TOPIC No.5-17 人工臓器/再生医療

01.人工臓器
02.進化する人工臓器 Yomiuri On-Line
03.日本人工臓器学会

心臓を丸ごと再生 ラットで成功、米チーム

2007年01月15日 中国新聞ニュース

 【ワシントン14日共同】死んだラットの心臓を型枠にして、別のラットの細胞を植え付けて拍動する心臓を丸ごと再生するのに米ミネソタ大の研究チームが成功、14日までに米医学誌ネイチャー・メディシン(電子版)に発表した。

 皮膚や軟骨などの組織や、ぼうこうの再生はこれまでも行われているが、本格的な臓器再生につながる成果として注目を集めそうだ。

 チームによると、取り出したラットの心臓を特殊な溶剤で処理して細胞を除去し、心室や心臓弁、冠状動脈といった3次元構造がそのまま残ったコラーゲンなどからなる細胞外基質の塊を作製。

 この基質を型枠として、生まれたばかりのラットの心臓の細胞を注入して培養すると、心臓の細胞が増殖。4日後に心筋の収縮が起こり、8日後には全体が拍動し始め、血液を押し出す力は大人のラットの2%になった。

 骨髄から採取する幹細胞や、皮膚から得られる万能細胞を使えば、拒絶反応の起こりにくい移植用の心臓がつくれる可能性がある。

幹細胞の能力、増強に成功 産総研、10年に臨床応用へ

2007/12/18 中国新聞ニュース

 人の骨髄に含まれ、骨や筋肉の再生医療に使われている幹細胞の一種「間葉系幹細胞」に、遺伝子を一つ組み込むだけで、増殖能力や特定の細胞に成長する分化能力を大幅に高めることに、産業技術総合研究所セルエンジニアリング研究部門(兵庫県尼崎市)の大串始おおぐし・はじめ主幹研究員らのチームが成功、十八日発表した。

 今後、手法の安全性を高め、二〇一〇年をめどに患者に移植する臨床応用を目指すとしている。

 間葉系幹細胞は、成長できる細胞の種類が万能細胞と呼ばれる胚はい性幹細胞(ES細胞)より少ないが(1)患者自身の骨髄などから採取でき拒絶反応がない(2)倫理面の問題がない―などの利点がある。しかし人体からの採取後に培養を繰り返すと、増殖や分化の能力が大きく低下してしまうという問題があった。

 チームは、ES細胞で活発に働いている「Nanog」と呼ばれる遺伝子を、レトロウイルスを使って間葉系幹細胞に組み込み三―六週間培養。遺伝子を入れなかった幹細胞に比べると増殖能力が数百倍、骨への分化能力は約百倍高まった。今後は、がん化の危険があるウイルスを使わない手法を検討したいとしている。

 今回の手法は、皮膚に三―四種類の遺伝子を入れて万能細胞をつくった山中伸弥やまなか・しんや京都大教授らと似ているが、チームは約三年前から独自に研究していた。大串研究員は「山中教授の成果は尊敬すべきだが、複数の遺伝子導入は長期的な制御が困難で、実用化への課題が多い」と話している。

心臓病の再生医療に成功! 足の筋肉細胞シートで機能回復

2007.12.14 MSN産経新聞

 大阪大は14日、心臓が収縮する力が弱まる拡張型心筋症の男性患者(56)に、患者本人の足の筋肉細胞からつくったシートを心臓に張って心筋の働きを再生させる治療に成功し、20日に退院できる見通しになったことを明らかにした。男性は心臓移植が必要と判断され、当初は補助人工心臓を装着していた。現在では取り外して病院の周囲を散歩できるまでに回復したという。

 こうした治療の成功例は世界初とみられ、再生医療の実現が本格化してきたことを示す画期的成果といえそうだ。主治医の藤田知之助教は「自らの細胞を使って重い心臓病を治療できる可能性を示せた」としている。

 患者は大阪府松原市の男性で、昨年2月22日に大阪大病院に入院。心臓を動かす機能が低下したため補助人工心臓を装着。8月には脳死心移植の待機患者となった。

 心臓血管外科の澤芳樹教授らは、筋肉が傷ついたときに修復する働きを持つ筋芽細胞を、男性の左大腿(だいたい)部から採取。培養して増やし、直径約3・5センチ、厚さ0・1ミリ以下の円形のシートを20−30枚つくった。今年5月30日に男性の左心室外側を覆うようにシートを張る手術を実施。3カ月後には心臓が収縮する力が回復。9月5日に人工心臓を外すことができた。

 大阪大は同様のシートで、2年間で6人の患者を治療する計画。

シート移植し皮下に肝臓 マウス実験、200日機能

2007年06月18日 中国新聞ニュース

 肝細胞のシートをマウスの皮膚の下に移植し、200日以上にわたり、肝臓の機能の一部を果たすことを確かめたとの研究結果を奈良県立医大と東京女子医大、京都大のグループが米科学誌ネイチャーメディスン(電子版)に18日、発表した。

 肝臓がつくるタンパク質が欠乏する血友病などの治療につながるのではないかという。

 研究グループによると、肝細胞は、ばらばらの状態で移植しても血液の供給がないと短期間で死滅する。そこで、培養皿で肝細胞のシートを作製。マウスの皮膚の下に毛細血管を張り巡らせた場所を作り、シートを移植した。

 すると周囲の血管内皮細胞などとくっつき生着、肝臓のような組織ができた。200日以上にわたり、肝臓と同様にアルブミンや血液凝固因子などを出し続けた。肝臓の特徴である再生増殖能力もあるという。

 研究グループの中島祥介奈良県立医大教授は「シートを使うと肝細胞が効率よく生き残る」と話している。

皮下脂肪から肝臓細胞を作製、国立がんセンターが成功

2007年01月06日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 国立がんセンター研究所と国立国際医療センターの研究チームが、人体の皮下脂肪から、肝臓細胞を作製することに成功した。

 肝炎や肝硬変など国内に350万人以上いる肝臓病患者の肝臓を修復する再生医療の実現に近づく成果として注目されそうだ。チームは「数年以内に臨床応用を検討したい」という。

 同研究所の落谷孝広・がん転移研究室長=分子腫瘍(しゅよう)学=とアグネス・バナス研究員らは、皮下脂肪に含まれている「間葉系幹細胞」という細胞に着目した。さまざまな臓器や組織の細胞に変化する可能性を秘めており、皮下脂肪の細胞の約10%を占める。

 研究チームは、国際医療センターで腹部の手術を受けた患者7人から皮下脂肪を5グラムずつ採取、この幹細胞を分離し、成長を促す3種類のたんぱく質を加えて約40日間培養したところ、ほぼすべてが肝細胞に変化した。

 得られた肝細胞の性質を調べてみると、血液の主成分の一つであるアルブミンをはじめ、薬物代謝酵素など肝臓でしか合成されないたんぱく質が14種類以上検出された。人工的に肝機能不全に陥らせたマウスに、この肝細胞約100万個を注射で移植したところ、上昇していたアンモニア濃度が1日で正常レベルに低下した。

 皮下脂肪から再生した細胞は、乳房の修復などにも用いられているが、肝臓の持つ複数の機能が確認されたのは世界で初めて。

 再生医療の研究では、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)が有名だが、受精卵を壊して作るため批判を受けやすい。皮下脂肪を使えば倫理的な障害は少なく、患者自身から採取した細胞なので拒絶反応も起きないという利点がある。

 落谷室長は「皮下脂肪から作製した肝細胞は、機能などの点からみると、合格点ぎりぎりの60点程度。より本物に近い機能を持った肝細胞を作製したい」と話している。

ハイテク義足「パワーニー」 人工知能で自然な動き

2006/08/14 The Sankei Shimbun

 健常な反対側の足の動きをセンサーで感知して、これにあわせて動作する義足が開発された。義肢メーカー、オズール社のエンジニアらが開発した「パワーニー」で、モーターとバッテリー、人工知能で自然な動きを支援する。

 元米陸軍特殊部隊(レンジャー)兵士で、アーカンソー州の不動産業ビル・ダーラムさん(37)は「パワーニー」を使っている。

 「従来の義足はひきずるような感覚があったが、これだと自然。足取りがまったくよくなった」と話す。階段やスロープの上り下りも簡単だという。

 ダーラムさんは1989年、パナマ運河で任務についていて右脚を失った。左脚もけがし、背中には2つの銃弾による傷がある。だが、今はゴルフ、ヨット、小型機操縦など生活を謳歌(おうか)している。

 「パワーニー」は米食品医薬品局(FDA)が認可しているが、医師らはだれでも使えるわけではないという。サイズはひとつだけで、体重99キロまでの制限があり、しかも、値段は9万5000ドル(約1100万円)もする。

