TOPIC No.5-16 糖尿病(2008年 - )

01.ドクター江部の糖尿病徒然日記 糖尿病の新しい食事療法『糖質制限食』
02.小樽フィシャ-マンッズキッチン 糖質制限食
03.糖質制限.com 高雄病院、江部康二先生監修による糖質オフな食材を販売
04.糖尿夫の糖質制限食の記録
05.糖尿病関連の新聞記事
05.糖尿病パンフレット
06.糖尿病セミナー by糖尿病ネット
07.健康岡山21 糖尿病フォーラム byNPO岡山生活習慣病啓発機構
08.食事で美味しく生活習慣病予防 byTsujii Academy Healthy Recipe
09.病気の症状を和らげる食事 (料理のABC) by All About Japan
10.糖尿病の患者数と医療費の推移 DM-NET<2000年8月12日号>
11.こだわり糖尿病リンク集 by Kanematsu Corporation
12.ビジネスパーソンと生活習慣病 by NIKKEI NeT
13.糖尿病 byフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
14. グリコアルブミン検査の重要性 by糖尿病ネットワ−ク
15.TOPIC No.5-16-1 糖尿病(1999年 -2007年)

目標数値

1. ヘモグロビンA1c [HbA1c](過去1、2か月間の平均血糖値を示した物。血糖コントロール状態の指標となる数値)6.1未満が目標。

 日本糖尿病学会での基準は、5.8%未満で優。5.8 - 6.5未満が良。6.5 - 7.0未満が可だが不十分。7.0 - 8.0未満が可の不良。8.0以上が不可。

HbA1c≧6.1%(JDS値) [HbA1c(国際基準値) ≧6.5%]

2. 血圧は130/80 mmHg未満(尿蛋白が1g/日以上の場合125/75 mmHg未満)を目標。

3. LDLコレステロールは120 mg/dL未満(狭心症・心筋梗塞の既往がある場合100 mg/dL未満)


主食をやめると健康になる 糖質制限食で体質が変わる!

2011年11月10日 (財)高雄病院理事長 江部康二 by DIAMOND online

江部康二 医師、高雄病院理事長。1950年生まれ。京都大学医学部卒業。高雄病院での臨床活動の中から、肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病克服などに画期的な効果がある「糖質制限食」の体系を確立。ブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」を発信中。

【第1回】ご飯・パンの糖質が現代病の元凶だった!

2011年11月10日

 私たちが毎日当たり前のように食べている米飯やパン。実はこれらの「主食」を控えれば、肥満や糖尿病などさまざまな生活習慣病が予防・改善できます。江部康二医師が理事長をつとめる京都・高雄病院における10年以上の経験をもとに、画期的な食事療法「糖質制限食」の効果と実践法を3回にわたってご紹介します。

 ふだんの食生活を変えることが
 健康を手に入れる一番の近道

  私たちの食生活は、体に相応しいものなのでしょうか?

 実は、現代人が毎日摂っている食べ物は、人類本来の食生活とはかけ離れたものになっています。そして、その事実こそが、さまざまな生活習慣病がこれだけ増えたことの根本要因なのです。いまの食生活を、人類本来の食生活である糖質制限食に変えることで、私たちは簡単に健康を手に入れることができるのです。

 糖尿病など生活習慣病の患者さんが外来診療に来られると、私はまず食事療法(糖質制限食)だけで症状の改善を目指します。それだけではうまくいかないときに、初めて薬の内服を考えます。日本人は薬好きで有名な民族ですが、多くの生活習慣病が薬なしの糖質制限食のみで改善します。実は、栄養士や医師が推奨するカロリー制限食(糖質60%、脂質20%、タンパク質20%)は、人類本来の食生活からみると最悪のバランスなのです。

 それでは、高雄病院で推奨している「人類にとって最高のバランスの糖質制限食」とは、いったいどのような食事療法なのでしょうか?

病気・症状を改善する「糖質制限食」は
どんな食事療法なのか?

 現在、糖尿病専門医の間では、食後高血糖が大きな問題として注目されています。従来は空腹時血糖をコントロールしてきたのですが、それだけでは不充分で、食後血糖をできるだけ低くおさえることが大切だというのです。その理由は、食後高血糖が心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を引き起こす危険因子として確立されたからです。

 ところが、日本で常識とされている糖尿病の食事療法は、こうした実態に応えられるものになっていません。カロリー制限を重視した炭水化物(糖質)中心の糖尿病食というのは、血糖値をおさえるどころか、むしろ上昇させてしまうからです。

 米国糖尿病協会(ADA)によれば、食べ物が消化・吸収されたあと、脂質とタンパク質は血糖に変わりませんが、糖質は100%血糖に変わります。また糖質は、摂取直後から血糖値を急上昇させて、2時間以内にほとんどすべてが体内に吸収されてしまいます。これらは食べ物に含まれるカロリーとは無関係の生理学的な特質です。

[糖質制限食の基本的な考え方]

 このように、糖質・脂質・タンパク質の3大栄養素のうち、血糖値を上げるのは糖質だけなのです。

 糖質を摂ると、血液中のブドウ糖(血糖)をエネルギーに変えようとして、インスリンが大量に追加分泌されます。インスリンは生きていくのに欠かせない大切なものですが、別名「肥満ホルモン」とも呼ばれるように、多く出すぎると体に悪い影響を与えてしまいます。

 そして実は、正常な人においても、この糖質の摂取がもたらす食後血糖上昇とインスリン大量追加分泌のくり返しが、糖尿病・肥満・メタボ、さらにはさまざまな生活習慣病の根本要因になっている可能性が高いのです。

 糖質制限食の基本的な考え方は、このような生理学的な特質をもとに、できるだけ糖質の摂取をおさえて、食後血糖上昇とインスリンの過剰分泌を防ぐというものです。

 簡単にいえば、主食を抜いておかずばかり食べるというイメージになります。抜く必要がある主食とは、米飯・パン・めん類などの米・麦製品や、ジャガイモ・サツマイモ・里イモなどのイモ類など、糖質が主成分のものです。もちろん糖質制限ですから、甘いお菓子やジュースもNGです。

 それさえ注意すれば、肉や魚はお腹いっぱい食べられます。焼酎やウイスキーなどの蒸留酒なら、お酒を飲んでも構いません。

 具体的な実践法については次回以降で説明しますが、ここでは3つのやり方があることを覚えておいてください。

 1つめは「スーパー糖質制限食」で、朝・昼・夕とも主食なしです。2つめは「スタンダード糖質制限食」で、1日3食のうち1回の食事だけは主食を摂り、残りの2回については主食を抜きます。3つめの「プチ糖質制限食」は、夕食だけ糖質の多い食品を避けます。一番のお勧めは効果抜群の「スーパー糖質制限食」ですが、病気や症状によって使い分けるのが望ましいです。

現代人の体は「主食」の摂りすぎに

適応できていない

 現代ではご飯やパンなどの穀物が主食となっており、それを誰もが当たり前と思っています。しかし、これもまた当たり前なのですが、農耕が始まる前の人類の主食は決して穀物ではありませんでした。

 英国の栄養学の本に『ヒューマン・ニュートリション』という名著があります。日本語に訳すと「人間栄養学」という意味で、発行以来10版を重ねています。この本の日本語版75ページに次のような記述があります。

「現代の食事では、……デンプンや遊離糖に由来する『利用されやすいブドウ糖』を大量に摂取するようになっている。このような食事内容は血糖およびインスリン値の定期的な上昇をもたらし、糖尿病、冠状動脈疾患、がん、老化等、多くの点で健康に有害であることが強く指摘されている。農業の発明以来、ヒトは穀物をベースとした食物を摂取するようになったが、進化に要する時間の尺度は長く、ヒトの消化管はまだ穀物ベースの食物に適応していない。ましてや高度に加工された現代の食物に対して、到底適応しきれてないのである」

 人類の本来の主食は穀物ではないし、まだまだ穀物ベースの食物に適応できていないと明記されています。私もまったく同感です。『ヒューマン・ニュートリション』では、穀物の過剰摂取の害、とくに精製炭水化物による「血糖およびインスリン値の定期的な上昇」が多くの点で健康に有害と強調しています。これは私が日頃から主張している「精製炭水化物の摂りすぎによる食後血糖上昇とインスリンの過剰分泌が生活習慣病の元凶になっている」という説と、まったく同じと言っていいと思います。

[健康のカギを握るインスリンの役割とは?]

現代人の健康を左右する
インスリンの役割とは?

 それでは、なぜ食後血糖上昇とインスリンの過剰分泌がさまざまな病気や症状を引き起こすのでしょうか? それを説明するために、まずはインスリンの役割について簡単に触れておきます。

 糖尿人はよくご存じでしょうが、インスリンはすい臓のランゲルハンス島という部分にあるβ細胞でつくられている物質で、血液中のブドウ糖の量(血糖値)を調整するのが主な役割です。体内で唯一、血糖値を下げる働きをしています。インスリンには24時間継続して少量出続けている「基礎分泌」と、糖質を摂って一時的に血糖値が上がったときに出る「追加分泌」の2種類があります。

 これでわかるのは、何も食べていないときでも、人体には少量のインスリンが必要ということです。このインスリンの基礎分泌がなくなると、人体のほとんどの組織ではエネルギー代謝がまともに行えなくなってしまいます。

 そして、食事などで糖質を摂ると、血液中のブドウ糖の量が増えるので、インスリンも増やさなければなりません。そのためにインスリンを余計に分泌することを追加分泌と呼びます。

 追加分泌されたインスリンは、血液中のブドウ糖を骨格筋や心筋などの細胞内に取り込み、エネルギー源として使えるようにします。またインスリンは、血液中の余分なブドウ糖を体脂肪に変える働きもしています。一方でブドウ糖を燃やし、他方でブドウ糖を体脂肪に変えることで、インスリンは血液中のブドウ糖の量を減らすのです。

 このようにインスリンは、生きていくために欠かせないホルモンで、その分泌を担っているのがすい臓のβ細胞なのです。糖尿病というのは、このインスリンの作用不足によって血糖値が高くなる病気です。

生活習慣病の元凶!
「ブドウ糖ミニスパイク」とは?

 さて、空腹時血糖と食後血糖の差が大きいことを「ブドウ糖スパイク」と言います。世界中の糖尿病専門医の間で定着している言葉ですが、この差が大きいほど体内の血管内皮はリアルタイムで傷つけられ、将来の動脈硬化や心筋梗塞のリスクとなります。

[白米を食べると「ブドウ糖ミニスパイク」が起こる]

【図1】は、2型糖尿病女性の血糖値を示したものです。早朝の空腹時血糖値は88r/dlですが、通常の糖尿病食で食パン2枚を食べた2時間後には321に跳ね上がっており、233も上昇しています。

 血糖値の正常値は、空腹時で110未満、食後2時間で140未満なので、この女性の食後血糖値が急激に上昇していることがわかります。このような人は、普通の健康診断では空腹時血糖値だけを検査して正常と見なされてしまいますから、注意が必要です。一方、糖質制限食ならまったくスパイクなしです。

通常の糖尿病食では、早朝の空腹時血糖値88mgから朝食後2時間で321mgへと急上昇している。一方、糖質制限食ではほとんど上昇はみられない。

 また、正常人でも、白米や白いパンなど精製された炭水化物を1人前食べると、食後血糖値は60?70も上昇することがあります。私はこれを「ブドウ糖ミニスパイク」と名づけました。糖尿病患者におけるブドウ糖スパイクほど大きな変動はないものの、人体に少なからず害を与えている可能性が高いからです。むしろ私は、このミニスパイクこそが、肥満やメタボ、そして生活習慣病の元凶と考えています。

 例えば、正常人が精製炭水化物を食べた場合と、未精製の炭水化物を食べた場合を比べると、血糖値の上がり方は明らかに違います。また、脂質・タンパク質を摂っても血糖値は上がりません。

【図2】は、正常人の女子大生が白米1人前を食べたときの血糖値と、焼き肉1人前を食べたときの血糖値を比べたものです。白米のときは、空腹時100rから食後1時間で165まで上昇してミニスパイクを起こしていますが、焼き肉のときはまったくスパイクなしです。

白米では空腹時100mgから食後1時間で165mgまで血糖値が急上昇してミニスパイクが起きているが、焼き肉ではまったく起きていない。

 ここで重要なのは、1日に何回も糖質を摂ると、そのたびにミニスパイクが起きるということです。そして、ミニスパイクのたびにインスリンが大量に追加分泌されて、代謝が乱れます。基礎分泌の数倍から30倍ものインスリンが追加分泌されますから、人体にとっては救急車の出動に等しい緊急事態といえるでしょう。血糖値が180を超えるとリアルタイムで血管内皮が傷つけられるので、すい臓のβ細胞はこの緊急事態を何とかおさめようと一生懸命にインスリンを分泌するわけです。

[糖質制限食なら血糖値の変動を防げる]

 現代人は離乳後、1日3?5回も精製炭水化物を摂り、体内でブドウ糖ミニスパイクを起こしています。そのたびに代謝は乱れ、自然治癒力は浪費され、すい臓のβ細胞は疲れていきます。こうしたミニスパイクとインスリン追加分泌の積み重ねが人体をかく乱して、アレルギー性疾患や生活習慣病の根本要因となっています。

 このようなことを40?50年もくり返せば、β細胞は疲れきってインスリンの分泌能力が低下し、糖尿病にもなります。近年のジャンクフードの増加は、こうした状況にさらに拍車をかけています。

 精製されていない玄米などなら、1人前食べても正常人だと40くらいまでしか血糖値を上げず、ミニスパイクが生じないので代謝が安定します。しかし、残念ながら糖尿病になってしまったら、玄米でも150以上のスパイクを起こしてしまうので、糖質制限食が必要となるのです。糖質制限食なら、血糖値の上下動は正常人ではほとんどなくなり、糖尿人でも大幅に少なくなります。

【第2回】ご飯・パンを抜くのが人類本来の食事法

2011年11月17日

私たちが毎日食べている米飯やパン。これらの「主食」を控えれば、肥満や糖尿病などさまざまな生活習慣病が予防・改善できます。江部康二医師が理事長をつとめる京都・高雄病院での10年以上の経験をもとに、糖質制限食の効果をご紹介します。この第2回では、「変わった食事」と思われがちな糖質制限食が、じつは「人類の健康食」であることをご説明します。

食前・食後血糖値の変化からみる
人類の食生活

 約700万年間の人類の歴史のうち、穀物を主食としたのは、農耕が始まってからの約1万年間にすぎません。それまではすべての人類が糖質制限食を実践していました。これは私たちの食生活を考えるうえで非常に大事なことなので、少し掘り下げて考えてみましょう。

 人類の食生活は「農耕が始まる前」「農耕以後」「精製炭水化物以後」の3つに分けることができます。この3つの変化がきわめて重要な意味を持っているので、それ以外のことはすべて枝葉末節と言い切ってもよいくらいです。その重要な意味というのは、血糖値の変化です。

 血糖値を切り口にして人類の食生活を考えてみると、鮮明な変化が見えてきます。

 人類の歴史のうち農耕が始まる前の約700万年間は、食生活の中心は狩猟や採集でした。米や小麦などの穀物は手に入らなかったので、誰もが糖質制限食を実践していたといえます。

 このような糖質の少ない食生活なら、血糖値の上下動はほとんどありません。例えば、空腹時血糖値が100mg/dl(ミリグラム・パー・デシリットル)程度とすると、食後血糖値はせいぜい110〜120くらいで、上昇の幅は10〜20程度の少なさです。これならインスリンの追加分泌はほとんど必要ありません。

 次に、農耕が始まったのが約1万年前です。人類は狩猟民から農耕民になったとき、単位面積あたりで養える人口が50〜60倍にも増えました。しかし、収穫した穀物を食べると血糖値が急上昇します。

 空腹時血糖値が100mgとして、食後血糖値は140くらいで、上昇の幅は40もあります。穀物を食べるたびに血糖値が上昇してインスリンが大量に追加分泌されますから、農耕以後の1万年間は、すい臓のβ細胞はそれ以前に比べて毎日10倍以上も働き続けなくてはならなくなったのです。

[農耕前の人類は何を食べていたか]

 さらに、18世紀に欧米で小麦の精製技術が発明されます。白いパンの登場です。日本では江戸中期に白米を食べる習慣が定着していきます。すなわち、ここ200〜300年間、世界で精製された炭水化物が摂取されるようになりました。

 現代では、少なくとも文明国の主食は白いパンか白米です。精製炭水化物は未精製のものに比べて、さらに血糖値を上昇させます。空腹時血糖値が100mgとして、食後血糖値は160〜170くらいで、上昇の幅は60〜70もあります。

 こうなると、インスリンはさらに大量に追加分泌されます。頻回・大量分泌が長期におよび、すい臓のβ細胞が疲れきってしまえば糖尿病にもなります。インスリンの分泌能力が高い人は、さらに出し続けて肥満になります。

 健康を維持するには、恒常性を保つことが重要です。人類の食前・食後血糖値の恒常性は約700万年間保たれていましたが、農耕開始後の約1万年間は上昇幅が2倍になり、精製炭水化物を摂るようになった約200年間は3倍になり、インスリンを大量に分泌せざるをえなくなりました。

農耕が始まる前の人類は
何を食べていたのか?

