープン化、モジュール化が必要だと提言した。

 最後に玉田氏は「ユビキタス・ネットワークが、世界に先駆けて日本に定着することを期待する。TRONは1980年代の日米貿易交渉で一度政策的につぶされてしまったが、いま再び立ち直ってきた。今度は貿易交渉などの台に乗る前に、日本でユビキタスを形にしてしまいたい」と、ユビキタス・ネットワークの一刻も早い実現を目指して、日本企業は努力してほしいという思いを述べ講演を閉じた。

【レポート】「携帯電話が家電をコントロールする」- 第3回情報家電産業総合会議(2)

2002/11/22 MYCOM PC Web
○榎啓一氏「携帯電話と情報家電の融合」

 NTTドコモ 榎啓一取締役

 iモードは階段を半歩ずつ進むように発展してきた 榎氏は、iモードのサービスを開始した当時を「画面が小さく、入力もテンキーしかないこんなものは、メディアにならないと言われた」と振り返る。当時はモノクロ画面で通信速度は遅くサービスも限られていたが、しかし、現在のような高性能、高機能の端末や、多彩なサービスを最初から投入しても、成功しなかったのではないかと話す。

 iモードは「階段を飛び越すのではなく、半歩ずつ進む」ように発展してきたといい、メールやWebサイト、待ち受け画面や着信メロディのダウンロード、そしてJavaアプリケーションと、少しずつ複雑なサービスを投入し「ユーザーに慣れてもらいながら市場を育ててきた」という。海外戦略の苦戦が伝えられるNTTドコモだが、いまはようやく諸外国でiモードを開始したところであり、状況としてはまずモノクロ端末で基本的なサービスに慣れてもらう段階だとのこと。

 それでは、日本国内で携帯電話が次に打ち出すサービスとは何なのだろうか。榎氏は「携帯電話が家電などを制御する時代が来る」と、これからの進化方向を話す。情報家電というと、テレビやビデオなどがネットワークポートを搭載してブロードバンド接続する、というイメージがつきまとうが、榎氏は「将来的にはそうなるかもしれないが、まだまだ環境整備が必要で、5年10年先のこと」としている。家電が自分自身でネットワークにつながるのではなく、例えば、携帯電話でテレビ番組表をダウンロードし、その携帯電話をリモコンとしてビデオの録画予約をしたり、料理のレシピを携帯電話でダウンロードして電子レンジに投げたりという仕組みのほうが現実的だと主張する。榎氏はこれを指して「後ろ側でなく手前側でつながる情報家電」と表現した。「後ろ側」とは、家電の背面に搭載されるネットワークポートで、「手前側」とはもちろん、ユーザーの手元にある携帯電話のことだ。

 携帯電話サービスの将来像

 「手前側」でつながる情報家電のメリットは、家電すべてにネットワーク機能を搭載するという環境整備が不要になるだけではない。個人が常に身につけているものの中で、外部とつながっているのは携帯電話だけなので、情報への欲求が発生したときにすぐに利用することができる。例えば、カーナビに通信機能を搭載し、画面上で情報が検索できるようにするというアプローチがあるが、「どこかへ行きたい」という欲求は車に乗る前に発生しているもので、前もって携帯電話上へ目的地の情報をダウンロードしておき、車に乗り込んだらその情報をカーナビへ投げれば、ルートなどのナビゲーションが始まる、という仕組みのほうが合理的だとしている。

 いまのところ、携帯電話には赤外線や2次元バーコードなどのインタフェースが用意されているが、Bluetoothや非接触ICカードなど、将来は他のデバイスを制御するすべてのインタフェースが搭載され、コントロールする相手によってそれらのインタフェースを使い分けることになるだろう、と榎氏は予想した。

 第3回情報家電産業総合会議は、東京ビッグサイトで11月22日まで。会場では「第1回セキュリティ技術シンポジウム」「ネット家電ショー2002」「セキュリティシステム2002」「ジャパンホームショー2002」「ビル・マンション総合展2002」が同時開催されている。

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