 フォートコリンズ(コロラド州)にあるプードアバリー病院のダグラス・ランディ医師はそれでも、「パワーニー」の製造コストが下がり、技術向上があれば、10年から15年のうちに一般的になると予測している。(USA TODAY)

皮膚から「万能細胞」 拒絶ない移植に道

2006年08月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line

京大研作製 生殖細胞使わず

 皮膚の細胞から、様々な臓器や組織に育つ能力を秘めた新たな“万能細胞”を作製することに、京都大再生医科学研究所が、マウスの実験で世界で初めて成功した。

 胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に似た性質を持つ、この万能細胞を人間でも作ることができれば、患者と同じ遺伝子を持つ臓器が再生でき、拒絶反応のない移植医療が実現すると期待される。11日の米科学誌「セル」電子版に掲載される。

 成功したのは、同研究所の山中伸弥教授と高橋和利特任助手。

 山中教授らは、ES細胞で重要な働きをしている遺伝子には、体を構成する普通の細胞を“リセット”して、発生初期の細胞が持っている万能性を備えさせる遺伝子があると考え、その候補として24種類の遺伝子を選定。その中から、「Sox2」などの遺伝子4種類を、ウイルスを使って、マウスの尾から採取した皮膚の細胞に組み込んで培養した。その結果、皮膚細胞は2週間後にES細胞と似た形態の細胞に分化した。

 また、この細胞の性質をマウスの体内で調べたところ、3週間後に神経や消化管組織、軟骨などが入りまじった塊に成長したほか、シャーレ上でも拍動する心筋や神経などの細胞に変化し“万能性”が確認できた。

 ES細胞に近い能力があるとして、「誘導多能性幹細胞(iPS細胞)」と命名。ES細胞は、受精卵や卵子を材料にしており、倫理的に問題があるとの指摘が根強いが、iPS細胞は生殖細胞を使わずに作製できる。

 山中教授は「人間の皮膚細胞からiPS細胞を作製し、それを用いた再生医療が実現するよう研究を進めたい」と話している。

希望もたらす成果

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の若山照彦チームリーダー(発生工学)の話「体細胞からクローン技術を用いずにES細胞を作製するのは不可能だと思われていたが、今回マウスで体細胞からES細胞に似た細胞の作製に成功したことで、人間でもできるのではという希望をもたらす成果だ。再生医療の研究の流れは今後、今回のような細胞作製の方向に必ず進むだろう」

 胚性幹細胞(ES細胞) 受精卵が細胞分裂を始めて数日後の「胚盤胞」から、全身の組織に分化していく部分を取り出し、培養して作製する細胞。心臓や神経などの臓器や組織の細胞に分化する万能性を秘めており、けがや病気で傷んだ臓器などを治す再生医療への応用が期待されている。

精子幹細胞からノックアウトマウス作成に成功

2006/04/26 The Sankei Shimbun

 マウスの精巣から取り出した精子幹細胞(GS細胞)を使い、特定の遺伝子が働かないようにした遺伝子組み換えマウスの作成に京都大の篠原隆司教授(生殖生物学)らの研究グループが成功したと25日、発表した。今週付号の「米国科学アカデミー紀要」電子版に掲載される。

 生殖細胞から作られるGS細胞は、培養条件によってさまざまな臓器や組織の細胞に変化する能力がある胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と同様の機能を持つ。ES細胞が受精卵から取り出すため倫理的に慎重な扱いが求められるのに対し、新しい再生医療の研究対象として注目されている。

 研究グループは、ES細胞に用いられている遺伝子改変技術を使い、GS細胞から慢性胃炎になる特定の遺伝子を欠損させたマウスを作成することに成功した。

 GS細胞は多くの動物で共通した性質を持つことから、ブタなど他の動物でも遺伝子改変できる可能性が高く、篠原教授は「作った遺伝子改変動物を使い、特定の病気に対する製薬、治療などの研究や、ヒト幹細胞の遺伝子治療の研究開発促進に寄与できる」としている。

ぼうこう組織再生し移植 米で7人の機能改善に成功

2006/04/04 中国新聞

 【ワシントン4日共同】本人の細胞を使ってぼうこう組織をつくり、それを7人の患者に移植し低下したぼうこうの機能を改善することに、米ウェークフォレスト大(ノースカロライナ州)などのチームが成功、4日付の英医学誌ランセット(電子版)に発表した。

 骨や軟骨をはじめ比較的単純な組織の再生はこれまでも行われているが、ぼうこうのような臓器を本人の細胞で修復できたのは初めて。

 患者は神経機能に異常があるため、手術後も管を入れて排尿する必要があるが、2−5年の経過観察では目立った副作用もなかったという。

幹細胞利用に初の指針案 実施機関と国が二重審査

2006年02月22日 The Sankei Shimbun

 骨髄などに含まれる人の体性幹細胞を使った再生医療の臨床研究で、厚生労働省の厚生科学審議会専門委員会(委員長・中畑龍俊(なかはた・たつとし)京都大教授)は22日、研究を許可制として、実施機関と国による二重の審査を定めた初の指針案をまとめた。

 あらゆる細胞に成長できる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と違い、体性幹細胞は成長する細胞がある程度絞られている。臓器や組織の修復や機能回復を狙う再生医療が一部で既に始まっており、指針によって、患者の人権を尊重しつつ研究の有効性と安全性を確保する狙い。

 専門委は指針案を同審議会科学技術部会に報告、厚労省は指針を今夏にも施行する方針。妊娠中絶などによる死亡胎児の幹細胞利用については今後、議論する。ES細胞の研究指針は、文部科学省で改定を検討中。

 指針案は、研究を実施する機関の倫理委員会と厚労省の審査が必要な許可制とした。

 副作用など重大事案が起きたときは倫理委が速やかに原因を分析し、中止や改善などの対処法を決定。幹細胞の採取や、移植時の衛生管理などの研究機関の要件、病原微生物による幹細胞の汚染防止も規定した。

 インフォームドコンセント(十分な説明と同意)の実施、個人情報の取扱注意も求めている。脳死者からの幹細胞の採取、移植は、臓器移植法に明記されていないことから行わないとした。

 専門委は2002年1月に審議を始めたが、死亡胎児利用の倫理問題などをめぐり紛糾したため、死亡胎児の検討は先送りし、作業グループで指針素案をまとめた。

 ■体性幹細胞 特定の細胞に分化する能力と自己複製の能力を持ち、神経へと成長する神経幹細胞や、血液に分化する造血幹細胞、肝臓の細胞になる肝幹細胞などがある。骨髄などに含まれる幹細胞では、さまざまな細胞に分化する多能性が報告されている。(共同)

 体性幹細胞の患者への利用は、心臓や血管の修復、皮膚や骨の再生など、さまざまな分野で国内でも既にスタート。細胞の質の確保や、効果の詳細な検証が課題になっている。

 体性幹細胞は、受精卵を壊してつくる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)に比べ倫理的問題が少なく、患者本人から採取し移植すれば拒絶反応が起きないのが利点とされる。

 臨床応用は、事故による脊髄(せきずい)損傷患者やパーキンソン病患者の運動機能回復のほか、臓器の修復、やけど、生活習慣病など多岐にわたる。

 足の血管が詰まり壊死(えし)する閉塞(へいそく)性動脈硬化症や、心臓の血管や心筋の修復、歯や骨の再生では、改善効果がみられたとの報告がある。将来は、がん治療、毛髪再生、老化防止にも役立つのではと期待されている。

 一方で、幹細胞の特定の細胞への分化や改善効果の詳しい仕組みなど、十分に解明されていない部分もある先端医療だけに、安全性確保は最重要課題。細胞の採取や培養、移植などの各段階で病原体汚染の防止が万全でないと、重大な健康被害をもたらす恐れがある。

 しかし「これまで実施の審査は機関ごとに行われ、レベルにばらつきがあった」(厚生労働省)ため、国の指針の必要性が指摘されていた。(共同)

補助人工心臓の2人退院へ 国産埋め込み型で症状改善

2006年02月07日 The Sankei Shimbun

 心臓移植までのつなぎとして、国産の補助人工心臓の埋め込み手術を東京女子医大病院で受けた拡張型心筋症の男性2人の症状が改善、近く退院して在宅療養を始めることになり、同病院で6日、記者会見した。

 血液を循環させるポンプが体外にある体外式補助人工心臓によって心機能が回復した例や、外国製埋め込み型で退院した例はあるが、国産埋め込み型での退院は国内初。

 2人は、昨年5月に手術を受けた群馬県高崎市の渡辺勝行さん(47)と、同7月に受けた千葉県鋸南町の秋山哲太朗さん(29)。黒沢博身教授らによると、いずれも手術直後に心拍出量が改善、手術2カ月後には日常生活が可能なほど回復し、在宅療養に向けたトレーニングを積んできた。血栓や感染症、装置のトラブルもなかったという。