 それでは、農耕が始まる前の人類はいったい何を食べていたのでしょう?

 約700万年間、人類は狩猟・採集を生業としており、日常的な食料は、魚貝類、小動物や動物の肉・内臓・骨髄、野草、野菜、キノコ、海藻、昆虫などです。ときどき食べることができたのは、木の実、果物、球根(山イモなど)でしょうか。

 すなわち、高脂質・高タンパク・低糖質食です。糖質制限食における3大栄養素の割合は「脂質56%、タンパク質32%、糖質12%」ですから、これが「人類本来の食生活」に近い比率だと思います。

 この700万年間は穀物がなく、日常的に摂取する糖質のほとんどが野草や野菜分の糖質です。古くから野草や野菜は日常的に食べていたと思います。

 このことは、人類がビタミンCを体内で合成できないことからも推察できます。動物性食品だけでは、ビタミンCが必ず不足してしまうからです。野草にもビタミンCが豊富なものがたくさんあります。

[人類の遺伝子は穀物に対応できていない]

 ちなみに、現在、糖質制限食で野菜を摂ることは、ビタミンCを確保するためにも重要な意味を持っています。皆さんも適量の野菜(最低ビタミンC必要量)は必ず食べるようにしてください。ただし大量の野菜は糖質量が増えるので要注意です。

 次に果物やナッツ類は、秋を中心に季節ごとに少量は手に入るので、当然食べていたと思います。もっとも、当時の果物やナッツは野生種ですから、現在食べているものに比べたら、はるかに小さくて糖質含有量も少なかったと思います。

 そして、ジャガイモやサツマイモを人類が食べはじめたのは、農耕開始と同じ頃か、それ以降です。山イモなどの球根は、さまざまな種類が山のなかに自生していたと思われるので、たまに運よく採集できたら食べていたと思います。

私たち人類の遺伝子は
穀物に対応できていない

 人類がチンパンジーと分かれて700万年です。その後、アウストラロピテクス属、パラントロプス属、ヒト属などの7属23種の人類が栄枯盛衰をくり返し、結局、約20万年前に東アフリカで誕生したホモ・サピエンス(現世人類)だけが現存しているわけです。

 ここで大切なことは、7属23種の人類はすべて狩猟・採集が生業だったということです。つまり、農耕が始まる前の約700万年間は、人類皆糖質制限食であり、ヒトは進化に要した時間の大部分で狩猟・採集生活をしていたということです。

 したがって、現世人類の行動や生理・代謝を決める遺伝子セット(DNA)は、狩猟・採集の生活条件に適応するようにプログラムされていると考えるのが自然です。

 大ざっぱですが、人類の歴史700万年のうち、農耕が始まって1万年なので、穀物を主食にしている期間はわずか700分の1となります。残りの期間は、人類の食生活は糖質制限食でした。

[糖質制限食こそが本来の食事]

 くり返しますが、人類の進化の過程では「狩猟・採集期間:農耕期間=700:1」で、狩猟・採集期間のほうが圧倒的に長いのです。

 このように人体の生理・栄養・代謝システムにおいては、糖質制限食こそが本来の食事であり、穀物に60%も依存するような食事を摂るようになったのは、ごく短期間にすぎないのです。

 本来、人間は、穀物に依存するような遺伝的システムは持っていないということです。しかし、人口の増加を支えるため、やむをえず穀物が主食になっていったものと考えられるのです。

 糖質制限食の基本スタンスは、長い歴史のなかで人類が日常的に摂取していたものを食べるということです。

 糖質制限食でも、「適量の野菜、少量のナッツ類、少量の果物」程度の少なめの糖質量は、大昔からときどき摂取していたもので、人体の消化吸収・栄養代謝システムにおいても許容できる範囲だと思います。

 山イモはさすがに糖質含有量が多いので、正常人はともかく糖尿人はやめておくほうが無難です。正常人が、健康のためにスーパー糖質制限食を実践する場合は、糖尿人より多めの野菜、適量のナッツ類、適量の果物、適量の山イモなど球根、くらいまでの糖質量は許容範囲だと思います。

【最終回】病気にならない体をつくる糖質制限食の実践法

2011年11月24日

前回までに、ご飯やパンなど糖質の多い食生活が肥満・糖尿病、そしてさまざまな生活習慣病の根本要因になっていることをご説明しました。では、どうすれば「普段の食生活」を「糖質オフの食生活」に変えられるのでしょうか。京都の名医・江部康二先生が確立した「糖質制限食」の実践法をご紹介します。

肉や魚をお腹いっぱい食べられるのが
糖質制限食の特長

 糖質制限食の原則は、血糖値を上げる糖質をできるだけ控えて、食後高血糖を防ぐというものです。簡単にいえば、主食を抜いておかずばかり食べるということです。

 抜く必要がある主食とは、米飯・めん類・パンなどの米・麦製品、ジャガイモ・サツマイモ・里イモなどのイモ類など、糖質が主成分のものです。もちろん糖質制限ですから、甘いお菓子・ケーキ・ジュース、それに煎餅・おかきなどもNGです。

 一方、糖質さえ制限すれば脂質やタンパク質はしっかり摂っていいので、肉や魚はお腹いっぱい食べられます。焼酎・ウイスキー・ブランデーなどの蒸留酒、辛口ワイン、糖質ゼロの発泡酒なら、お酒を飲んでもOKです。

 カロリー制限食でお腹を空かして難行苦行に耐えることに比べれば、とてもラクに実践できます。

 私は常々「清く正しくより、おいしく楽しく」というキャッチフレーズで、患者さんや友人に糖質制限食のことを説明しています。

 糖質制限食は人類の健康食なので、太った人は減量できて、やせすぎた人は適正体重に戻ります。8〜9割の人は、普通にお腹いっぱい食べて、カロリー計算はいりません。

やせにくい人、大食の人も
こう対処すれば大丈夫!

 ほとんどの人はカロリー制限なしで減量に成功するのですが、「糖質制限食を実践してもなかなかやせない」という人がたしかに数パーセントおられます。

 世の中には、やせやすい人とやせにくい人がいるというのは間違いないようですが、その大きな要因として基礎代謝があります。基礎代謝というのは、何もせずにじっとしていても最低限必要になるエネルギーのことです。

 吉田俊秀先生(京都府立医科大学臨床教授・肥満外来)によれば、日本女性の平均基礎代謝量は1日約1200キロカロリーですが、個別に見ると600〜 2400キロカロリーと、かなりのバラツキがあるそうです。

[糖質制限食に面倒な計算はいらない]

 基礎代謝が800キロカロリーしかなければ、1日の食事を1200キロカロリーの低カロリーにおさえても、なかなかやせないことは理解できますよね。

 基礎代謝が低い人には「倹約遺伝子」の持ち主が多いようです。米国のピマインディアンから基礎代謝を低くする遺伝子が見つかっており、それが「倹約遺伝子」と呼ばれています。

 食糧事情がきびしかった時代には、基礎代謝が低いほうが少ないカロリーで生きられるので、効率的だったわけです。ところが、飽食の時代になるとその体質がマイナスに働き、ピマインディアンの間では肥満の増加が深刻な問題になっています。

 こうした倹約遺伝子の持ち主の場合、女性で1日1200キロカロリーの糖質制限食でもやせにくいことがあり、「糖質制限食+カロリー制限食(1000キロカロリー)」が必要となります。

 日本人にはこの倹約遺伝子の持ち主が数パーセントおられると思います。女性なら1日1000〜1200キロカロリー、男性なら1400〜1600キロカロリーが1つの目安です。

 さらに、数パーセントほど大食タイプの人がおられます。無糖ヨーグルト500g入りを1日2〜3個食べても平気とか、ステーキ400gなんて楽勝とか、タマネギ中玉(200g)2個くらいなら炒めたら簡単とか……。

 こういう大食漢の方々には、カロリー制限までしなくても、普通のカロリーを心がけることが大切です。女性なら1日1200〜1600キロカロリー、男性なら1600〜2000キロカロリーが1つの目安と説明しています。

面倒な計算がいらないのも
糖質制限食の特長

 糖質制限食に面倒な計算はいりません。糖尿人の場合は、食後高血糖を防ぐために1回の食事の糖質量を20g以下におさえる必要がありますが、それ以外の方々はいちいち糖質量を計算しなくてよいのです。

 一番大切なのは、糖質が多い食品をあらかじめ把握しておき、そうした食品を避けるようにすることです。

 米飯やパンなどの主食系は糖質が多いとすぐにわかりますが、野菜でもカボチャやニンジンなど糖質の多いものがあるので要注意です。海藻類では、昆布だけは100g中に30gくらいの糖質が含まれているのでNGです。しかし昆布だしは大丈夫です。

 牛乳は100ccあたり5gの糖質で、厚生労働省の低糖質食品に相当するのですが、ガブガブと200〜300ccくらい平気で飲む人がいるので要注意です。料理に牛乳を100cc使用して4人家族で一緒に食べたり、コーヒーに牛乳を10cc入れたりくらいなら、問題ありません。

[果物はどれくらい食べて大丈夫?]

 次に、果物の糖質含有量を整理してみました。表の数値は、果物可食部100g当たりの糖質含有量です。果物に含まれている糖質は果糖・ショ糖・ブドウ糖・糖アルコールなどです。

 例えば、リンゴ1個(約240g)は約150キロカロリーで、ビタミンC含有量は8mg、遊離糖含有量は35.6g(果糖18g、ブドウ糖6g、ショ糖9.6g、ソルビトール2g)、水溶性食物繊維含有量は0.95g、不溶性食物繊維含有量は2.95gです。

 もちろん、果物の種類によって果糖・ブドウ糖・ショ糖・糖アルコールの比率は異なりますが、このうち果糖は10%くらいしかブドウ糖に変わらないので、ほとんど血糖値を上昇させません。

 そのため、果物の糖質のうち半分が果糖と仮定すれば、穀物の糖質に比べると血糖値は上がりにくいといえます。穀物のでんぷん1gが血糖値を3mg上昇させるとすれば、果物の糖質1gは約半分の1.5mg上昇させると考えられます。

 細かいことをいえば、ソルビトール(糖アルコール)はブドウ糖の半分くらい血糖値を上げますし、ショ糖は「ブドウ糖+果糖」です。けれども大ざっぱにはこの計算でよいでしょう。

 厚生労働省の低糖質食の定義が「100g中糖質5g以下」です。そうすると100g中の糖質が10g以下の果物は、血糖値の上昇に関しては100g食べてもおおむね大丈夫と思います。果物の糖質量が1回に10g程度なら、血糖値の上昇は約15mgですむ計算です。

 100g中の糖質が13gや14gのリンゴやさくらんぼも、食べるとき糖質の計算だけしておけば、どのくらい血糖値が上がるのか予測できますから、それを承知の上で適宜食べればいいと思います。

 なお、バナナには糖質に加えてでんぷんも多く含まれているので、とくに糖質含有量が多いです。でんぷん分は、他の果物より血糖値を上昇させます。

 その他の食品については、『主食をやめると健康になる』の巻末に掲載した「食べてよい食品と避けるべき食品リスト」をご参照ください。

[糖質制限食には3つのやり方がある]

病気や症状に合わせて
3つのやり方を使い分ける

 糖質制限食には3つのやり方があります。

 1つめは「スーパー糖質制限食」で、朝・昼・夕とも主食なしです。1日を通して糖質を控えるので、血糖値は上がらず、インスリンの追加分泌はほとんど出ません。そのためダイエット効果や生活習慣病などの予防効果がもっとも高く、それまでとはまったく異なる代謝リズムになります。

 2つめは「スタンダード糖質制限食」で、1日3食のうち1回の食事だけは主食を摂り、残りの2回については主食を抜きます。主食を摂るのは朝でも昼でもよいのですが、夕食はお勧めできません。なぜなら、夕食後に就寝すると脳も筋肉も活動しないので血糖値が下がりにくく、インスリン(肥満ホルモン)によって脂肪が蓄えられやすいからです。

 3つめの「プチ糖質制限食」は、1日3回の食事のうち、夕食だけ主食を抜くようにします。朝・昼は適量の糖質を摂れるので実行はかなりラクですが、スーパーなどに比べれば改善効果はどうしても低くなります。

 この3つのやり方を、病気や症状によって適宜使い分けるようにします。

 糖尿人にはもちろん、スーパー糖質制限食が一番のお勧めです。サラリーマン諸氏で昼食が定食とか弁当しかないときは、スタンダードでもやむをえません。昼食に主食を摂らざるをえない糖尿人は、食前30秒に薬を飲んで適量(少量)の主食を食べるという選択肢もあります。

 ダイエット目的なら、スーパー糖質制限食で2〜4週間頑張って、目標体重になったらプチかスタンダードでキープするというパターンもあります。人にもよりますが、スーパーを始めて3日〜1週間で体重が減りはじめます。

 糖尿人がスーパー糖質制限食を実践する場合は、食後高血糖を防ぐため、1回の食事の糖質量を20g以下にします。肥満や糖尿病がない人は、1回の糖質量を30〜40g程度に増やして、緩やかな糖質制限食で健康を維持するというパターンもあります。

その他の糖尿病の合併症 なぜか糖尿病で合併症にならない人の共通点 河合 勝幸

2011年06月20日 All about

 どうして糖尿病合併症が起きるのかは、長い間、真剣に研究されてきました。一方で血糖コントロールがよくないのに、なぜか合併症を免れている人たちもいます。合併症を起こしにくい人たちの秘密の一端が見えてきました。

 糖尿病患者の10〜15%は合併症と無縁?