 2人は在宅療養しながら心臓提供者が現れるのを待つ。

 装置は東京女子医大や早稲田大、サンメディカル技術研究所(長野県諏訪市)などが開発した「エバハート」。左の肋骨(ろっこつ)の下に埋めた重さ約420グラムのチタン製ポンプに、左心室から血液を引き込み、高速回転する羽根車が1分間に7リットル前後を大動脈に送り出す仕組み。体外のA4パソコンサイズの制御装置から、コードで電気と冷却水を供給する。

 同型の埋め込み手術は、国立循環器病センターでも女性患者(40)が昨年7月に受け、経過は順調という。5月以降、大阪大、埼玉医科大を加えた4施設で患者十数人を対象に臨床試験を行う。

 渡辺さんは会見で「100メートル歩くのもきつかったが、(病気前と)変わらず歩けて素晴らしいと思った。社会復帰が現実になりそうで本当によかった」と笑顔で語った。秋山さんは「ベッドの上が長かったのでありがたい。退院後やりたいことがあるので頑張っていこうと思う」と話した。(共同)

羊膜細胞を骨や神経に ツーセル・広島大が事業化

2005/04/21 中国新聞地域ニュース

 広島大の学内ベンチャーで再生医療技術開発のツーセル(広島市南区)は広大と共同で、妊婦の子宮内で胎児を包む羊膜の細胞を骨や神経などに再生利用する技術の事業化に乗り出す。二十日に広大が開発した関連技術について広島TLO(広島市中区)と技術移転契約を結んだ。二〇〇九年にも細胞培養センターを設置し、医療現場での実用化を目指す。

 同社は、広大大学院医歯薬学総合研究科の加藤幸夫教授を中心に〇三年四月に創業。加藤教授は特殊な容器で羊膜の細胞を従来の方法の百〜千倍に増やす技術を開発し、特許を申請しており、培養方法のノウハウを同社に移転する。

 羊膜の細胞は、骨や心筋、脂肪、神経などの細胞になれる特性を持つ。医療に活用すれば、高齢者の骨折や関節炎、心臓疾患などの治療に大きな効果が見込まれている。事業化には、羊膜の細胞の培養方法の確立が課題とされてきた。

 再生医療については、死亡胎児の細胞を使う研究が先行している。羊膜は通常、出産後は医療廃棄物とされるため、再生医療への活用に倫理的な問題も少ないという。

 再生医療の市場は今後、世界で一、二兆円に広がるといわれる。ツーセルの取締役を兼ねる加藤教授は「大きな将来性が見込まれる再生医療で独自の技術を駆使し、世界をリードしたい」と話している。

人工肛門装着者支援に条例見直しへ 広島県

2005/03/15 中国新聞地域ニュース

 人工肛門(こうもん)や人工ぼうこうを利用する「オストメイト」を支援するため、広島県は県福祉のまちづくり条例の整備基準を見直す。民間を含めて不特定多数の人が利用する施設を対象に、オストメイトが利用しやすいトイレの設置を促し、社会参加を側面からサポートする。

 見直すのは、条例に沿った「優しい施設」として適合証を出す際の整備基準。オストメイトが腹部に付ける排せつ物処理の専用袋(パウチ)を洗える温水シャワー付き流し台の設置などを、共同便所の項目に追加する。

 オストメイト対応トイレは、広島市中区の県庁南館や広島市民病院、南区の県立広島病院など公共施設のほか、府中町のダイヤモンドシティ・ソレイユなどの商業施設でも設置が進む。条例に罰則規定はないが、県は三月中にも基準を見直し、対応トイレの一層の拡大につなげたい考えだ。

 日本オストミー協会広島県支部によると、県内のオストメイトは直腸がん、ぼうこうがんを治療した人たちを中心に約三千三百人。近年、急激に増えているという。しかし、今の県条例が定める共同便所の整備基準は、主に車いす利用者の利便性の向上を想定している。

 約二年前から県などに対応トイレの普及策を求めていた同県支部長の荘川福己さん(67)=安佐南区=は「オストメイトの中には、対応トイレの少なさから外出を避ける人もいる。条例の基準見直しが、使いやすいトイレの増加につながれば」と期待している。

完全置換型人工心臓、米で移植までのつなぎとして承認

2004/10/19 読売新聞 Yomiuri On-Line
 【ワシントン=笹沢教一】米食品医薬品局(FDA)は18日、重い心臓病の患者が心臓移植を受けるまでのつなぎとして、左右の心室をともに切り取って埋め込む「完全置換型人工心臓」を初めて承認した。

 これまでは、左心室の機能を代行する補助人工心臓が主に用いられていた。

 承認されたのは、アリゾナ州に拠点を置くシンカーディアシステムズ社の人工心臓。心室とほぼ同サイズの2つのポンプで構成され、体外の装置から細いチューブで圧縮空気を送って鼓動させる。

 FDAは、対象となる患者の条件を、心臓移植を待ち、左右の心室の機能低下で30日以内に死亡する恐れがある場合に限定している。

口の粘膜から角膜再生、視力回復に成功

2004/09/16 読売新聞 Yomiuri On-Line

 口の粘膜の細胞を培養して作った角膜を移植し、角膜が損傷した患者の視力を回復させることに、大阪大病院眼科の西田幸二講師らのグループが成功した。患者自身の細胞を使うので拒絶反応はなく、角膜移植に代わる治療法として、実用化に一歩近づいたと言えそうだ。

 16日発行の米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表した。

 臨床研究には、抗生物質の副作用などで角膜が損傷して両目の視力が低下した患者ら4人が参加した。

 口の粘膜細胞には、角膜の上皮組織のもとになる幹細胞が多く含まれている。西田講師らは、患者の口から2―3ミリ角の粘膜を取り出し、ガラス皿で2週間培養してシート状の角膜上皮を再生させた。

 それぞれ片方の目だけに移植して1年後、ほとんど視力のなかった患者2人は、移植した目の視力が0・2と0・07に回復。0・01だった2人も、0・8と0・4に回復した。

 片方の目だけが損傷している患者は、健康な目の角膜から幹細胞を採取できるが、今回の方法なら、両目が損傷していても治療できる。

 西田講師は「3年以上経過を見て、移植した角膜上皮が根付くかどうか確かめたい」と話している。

 ◆幹細胞=臓器や皮膚など特定組織の細胞に成長するおおもとの細胞。血液の幹細胞が筋肉に変わるなど、ほかの臓器や組織に変わる能力を持つことも最近判明し、再生医療などの分野で盛んに研究が進められている。

血管を印刷技術で再生…心筋こうそくなど治療に期待

2004/07/13 読売新聞 Yomiuri On-Line
 特殊な印刷技術を活用して、元の形通りに毛細血管を作り出すことに成功したと、東京医科歯科大と大日本印刷が12日発表した。

 従来の再生医療では、血管の元になるとされる細胞を体内に注入して治療を試みているが、体外で分岐型や網目状の血管など思い通りの形に血管を作ったのは初めて。実用化すれば、心筋こうそくなどの治療に役立つと期待される。

 同大大学院医歯学総合研究科の森田育男教授らは、眼底の毛細血管を撮影した画像を、光触媒で覆った基板に紫外線を当てて型どりし、血管の形をそっくり“印刷”した。“印刷”部分は水分を含み、細胞が付着しやすい。ここに「インク」となる別の静脈から採取した血管内皮細胞をはり付け、培地に「転写」すると、約2日後に血管が生まれ、管状の構造まで再生できた。今のところ、長さ約5―6センチ、太さ30―60マイクロ・メートルの血管を作ることが可能という。

 森田教授は「毛細血管と同じパターンで並べた内皮細胞を、心臓の表面などにはり付けるだけで、自然に血管が形成されると考えられる。臨床応用できれば患者本人の細胞なので、体への悪影響も少ないはずだ」と話している。

 ◆再生医療=病気や事故で失われた臓器・組織をよみがえらせる医療。受精卵から作る胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や、臓器・組織のおおもとの細胞(体性幹細胞)などの活用が主に研究されており、神経難病などの治療が期待される。

バーチャル臓器:03年から研究に着手 文科省

2002年12月28日THE MAINICHI NEWSPAPERS
 文部科学省は03年から、心臓や肝臓など主要な臓器の働きを、細胞レベルでコンピューター内に再現する「バーチャル臓器」の研究を、国家プロジェクトとしてスタートさせる。02年度補正予算と03年度予算を合わせて48億円を投入する。こうしたシミュレーションシステムが実用化すれば、新薬開発の効率化のほか、病気の原因をより詳細に特定することも期待できる。

 臓器の働きは、細胞という小さな「工場」がさまざまな物質や電気信号を受け取り、酵素など内部の「機械」を稼動させ成り立っている。心臓などの筋組織は、細胞がカルシウムを取り込み、吐き出すことで、筋肉を伸縮させている。

 同省の構想では、こうした解明されつつある細胞や臓器の分子レベルでの働きをもとに、「この物質を細胞が取り込んだら、どのような変化があるか」といった細かな仕組みをプログラムに置き換え、コンピューター内で臓器の働きを再現することを目指す。新薬の開発では、候補となる物質が臓器にどのような影響を与えるかを動物実験なしで推測できる。

 将来的には、医療現場での活用も目指す。心電図や血液検査などの臨床検査の結果を「バーチャル臓器」で再現し、「どの細胞、組織のどの仕組みがおかしくなっているか」といった病気の原因の詳細な推定ができれば、最適な治療法が選択できるようになる。

 このようなシミュレーションシステムは、大阪大、京都大などが研究会を結成して検討を進めている。

 海外でも米国のベンチャー企業などが研究に着手しており、国際的な競争の激化が予想されることから、文科省は国家プロジェクトとして研究開発を推進することにした。 【金田健】

ヒト、豚細胞:マウス体内で腎臓に成長 臓器不足解消に道

2002年12月23日 THE MAINICHI NEWSPAPERS
 将来、腎臓に成長するヒトや豚の細胞をマウスに移植、マウスの体内でほぼ正常な機能を持った腎臓にまで成長させる実験にイスラエルのワイツマン研究所などのグループが成功、22日、米医学誌ネイチャーメディシンの電子版に発表した。細胞から臓器を再生し、移植用の臓器不足の解消に道を開く成果で、グループによると早ければ数年後の臨床応用も可能という。

 グループは人工妊娠中絶された7〜14週のヒトの胎児から、将来腎臓に成長する「腎臓前駆細胞」という細胞を取り出し、免疫反応を抑えたマウスの腎臓周辺に移植。豚でも同様の実験を試みた。移植された細胞はマウスの体内で成長。約8週間後には、大きさはマウスの腎臓に近いが、形はヒトや豚の腎臓に似て、尿をつくる機能なども正常な腎臓に近いレベルの組織ができた。

 ヒトの場合は受精後7、8週間、豚は同4週間後の前駆細胞が、最も腎臓に成長する確率が高いうえ、この時期にはまだ、免疫反応の原因となる細胞が形成されていないため、移植時の拒絶反応が起きにくいことも分かった。

 研究グループは「豚の細胞からつくられた腎臓であっても、ヒトへ移植した時の拒絶反応は少ないとみられ、移植臓器不足の解消につながる可能性がある」としている。(ワシントン共同)

内耳「有毛細胞」を再生、動物実験で京大チーム成功

2002年12月15日 Yomiri On-Line
 音を聞き取るのに重要な役割を果たす内耳の「有毛細胞」を再生させることに、伊藤寿一・京都大教授らの研究チームがネズミの実験で成功した。聴力回復に新たな可能性を開く基礎研究として注目され、来年2月の米国耳鼻咽喉(いんこう)科基礎学会で発表する。

 音は鼓膜から内耳にある蝸牛(かぎゅう)という渦を巻いた管状の器官に伝わる。中はリンパ液で満たされ、その振動を1万個以上の有毛細胞が電気信号に変換し、聴神経を通じて脳に伝える。

 難聴には中耳が原因の場合と内耳が原因の場合がある。薬の副作用や騒音で聴力を失った場合、大半は有毛細胞が損傷している。先天性の難聴でも、有毛細胞の変異が多く確認される。

 研究チームは、ネズミの有毛細胞を人工的に壊し、蝸牛に穴をあけて神経のもとになる神経幹細胞に発光物質を組み込んで注入、再生するか観察した。

 その結果、有毛細胞が存在する溝に、光る細胞が1%未満だが入り込み、有毛細胞の形になった。

 蝸牛のリンパ液は、電位差を作るために、体内の他の部分に比べてカリウム濃度が極めて高く、細胞を人工的に入れても生き延びるのは難しいと考えられていた。まだ再生の効率が低く、難聴を治療できる段階ではないが、幹細胞の活動が確かめられたのは初めて。

 伊藤教授は「幹細胞を有毛細胞に分化させる物質を見つけるのがカギ。5年後の臨床試験を目指したい」と話している。

オリンパス光学工業、骨の再生医療事業に参入

2002年11月27日 The Sankei Shimbun
 オリンパス光学工業は27日、骨髄液から採取した幹細胞で培養骨を作る骨の再生医療事業に参入すると発表した。来年秋に臨床治験を行い、厚生労働省の薬事承認を得て2006年末から発売する予定。

 骨粗しょう症など骨を欠損した人の手術では、人工骨や他の部位からの骨の移植が行われているが、術後の痛みなどの問題がある。しかし、培養骨を使えば痛みが緩和されるほか、周りの骨とのなじみも良くなる利点があるという。

 同社は独自開発の装置を使い、患者の骨髄液から採取した幹細胞を分化させて培養骨を作る。部位にもよるが3−4週間でできるという。培養は神戸市の先端医療センター内で行い、医療機関に供給する計画。

人の脂肪から軟骨 米デューク大の研究チーム

2001.02.28【ワシントン27日=共同】 The Sankei Shimbun
 米デューク大の研究チームは二十七日、人の脂肪から軟骨組織をつくり出すのに成功したと発表した。同チームがつくったのは直径二センチほどの円形の軟骨組織で、関節などの損傷部位に移植するのに適した大きさという。

 関節などの軟骨はけがなどで損傷するとほとんど回復しないため、移植用組織の開発が待たれていた。同チームは「原料は脂肪なので患者から簡単に取れるのが最大の特徴」と指摘。三−五年で技術を実用化できるとみている。

 同チームは、脂肪吸引法の手術を受けた患者から脂肪の提供を受け、脂肪を包みこんで保持している間質性細胞を遠心分離機で分離。成長因子などを含む特殊な培養液で二週間培養し、軟骨組織をつくるのに成功した。

 同チームは、将来は軟骨に損傷を起こした患者から脂肪を取って培養し、移植用軟骨をつくることを目指している。

牛の皮膚細胞から心臓細胞/英製薬会社

2001.02.27【ワシントン26日=共同】The Sankei Shimbun
 世界初の体細胞クローン動物である羊のドリーをつくった英製薬会社PPLセラピューティクス社が、今度は牛の皮膚の細胞から心臓の細胞をつくり出すことに成功したと、二十六日までに発表した。

 各種細胞の元になる幹細胞から心臓細胞をつくった研究はこれまでもあるが、分化が進んだ皮膚細胞からつくり出したのは初めて、という。赤ちゃんになる胚(はい)を壊してつくるため倫理面の問題を抱えた胚性幹細胞(ES細胞)を使わずに、移植用の細胞や組織をつくり出す新技術として注目される。

 同社は米国に子会社を持っており、今回の研究は米政府の研究資金で行った。「商業上の配慮」から詳細な方法は明らかにしていないが、完全に分化した牛の皮膚細胞をまず幹細胞に変化させ、この幹細胞から心臓細胞をつくり出した。つくった心臓細胞は鼓動を刻んでいる、という。

 同社は次は、人間の皮膚細胞から心臓細胞をつくり出す研究に着手する。

 分化した細胞は別の種類の細胞に変化できない、というのが従来の生物学の常識だった。しかし、クローン動物研究の過程で、分化した細胞でも特殊な条件の下で、万能性を持つ未分化の状態に戻せる可能性が浮上。今回の研究で実証された。

ヒトの胚から臓器つくる研究認める法案、英上院が可決

2001.01.23(21:46)asahi.com
 英国上院は22日、クローン技術を利用してヒトの胚(はい)から臓器や組織をつくる研究を認める法案を可決した。法案は下院を通過しており、近く成立する運びになった。

 認めるのは、クローン技術を利用して育成した受精後14日以内のヒトの胚から移植用の臓器や組織をつくる研究。政府機関による監督を義務づける条件がついている。パーキンソン病など難病治療に道を開くと期待されている。ヒトの個体複製(クローン人間)の研究は認めない。

 上院では英国国教会やカトリックなど宗教関係者の議員を中心に、「ヒト複製への第一歩になりかねない倫理的問題があり、もっと論議を尽くすべきだ」と慎重論が強かった。賛成派は「研究の遅れは難病患者をかえって苦しませる」と反論。クローン胚研究のあり方を討議する特別委員会を上院に設けることで合意し、法案を可決した。