 どうして糖尿病合併症が起きるのかは真剣に研究されてきましたが、一方で血糖コントロールがよくないのに、なぜか合併症を免れている人たちもいます。その秘密の一端が見えてきました。

 意外かもしれませんが、糖尿病患者の10〜15%は合併症になりにくいことが経験則から知られています。糖尿病専門医なら、なんとなく思い当る患者がいるはずですよ。大多数の患者はやがて重い合併症に直面するのですから、なんとも不公平な話です。

 今日のスウェーデンでは約12,000人が、糖尿病歴30年以上の患者だと考えられています。そのうち糖尿病歴50年以上の人が1,600人いますが、その人たちの2/3は合併症から逃れているのです。だいたいのところ、ベテラン患者の1/2は大きな合併症を持っていません。だから糖尿病患者は30年の合併症フリーを目指せとよく言われるのです。30年保てば、そうひどいことにはなりにくいようです。

 一方で、15年以内に重い合併症になる人たちも残念ながらいます。不可解なことに、このような合併症を起こす可能性については、血糖コントロールだけでは説明がつかないのです。

 ジョスリン50年メダリスト研究からわかった意外な傾向

 歴史あるジョスリン糖尿病センター(現在はハーバード大学の一部門)と史上初めてインスリンを量産した大手製薬会社の「イーライリリー」は、50年以上インスリン注射をして生存している1型糖尿病の人たちをメダリストとして表彰しています。

 糖尿病と言えば、目や腎臓、神経の細小血管合併症や心臓や脳の大血管症が宿命とされていますが、ジョスリン糖尿病センターの研究者たちは、数十年にわたって合併症を免れてる患者グループから、合併症から体を守る幾つかの因子を発見したと発表しました。[アメリカ糖尿病協会誌、Diabetes Care,April 2011]

 調査は351人の1型糖尿病歴50年以上のアメリカ人を対象に行われました。合併症の発症率以外にも網膜症、腎症、神経障害、心血管病と、ヘモグロビンA1Cや血中脂質、終末糖化産物(AGEs)との関連も分析されました。

 1型糖尿病は最初からインスリン注射が必要になります。50年以上前はインスリンの純度も種類も注射器も、今日のものとは比べようがないほど劣悪でした。もちろん、自己血糖測定器もなく、血糖コントロールを示すHbA1Cもありません。1型糖尿病に血糖コントロールがいかに大切かを証明したDCCTの発表は1993年ですから、この351人のメダリストの初めの数十年は、さぞ不十分な血糖コントロールだったことでしょう。

 にもかかわらず、これらのメダリストの43%は重い網膜症にはならずに済み、87%は腎症を回避し、39%は神経障害、52%は心血管病からフリーでした。

 この数字は驚異的です。今までの全ての疫学研究が、悪い血糖コントロールは体の中に記憶されて残り、やがて合併症として現われることを示しているからです。この幸運な人たちは、何らかの体を守る物質があるか、身体的、遺伝的なメカニズムが高血糖の毒と戦ってくれたことを物語っています。この人たちは、必ずしも今日のレベルで言うところの優良な血糖レベルの人ばかりではなかったのですから。

 糖尿病合併症の発症回避…鍵を握るのはAGEs?

 研究者たちはAGEs(最終糖化産物)が鍵を握っていると考えています。AGEsは糖化・老化物質として全てが悪玉と考えられてきましたが、このメダリストの血液分析から不思議なことが分かりました。

 数あるAGEsの中で、特にCEL(carboxyethyl-lysine)とペントシジンの2種類の血中濃度が高いと、すべての合併症発症率が7.2倍高くなることが確認されました。

 逆にCML(carboxymethyl-lysine)とフルクトース・リジンの組み合わせは眼疾患から患者を守っているようなのです。どうもAGEsにも悪玉と善玉の組み合わせがあるようですね。これは史上初めての発見だそうです!

 同研究の付随論文執筆者で、米イースタンバージニア医科大学のAaron Vinikは、今回のジョスリンの研究では言及していないが、合併症予防には血中のAGEsを捕捉する可溶性のAGEs受容体(sRAGE)の存在が大きいと指摘しています。

 AGEsの毒性はタンパク質に架橋を作ったり、血管内皮細胞AGE受容体に結合して炎症を起こすことが知られていますが、AGE受容体には細胞から離れて血液の中で体の中を循環して、悪玉AGEsをキャッチして体外に排泄する善玉受容体(sRAGE)があることが確認されています。

 早期に糖尿病を発症する人ではこのsRAGEが50%しかなく、重い合併症を起こす人では85%も欠損しているという研究も発表されています。50年メダリストは遺伝的にsRAGEが多いことは容易に推測できますね。

 長寿の家系とはこういうことなのでしょうか。このsRAGEを増やす薬、あるいはインスリンのように直接投与できれば合併症から開放される日が来るかも知れません

糖尿病の食事療法の基礎知識 柔軟な菜食…フレキシタリアンも糖尿病食におすすめ 河合 勝幸

2011年05月12日 All about

「フレキシタリアン」とはフレキシブル(柔軟)なベジタリアン(菜食主義者)という造語で、2003年度の米国方言・通用語協会で「役に立つ言葉」賞に選ばれました。いわゆる流行語大賞ですね。糖尿病食の選択の一つにもなりそうな、フレキシタリアンについて解説します。

 柔軟な菜食主義者・フレキシタリアンとは

 私のバックヤード・ガーデン。5月はレタス、早生タマネギ、ソラマメ、グリーンピースの収穫です。

 フレキシタリアンとはフレキシブル(柔軟)なベジタリアン(菜食主義者)という造語。2003年度の米国方言・通用語協会で「役に立つ言葉」賞に選ばれました。いわゆる流行語大賞ですね。世界中に広がってきました。

 フレキシタリアン(Flexitarian)は、もともとはセミ・ベジタリアンとかパーシャル(部分的)ベジタリアンと言われていました。普段は野菜中心の食事をしていますが、気が向けば週に1〜2回は肉や魚をメニュに加える気軽なライフスタイルです。いかにも環境に優しい、都会的で、美容と健康にぴったりとあう現代的な生きかたですね。

 本来のベジタリアン=「肉食の否定」

 つい先日の2011年5月6日に、元ビートルズのポール・マッカートニーが3度目の結婚(婚約発表)というニュースが日本の新聞にも載りました。ポールの亡くなった最初の奥さんであるリンダ・マッカートニーと一緒に、ポールがベジタリアンになったときのエピソードを思い出しました。ある時、自分の牧場でかわいい子羊とたっぷりと遊んでから別荘に戻ると、なんと料理人が子羊料理を用意していたのです。その日から夫婦でベジタリアンになったと、リンダさんは自著『地球と私のベジタリアン料理』(文化出版局1991)で述べています。

 ベジタリアンは個人の好みで穀類や野菜、果物を食べる人と思われていますが、リンダさんのエピソードで分かるとおり、根本は肉食の否定です。その理由は宗教や哲学的、倫理的なこともあるでしょうし、美容や健康、エコライフの実践でもあるでしょう。

 糖尿病食も一人ひとりにあわせることが大切

 前回の記事で、世界の糖尿病治療をリードするアメリカ糖尿病協会(ADA)は、1日に摂取する炭水化物のエネルギー比も摂取量も決めていないことを書きましたが、これはone-size-fit-all(1サイズで万人に合う)正しい食事法なんて在存しないからです。

 糖尿病になっても一人ひとりのライフスタイルに食事を合わせるべきなのです。もちろん、ヘルシー体重を目標にすることは言うまでもありませんが。

 当然ながら、栄養不足のないように周到に計画されたベジタリアン食も糖尿病者にはいい選択だという立場です。野菜中心の食事は心臓や脳などの循環器病にとてもよく、医学的には証明されていませんが肉食の高タンパク質が糖尿病の宿命とも言える腎臓に負荷をかけると心配する糖尿病患者も少なくはありません。

 ベジタリアンになるのはライフスタイルの変更ですから、年月をかけて心と体のバランスを取りながら一歩ずつ進めていくものです。とてもここでは紹介できませんので、関心のある人はこのフレキシタリアンに少し近付いてみたらいかがでしょうか。なに、肉を減らせばいいのです。

 ガイドも実践 フレキシタリアン食の魅力

 実は私は20年以上も前からフレキシタリアンなのです。肉は週1回、魚は2回と決めて、あとは自家菜園の山盛りの野菜と穀類、豆類、果物を中心にした、質素と言うか豪華と言うか、野趣に富んだ食事です。

 白状しますと、これは糖尿病のために始めたのではなく、フランスのガン学者が勧めた「ガン予防食」だったのです。おかげでソレとも無縁ですが。2型糖尿病の進行に応じて、かつては食後高血糖を抑えるために炭水化物を制限したり、グリセミック指数の低い食材に徹したこともありますが、現在は食事をすれば血糖が上がるのは当然だと割り切って、マルチショットのインスリンで対処しています。狙ってはいませんが、結果としてのA1Cは優等生です。

 食事の炭水化物には注意していますが、2型なのでカーブカウンティングも食品交換表も使わずに、気取って言えばexperience-based estimation(経験に基づく概算)、つまりヤマカンで十分にクリアできます。

糖尿病の食事療法の基礎知識 炭水化物は食事療法の敵? 味方? 河合 勝幸

2011年04月27日 All about

「主食を抜けば糖尿病が良くなる」という医師がいます。一方で「糖尿病食」なるものは存在せず、普通のヘルシー食で十分と主張する人もいます。食後の血糖値を上げる炭水化物は敵なのでしょうか?

 野菜や果物は炭水化物食品です

 「主食を抜けば糖尿病が良くなる」という医師がいます。一方で「糖尿病食」なるものは存在せず、普通のヘルシー食で十分と主張する人もいます。食後の血糖値を上げる炭水化物は敵でしょうか? それとも味方なのでしょうか?

 炭水化物論争には唯一解がない?

 インスリン注射が欠かせない糖尿病者のグループには、食事の炭水化物を思い切って制限したほうが血糖コントロールが容易になることを発見し、実践している人たちがいます。逆に、炭水化物を減らすと悪玉の脂肪でエネルギーを代替するようになるので、この方法には反対だと異論を唱える人たちもいます。

 糖尿病治療史を見ても、炭水化物をできるだけ減らそうという時代と、もっと増やそうという時代の繰り返しです。例えば本当に砂糖は患者の楽しみを奪ってまで厳しく制限すべきなのでしょうか? 糖尿病と炭水化物を巡る論争は、どの国でもいかなる時代でも果てることはありません。医師同士、栄養士同士、患者同士で論戦の大バトルです。

 もったいぶらずに結論を先に書きましょう。

 ある意味では、たぶん「皆さん、正しいのです」。

 現在の糖尿病食事療法の主流は摂取エネルギーの50〜60%を炭水化物で摂るものです。日本でもそのように勧められています。肥満大国アメリカでは、糖尿病患者も低脂肪の肉と乳製品、未精製の穀類、ヘルシーな油脂、たっぷりの野菜と果物の食事が国を挙げて推奨されています。

 興味深いのはアメリカ糖尿病協会(ADA)が炭水化物の摂取量をエネルギー比(%)でも、グラム単位でも示していないことです。現実にはアメリカの糖尿病患者の多くは炭水化物をエネルギー比で40〜45%程度を摂取していると判断されています。これは中程度の炭水化物ですね。糖尿病食事療法には炭水化物のエネルギー比で低、中、高のやり方があります。以下でそれぞれの食事療法について解説しましょう。

 低炭水化物食(Low-carb diet)とは

 日本でも著書が翻訳されて話題になった(あるいは無視された?)リチャード・バーンスタイン医師がこの食事療法のグル(指導者)です。原則として炭水化物をカロリー比で10%以下に抑えます。一日の摂取量としては20〜30gと、ケトン尿が出るか出ないかのギリギリに制限します。患者によってはカロリー比20〜40%に緩めることもあるそうです。動物性の飽和脂肪酸は許容の範囲。トランス型脂肪酸は避けるように。

 バーンスタイン医師はもともとはエンジニアでしたが1型糖尿病を発症してから医学に転じた経歴の持ち主です。私はバーンスタインの名前を史上初めて血糖自己測定をした人物として承知していましたよ。開発されたばかりの大きくて重い測定機を自宅に持ち帰ったのです。

 1型糖尿病では炭水化物をグラム単位で計算してインスリンユニットと合わせるのですが、食品の炭水化物量はあくまでも不正確な推量なのですから、はっきりとカウント出来るものだけに制限すれば誤差が小さくなるという考え方です。低炭水化物、低インスリンで危険な低血糖と高血糖の両方を避けようとします。結果として高タンパク、高脂肪食になりますが低インスリンダイエットだから太りません。

 中炭水化物食(Moderate-carb diet)とは

 エネルギー比で40〜50%を炭水化物で摂取します。前記の低炭水化物食と違うのは脂肪の取り方で、オリーブオイルやアボガドオイル、クルミオイルなどの不飽和脂肪酸を積極的に使います。穀類は未精白のものを。

 炭水化物を多く含む食品は同時に他の栄養素もたくさん持っています。穀類、豆類、フルーツ、野菜、乳製品が炭水化物食品ですからヘルシー食なのは明白ですね。「ヘルシー食品を正しいポーションサイズで」というのが今日の治療の主流です。アメリカでは砂糖もこの一日あたりの炭水化物にカウントしますから禁止されていません。

 高炭水化物食(High-carb diet)とは

 玉子や牛乳、ハチミツなどの動物が作った食品までも拒否する厳格なベジタリアン(veganと言います)だと、カロリー比75%以上にまで炭水化物が占めてしまいます。残りはタンパク質15%、脂肪10%になるのでしょう。

 ジョージ・ワシントン大学(アメリカ)のニール・バーナード准教授が2006年のDiabetes Care誌に発表した論文では、この高炭水化物食によってA1Cも血清コレステロールも下がったとしています。

 皆さんはどの説に賛成ですか? いくら甘党でも、高炭水化物食で糖尿病になるわけではありませんが、いざ発症してしまうと血糖の元となる炭水化物の問題に直面します。上記の3つの説はいずれも間違っていません。と、なるとあなた自身が選ばなくてはなりませんね。正解は、あなたが満足して続けられるヘルシー食を見付けることです。

糖尿病の食事療法の基礎知識 お薦めします。おいしさが伝わる究極の糖尿病レシピ本 河合 勝幸

2011年03月24日 All about

 名医、横山淳一教授(慈恵会医大)と料理研究家、有元葉子さんのコラボで、他に類を見ない「糖尿病レシピ」が世に出されました。ヘルシー&ナチュラル、一目見ただけでおいしさが伝わります。

 名医、横山淳一教授(慈恵会医大)と料理研究家の有元葉子さんのコラボで、他に類を見ない糖尿病食のレシピ本が世に出されました。『医師と料理家がすすめる   糖尿病レシピ』(筑摩書房)です。ヘルシー&ナチュラル、一目見ただけでおいしさが伝わります。しかしこの本の真価は、改めて医学的食事療法の基本を考えさせてくれるところにあると思います。グルメな糖尿病者は、まずこの料理を安心して楽しんでください。そして、食事療法の一番大切なところを学びましょう。

 医学的食事療法とは (Medical Nutririon Therapy)

 言うまでもなく医学的食事療法とは、食事を通して病気を治療することです。以下、「食事療法」と短く書きますが、明らかに最も効果のある治療法であることを理解しましょう。

 よく食事療法や運動療法で血糖コントロールが得られなくなると、薬物療法に移ると言われますが、実際には経口薬やインスリンは食事療法をサポートする立場にあるのです。正しい食事に薬を合わせるのです。その逆ではありません。

 だから、薬が必要になったら、食事療法もより一歩前に進めなくてはなりません。そうしないと薬が十分に効かないことがあるだけでなく、副作用のマイナス面も出てしまうからです。

 アメリカの指針ですが、2型糖尿病の診断時に食事療法に取り組めば、HbA1Cが6〜12週で1〜2%下がります。脂質異常も高血圧も改善します。こんなに明白に効果があるのに、食事療法はとても難しいものです。食事療法の効果を実感できず、誰だって食事の習慣を変えるのは苦痛を伴います。患者教育だっておざなりのカロリー割当てしかできません。これには何かが足りないのです。

 2型糖尿病は食事依存型、運動依存型の糖尿病

 12年前までは2型糖尿病のことをNIDDM(インスリン非依存型糖尿病)と言っていました。その伝に従えば2型は食事依存型であり、運動依存型です。これを毎日守るのはつらいことですね。

 特に医師から減量ばかり要求されるのは不愉快なものです。日本の食事のカロリー計算はBMI 22の「机上の空論」から成り立っていますからなんとも腹立たしい限り……。ただ、減量は美容上の問題だけでなく、血糖コントロールを容易にするだけのものでもありません。医師たちは、経験から2型糖尿病治療を成功させるには正しい食習慣が不可欠なことを知っているのです。

 本来ならば体重の話だけでなく、ヘルシーな食事の指導が必要なのです。 そして、その「糖尿病レシピ」はそこに的をしぼっています。ありがたいことです。

 糖尿病食事療法のゴール

 地中海によって欧州・中近東・アフリカが一つに結ばれているので、一年中豊富な野菜・果物に恵まれているヘルシーな文化圏です

 糖尿病食事療法の最終目標は、毎日満足できる食品・食材を自信を持って選べるようになること。理想的な血糖、血圧、血中脂質を維持し、個人の好みを犠牲にしない食事です。

 日本の食事療法はカロリー重視の食品交換表を基本にしています。これは同じような内容の食材をグループ分けしたものですが、理屈は通っていても応用が利きません。

 食品交換表の本家、アメリカの表では穀類(でんぷん)、果物、乳製品の主要炭水化物食品を15g単位で揃えていますから、ある昼食で仲間と一緒に炭水化物60gの「チキン・カチャトーレ添えのスパゲッティ」を楽しむことが出来ます。本来ならば割当てられていた果物と乳製品の炭水化物30g分を夕食へ移動させればいいのですから。一回の食事の炭水化物の総量は変更しない。これが食事療法の基本です。

 「食品交換表のコンセプトを理解できない」と言う人がいます。一方で、とても上手に使いこなしている人もいます。かく言う私にとって、食品交換表は全くの役立たずです。性格に合わないのだからしかたありません。

 今日の精製された食材、加工食品のまま、量だけを減らすと必要な栄養素が欠乏します。栄養士の足立香代子さんの計算では、一日あたり10mg取るべきビタミンEが、糖尿病食の1600kcalでは5.4mgしか取れないそうです。これでは糖尿病食は不健康食ですね。でも、1600kcalの指示は正しい! では、どうする? 食材をヘルシー&ナチュラルにするしかありません。なるべく栄養豊富な未精製の食材を選び、シンプルに調理しましょう。

 この本にはその極意が惜しげもなく書かれていましたので、ぜひご一読を。

糖尿病患者向け「ヘルシーバイキング」 松本大生が考案

2010年11月28日(日)信濃毎日新聞

ヘルシーバイキングで料理を選ぶすずらん分会会員(右から2人目)

 松本大健康栄養学科の藤岡ゼミナールの学生が27日、昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の糖尿病患者会「すずらん分会」の会員を招き、学生が考えた患者向けのメニューを食べてもらう「ヘルシーバイキング」を同大で開いた。工夫を凝らした料理を参考にしてほしいと初めて開催。おいしいと評判を呼んでいた。

 会員9人と同病院の管理栄養士2人が出席。バイキングは、タンパク質を多く含むものや穀類などの食品群ごとに決められた摂取量を超えないように選ぶ。

 主菜は肉、魚、卵、豆腐を使った4種類あり、3、4年生15人が1品ずつ考えたうち、同ゼミ内の人気投票で選んだ。生サケとはんぺんをこねて焼いた「鮭(さけ)のつくね焼き」、油揚げにヒジキの煮物を詰めた「たからぶね」など。油は極力使わず、薄味にした。

 会員たちは好みの料理を取った後、学生の助言を受けて摂取エネルギーや塩分の量も計算。自宅で調理する際の参考にしていた。会員で宮田村の自営業小池一巧(かずよし)さん(69)は試食後「うまみがあり、病院食などにありがちな物足りなさがない」と評価していた。

 同ゼミは、同病院や信大病院(松本市)の糖尿病教室に参加し、調理実習補助や栄養指導に取り組んできた。ゼミ長の黒田美幸さん(22)は「低カロリーでいろいろな種類の料理を食べられる。患者さんの喜ぶ顔が見られて良かった」。藤岡由美子専任講師(臨床栄養学)は「食事療法が続けられるよう、自宅で簡単に作れる献立を提案し、患者を支援したい」と話していた。

酵素抑え1型糖尿病改善 膵臓の細胞破壊抑える

2010年11月28日15時10分 中国新聞ニュ−ス

 体内にあるT細胞に含まれる酵素の働きを抑えて、1型糖尿病を改善させることに徳島大大学院の林良夫教授らのグループがマウスで28日までに成功した。

 1型糖尿病は小児や若年期に発病することが多く、T細胞などが、インスリンを出す膵臓のランゲルハンス島を攻撃、破壊し、インスリンが不足して起きる。

 グループは、T細胞では、タンパク質分解酵素の「カテプシンL」の活動が盛んなことを確認。

 1型糖尿病のマウスにカテプシンLの働きを抑える阻害剤を投与したところ、攻撃のために使われる別の酵素を作るのに必要な物質ができなかった。その結果、攻撃が抑えられ、血糖値は3分の1、尿糖値はほぼゼロまで改善した。

 また、特定の遺伝子の発現を抑えるRNA干渉法でカテプシンLを抑制したところ、同様の結果が得られた。

 林教授は「効果的な治療法がない1型糖尿病の患者にとって朗報。阻害剤は一般に販売されていない特別なもの。薬剤の開発につなげたい」としている。成果は米科学誌プロスワン電子版に掲載された。

インスリン分泌妨げるタンパク質特定 糖尿病治療の応用に期待 京大研究チーム

2010.11.25 23:49 MSN産経新聞

 タンパク質の一種の「チオレドキシン結合蛋白2」(TBP−2)が体内の血糖値を調整するインスリンの分泌を妨げることを、京都大学の増谷弘准教授(分子生命学)らの研究チームが突きとめた。日本時間24日付の英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」(電子版)で発表した。

 インスリンは体内の糖に反応して増加し、糖を血液中から細胞などに送り込む役割を果たす。1型と2型がある糖尿病のうち、2型には糖の量に対しインスリンの分泌量が少ない症状があるが、原因は分かっていなかった。

 研究チームは、遺伝子解析などからTBP−2がインスリン分泌に影響を及ぼすと推測。TBP−2を持たないマウスとTBP−2を持つマウスに対し、一定量の糖を投与してインスリンの増加量を比較した。

 その結果、TBP−2を持つマウスのインスリンは約2倍になったのに対し、TBP−2を持たないマウスのインスリンは約3・5倍に増加。TBP−2がインスリンの分泌を妨げていることを裏付けた。

 増谷准教授は、「TBP−2にインスリンの分泌をつかさどる遺伝子を抑制する機能があるのでは。糖尿病治療につながる薬剤の開発に努めたい」と話している。

糖尿病の食事療法 玄米菜食を推奨する医師は15% 漠然と指導が最多

2010/11/24 05:01 MIX on-Line

 医師3万人超による会員制コミュニティサイト「MedPeer」を運営するメドピアはこのほど、糖尿病などの予防や治療の際に、効果が高いとされる玄米菜食を推奨しているかどうかに関する調査結果を発表した。回答医師の58%は「漠然と食事習慣を改善するよう勧めている」と答え、個人の嗜好などの面で「玄米食は長続きしないから」といったコメントが多く寄せられた。一方、「玄米菜食を一応勧める」や「強く勧める」は合計15%だった。

 調査は10月25日〜11月7日に実施した。有効回答数は1064件。調査手法は会員医師が他の会員医師に質問し、回答を得るもの。今回の質問は、「30年前のマクガバンレポート以来、全粒穀物や菜食が糖尿病などの生活習慣病予防の基本戦略であることは国際的なコンセンサスになっている。更に最近の研究では2型糖尿病予防には白米を玄米に代えるのが良いとされている。こういった中で、薬剤によるコントロールと平行して、あるいは先行して食事指導が重要と考えられるが、玄米菜食を推奨しているかどうか」という内容だった。

 「漠然と食事習慣を改善するよう勧めている」と答えた医師からは、「玄米が効果的なのは認めるが、継続できるのか、あるいは『食の楽しみ』を考慮すると必ずしも玄米に固執する必要はない」(50代、一般内科)、「玄米菜食は良いかもしれないが、努力が必要で、長続きしなければ意味がなく、患者から食事の楽しみを奪ってしまうかもしれない」(40代、一般内科)、「一般的な食事指導でもなかなか守ってもらえないことが多いのに、玄米菜食を勧めてもしっかりできる人はほとんどいない」(40代、一般内科)――といったコメントが多くみられた。

 これに次いで回答が多かったのが、「一応、玄米菜食を勧めている」で回答医師の13%だった。「血糖改善や便通改善につながることなどを説明し、興味を持たれる方に勧めている」(50代、代謝・内分泌科)といったコメントが寄せられたものの、「長続きした人をほとんど見たことがない」「患者に指導すべきは総合的な栄養指導、運動指導、ストレスコントロールなどが重要なので、テレビ番組のように特定食品を前面に出した説明や指導は適切ではないと思う」といった声も同様に多く見られた。また、「玄米菜食を強く勧める」は2%で、「玄米食を実行できている人は血糖コントロールがしやすくなっている印象がある」(30代、一般内科)などのコメントがあった。

 一方、「玄米菜食が健康的とは考えない」と答えた医師も13%いて、「玄米食だけで問題が解決するわけではない」「簡単にできるような栄養指導でないと、長続きしない」という意見があった。

ニチレイ:世界糖尿病デー記念 カロリー調整食品「カロリーナビ」キャンペーン

2010年11月22日 15時00分 毎日新聞デジタル BizBuz(ビズバズ)

「カロリーナビ240」デミグラス風ハンバーグ ニチレイフーズダイレクトでは、世界各地で糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発運動を推進する11月14日の「世界糖尿病デー」の活動に賛同し、糖尿病月間である11月中に、カロリー調整食品「カロリーナビ 240・320」4食お試しセットを購入した人全員に、砂糖不使用のあん瓶詰め「マービーつぶあん」をプレゼントするキャンペーンを実施している。

 同社は89年に、日本初の糖尿病者向けレトルト食品「糖尿病食」を発売。メニューの変更や拡大を経て、09年に「カロリーナビ」に名称を変更し、主菜1品と副菜1〜2品のセットで、1日1200〜1800キロカロリーの制限に対応。現在1食320カロリーと1食240カロリーの各21メニューで展開している。

 糖尿病食事療法では、日本糖尿病学会による診療ガイドラインで、食品を六つの食品群に分け、その1単位を80キロカロリーとする管理指標が用いられる。一日あたりの制限カロリーは性別、体重、生活強度などによって決められる。「カロリーナビ」では、320カロリーで4単位、240カロリーで3単位のメニューとなり、ごはんなどの炭水化物の主食と併せて、1日の食事の単位計算を容易にする。

 「カロリーナビ」は、カロリー制限はもちろん、主食と併せることで、炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素を理想的なバランスで摂取できるよう設計され、塩分も全品3.3グラム以下に抑えられる。「糖尿病食」で培われた成分コントロール技術での丁寧な下処理と調理により、脂質や塩分を抑え、だしでうまみをきかせた本格派の味わいという。ハンバーグや肉じゃがなどの定番メニューのほか、イタリアンや中華メニューなどもラインアップしている。11月の糖尿病月間限定の4食お試しセットは、カロリーナビ240、320ともに送料込みで3980円。同社の商品担当は「糖尿病分野の食事については私たちが市場を作って、そこからカロリーコントロール食、ダイエット食などが派生した。ルーツになった糖尿病食の文化を大事にし、今後はお客様の声を生かして、より患者様によい物をお届けできるような商品開発を目指したい」と話す。

 糖尿病は、世界の成人人口の約5〜6%にあたる2億4600万人の患者がおり、年間380万人以上が合併症などの原因で死亡、10秒に1人が糖尿病関連の病気で命を失っている計算となる。2025年には世界の糖尿病人口は3億8000万人に達することが予想されており、「世界糖尿病デー」は、国際糖尿病連合(IDF)と世界保健機関(WHO)が定めていたもので、06年には国連総会で「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を加盟192カ国の全会一致で可決した。IDFでは、国連や空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を使用したシンボルマークを採用し、全世界での糖尿病抑制に向けたキャンペーンを推進している。(毎日新聞デジタル)

積水化学、米ジェンザイムの検査薬事業を買収=約220億円で

2010/11/18-14:50 時事ドットコム

 積水化学工業は18日、米バイオ医薬品大手ジェンザイムとの間で、同社の検査薬事業を買収することで合意したと発表した。12月末をめどに2億6500万ドル(約220億円)で取得する。生化学・糖尿病領域などに強みを持つジェンザイムのノウハウを生かし、重点領域に掲げる検査薬部門の強化を図る。

【攻める健康】糖尿病 ご飯、パン、麺類取らず半年で15キロ減★糖質制限ダイエット(上)