京大グループ、「万能細胞」から血管づくりに成功

2000.11.02(03:02)asahi.com
 さまざまな臓器や組織になる潜在能力があり、「万能細胞」とも呼ばれる胚(はい)性幹(ES)細胞から血管をつくることに、京都大学大学院医学研究科の山下潤研究員、西川伸一教授、中尾一和教授らのグループが動物実験で成功した。2日発行の英科学誌ネイチャーに発表する。ES細胞を特定の細胞に分化させるだけでなく、それらをもとに管状の立体構造までつくり上げた点が画期的。損なわれた臓器や組織を人工的につくる再生医療に一歩近づく成果で、心筋こうそくなどの患者の血管再生や、人工血管づくりなど、応用の芽を秘めている。

 血管は、内側の内皮細胞と外側の壁細胞からできている。山下さんらは、マウスのES細胞を培養。さまざまな種類の細胞ができた中から、血管の内皮細胞のもとになる前駆細胞を選び出した。この前駆細胞には壁細胞になる能力もあることも確かめた。

 そこで、まず前駆細胞を培養液の中で浮遊させて培養、細胞の塊をつくった。次に細胞の塊をコラーゲンというたんぱく質の上で培養すると、管状のものが網の目のようになった構造ができた。

 さらに、前駆細胞をニワトリの胎児に移植すると、血管の一部になることも確かめた。

 心筋こうそくなどの患者に対する血管再生では、この前駆細胞を移植する治療が考えられる。一方、ほかの材料と組み合わせて、「成長する人工血管」をつくることもできるとみられている。

さい帯血で骨つくる研究に着手へ 名古屋大グループ

2000.06.17(15:17)asahi.com
 名古屋大学大学院の研究グループが、赤ちゃんのへその緒に含まれるさい帯血などの細胞から骨や軟骨をつくる再生医療の研究を始める。近く名大の倫理委員会に研究計画を申請する。骨髄の細胞を使った同種の研究はほかにあるが、さい帯血を利用する例はないという。病気や事故で骨が損傷したり、衰えたりした患者の移植に広く使うため、骨髄利用も含め、ベンチャー企業と共同で実用化に向けた技術開発も目指す。  研究に着手するのは頭頚(とうけい)部・感覚器外科学講座(上田実教授)のグループ。

 上田教授らによると、さい帯血は、へその緒や胎盤に含まれる。骨髄と同様に、さまざまな組織や臓器のもとになる未分化細胞が含まれている。この1つに骨や軟骨に分けて取り出しやすい細胞だとされる間葉系幹細胞がある。今回の研究はこの間葉系幹細胞を使う。

 上田教授らは昨年、ラットの骨髄中の未分化な細胞に化合物で刺激を与えて骨や軟骨になるまでに培養することに成功した。この方法が、ヒトのさい帯血や骨髄にも応用できるかどうかを研究する。

 そのうえで間葉系幹細胞を速く大量に培養、骨や軟骨に分化させ、高分子などでつくった支持組織を足場にして育てる手法の開発を目指す。長期間保存して、いつでも使えるように凍結したり、簡単に移植できるようにしたりする方法も開発していくという。

 上田教授は、人間の皮膚や軟骨から医療材料を開発、販売する愛知県のベンチャー企業と技術協力を進めている。再生医療ビジネスは世界で50兆円近い市場になると見られ、複数の企業が上田教授の技術をもとにビジネスに乗り出すことを検討している。

 細胞をもとに皮膚や軟骨、神経、血管などを再生させる研究はここ数年、活発になってきた。とくに骨や軟骨の再生は需要が大きい。交通事故やがんなどの病気で骨のほか、鼻や耳、関節の軟骨が損傷して苦しむ患者は多い。今後股関節(こかんせつ)など、関節の老化に悩む患者が増えることが予想されるという。

 これまでの骨の移植は、患者の正常な部分から骨を削って使う「自家骨移植」や、他人から提供を受ける「同種骨移植」が行われてきた。ただ、自家骨移植は患者の負担が大きく数が限られる。同種骨移植は、提供を呼びかける活動がまだ少ない。

 一方、上田教授らのグループは将来、体外受精で余った受精卵を使って骨を造る研究にも取り組む方針だ。受精卵には未分化細胞が豊富な胚(はい)性幹細胞(ES細胞)がある。国が研究のための指針を検討中のため、当面、動物実験の準備を進める。

再生血管移植の女児、経過は順調 東京女子医大が発表

8:42p.m. JST May 15, 2000 asahi.com
 心臓病の女児(4つ)に12日、患者自身の血管の細胞を増殖させて作った「再生血管」の移植をした東京女子医大循環器小児外科の今井康晴教授らは15日、手術後の経過について「容体は安定しており、3―4週間もすれば退院できそうだ」と発表した。

 女児は生まれつき心臓に障害があり、肺動脈に再生血管を移植された。再生血管の土台は高分子でできていて、6―8週間で体内で分解、吸収されるという。

 同大はほかに5人の患者から細胞を採取して培養しており、今後、手術を予定している。

 今井教授は「合成繊維などで作った人工血管は、血栓ができやすく、成長とともに再手術が必要になるなど問題がある。自分の細胞から作った再生血管なら拒絶反応はなく、成長に合わせて大きくなることも期待できる」と話した。

臓器再生市場48兆円狙い開発に熱

4:57p.m. JST April 16, 2000
 失われた臓器をもう一度元に戻せたら……。そんな夢が現実になる時代が、すぐそこだ。米国では、細胞を材料に組織や臓器の再生をめざすベンチャー企業が、関連産業も含めて世界で48兆円ともいわれるビジネスチャンスをねらって、技術開発を急ピッチで進める。皮膚はすでに実用化され、神経、血管、肝臓、心臓などに向けて研究が続いている。日本でも厚生省が指針を策定中で、本格的な取り組みが始まろうとしている。

 生きた「細胞商品」が毎日出荷される光景はすでに現実となっている。米マサチューセッツ州ボストン郊外のオルガノジェネシス社は、ピンク色の液体に浮かぶ人工皮膚を、全米に出荷している。

 原材料はユダヤ教の割礼儀式の手術で採取された男の子の皮膚。切手サイズの大きさの皮膚があれば、培養でシャーレ20万枚分にすることもできる。

 「ピンク色の液体は、細胞の食物。生きているので栄養が必要です」とナンシー・パレントー副社長。

 生きた細胞を材料にするこのような商品では、ウイルスなどに感染していないか、がん細胞は混ざっていないかなど、米食品医薬品局(FDA)は厳しい規制を設けている。

 米マサチューセッツ州ケンブリッジ市のリプロジェネシス社。二重ドアの向こうではガウン、帽子、マスクに身を固めて作業中だ。まるで半導体工場のクリーンルームだ。「培養中の細胞が汚染されないよう厳重な管理が必要」とダニエル・オムステド社長。

 同社は細胞から人工ぼうこうをつくる技術の独占権をもつ。体内吸収される高分子で袋をつくり、ぼうこうから取った細胞をはりつけ体内に戻す。数カ月後には高分子が消え、細胞は増えて本物のぼうこうができている。イヌを使った実験で成功し次は人をねらう。

 これまで、失った臓器を復活させる代表的な方法は他人からの臓器移植だった。しかし提供臓器の不足、拒絶反応など難問が残る。人から提供されたわずかな細胞から、臓器や組織に育てられれば、数量不足は解決できる。さらに患者自身の臓器を生き返らせることができたら、拒絶反応もなく、臓器移植にとってかわるのは間違いない。再生医学の究極の目標だ。

 組織を再生する試みは1980年代から盛んになった。培養皮膚による治療が報告され、高分子などでつくった「足場」に細胞を植えて望む形にする研究も進んだ。神経、気管、血管、消化管など次々と広がった。より複雑な構造の心臓や肝臓も研究されている。

 今年6月までにリプロジェネシス社は、骨の再生を促すたんぱく質の特許をもつ企業、髪の毛やすい臓の形成を進める別の企業と合併し、総合的臓器再生企業を目指す。

 昨年4月、米メリーランド州ボルティモアにあるオシリス社の研究者が、大人の骨髄中の特定の細胞を取り出し、培養して骨、軟骨、脂肪にできたという論文を米科学誌サイエンスに発表した。同社は、この細胞が商品だ。がんの治療後の血液の再生薬として臨床試験中で、将来は心臓の筋肉再生用にも期待される。

        ◇

 再生医学については、日本でも、研究レベルでさまざまな試みがある。たとえば、奈良県立医科大学の整形外科グループは骨髄の細胞を培養して骨の再生をめざす治療計画を倫理委員会に提出し、3月に承認を得た。また、東京女子医大の心臓血圧研究所などのグループも、患者の細胞から人工血管をつくる治療計画を進めている。

 しかし、米国に比べ、細胞を使った製品の商業化では遅れが目立つ。厚生省の外郭団体の援助を受けて、培養皮膚や培養軟骨の製品化をめざすベンチャー企業であるジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが昨年2月に設立されるなど、ようやく本格的な動きが出てきたところだ。細胞や組織からうつる可能性のある感染症のチェックなど細胞利用にあたってのガイドラインについて、厚生省が策定を進めている。

体細胞クローン豚出産成功、「移植用臓器」へ期待も

6:58p.m. JST March 15, 2000
 体細胞クローン羊「ドリー」を英国のロスリン研究所とともに誕生させた同国のバイオ企業「PPLセラピューティクス」は14日、「体細胞クローン豚を出産させることに世界で初めて成功した」と発表した。同社は人に臓器を移植できるよう、遺伝子を操作したクローン豚の開発を目指しており、今回の成功で実現性が増したとしている。

 同社によると、クローン豚は米国で今月5日、5頭生まれた。同じ技術を使ったクローン動物は羊のほか、牛やマウスなどでも誕生している。豚は卵子などの体外操作が難しく、これまで実現していなかった。

 豚は臓器のサイズが人に近いことなどから、不足している移植用臓器の提供動物として有力視されてきた。しかし、人と異なる種の臓器を移植すると、急激な拒絶反応を避けられない。このため、免疫にかかわる遺伝子を操作し、人に移植しても強い拒絶反応を起こさない豚をつくる必要がある。

 同社は昨年、特定の遺伝子を操作した体細胞を使い、クローン羊を誕生させることに成功したことを明らかにしている。この技術を豚に応用すれば、拒絶反応を抑えるように遺伝子操作したクローン豚をつくれるという。ただ、異種の臓器を移植することで未知のウイルスに感染する危険性などの課題は残っている。

「万能細胞」研究を正式承認 科学技術会議生命倫理委

9:38p.m. JST March 13, 2000
 あらゆる組織や臓器に育つ可能性を秘め、「万能細胞」とも呼ばれる人の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究について、首相の諮問機関である科学技術会議の生命倫理委員会(委員長=井村裕夫・京都大学前学長)は13日、体外受精でつくられる受精卵の一部に限り研究を認めるなどとした同委員会の「ヒト胚研究小委員会」の報告を了承した。これを受け、国は夏までに指針を作る予定で、人のES細胞研究が国内でも始まることになる。

 ES細胞は、体外で受精させた胚(受精卵)を胚盤胞という段階まで育て、内部細胞塊という部分を取り出し、特殊な条件で培養してつくる。すでにマウスのES細胞を使い、神経細胞や血液細胞などに分化させる研究が進んでいる。1998年11月、米国の研究者が人のES細胞をつくったと報告した。

 ただ、ES細胞をつくるには、受精卵を壊す必要があることなどから、生物学者や法学者らでつくる同小委員会で論議してきた。同小委は今月6日、「人のES細胞をつくる胚は体外受精で余り、捨てることが決まったものに限る」「研究機関と国の2重の審査を受ける」などの条件付きで研究を認める報告をまとめた。

 13日の倫理委では「一般の人のES細胞についての理解はまだ十分ではなく、結論を急ぐべきではない」との声もあったが、「研究の枠組みを早く決めるべきだ」という意見が通り、承認が決まった。同委の議事はこの日、初めて公開された。

万能細胞の研究、開始へ

2000年3月13日 19時26分
 
 科学技術会議(首相の諮問機関)の生命倫理委員会は13日、人の受精卵からつくられ、どんな臓器にも成長できる「万能細胞」研究を条件付きで容認するとしたヒト胚(はい)研究小委員会の報告書を了承。

 同委員会は政府に対し、研究を規制するガイドライン(指針)を早急に整備するよう要請。また万能細胞とは別に、人の受精卵を使う研究全般について、小委員会で検討を始めることを決めた。

万能細胞研究の容認を報告

2000年3月6日 19時45分
 科学技術会議(首相の諮問機関)のヒト胚(はい)研究小委員会(岡田善雄委員長)は6日、どんな臓器にも成長できる能力を持つ「万能細胞」を人の受精卵からつくる研究を、研究機関と国の2重審査をクリアするなどの条件付きで容認する報告書をまとめた。

 上部組織の生命倫理委員会に近く提出するが、基本的に了承される見通しだ。

万能細胞を遺伝子操作、マウス誕生 米の日本人研究者ら

07:07a.m. JST February 20, 2000
 遺伝子を操作したクローンマウスを、どんな臓器や組織の細胞にもなる能力を秘め、「万能細胞」と形容される胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から誕生させる。こんな研究に、米国ロックフェラー大学の若山照彦助教授、ハワイ大学の柳町隆造教授らが世界で初めて成功した。ES細胞は遺伝子を改変しやすく、広く研究に使われる。今回の研究は、人の遺伝病のモデル動物など、遺伝子改変動物の効率的な生産に道を開く一方、病気の原因を人の発生段階で取り除く「究極の遺伝子治療」も理論的に可能なことを示した。

 ES細胞は、受精卵(胚)を胚盤胞という段階に育て、子どもになる部分を培養してつくる。

 若山助教授らは、核を除いたマウスの卵子を準備。これにマウスのES細胞から取り出した核を入れ、メスに移植。46匹のクローンマウスができた。1匹は、ある遺伝子を組み入れていたES細胞から生まれた。研究は、米科学アカデミー紀要と米科学誌ネイチャー・ジェネティクスに掲載された。

 マウスのES細胞は、特定の遺伝子の機能を失わせたマウスをつくる研究などに使われる。どんな症状が出るかを調べるのだ。

 このマウスをつくるには、ほかのマウスの遺伝情報も持つ親をつくり、子どもを産ませる必要があった。若山助教授らは、ES細胞を使うと、遺伝子を操作した子どもを直接生み出せることを示した。薬の原料を母乳中に分泌する乳牛の生産などにも役立つ。

 重い遺伝病がある夫婦が体外受精し、その胚からつくったES細胞で異常遺伝子を正常なものと交換、核を卵子に移植し、母体に戻すのも可能になり得る。

患者の細胞から血管作る

2000年2月15日 16時22分
 患者本人の細胞を増殖させ、心臓の手術に必要な血管をつくり出すことに、東京女子医大の今井康晴教授、新岡俊治講師らのグループが成功した。

 自分の細胞なので拒絶反応はなく、再手術も不要になるという。東京で開かれる日本心臓血管外科学会で18日発表するが、患者の負担を大幅に減らす技術として注目されそうだ。

骨髄細胞培養し失った骨再生へ 奈良医大が治療申請

11:16a.m. JST February 11, 2000
 患者の骨髄中の骨になる細胞を培養で増やし、セラミックと混ぜて体内に戻し骨を再生させる治療を、奈良県立医科大の大串始・講師(整形外科)らが、10日、同大倫理委員会に申請した。組織や臓器を人工的につくりだす「再生医工学」という分野がめざましい進歩を遂げており、その試みの1つとして注目される。

 骨のがんなどの手術後、欠損した骨の補てんには、セラミックなどでできた人工骨が使われるが、欠損部が大きい場合や大きい力がかかる部分では使えなかった。

 大串講師らは、骨髄には骨の細胞の「赤ちゃん」である幹細胞が含まれることに注目。人工骨を移植する手術のさいに、骨髄を取り、セラミックの人工骨にまぶして使ってきた。セラミックの多数の穴の中で増えた骨の細胞が、さまざまなたんぱく質を分泌して、本物の骨に近くなるのを期待したからだ。しかし、骨髄中の幹細胞は非常に少なく、効率が悪かった。

 そこで、骨髄の細胞を培養で増やし、骨の細胞に変化させてから使う方法を開発した。採取する骨髄がこれまでの10分の1程度で済み、骨ができる速度も約4倍になることを動物実験で確認した。この方法で、より本物に近い骨ができ、大きな欠損部でも使えると判断した。

 計画では、骨を削り取る手術をする患者から、手術前に数ミリリットルの骨髄液を採取し、3週間ほど培養する。それとセラミックの人工骨にまぜたものを欠損部に移植する、としている。また、細胞培養中のウイルス感染などの危険をさけるため、培養には患者自身の血液を使い、培養専用の部屋を用意する。