2010.11.16 Zak Zak

ぽっこり出たメタボ腹が、半年で見事に引っ込んだ

 身長167・5センチで、体重87キロ、ウエストは100センチ超というのが、今年5月末、糖尿病とそれに伴う合併症で、心筋梗塞も起こしていた半年前の私だった。

 以前の私は、ホテルやレストランの取材も専門にしていたため、美食する機会も多く、しかも物書きだから椅子に座り詰め。その結果、完全なるメタボ体形で、総コレステロールは253。血糖値も215、糖尿病判定の基準値となる、HpA1C(ヘモグロビンエーワンシー)は、通常値の5・8をはるかに超えて、9・4。肝臓の状態を示すγ−GTP(ガンマ・ジーティーピー)も113と、基準値の75を大きく上回っていた。

 最初に私を診察した、地元の糖尿病専門医曰く「すい臓が半分壊れてるな。何でここまで放っておいたの」と憐れむような眼で見つめた程の状態だったのである。

 だが、半年後の11月初旬、体重は15キロ減の72キロ、ウエスト83センチ。血糖値は空腹時で半分以下の113。HbA1Cも5・2−と驚く程数値が良くなった。

 この間、約半年。さしたる運動や腹筋を鍛えたわけではない。それどころか心筋梗塞を起こした疑いもあるため、軽井沢の自宅で毎日3食を食べ、健康関連の書籍を静かに読んでいただけなのである。

 ただし、食事の中身が少し違っていた。朝、昼、晩と主食である、ご飯、パン、麺類や砂糖などの「糖質」を徹底的に取らない。これが、私の糖尿病を半年で好転させ、メタボ体形から脱出させてくれた「糖質制限食」だった。

 この治療法の提唱者で自身も糖尿病患者として「糖質制限食」を実践しているのが、京都・高雄病院理事長で、医師の江部康二氏だ。江部氏は、糖質制限の持つ効果の素晴らしさを記した著書『主食を抜けば糖尿病はよくなる!』(東洋経済新報社)がベストセラーとなった。

 「糖質を摂らないとなると、血糖値が上がることはまずありません。その結果、インスリン(肥満ホルモン)の余計な分泌もなく、疲れ切ったすい臓を休ませることができます。また、糖質を摂取しないと、主な栄養素は脂質とタンパク質になりますが、この場合、肝臓でアミノ酸などからブドウ糖を作ることになり、大量のエネルギーが消費されるので、寝ている間に痩せていくのです」

 肥満は、これと逆のメカニズムで起こる。炭水化物を大量に摂って運動しないと、インスリンが余剰のブドウ糖を体脂肪として蓄えてしまう。その結果、インスリンを出し続けるすい臓が疲れ切って機能しなくなり、メタボになったあげく、糖尿病になる。半年前の私がまさにこの状態だった。

 「糖尿病なんて風邪と同じですよ」、この糖質制限食の効果を実感した患者の中には、そんな感想を漏らす人も少なくない。私も同意見だ。この糖質制限食を体重が増えたら厳しくし、やせたら少しゆるめる。後は血糖値を定期的に自己測定器で測ればよい。家庭で糖尿病が治せるのだ。

 ■桐山秀樹(きりやま・ひでき) ノンフィクション作家。1954年、名古屋市生まれ。定年後の海外移住を描いた「第二の人生いい処見つけた」(新潮社)でデビュー。ホテル、レストラン、国内外の旅など宿、食、文化に精通するも、50代にしてメタボ作家に。今回の糖尿病体験で男の生活習慣病を徹底研究。金融リテラシーならぬ、いつまでも元気で働ける定年後の健康リテラシーの重要性に目覚め、医療分野にも独自の視点で切り込む。

【攻める健康】もう糖尿病も怖くないメタボ腹ともおさらば★糖質制限ダイエット(下)

2010.11.17 Zak Zak

 わずか半年間で不治の病と呼ばれる糖尿病から脱出した筆者。この「奇跡」を可能にしたのが、京都・高雄病院理事長で、医師の江部康二氏が提唱する「糖質制限食」、すなわち朝、昼、晩と主食であるご飯、パン、麺類や砂糖など炭水化物を含む「糖質」を摂らない食事法だ。別名“ズボラ・ダイエット”と呼ばれる程、誰にでも簡単に出来る。

 用意したのは、江部氏の著書「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」(東洋経済新報社)と、そのレシピを写真入りで紹介した「満腹ダイエット」と「酒飲みダイエット」(いずれもプレジデント社)だけ。「糖質制限食」を朝、昼、晩の3食続ける「スーパー糖質制限」。これをまず1週間行うことで、確実に痩せ、血糖値を始めとする糖尿病の数値が改善していく。

 この「糖質制限食」を始めるには、江部氏の本やプレジデントのダイエット本の巻末にある「主な食品の糖質量」(百グラムあたり)を記憶し、一日約60グラム、一回の食事で10〜20グラムまでに押えることが大切だ。ご飯は茶碗一杯で36・8グラム、食パンは1枚で44・4グラムもある。

 これらを食べない代わりに、牛肉は0・2〜0・6グラム、豚肉も0〜0・2グラム、ロースハムも1・3グラムと少ないので多いに食べる。面倒なカロリー計算も必要なし。要は、糖質の多い食品と少ない食品をある程度記憶し、糖質の少ない食品中心のメニューで過ごすのだ。

 糖質制限食では、ウイスキーや芋焼酎などの蒸留酒もOK。赤ワインも少量なら許される。日本酒、ビールはNGだが、最近では糖質ゼロの日本酒やビール、コーラ類もあり、それを選ぶと良い。

 肉、魚、豆腐、ハム、ソーセージもOK。野菜類ではブロッコリー(0・8グラム)やほうれん草(0・3グラム)はOKだが、かぼちゃ(17・1グラム)やじゃがいも(16・3グラム)は糖質が多いから避ける。その他、自宅で使う砂糖をラカントSや人工甘味料のパルスイートなどに変えていく。これを1日3食続けるだけで驚く程の結果が出る。

 難しいのは外出時の昼食だ。定食のご飯類を残し、冷奴などで代用する。あるいは、どうしてもご飯を食べたくなったら、三分の一か半分に止め、食前に血糖値を下げる薬を飲むか、食後30分以内に運動をする。こうした習慣をつけるだけでよいのだ。

 ただし、この糖質制限、劇的な効果が出るため、患者によっては注意が必要となる。

 「糖尿病で経口血糖降下剤などを内服していたり、インスリン注射をしている場合は、低血糖の心配があるので、必ず主治医と相談して下さい。また腎障害や活動性のすい炎、肝硬変の場合は、糖質制限食は控えた方がいいでしょう」と江部氏。

 不治の病と言われる糖尿病もこの「糖質制限食」を続ける限り、必ず改善していく。メタボ腹とはもうおさらばである。

 きりやま・ひでき ノンフィクション作家。1954年、名古屋市生まれ。定年後の海外移住を描いた「第二の人生いい処見つけた」(新潮社)でデビュー。ホテル、レストラン、国内外の旅など宿、食、文化に精通するも、50代にしてメタボ作家に。今回の糖尿病体験で男の生活習慣病を徹底研究。金融リテラシーならぬ、いつまでも元気で働ける定年後の健康リテラシーの重要性に目覚め、医療分野にも独自の視点で切り込む。

【糖質制限を長く続けるための10カ条】

(1)1日3食を少量でもキチンと食べる。夜のドカ食いは避ける。

(2)糖質制限に効果があるのは夜の食事。朝、昼はゆるめても、夜だけはカット。

(3)ただし、糖尿病患者は3食糖質制限するスーパー制限食がおすすめ。

(4)主食を採る場合はまず、おかずを全部食べ、ご飯を半分か3分の1程度に止める。食後、散歩など運動する。

(5)家族の協力が必要。江部氏の本などを読み、共通認識を持て。

(6)糖尿病でない家族にも、糖質制限食はダイエット効果あり。家族で楽しめる。

(7)1日3食制限のスーパー糖質制限は1週間程継続してこそ効果。体重が目標まで下がったら、一度、昼食などでゆるめた後、また再開。

(8)空腹時はナッツやあたりめ等の糖質の少ないツマミでしのぐ。ビールは糖質フリーのものを。

(9)フスマパン、大豆パンなど、糖質制限食の宅配も積極的に利用する。

(10)自宅で血糖値測定器を用意し、空腹時、食後で時間値を測定。血圧、体重も毎日計って記録する。

 ■桐山秀樹(きりやま・ひでき) ノンフィクション作家。1954年、名古屋市生まれ。定年後の海外移住を描いた「第二の人生いい処見つけた」(新潮社)でデビュー。ホテル、レストラン、国内外の旅など宿、食、文化に精通するも、50代にしてメタボ作家に。今回の糖尿病体験で男の生活習慣病を徹底研究。金融リテラシーならぬ、いつまでも元気で働ける定年後の健康リテラシーの重要性に目覚め、医療分野にも独自の視点で切り込む。

糖尿病:県内3カ所で570人、予防へ歩け歩け /徳島

2010年11月14日 毎日新聞 地方版

 「世界糖尿病デー(14日)」を前に、県内3カ所で13日、青い照明を持って歩くなどして糖尿病対策の啓発や運動習慣の定着を図る「ブルーライト・ウォーキング」が行われ、約570人が参加した。

 徳島市では約300人が、暮れゆく市中心部の遊歩道「新町川ひかりプロムナード」を歩き、川面に浮かぶ町の夜景などを満喫した。また同遊歩道コースマップなどの除幕式もあった。

 参加した徳島市昭和町8、元会社員、谷川正明さん(67)は「病気にならないためには体を動かすことが一番。ウオーキングをする人が増えればいいですね」と期待を寄せていた。【深尾昭寛】

生活リズム、糖尿病に影響 広島大大学院グループ発見

2010/11/13 中国新聞ニュ−ス

 ▽遺伝子解析で裏付け 肥満との関係も確認

 広島大大学院医歯薬学総合研究科の内匠(たくみ)透教授(脳科学)のグループが、体内時計をつかさどる遺伝子が糖尿病や肥満に影響していることを遺伝子解析で突き止めた。「生活リズムが糖尿病や肥満の予防に重要だと、分子レベルでも証明された」としている。12月10日発行の米学術誌で論文発表する。

 内匠教授たちは東京大と共同研究。代表的な時計遺伝子が結合する分子を最先端の装置で解析したところ、その多くは、糖や脂質代謝に関係するタンパク質だと分かった。

 時計遺伝子を除いたマウスは肥満になるなど代謝との関係を示す報告はこれまでもあったが、それを人間の遺伝子解析で裏付けた。

 内匠教授は「昼も夜もない生活をしていると糖尿病や肥満になる可能性は高くなると遺伝子レベルで証明できた。睡眠、食事など基本的な生活リズムをつくることが大事」と話している。(松本大典)

プロポリスが糖尿病予防に有効、山田養蜂場が発表

2010/11/13(土) 10:55 Searchina

 山田養蜂場は、岡山大学大学院の川崎博己(かわさきひろむ)教授と共同研究を行い、家系的に糖尿病リスクが高くとも、ブラジル産プロポリスの予防的投与が糖尿病予備群の初期症状であるインスリン抵抗性を改善することを明らかにした。

 厚生労働省が実施した平成19年国民健康・栄養調査結果によると、糖尿病患者は予備群を合わせ、2,210万人にも及ぶとされている。また、そのうち約95%以上が、長年の食べすぎや運動不足などの生活習慣が原因の2型糖尿病という。現在、糖尿病を完治させる治療法は確立されておらず、予防および、早期発見・治療が重要とされている。そんな中、同社では糖尿病発病前の初期予防のひとつとして、機能性を持った食品を日常的に摂取することに注目。ミツバチが生産するローヤルゼリーやプロポリスが、糖尿病予備群の初期症状に効果が見られるかの研究を2003年より開始した。

 糖尿病予備群は、食後に上がった血糖値を元に戻す“インスリン”の効きが悪くなり、空腹時でも血糖値が高いままでインスリンが分泌され続ける、インスリン抵抗性という状態にある。この状態が続くとすい臓が疲労し、インスリンの分泌量が低下、結果的に糖尿病を引き起こすというのが糖尿病発症のメカニズムだ。また、最近の研究ではインスリン抵抗性が進行すると、肥満や血圧、血流量といった血管の調整機能が異常をきたすことも分りつつある。つまり、メタボリックシンドロームの初期段階のシグナルとしても注意が必要であるといえるのだ。しかし、インスリン抵抗性は、初期段階では自覚症状がなく血糖値も正常なため、専門の検査をしなければ発見が難しく、症状が進行してしまう可能性が高いとされている。これらを踏まえ、同社では健康な時から、機能性食品を利用する初期予防に注目し様々な研究を行ってきた。

 今回の実験では、遺伝的に加齢とともに糖尿病を発症するラット(OLETFラット)を用い、健康に近い10週齢からブラジル産プロポリスを4週間摂取させた14週齢のラットで、12時間絶食後の血糖値およびインスリン値を測定し、インスリン抵抗性指数を算出。さらに、取り出した血管に電気刺激を与え、血管収縮反応を調査した。その結果、プロポリスを与えなかった対照群では、インスリン抵抗性指数が上昇し、インスリン抵抗性の状態へと変化していた。一方、プロポリスを与えた群では、インスリン抵抗指数が対照群と比較して有意に低く、改善が認められると共に、異常な血管収縮反応も抑えられていた。この結果からメタボリックシンドロームの予防効果も期待できると言える。

 また、同社ではこれまでにブラジル産プロポリスの予防的継続摂取によるインスリン抵抗性改善作用について、生活習慣により糖尿病予備群の状態へと変化することを想定したモデルラット(果糖水溶液を継続的に摂取させ、糖尿病予備群の症状を発症させるフルクトース負荷ラット)を使った試験でも確認。ローヤルゼリーについても同様に、OLETFラット、フルクトース負荷ラットそれぞれを使った試験で、予防的な継続摂取がインスリン抵抗性の状態を改善することが示されたという。

 これらは、2003年より山田養蜂場が岡山大学大学院の川崎教授と共同で取り組んできた、ミツバチ産品の糖尿病への有用性に関するラットを使った一連の研究成果であり、今回の実験結果が加わったことで、プロポリスとローヤルゼリーはどちらも、遺伝的な糖尿病リスクの有無に関わらず継続的に摂取することで、ラットのインスリン抵抗性の改善効果が得られることが明らかとなった。これらの研究成果は、薬学雑誌に論文発表されたという。(編集担当:山下紗季)

ご飯1日3杯の女性、糖尿病リスク1.5倍

2010年11月12日14時42分 読売新聞 Yomiuri On-Line

 1日にごはんを3杯以上食べる日本人女性は糖尿病の発症率が高いことが、国立がん研究センターなどによる6万人規模の追跡調査でわかった。

 12日、発表した。

 炭水化物を多量に摂取すると発症率が高まることは知られているが、米食と糖尿病との関連を大規模に調べたのは初めて。

 岩手や長野、茨城、沖縄など8県在住の45〜74歳の男女約6万人を対象に、1990年代初めから5年間にわたり追跡調査した。このうち1103人(男性625人、女性478人)が糖尿病になった。

 米飯の摂取量との関連を調べたところ、女性の場合、1日に茶わん3杯を食べるグループは、糖尿病の発症率が1杯のグループに比べて1・48倍に、4杯以上だと1・65倍になっていた。ただ、肉体労働やスポーツを1日1時間以上行うグループは、摂取量と発症率に目立った関連はなかった。