 大串講師は「高齢者の骨髄にも骨の幹細胞はあり、年齢に関係なく使える手法だ。これまでに人工骨が使えないところも可能で、応用は広い」と話している。

ヒトの神経幹細胞を分離

2000年2月8日 16時57分 共同通信社
 脳細胞のもとになる神経幹細胞をヒトの脳から分離する方法を、大阪大医学部バイオメディカル教育研究センターの岡野栄之教授らが米コーネル大と共同で世界で初めて開発、このほど米国の医学専門誌に発表した。

 事故による脳の損傷やパーキンソン病、痴ほう症などの神経難病の治療法開発につながる成果として注目されそうだ。

<ES細胞>ヒト胚での研究を容認 科学技術会議小委

毎日新聞社 1月10日(月)3時01分
 どんな臓器や組織にもなる能力を持ち、再生・移植治療に新局面を開くものとして注目されている胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究について、科学技術会議(首相の諮問機関)のヒト胚研究小委員会(岡田善雄委員長)は9日までに、研究の指針となるガイドラインの骨格をまとめた。使用する胚を限定し、二重の審査を義務付ける一方で、研究そのものは認めた。今月末にも中間報告の形で公表するが、ES細胞をめぐってはヒトの胚を使うため、生命倫理の観点から研究そのものを否定する意見もあり、今後論議を呼びそうだ。

 研究について、ヒト胚小委は、医療上の有用性が高いことを理由に、研究は進めるべきだとした。その上で、生命倫理上の問題を伴うため、歯止め策を提示することにした。

 まず、研究で使用するヒト胚は、受精後14日以上のものの利用を禁止し、ヒト胚の提供は無償であることを条件にした。そのうえで、不妊治療で使われなかった胚に限定して使用できることにした。

 また、研究を始める場合、まず所属する研究機関に設置される審査委員会(IRB)のチェックを受け、次に、国にも研究計画を報告し、二重の審査を可能にした。研究結果も国への報告書提出を義務付けた。研究機関の審査委員会は生物学や医学、生命倫理に詳しい有識者で構成するとしている。

 さらに、ES細胞をつくり出した機関は、国が認めた機関以外にES細胞を分配することを禁じた。また、ガイドラインは、研究の実施状況や社会動向をみて随時見直すこととし、そのまま3年が経過した場合は必ず見直すことを定め た。

 この骨格はヒト胚小委の了承を経て今月末に中間報告としてまとめられた後、2月末に科学技術会議に報告される予定だ。

【「いのちの時代に」取材版】

【ことば】ES細胞

Embryonic Stem Cellsの略語。受精卵が分化を始める前の段階の胚(胚盤胞)の内部細胞塊から取り出した細胞のことで、後に体のさまざまな部位になる。

 1981年に初めてマウスから取り出すことに成功(樹立)したが、98年11月、米・ウィスコンシン大のトムソン博士が科学誌「サイエンス」に、不妊治療の不使用胚からヒトのES細胞を樹立した、と発表した。ES細胞にさまざまな条件を与えて培養することで、特定の細胞や臓器までつくり出すことができるため、再生医学の柱になると期待されている。

ヒト組織バンクの設置にらみ製薬7社が倫理委設置

03:21a.m. JST January 10, 2000
 肝細胞や消化管などのヒト組織を使った研究に本格的に取り組もうと、国内の製薬会社が独自に倫理委員会を設置し始めた。厚生省の依頼を受けてヒューマンサイエンス振興財団(HS財団)が準備しているヒト組織バンク設立に備えたもので、すでに武田薬品工業や塩野義製薬など7社が設置した。ヒト組織は売買の対象になる恐れがあるなど多くの問題を含み、国がまとめた指針も研究機関に適正な態勢を求めていた。近い将来、個人の遺伝子タイプに応じた新薬開発が主流になると見られ、遺伝子分析用のヒト組織が多数必要になってくる状況を踏まえた。

 HS財団は年内にも、病院から手術で患者の病巣と共に摘出する必要があった臓器や組織の一部の提供を受け、研究機関に公平に分配するバンクをつくる。また、国立医薬品食品衛生研究所(東京都)を中心に20余りの製薬会社の協力を得て、製薬会社の自主ルールづくりの研究事業も始めた。今回の倫理委設置はその一環だ。

 研究事業の責任者でもある同研究所安全性生物試験研究センターの大野泰雄薬理部長によると、中外製薬、吉富製薬、ファイザー製薬、第一製薬、三共も昨秋までに倫理委を設置した。当面は海外から入手した肝細胞を使い、手続きの問題点を報告してもらい、それに基づいて倫理委のモデルをつくる。これと並行して、業界で倫理委設置の動きはさらに広がる見通しだ。

 製薬会社の倫理委は、同研究所の倫理委規定を参考にしているという。ある会社では、社員のボランティアで、新薬の人体への影響を調べるために血液や尿を提供してもらう場合や、バンクなど第3者機関から提供を受ける場合、国内の病院などから供給を受ける場合の3つを想定。提供者のプライバシー保護やインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)の適正さを確かめる。

人の臓器クローンの基礎技術開発に成功 中国

0:06p.m. JST January 06, 2000
 中国国営の新華社通信などによると、上海市遺伝子操作研究センターの成国祥博士らによる共同研究グループが、人の臓器移植に用いる臓器をクローン技術によって作り出すための基礎技術開発に成功した。実用化されれば臓器移植の難題である患者の拒絶反応やドナー不足を解決できるとして、新華社は「重大な突破だ」と伝えている。

 グループは、卵子になる前の卵母細胞から核を取り出し、これに病人の体細胞の核を移植。一定の処理を施して胚(はい)に発育させることに成功したという。今後、成博士らと共同研究を進める上海第2医科大学のグループが、このクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)と呼ばれる特殊な細胞を作り、体外で皮膚、軟骨、心臓、肝臓、腎臓などの組織や器官に生成させる実験に取り組む。最終的に成功すれば、できあがったクローン臓器を元の患者に移植するという計画で、3年から5年以内の成功を目指す。

 こうした治療目的のクローン技術は、医療分野だけでなく動物への応用も可能で、牧畜業や製薬などの分野での活用も期待できるという。中国では国家レベルの重点基礎研究プロジェクトとなっている。

 成博士は「治療目的クローン技術にとって重要な進展だが、臓器クローンの実用化にはまだ長い道のりを歩まなければならない」と語っている。

<細胞塊創生>試験管内でカエルの目と耳成功 東大など

1月3日(月)0時34分 毎日新聞社
 試験管内で器官・臓器を作る試みの中で、手付かずのまま残った最後の領域とされる目や耳など感覚器官の細胞塊の創生に、東京大学などの研究グループが世界で初めて成功した。これにより、体内のほぼすべての身体組織の細胞塊が試験管内で作れることが確認され、生命科学は新たな局面を迎えた。器官・臓器を作って移植するという新時代の医療を、より現実に近づける研究成果としても注目される。

 東京大学大学院総合文化研究科の浅島誠教授(発生生物学)と科学技術振興事業団の盛屋直美、有泉高史両研究員らのグループが共同で成功した。

 浅島教授らはアフリカツメガエルの胚(はい)から未分化細胞を取り出し、生理活性物質のコンカナバリンAとレチノイン酸の混合溶液に浸した。これを5日間培養したところ、分化によって目や耳の原基(組織の元になる細胞塊)ができた。レチノイン酸の濃度が薄い場合は目に、濃い場合は耳になり、逆に全く加えなかった場合は脳の一部や鼻になることが分かった。こうして出来た目の原基の断面を調べたところ、水晶体や網膜などの組織が確認できたという。

 浅島教授らは、細胞の分化を誘導する物質アクチビンを世界で初めて特定したことで知られる。これまでもアクチビンの濃度を変えて作用させたり、別の生理活性物質を組み合わせたりして、カエルの未分化細胞塊から心臓や腎臓(じんぞう)(原腎管)、肝臓、筋肉、いろいろなタイプの血球、脊索(せきさく)などを作り分けることに成功してきた。しかし、感覚器官は、発生の過程でも最終段階に形成される繊細な組織で、世界の研究者の取り組みにもかかわらず、試験管内で単独に作り出すことはできずにいた。

 今回は、神経への細胞分化を誘導するコンカナバリンAを用いたことが成功に結び付いた。コンカナバリンAは植物のナタマメに由来する物質で、生物の実験に使われることは少なかったというが、細胞の分化に大きな働きをすることが分かっていた。これで活性物質の組み合わせだけで、ほぼすべての臓器や組織を人工的に作り分けられることが実証された。将来はヒトへの応用に道を開く成果で、体外で作った臓器や組織を移植する新しい医療を射程にとらえたことになる。 【「いのちの時代に」取材班】