 男性の場合、女性に比べて摂取量との関連は小さいが、運動しない人の発症率は高まる傾向にあった。

 米を多くとる女性の生活習慣などが糖尿病を引き起こしている可能性もあり、今回の調査からは、米が糖尿病の原因になっているとは断定できない。データを解析した国立国際医療研究センターのチームは「米飯を含む食習慣全体をバランスよくすることが大切だ」と勧めている。

女性、ご飯1日4杯で糖尿病リスク高まる 男性は差なし 男女6万人調査で判明

2010.11.12 12:58 MSN産経新聞

 ご飯をたくさん食べる女性は糖尿病を発症するリスクが高いとの研究結果を国立国際医療研究センター研究所のグループが12日、まとめた。

 男女約6万人の調査結果で、1日4杯食べる女性のリスクは1杯程度の1・65倍、3杯だと1・48倍だった。ご飯にアワやヒエなどを混ぜない場合はリスクはより高かった。男性も同様の傾向だが、明確な差はなかった。1日に1時間以上の肉体労働や激しいスポーツをする人では、食べた量とリスクに関係はみられなかった。

 米を精白する過程で、糖尿病予防に良いとされる食物繊維やマグネシウムが失われることなどが影響しているとみている。炭水化物をたくさん食べると糖尿病リスクが高まるとの報告例は海外でもある。今回の研究で、パンやめん類では関連はなかった。

パナソニックヘルスケアが愛媛に新工場 血糖値センサー増産へ

2010.11.09 21:00 MSN産経新聞

 パナソニック子会社のパナソニックヘルスケア(愛媛県東温市)は9日、同市内に糖尿病患者向けの血糖値測定センサーを生産する新工場を建設し、平成23年4月から生産を開始すると発表した。

 新工場稼働により同センサーの生産量を現在の月産約3億枚から、24年度に約3億6千万枚に拡大。世界的に糖尿病患者が増加するとみて生産体制を強化する。

 血糖値測定センサーは、糖尿病患者が血糖値を把握し、体調を整えるために使われる。自分で採血して簡単に測定できるのが特徴。これまで東温市の既存工場と徳島県の工場で生産していた。

 親会社のパナソニックは、ヘルスケア事業を将来の重点分野に位置付けており、同事業の売上高を21年度の約1400億円から27年度には4500億円以上に増やす計画だ。

ヘパトカイン:肝臓に血糖上昇ホルモン 金沢大チーム発見、糖尿病治療に期待

2010年11月07日 毎日新聞 東京朝刊

 肝臓で作られるホルモンがインスリンの機能低下にかかわり、糖尿病などを引き起こすことを、金沢大病院の金子周一教授らの研究グループが発見した。このホルモンに「ヘパトカイン」と命名。米科学誌「セルメタボリズム」に掲載された。ヘパトカインの生成を抑制できれば、新たな治療法になると期待される。

 脂肪細胞には、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の効き目を低下させるなど生活習慣病を引き起こす物質がある。金子教授らは肝臓にも同様の物質があると推測。肝臓で生成され血糖値に関与するホルモン群を調べ、糖尿病患者の血中に、「セレノプロテインP」という分泌たんぱくが通常の1・5倍以上多いことが分かった。

 金子教授は「生活習慣病に肝臓がかかわるメカニズム解明がさらに進めば、新たな治療・診断の開発に貢献できる」としている。【近藤希実】

血糖値上げるホルモン、肝臓が作っていた

2010年11月07日09時09分 読売新聞

 金沢大学医薬保健研究域の金子周一教授らのグループは5日、肝臓が血糖値を上げるホルモンを作っていることを発見したと発表した。

 ホルモンを抑制することで高血糖を改善できることから、新たな糖尿病の治療、診断法の開発につながると期待される。研究成果は米国科学雑誌「セル・メタボリズム」に掲載された。

 金子教授らは、糖尿病患者の肝臓でホルモン「セレノプロテインP」が増えていることを発見。マウスにセレノプロテインPを打ち込むと血糖値が上昇しやすく、インスリンも効きにくくなることがわかった。さらに、肝臓でのセレノプロテインPの発生を抑えると、血糖値が改善されることも確認した。

 従来、内臓にたまった脂肪細胞が糖尿病などの生活習慣病を引き起こすと考えられていたが、今回の発見で肝臓からのホルモンも病気に関与している可能性が高まった。金子教授らは、セレノプロテインPなど肝臓由来のホルモンの総称として「ヘパトカイン」と命名した。

「世界糖尿病デー」に、疾患啓発イベントを開催 〜 テーマは「もっと知りたい糖尿病のこと、インスリンのこと」

2010年11月01日16時43分 asahi.com

「世界糖尿病デー」に、疾患啓発イベントを開催

〜 テーマは「もっと知りたい糖尿病のこと、インスリンのこと」〜

 サノフィ・アベンティス株式会社(本社:東京都新宿区代表取締役社長:ジェズ・モールディング、以下「サノフィ・アベンティス」)は、国連が定めた「世界糖尿病デー」の趣旨に賛同し、11月13日(土)・14日(日)の2日間にわたり、一般の方々および糖尿病患者さんとそのご家族を対象に、糖尿病の予防と治療の重要性の啓発を目的とした一般参加型イベントと、市民公開講座を東京・六本木で開催いたします。

 一般参加型イベントでは、2つのゾーンを設け糖尿病の予防と治療の重要性を啓発いたします。「糖尿病とインスリンに関する展示ゾーン」では、糖尿病とインスリンの知られざる歴史や、インスリンの驚くべき働きを分りやすく紹介いたします。「体験&測定ゾーン」では、無料の健康チェックや医師相談コーナーなどを実施し、楽しみながら糖尿病について学べる機会を提供いたします。

 またイベント2日目の11月14日(日)には、市民公開講座「より良い血糖コントロールをめざして〜もっと知りたい糖尿病のこと、インスリンのこと〜」を開催いたします。糖尿病の専門医である、渥美義仁先生(東京都済生会中央病院副院長)および山田悟先生(北里研究所病院糖尿病センター長)のお話を通じて、糖尿病やインスリン療法に関する、患者さんの日ごろの治療に関する疑問や不安を解決していただくことを目的としています。

 糖尿病は初期段階での自覚症状が少ないために、糖尿病であることの認識がない人や、気付いていても治療を受けていない人が少なくありません。サノフィ・アベンティスは、糖尿病の合併症である網膜症や腎臓疾患などによる生活の質(QOL)の低下を避けるためにも、早期発見・早期治療が重要と考え、2007年以来「世界糖尿病デー」に疾患啓発イベントを実施しています。本年も、イベント当日夕刻には、例年通りイベント会場にて世界糖尿病デーのシンボルカラーである「ブルー」のライトアップを行います。

 <世界糖尿病デーについて>

 拡大を続ける糖尿病の脅威を踏まえ、2006年12月20日、国連は、国際糖尿病連合(IDF)が要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を加盟192カ国の全会一致で可決しました。同時に、11月14日を「世界糖尿病デー」として指定しました。この日は糖尿病治療に重要な役割を果たすインスリンを発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したフレデリック・バンティング博士の誕生日に因んでいます。国際糖尿病連合(IDF)では、”Unite for Diabetes”(糖尿病との闘いのため団結せよ)というキャッチフレーズと、国連や空を表す「ブルー」、そして団結を表す「輪」を使用したシンボルマークを採用。全世界での糖尿病抑制に向けたキャンペーンを推進しています。11月14日は国連および主要国でさまざまなイベントが開催される予定です。日本国内でも、札幌時計台、東京都庁、名古屋城、東寺五重塔、福岡タワーなど全国各地のランドマークを、糖尿病撲滅のためのシンボルカラーの「ブルー」にライトアップし、糖尿病の予防を呼びかけます。

 <ヘモグロビン・エー・ワン・シー (HbA1c)について>

 赤血球の中に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、検査日から過去1〜2カ月間の平均血糖値を反映する血糖コントロールの指標です。2010年7月1日より、糖尿病の診断基準として「HbA1c≧6.1%(JDS値)[HbA1c(国際基準値) ≧6.5%]」が加わりました。血糖値とは異なり、検診前の食事摂取などの影響を受けないHbA1c値は、糖尿病の診断・治療の指標となり、病気の経過を観察するのに役立ちます。合併症予防のためには定期的な測定が重要だといわれています。

 <サノフィ・アベンティス株式会社の糖尿病領域への取り組み>

 サノフィ・アベンティスは、日本において経口血糖降下剤とインスリン製剤を提供する唯一の製薬企業です。経口血糖降下剤の主力製品として、2型糖尿病に使用されるスルホニルウレア系経口血糖降下剤(SU剤)「アマリール(R)」 (一般名:グリメピリド)と、1型および2型糖尿病を対象とする持効型溶解インスリンアナログ製剤の「ランタス(R)」(一般名:インスリングラルギン[遺伝子組換え])および超速効型インスリンアナログ製剤「アピドラ(R)」(一般名:インスリングルリジン[遺伝子組換え])を提供しています。サノフィ・アベンティスは2008年より、日本糖尿病協会の発展に寄与し、顕著な功績をあげた日本糖尿病協会の会員およびその関係者を表彰する、日本糖尿病協会「サノフィ・アベンティス賞」を後援しています。また、糖尿病の患者さんや一般の方に向けて、糖尿病の情報ウェブサイト「糖尿病がよくわかるDM Town」(www.dm-town.com)を開設して情報提供を行っています。サノフィ・アベンティスについては、ウェブサイト(www.sanofi-aventis.co.jp)をご覧ください。

 タイトル: 「2010年世界糖尿病デー啓発イベント 〜もっと知りたい糖尿病のこと、インスリンのこと〜」

 日 時: 11 月13 日(土) 13:00〜17:00 11 月14 日(日) 11:00〜17:00

 場 所: 六本木ヒルズ 大屋根プラザ/東京都港区六本木6 丁目

 対 象: 一般の方

 プログラム(予定):

 ■ 糖尿病とインスリンに関する展示ゾーン その発見から来年で90年を迎えるインスリンの歴史や、その驚くべき働きを紹介しています。また、糖尿病のインスリン療法について、痛みも少なく簡便になったインスリン注射器の進化の過程などを学ぶことができます。

 ■ 体験&測定ゾーン

 健康チェック(1.糖尿病診断の重要な指標である『ヘモグロビン・エー・ワン・シー(HbA1c)』の測定、2.血圧、コレステロール値の測定、3.健康状態をチェックできる体組成計による測定、4.血管年齢の測定)、また医師相談コーナーがございます。

 タイトル: 糖尿病市民公開講座

 「より良い血糖コントロールをめざして 〜もっと知りたい糖尿病のこと、イ

 ンスリンのこと〜」

 日 時: 11月14 日(日) 13:00〜14:40

 場 所: ベルサール六本木1 階 HALL A&B(東京都港区六本木7-18-18 住友不動産六本木通ビル1階)

 対 象: 糖尿病の患者さんとそのご家族(定員 250名)

 プログラム(予定):

 ■ 糖尿病専門医による講演

 糖尿病やインスリン療法について、専門医の先生によるお話を通じて、糖尿病患者さんの日ごろの治療に関する疑問や不安を解決していただくことを目的とした市民公開セミナーです。

 ・ 渥美 義仁先生 (東京都済生会中央病院 糖尿病臨床研究センター センター長)

 ・ 山田 悟先生  (北里研究所病院 糖尿病センター センター長)

 ・ 小出 景子先生 (東京都済生会中央病院 糖尿病臨床研究センター 薬剤師)

 ・ 司会進行: 草野 満代さん(フリーアナウンサー)

 一般の方のお問い合わせ先: 株式会社 ビッグウェイブ内「saKK世界糖尿病デーイベント」事務局

 TEL:03-5545-1353 Eメール:wdd@big-wave.co.jp.(提供:PR TIMES)

カロリーゼロ、血糖値抑制…希少糖甘味料発売へ

2010年10月27日 読売新聞

血糖値の上昇を抑える効果もあるという希少糖の甘味料

 香川県や香川大などが産官学で研究を進めている希少糖を使った甘味料が来年度、発売される。県内外の食品会社など3社が設立した新会社「レアスウィート」(三木町)が販売。カロリーはゼロに近く、血糖値の上昇を抑える効果もあるといい、厚生労働省の「特定保健用食品」にも申請した。

 県内の製薬会社などが設立した企業「希少糖食品」(丸亀市)と健康食品を手がける松谷化学工業(兵庫県伊丹市)、香川大の研究者らによる希少糖生産技術研究所(三木町)の3社。

 果糖から生産される希少糖の一種「D―プシコース」を、通常の7割程度と甘さを控えた粉末甘味料に仕上げた。レアスウィート社によると、健康な人と糖尿病患者ら計60人に1日5グラム以上摂取してもらうと、食後の血糖値が平均で約2割下がったという。

 県特産の和三盆に続く新名物にと「さぬき新糖」と命名。1袋5グラム200円程度にし、来年度の早い時期に、県内で先行販売する。同社は「薬と違って副作用などの心配はなく、コーヒーや料理などに手軽に使えて血糖値を制御できる。2016年には関連商品と合わせて年商16億円を目指す」としている。

糖尿病:父の高脂肪食で娘は予備群 ラットで生活習慣影響実証、豪研究チームが発表

2010年10月22日 毎日新聞 東京夕刊

 父親ラットが脂肪分の多い餌を摂取していた場合、生まれた子ラットの雌は血糖値を下げるホルモン「インスリン」を出す細胞に異常が見られ、糖尿病予備群の状態になることを、豪州の研究チームが突き止めた。遺伝的要因ではなく、父の生活習慣が子の糖尿病の発症、進行に結びつくことを示した研究は初めてだという。21日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載された。

 研究チームは雄ラットを生後4週目から高脂肪食、普通食の2群に分け、14週目に普通食で飼育した雌と交配。高脂肪食の雄は普通食群より約3割体重が重く、インスリンの効きが悪く血糖値が下がりにくいなど糖尿病予備群の状態になった。

 父親が肥満や糖尿病だと、生まれた娘も肥満などになりやすいという先行研究を参考に、研究チームは雌の子ラットだけを対象に比較。体重や空腹時の血糖値に違いはなかったが、高脂肪食ラットを父に持つ雌は、普通食ラットを父に持つ雌と比べ、生後6週目から食後の血糖値が上がりやすく、インスリンの分泌も少なかった。インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)のβ細胞を調べると、β細胞の占める面積が減り、特に大きめのβ細胞の数が減っていた。

 父親の高脂肪食が雄の子に与える影響はまだ不明だが、研究チームは「糖尿病の発症や世界的な患者増加といった問題に関して、父親の役割の重要性を示唆する結果だ」としている。【大場あい】

“口は災いの元” 歯周病菌 糖尿病などのリスクに

2010.06.16 07:47 MSN産経新聞

歯磨きの方法は人それぞれ違うため、歯科医院での指導が望まれるという=東京都杉並区の井荻歯科医院(草下健夫撮影)

 歯の健康維持に歯磨きが大切なのは当然だが、自分の歯に合った正しい磨き方を知らない大人も少なくないようだ。専門家は「大人は虫歯に加え、歯周病にも注意を払うべきだ。軽視すると歯の病気だけでなく、糖尿病など体のさまざまな病気の引き金にもなる。これぞ“口は災いの元”」と警鐘を鳴らす。(草下健夫)