 【分化と誘導物質】 受精卵が分割して成長する過程で、同質だった細胞が特殊化し、血液や筋肉、内臓などの特定の構造や機能を持つ異なった器官になることを分化と呼ぶ。誘導物質は、高タンパク質の物質で、分化を促す能力をもつもの。アクチビンがその代表とされる。

 

移植用の組織培養めざす再生科学研究センター来春発足

0:09p.m. JST December 12, 1999
 臓器や組織移植のための細胞培養など新しい医療技術を開発する「発生・分化・再生科学総合研究センター」が、理化学研究所の研究機関として来春発足する。科学技術会議(議長・小渕恵三首相)の政策委員会がことし7月に生命科学推進の研究拠点づくりを提言しており、その具体策の一つ。約280人の研究者を集め、世界トップレベルの組織をめざす。

 当面は民間施設を借りて研究所とし、将来的には拠点となる建物を建設する。9日に成立した第2次補正予算で関連費用として31億円が認められた。科学技術庁によると、建物の候補地として神戸市が有力になっている。

 同センターの研究対象は、他人からの臓器提供に頼らない、培養組織などによる移植や再生医療。まずは5年以内に、患者から取り出した細胞を試験管内で増やし、細胞移植などによって患部を治療する技術を開発する。また、肝臓や骨の一部がうまく働かなくなったときに、自己再生を促す手段を開発する。

研究者は任期制にし、臨床応用や関連特許の取得、ベンチャー企業による産業化までをにらんだ研究開発体制にする。

人の万能細胞研究、容認へ

1999年11月30日 17時35分 共同通信社
 首相の諮問機関である科学技術会議の「ヒト胚(はい)研究小委員会」が30日、科学技術庁で開かれ、どんな細胞にも分化できる「胚性幹細胞」を人の受精卵からつくる研究を、厳しい条件下に容認してよい―とする意見が大勢を占めた。

 審査制度など、具体的な条件については今後検討を進める。

成人肝細胞の増殖に成功

1999年9月16日 17時12分 共同通信社
 広島市立舟入病院の日野裕史医師らの研究グループは16日、人間の肝臓の細胞を体外で増殖させることに成功した、と茨城県つくば市で開かれている日本移植学会で発表した。人間の肝細胞の増殖は、これまで胎児の細胞やがん遺伝子を利用する方法があったが、成人の正常な肝細胞を使ったケースは世界でも例がなく、肝硬変の治療や肝不全患者に対する人工臓器の開発につながる成果と注目される。

実験せず試作の軟こう薬の患者投与依頼 日本臓器

03:15a.m. JST September 04, 1999
 HIV(エイズウイルス)訴訟の被告企業の一つ、日本臓器製薬(本社・大阪市、小西甚右衛門社長)が今年春、試作段階で動物実験などを実施していない軟こう薬を複数の開業医に持ち込み、患者への投与を依頼していたことがわかった。薬事法に基づく臨床試験(治験)の場合は、事前に動物実験などのデータを添えて厚生省に届け出るとともに、医療機関と契約を結んで実施することになっている。今回の事例は、法律で基準が定められた治験を依頼した行為とは言えないが、患者の人権保護の観点から問題があるため、厚生省は依頼目的などについて調べることにしている。

 この薬は、同社がすでに販売している「ノイロトロピン」(製品名)と同じ有効成分を含む軟こう。ノイロトロピンは、皮膚疾患に伴うかゆみやアレルギー性鼻炎用に注射薬が、腰痛や関節症の薬として錠剤がそれぞれ販売されている。

 同社の依頼を受けた新潟県内の皮膚科医によると、営業担当の役員が約10本のチューブに入った薬を持参し、「アトピー性皮膚炎の患者に使って印象だけ聞かせてほしい」と頼まれた。

 この医師は「あまりに大ざっぱな頼み方で変だと思った」といい、患者には使わなかった。

 また、長崎県内の皮膚科医のところにも同じ役員が依頼に訪れた。この医師は「本格的な治験に進むべきかどうかの判断のために依頼してきたと思う。10年、20年前なら、こうした頼み方もあったが、(薬事法の規制が強化された)現在では問題のあるやり方だと思った」と話す。この医師も患者には投与しなかったという。

 薬事法では、既存の薬と有効成分が同じでも、注射薬を経口薬や塗り薬にするなど、投与経路を変更した薬は新薬扱いとなる。

 日本臓器は「5月ごろ、3つの医療機関に薬を持参し、塗り具合や変色の具合について意見を聞かせてほしいと頼んだ。患者への投与は依頼していない」としている。
 しかし、新潟県内の皮膚科医は「8月末になって、私のほうから軟こうを作って回してくれと頼んだ形にしてほしい、と言ってきた。自分たちの行為を取り繕う意図を感じたので、断った」と話している。

人工臓器開発へ、通産省が本腰

03:05a.m. JST August 12, 1999
 埋め込み型の人工臓器や人工骨の開発に通産省が来年度から本格的に乗り出す。高齢化社会に対応するため2005年までに技術を確立し、早期の実用化を目指す。難病対策には臓器移植も始まっているが、件数は極めて少なく「移植待ちの人にも人工臓器が必要」と判断した。小渕恵三首相が提唱する「ミレニアム(千年紀)プロジェクト」の一環で、厚生省と共同で進める予定だ。

 開発の対象は心臓、すい臓の2臓器と骨。概算要求の「情報通信、科学技術、環境等経済新生特別枠」の中で約10億円を求める。人工臓器の分野で最先端を行く米国ではベンチャー企業が技術開発に大きく貢献しており、国内の中小企業育成にも力を入れる。

 本体を体の外に出す形の人工心臓は実用化されているが、今後は「体内に埋め込み、日常生活が可能な製品」の開発に取り組む。

 人工すい臓は糖尿病対策が狙い。すい臓はインシュリンを出して血糖を調整する役割があるが、血糖濃度を常時、自動測定し、必要に応じた量を出す機器になる。完成すれば、通院や自分で注射を打つというわずらわしさがなくなる。

 心臓とすい臓を選んだのは「他の器官に比べて機能が単純で、実用化の可能性が高い」(通産省の担当者)からという。

 高齢者の骨折や骨粗しょう症対策のため人工骨も研究する。現在の製品は耐用年数が5年ほどで再手術の必要がある。これを半永久的に使える製品にする。

埋め込み型人工心臓の子牛、生存記録を更新

7:59p.m. JST August 04, 1999
 自動車部品のアイシン精機(本社・愛知県刈谷市)は4日、開発中の体内埋め込み型人工心臓の動物実験で、人工心臓を付けた子牛の生存期間が50日間を達成した、と発表した。同様の実験では、東京大学がヤギで達成した31日間が最長だった。

 アイシングループのアイシン・コスモス研究所と国立循環器病センター(大阪府吹田市)とが、95年から共同開発を始めた。人工心臓は小型の油圧ポンプで血液を送り出す方式で、自動車用エンジンの制御技術を応用している。

 子牛は6月15日に人工心臓を埋め込まれ、順調に生育しているという。今後の課題は、「人体に負担がかからないように機械をより小さく軽くすること」(同研究所)で、計画では2005年をめどに臨床試験を始める予定だ。

ヒト組織加工の医療材料で初の臨床試験へ

03:14a.m. JST July 25, 1999
 ヒトの細胞や組織をもとに加工、生産した医療材料の臨床試験(治験)が国内で初めて行われることになった。英国企業が、傷の治療用に開発した培養皮膚の治験計画届を提出、厚生省がこのほど受理した。治験をへて販売が承認されれば、人体の一部を加工した医療材料としては、国内第一号の商品となる。「人体の商品化」に対しては、安全性の確保や、原材料の入手にまつわる倫理上の問題が指摘されているが、国内では、審査の基準などが整備されておらず、厚生省は今年度中に、安全性や品質管理の基準を定めた指針を作ることを決めた。

 治験をするのは、英国に本社を置く医療用具会社。皮膚の傷やかいようの治療用に開発、生産した培養皮膚の国内販売の準備を進めている。人体の一部から採取した細胞を培養して、シート状にしてあり、傷などに張り付けて使う。

 厚生省は昨秋、同社から治験計画届の提出を受けたが、人体の一部を原料とする医療材料の審査実績がないため、中央薬事審議会のバイオテクノロジー特別部会で例外的に事前審査を実施。提出されたデータによれば、安全性や品質管理に問題はないとして、今年6月末、治験に入ることを了承した。

 同社は年内に大学病院などに委託して、治験に入る。患者への治療を通して、安全性や有効性が確認できれば、厚生省に販売承認を申請する。同社の培養皮膚は欧州各国ですでに製造承認され、販売されている。米国でも去年から試験販売が始まっている。

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