怖い「隠れ虫歯」

 日本歯科医師会の昨年の調査によると、「歯科健診を受けている」人は不定期を含めて20〜69歳の36・7%にとどまった。予防歯科医学に詳しい鶴見大学歯学部の花田信弘教授は「子供のときには磨き方の集団指導を受けるが、大人は生活や口の状態がさまざまなので、一律の磨き方は言えず、歯科医による定期的な個別指導が必要」と説明する。

 まず注意したいのは、菌が集まった膜「バイオフィルム」が歯にかぶさり、磨ききれない10%ほどの部分だという。

 唾液(だえき)はカルシウムやリン酸を十分に含んだ“液体の歯”で、歯と唾液が接していれば歯の表面は中性に保たれて虫歯にならない。ところが、「ミュータンスレンサ球菌」(虫歯菌)と食べ物の糖を基に酸性のバイオフィルムができ、歯を覆う。すると、歯からカルシウムやリン酸が溶け出し、初期の虫歯になる。「歯科衛生士がバイオフィルムを3カ月に1度程度取り除くことが望まれる」と花田教授。

 虫歯予防に活用されるフッ化物は、歯を溶けにくくするなどの効果がある。花田教授は「フッ化物は歯の表層のエナメル質には効く。ただしバイオフィルムがあると、時間をかけてエナメル質の中の象牙質に“隠れ虫歯”ができる。見た目には分からないまま、まるでシロアリに食われた床下のようにスカスカになり、いつかバリッと壊れてしまう」。歯をしっかり磨くことと、フッ化物を使うことの両方が大切だ。

■血管老化も進む

 「8020運動」などで高齢者でも自分の歯が残るようになった分、歯の健康管理がますます重要になる。歯周病で歯肉が下がった所にできる虫歯「根面齲蝕(こんめんうしょく)」にも注意してほしいという。

 また、花田教授らの近年の研究で、「歯周病菌は口から血管に入りやすく、血管の炎症を起こし、メタボリックシンドロームと同様に血管年齢を上げる」ことも明らかになってきた。歯周病菌を基にできる物質「TNF−α」が細胞に結合すると、血糖値を下げるはずのインスリンが効かず、糖尿病につながるという。

 体のさまざまな病気との関連で、喫煙や飲酒、ストレスや栄養摂取の問題が言われている。「歯周病もまた、がんや呼吸器系疾患、心臓血管疾患、肥満、糖尿病、アルツハイマー型認知症のリスクにつながる」(花田教授)

 歯周病を治療すると、血管年齢が戻っていくとのデータがある。こうしたことからも花田教授は「歯科分野でも、もっとこれらの病気の予防に取り組むことができる」と提言する。

               ◇

 ■歯の“4面”を意識して

 厚生労働省の平成17年歯科疾患実態調査によると、毎日歯を磨く人は96・2%。1日2回が49・4%などと複数回磨く人の割合が増え、歯の健康への意識の高まりが伺える。

 ただ、回数だけでなく磨き方も重要だ。花田信弘・鶴見大学教授は最低限実行してほしいこととして、「歯科医が個別に指導する方法で、1日1回は時間をかけてじっくり歯磨きを。例えば、入浴中や新聞を読みながらなど、うまく習慣化してほしい。歯の表裏しか磨かない人が多いが、歯周病を防ぐため、歯間ブラシやデンタルフロスを併用して歯と歯の間の2面を含め、4面を磨いてほしい」とアドバイスする。

適度の飲酒、糖尿病のリスク減らす可能性

2010.05.26 12:34 MSN産経新聞

 健康な成人が1日にグラス1−2杯のアルコール飲料を摂取した場合、まったく飲酒しなかった人と比べて、特定の糖尿病の罹患率が低いとするオランダでの研究結果が25日明らかになった。

 研究は、オランダ国立公衆衛生環境研究所と同国の複数の科学・医学関連の研究施設が、主に40歳以上の人々がかかる「2型糖尿病」に焦点を当て、成人3万5000人を対象に10年間にわたって実施。

 その結果、健康的な生活に加えて適度の飲酒を続けた人たちは、アルコールを完全に控えた人々と比べて2型糖尿病にかかる割合が40%低かった。

 同研究では「適度な飲酒」量について、女性の場合は1日最大グラス1杯、男性の場合は同2杯と定義している。また「健康的な生活」については、バランスの取れた食生活と適度な運動を行うこと、肥満を予防し喫煙をしないこととしている。(ロイター)

生活習慣病に安心外食

2010年04月08日 asahi.com

「ル・プラティーヌ」のヘルシーグルメランチ

 フレンチ、和食、お好み焼き――。高血圧や糖尿病といった生活習慣病の人も、安心しておいしく食べられる「ヘルシーグルメ」の提供店が増え始めている。2年前に呉市の開業医らが提唱し、広島市内では今春、新たに3店が協力。尾道市でも連携の動きが出てきた。関係者は「健康志向のヘルシーグルメを、全国発信したい」と意気込む。(中川正美)

 普及に取り組んでいるのは、呉市内の開業医で日本高血圧学会専門医の日下(くさか)美穂院長。市内の飲食店と協力し、塩分2〜3グラム、400〜600キロカロリーに抑えたヘルシーメニューづくりを提唱する。「こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉」と名付けた企画に40店近くが賛同し、それぞれ独自に考案した、おいしい健康料理を提供している。

 広島市内では昨年7月から、ANAクラウンプラザホテル広島内の「ル・プラティーヌ」がヘルシーグルメランチ(3千円、予約不要)をメニューに加えた。黒越勇(くろ・こし・いさむ)・総料理長(57)は「なるべく地元の魚や野菜を使い、だしのうまみと素材のバランスを工夫した」と話す。農協の団体客などから予約が入り、「ヘルシー料理づくりのコツを教えて」という女性客も多いという。

 広島大学循環器内科も賛同。同科の木原康樹教授と、広島市西区で開業する大島哲也院長(56)が「in広島」の代表になり、市内の各店に協力を呼びかけている。これまでに、中区上八丁堀のアーバンビューグランドタワー12階「レストラン シマムラ レスプリ・ド・ミクニ」(島村光徳(みつ・のり)さん経営)のほか、西区己斐本町の手打ちそば「はっぴ」(菊池幸治さん経営)とお好み焼き「福ちゃん」(福田真士さん経営)も提供店に加わった。

 オーナーシェフを務める島村さん(37)は「フランス料理も時代とともに『軽さ』が求められている。皿に多品目の素材をのせ、見た目に満足感を得られるようにしている」といい、ヘルシーグルメコース(4500円、要予約)で30〜50品目の野菜が味わえるようにした。同ビル1階の系列店「グランカフェ」でも千円程度のヘルシーワンプレートランチを準備中だ。

 メニューは事前に病院の栄養管理室で塩分や総カロリー、たんぱく質、脂質を計算し、基準にあったものを提供。協力店には日本高血圧学会など推奨のステッカーを配っている。尾道市でも今月から、医師らがヘルシーグルメ提供の働きかけを始めた。

 日下院長は「医学的な根拠に基づき、おいしい健康食を提供する。呉発信の企画を全国的な規模に広げて、国民の食の意識改革につなげたい」と話す。広島市内の参加協力など問い合わせはFAXで「大島内科循環器内科」(082・271・4192)へ。

糖尿病人口 中国が世界トップ

2010.04.05 Sankei BIZ

 中国の糖尿病人口がインドを抜き世界第1位になった。3月25日付の医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表された報告によると、高カロリーの食事や運動不足などが原因とされる2型糖尿病の中国における患者数は9240万人で、インドの5080万人を上回った。前回の調査では中国は4320万人だった。

 報告によると、中国の糖尿病患者の約半数が医師の正式な診断を受けていないという。治療の遅れは脳卒中や心臓発作を引き起こすリスクを増大させる。世界保健機関(WHO)と世界経済フォーラムが2008年に発表したリポートでは、中国は05年から15年の10年間で、糖尿病と心臓病の影響により国民所得が5580億ドル(約52兆8000億円)減少すると見積もられている。

 調査報告を執筆した北京中日友好病院のヤン・ウェニング内分泌学部長によると、高齢化や都市化、食生活の変化や運動量の減少などが、中国の糖尿病人口の急速な増加に寄与している。報告によると、糖尿病人口は都市部の方が多く、その数は地方の約1.4倍に上る。

 中国医師学会のゾン・ナンシャン会長は「中国経済が急速に成長するにつれて、病気の蔓延(まんえん)も急速に拡大している。これはかつて欧州や米国で起こった現象と似ている。国民の生活習慣を改善する取り組みとともに、人口あたりの医療スタッフ数を増加させる必要もある」と述べた。(ブルームバーグ Jason Gale)

カロリー制限か、糖質制限か

2010年03月31日 読売新聞 Yomiuri-On Line 鎌田實の見放さない・ブログ

 先週、社内を歩く社長の話を書いた。ウォーキングが自分の健康のためだけでなく、社員とコミュニケーションをとるために役立ったことで、ウォーキングを習慣にすることができた。

 糖尿病では、運動療法とともに食事療法のすすめ方が重要になる。食事療法も、その人の生活スタイルに合い、続けられる方法をアドバイスすることが重要になる。

 社長には3人の息子がいた。長男と三男が糖尿病であった。

 三男は、重い糖尿病だった。糖尿病の教育入院を何度もして、病気や治療についての意識付けを行った。栄養士が計算して作ったカロリー制限食を実際に食べてもらいながら、食事療法について理解してもらうよう、丁寧に指導した。三男は意志も強く、カロリー計算の仕方もすぐに理解したが、半年も続かなかった。

 三男は、父親の会社で営業を担当していた。接待のために飲む機会も多かった。本人も酒が好きで強かった。カロリー制限をしなければならないことは、本人もよくわかっていたが、結局、仕事上、カロリーをコントロールすることができなかったのだ。

 このときに患者さんを責め、カロリー制限するようにさらに努力させても、結局は長続きしないことが多い。できるだけ本人に負担のない形で、受け入れやすい方法を考えることが重要だと思う。

 ぼくは、彼に糖質制限食をすすめた。糖質つまりパンやご飯など、炭水化物を制限する方法である。この方法は、すべての糖尿病患者に有効というわけではない。ただし、カロリー制限食がうまくいかない人の場合、試してみるのもいいと、ぼくは思っている。

 ちなみにぼくも、糖質を少し制限する方法で効果を実感している。ぼく自身は糖尿病ではないが、幼いころに生き別れた実の父が重い糖尿病だったと聞いている。糖尿病の遺伝子をもつ可能性が高いので、発病しないように、食事と運動には注意してきた。

 アメリカ、ヨーロッパでも低炭水化物ダイエットが推奨されはじめている。肥満予防だけでなく、糖尿病にも効果があることがわかってきた。

 糖質制限食では、日本酒やワインはいけないが、焼酎やウォッカなどの蒸留酒は制限の対象ではない。肉や魚は食べてもいい。フランス料理のフルコースも、パンやごはんに手をつけず、スイーツを残せば、ほぼOKだ。

 この方法は、接待でお酒や食事をとることが多い三男にはぴったりはまった。酒の席でも、酒の種類を選べば飲むことができる。食事も、糖質さえ気をつければ、おいしいものを我慢せずにすむのだ。

 この方法で、糖尿病のコントロールが一気にうまく進んだ。

 しかし、東京の人間ドックで、ドック医から糖尿病の糖質制限食は、学会では認められていない、危険だと言われ、動揺した。その結果、カロリー制限食か、糖質制限食か、迷い、どっちつかずになった。いちばんよくないのは、糖質制限食の「フランス料理のフルコースでもOK」というところだけが頭に残り、しっかりパンやライスを食べた。糖質制限にもならず、しかもカロリーもオーバーしてしまったのである。

 こういう人はけっこういる。みんな「食べたい、飲みたい」という誘惑に負けて、都合よく理論を解釈し、元の生活に戻ってしまう。

 三男も、一度はよくなった糖尿病が、急激に悪化してしまった。もう一度、基本的な理論を理解してもらう必要があると思った。

 諏訪中央病院では、患者さんや一般の人を対象に、講師を呼んで健康について話してもらう「ほろ酔い勉強会」を開いている。もともと諏訪中央病院にある東洋医学センターの、漢方を専門とする長坂医師が糖質制限食を取り入れていたが、外部講師を呼ぶことにした。外部の人の話を聞くと行動変容が起こることがある。これは意外に大事なヒントだ。高雄病院理事長の江部康二先生に講師をお願いした。

 基本的な理論に立ち返り、我流を捨てることで、三男の糖尿病は再びうまくコントロールできるようになった。あれから2年経つが、三男は糖質制限によって、糖尿病をうまくコントロールしている。

 どんなにすばらしい理論も、続けられなければ意味がない。その人に合った方法を発見してはじめて「行動変容」は成功する。

食前の運動より「食後の運動」

2010年03月31日 読売新聞 Yomiuri-On Line

視的!健康論 〜眼科医坪田一男のアンチエイジング生活〜 

 ランチの後にもトランポリンで血糖値を下げるようにしている 糖尿病予防において、血糖値を上げたまま寝てしまうのは、もっとも避けたいことだ。

 夜8時以降に食べないことは大事。しかし今の生活でこれはなかなか難しい。それでも9時を過ぎたら、心を鬼にして絶対食べない。会合などでそんな時間になったら、サラダなどに軽く手をつけるだけにする。どうしても食べてしまったら、走る。

 食後に軽い運動をすると、血糖値がすぐに下がる。僕は、夕食後に軽くジョギングマシーンで走るか、トランポリンを5分飛ぶ。これでかなり血糖値を下げることができる。

 「汗をかいたあとのビールは最高!」なのは僕もよーくわかるんだけど、健康には最低なのだ。

 「食事のあとの汗は最高!」と心から言えるようになれば合格!である。

〈55〉食後高血糖 動脈硬化進める

2010年03月30日 琉球新報

 私は昨年10月1日、勤務医から開業医に変わりました。現在私のクリニックに通院していただいている患者さんの内訳は、高血圧の方7割、高脂血症3・6割、心筋梗塞(こうそく)、狭心症3割、糖尿病2割(重複しています)となっています。患者さんの5人に1人が糖尿病です。循環器の医者が高血圧、心臓病だけではなく糖尿病などの代謝性疾患も診療するのは糖尿病が動脈硬化の進行に大きな影響を与えており、60歳以上の7から8人に1人が糖尿病といわれるくらい一般的な病気になっているからです。

 糖尿病はただ単に血糖値が高くなるという病気ではなく循環器の立場から見ると全身の血管に動脈硬化を起こし脳卒中、心筋梗塞、腎不全、網膜症などの原因となる血管の病気ということになります。高血糖が血管を傷つけ動脈硬化を進めます。特に食後の高血糖の害が大きいことが知られています。空腹時の血糖は良くても食後の血糖値が高い場合があり、これを¬隠れ糖尿病」と呼んでいます。食後の高血糖を治療しなければ動脈硬化の予防にはなりません。ですから病院での血糖検査も2回に1回は食後2時間の血糖を測定してもらいましょう。

 また糖尿病は遺伝と関係があります。親が糖尿病の場合、その子供がある条件に置かれればほぼ間違いなく糖尿病になります。その条件が何かといえば肥満です。たとえば内臓、肝臓、筋肉などの臓器に脂肪が増えると、肝臓、筋肉での糖の取り込みが低下し食後高血糖になります。この高血糖が悪さをして悪循環がはじまるのです。

 現在糖尿病といわれていなくても、将来のことはわかりません。糖尿病にならないためには太らないような食事のとり方を実践してください。また太っている人はメタボリック症候群になっていないかどうか、隠れ糖尿病になっていないかどうかの確認が必要です。次のような方々には積極的に病・医院への受診をお勧めします。親、兄弟が糖尿病といわれている人、太っている人(BMI25以上)、多忙でストレスがありそのため過食で運動不足の人―です。(比嘉耕一、ひがハートクリニック)

日本初!糖尿患者のための専門旅館「緑の館」3月オープン 〜 年々増える糖尿病患者を対象に 〜

2010年03月24日 asahi.com
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- 糖尿病と健康作りの宿「緑の館」(所在地:三重県津市、代表者:堀 京子)がこの春、三重県にオープンしました。

■糖尿病と健康作りの宿「緑の館」について

 2010年3月現在では日本初の、糖尿患者を専門に扱う、滞在型研修専門の旅館です。 年々患者数が増加傾向にある糖尿病の改善に役立ててもらおうと、1泊3食付きという珍しいサービス体系が特徴的です。 専門のトレーナーが付き一緒に運動をしてくれ、食事はシェフが食事療法に則した料理を提供いたします。 さらに糖尿専門医を呼んでの勉強会の開催など、糖尿患者にとって必要なことが盛りだくさん。

まだオープンから間もないですが、マスコミの方からの取材を多数受けさせていただいています。

■オープンのきっかけ

 近年、日本を始め中国、カナダなど世界各国で糖尿病の患者が増加傾向にあります。厚生労働省の2008年国民健康・栄養調査によると糖尿病が強く疑われる人は約820万人、糖尿病の可能性が否定できない人との合計は約1,870万人と、4年前の調査結果を約250万人上回る結果となっています。

そして一度糖尿病になってしまうと気軽に旅行に行くことは出来ず、糖尿患者は大変不自由な思いをしています。

「緑の館」はそのような時代背景の中、糖尿病の方にも気軽に旅行を楽しんでもらい、「緑の館」だけではなくどこへでも気兼ねなく旅行へ行けるよう、元糖尿病患者でもある代表の堀が日本初の糖尿専門旅館としてオープンする運びとなりました。

■今後の展望

 これから、日本でもこのような糖尿病の方への専門的なサービスは増えていくと思われます。

「緑の館」では2011年、9月までに来訪者数1千人を目指し、糖尿病の方への改善・支援サービス事業を展開していきます。

■会社概要 旅館名   :「緑の館」 所在地   : 〒514-0815 三重県津市藤方2255-3 電話番号  : 059-253-6547 代表者   : 堀 京子 ホームページ: http://midorinoyakata-yado.com/

糖尿病ツアー 10人が検診 徳大病院、外国人初受け入れ

2010/03/22 徳島新聞

 糖尿病検診と徳島県内の観光を組み合わせた医療観光で国内外の観光客誘致を目指す県が企画したモニターツアーで、20日に中国・上海市から来県した糖尿病患者らが21日、徳島市内の徳島大学病院で検診を受けた。同病院が外国人の検診を受け入れるのは初めて。

 ツアー参加者27人のうち、糖尿病患者や旅行業者ら10人が3組に分かれて受診。血圧や腹囲を測った後、CTや血管の状態を検査する機器を使って内臓脂肪量や動脈硬化の有無を調べた。検診後には医師が一人一人に数値を説明し、生活習慣の改善などを指導した。

 6年前に糖尿病を発症し、ツアーの行程の中でも検診が一番の楽しみだった秦文秀さん(73)は「医師の知識、職員の応対、病院の施設のどれもが中国より優れていた。観光を楽しんで健康増進にも役立つ医療観光は素晴らしい」と話した。

 検診前に会見した同病院の香川征病院長と松本俊夫糖尿病臨床・研究開発センター長は「県を挙げて糖尿病克服に取り組む中で、外国人の受け入れ体制が整った。今後はインターネットを活用したり、上海の病院と連携したりして、帰国後の患者に対する指導体制も確立したい」と話した。

 徳島市内の阿波観光ホテルでは、ツアー参加者と県内の医療や観光関係者との交流会もあった。県調理師会と県栄養士会が開発した、県産食材を使って1食650キロカロリー以下に抑えた和洋中3種類のヘルシー料理が披露され、参加者が試食した。

頬(ほお)スワブによるDNA検査で最適なダイエット法の選択が可能に

2010年03月18日 健康美容EXPOニュース

 減量するには炭水化物を減らすべきか、それとも脂肪を減らすべきか。頬(ほお)スワブを用いたDNA検査で最も有効なダイエット法が判明する可能性が、新しい研究によって示唆され、米サンフランシスコで開かれた米国心臓協会(AHA)の2010年栄養・運動・代謝会議で報告された。

 米スタンフォード大学(カリフォルニア州)のMindy Dopler Nelson氏らは今回、2007年の研究データを使用。同氏らは、過体重または肥満の女性138人を、1年間、アトキンス法(超低炭水化物食)、ゾーン法(低炭水化物食)、オーニッシュ法(超低脂肪食)または医療従事者のダイエット(米国農務省の食品ピラミッドに全般的に従った低脂肪食)という4種類の人気の高いダイエット法のいずれかに割り付けた。

 また、頬の内側からDNA検体をスワブにより採取し、遺伝情報を用いて“遺伝子型に合う適切な”ダイエット法に割り付けた。その結果、遺伝子型に基づく適切なダイエット法群の12カ月目の体重減少は、不適切なダイエット法群の2〜3倍であった。最も極端なダイエット法のみ(アトキンス式対オーニッシュ式)を検討した結果はより顕著で、適切なダイエット法群の体重減少は不適切なダイエット法群の約5倍であった。

 また、適切なダイエット法群ではHDL(高比重リポ蛋白)コレステロールの改善や有害なトリグリセリドの減少もみられた。Nelson氏は「ダイエット法の種類による体重減少差はさほどでなかったが、特定のダイエット内の体重減少差は劇的であった。遺伝的特質をみれば、特定のダイエットよりもダイエットへの個人の反応が大きいことがわかる。遺伝子型を知ることは減量プロセスを助ける新たなツールの1つである」と述べている。

 DNA検査を開発したインターロイキン・ジェネティックInterleukin Genetics社(マサチューセッツ州ウォルサム)のLew Bender氏によれば、肥満に関与すると考えられる何百もの遺伝子から、複数の臨床研究で体重管理に役割を果たすとされている3つの遺伝子、脂肪酸結合蛋白(たんぱく)2、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(ガンマ)、β(ベータ)2アドレナリン受容体を同定したという。別の専門家は「これらの遺伝子多型が熱量バランスに影響する可能性があるという考えは科学的に興味深い。ただし、ダイエット成功の最も重要な予測因子はコンプライアンスである」と指摘している。DNA検査の価格は149ドル(約1万3,400円)。(HealthDay News 3月3日)

僕って糖尿病だったの!?

2010年03月18日 読売新聞 Yomiuri-On Line

視的!健康論 〜眼科医坪田一男のアンチエイジング生活〜 

 白いご飯を食べなくなって久しい。ご飯は大好きだったから、以前はお昼に好物のおにぎりや鉄火丼をよく食べていた。とくにおにぎりは仕事をしながらでも食べられるし、時間の節約にもなって、しかも美味しい重宝する食べ物だった。

 2004年の春、病院職員の健康診断があり、その結果をみてびっくり! 血糖値が200mg/dlを超えていた。

 ええーっ、これって糖尿病じゃないの!まさに寝耳に水というかんじだった。

 その頃、すでに僕はアンチエイジングを始めていて、週に3回はプールで泳いだり、運動量も以前より増やしていた。体重も学生時代とかわらずにキープ。BMI値(ボディーマス指数:肥満度を表す数字)も、22の理想値をキープ。腹筋も鍛えていたから、しっかりお腹に割れ目もできていた。「人生はアンチエイジングだ!」と公言していたその僕がなんで???という頭の周りに疑問符が100個くらい浮かんでいるかんじである。

 健康診断の日のことを思い出してみた。

 部屋でお昼を食べおわってから、健康診断にいった。そうか、食後だったのだ。何を食べたっけ? そうだ、鉄火丼だ!

「毎食後に自分で血糖値を測定。食後の血糖値を知ることがとても大事。この頃はまだドライアイが治っていなくてドライアイメガネをいつもかけていた。」 それから、自分でできる血糖値測定器を買って、毎日、食後30分、1時間、2時間、3時間と血糖値を測定して記録した。

 何を食べると血糖値が高くなるのか、徹底的に調べた。それでわかった。

 白いご飯をたくさん食べると血糖値が高くなるのだ。

 そうか、アンチエイジングの師匠のテリー先生の本に書いてあったとおりだ。「精製された穀類、すなわち白いご飯、白いパン、小麦粉、うどんは、血糖値を急激に上げやすい」。

 目からウロコの僕だったのである。

GI値の重要性

2010年03月21日 読売新聞 Yomiuri-On Line

視的!健康論 〜眼科医坪田一男のアンチエイジング生活〜 

ある日のお昼。ランチメニューも野菜中心の食事に変更  さて、食後の血糖値を徹底的に測ってみて、白いご飯で血糖値が急激に上がってしまうことに気づいた僕は、大好きなご飯やパンを最小限に控えることにした。それからのランチは、サラダ、フルーツ、牛乳。(最近は牛乳も少量にしています)

 食品ごとの血糖値を上がる度合いをあらわしたものが、GI値である。

 グリセミック・インデックスといい、ブドウ糖を100として、たとえば白飯なら80以上、玄米ご飯は50、バナナは60、りんごは30、というかんじだ。数値が低いほど、血糖値の上昇がゆるやかということである。

 食事で、カロリーや脂質の量も大切だが、このGI値もすごく大事である。一番大事といってもいいかもしれない。

 とくに、日本人は欧米人に比べて、膵臓が脆弱だといわれている。膵臓はご存知のように、糖を吸収するためのインスリンを分泌する大切なところだが、それなのに、食文化としては白飯やうどん、おもちが好きな民族だ。だから、膵臓が酷使され、疲弊してしまい、インスリンの出がわるくなってしまう。また、インスリンが出ていても、その働きを助ける機能が追いつかずに、血糖値が高くなってしまう。そして糖尿病、および糖尿病予備軍が増えてしまうのだ。

 糖尿病は、万病のもとである。「糖尿病=老化」といってもいいだろう。また、糖尿病は血管をぼろぼろにして、失明や、腎不全などを招き、個人の生活の質を著しく下げるうえに、日本の医療経済にも大きな負担となってくる。

 糖尿病を予防することは、個人のためにも、社会のためにも大変重要なことなのだ。

糖尿病を予防する食べ方=アンチエイジングな食べ方

2010年03月26日 読売新聞 Yomiuri-On Line

視的!健康論 〜眼科医坪田一男のアンチエイジング生活〜 

 というわけで(前回より続き)、『糖尿病を予防する食べ方=アンチエイジングな食べ方』ということができる。

 具体的な方法は

 (1)GI値の低い食材を選ぶ。

 (2)色の濃い(もちろん自然の色)食品を選ぶ。白いものは避ける。

 (3)野菜や酢の物(繊維質) → タンパク質 → 炭水化物 の順で食べる。

 (4)まるごと食べる。

 (5)ゆっくり、よくかんで食べる。

 (6)少量のお酒はOK。お水やお茶と交互に飲む。

 (7)夜8時以降(できれば6時以降)は食べない。

 (8)食後に軽い運動をする。

 以上を心がければ、糖尿病はかなり予防出来るはずだ。

 (1)はすでに書いてきたとおり、基本中の基本。じゃがいもと、サツマイモなら、サツマイモのほうがGI値が低い。柿の種のおせんべいとピーナツなら、ピーナツのほうがGI値が低い=坂上みきさんとの対談記事を参照してください=。

 (2)は、たとえばご飯なら、白飯はなるべく控えて、玄米や雑穀入りのご飯にする。パンも真っ白な食パンやフランスパンより、胚芽入りの黒っぽいパンがいい。白いものは精製の過程で、大事なビタミンやミネラル、繊維をみんな排除して糖質だけにしてしまっているのだ。

 (3)は、「胃に芝生を敷く」などともいわれるが、繊維質のものを先に胃に入れると、血糖値の上がり方がゆるやかになる。

 (4)の「まるごと食べる」というのは、たとえば、魚などは、大きな魚の切り身よりも、じゃことか、あじとか、ししゃもとか、小魚を頭から丸ごと食べると、栄養バランスがよいし、血糖値も上がりにくい。

糖尿病(上)

2010年03月17日 読売新聞 Yomiuri-On Line

金沢社会保険病院 代謝・糖尿病センター 浅野昭道センター長

半世紀で患者数30倍に

 わずか半世紀で患者数が30倍以上になった病気をご存じでしょうか。それは、がんでも心筋梗塞や脳卒中でもなく糖尿病です。日本の糖尿病患者数はすでに890万人、予備軍を合わせると2200万人と推定されています。成人人口の22%に相当し、欧米の比率と同程度以上です。

  なぜこんなことになったのでしょう。そもそも日本人は血糖を調節するホルモンであるインスリンをつくる力が欧米人の約半分と少なく、糖尿病になりやすいのです。戦前までは穀類を中心とした食事であまり脂肪を摂取せず、少ないインスリンで血糖を正常に維持できていました。

  ところが、ここ数十年で日本人の生活様式は欧米化しました。食生活では一日当たりの摂取カロリー数に大差はないものの、動物性脂肪摂取が増えました。身体に余分な脂肪がつくと、インスリンの効きが低下します。これをインスリン抵抗性といい、抵抗性が強くなると血糖値を維持するためにより多くのインスリンをつくる必要が生じます。しかし、インスリンをつくる力が弱い日本人は早々に血糖値が上がってしまうわけです。

  糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気です。放置すると慢性合併症を引き起こすだけでなく、ときに深刻な高血糖状態を招きます。これを糖毒性と呼びます。糖毒性は一般に早朝空腹時血糖値が250mg/dl以上の時にみられます。のどが異常に渇く、身体がいつもだるい、食べているのにやせるといった症状が出てきます。

  一方で、より早くから治療を始めれば、よい血糖値を維持しやすく、また合併症の予防効果が長期に続くことが分かってきています。健康診断などで、「ちょっと血糖値が高めです」「糖尿病の気がありますね」と指摘を受けたなら、それはもう治療開始の合図です。必ず医療機関を受診するようにしましょう。

糖尿病(中)

2010年03月24日 読売新聞 Yomiuri-On Line

金沢社会保険病院 代謝・糖尿病センター 浅野昭道センター長

検査と治療で合併症予防

 糖尿病は、全身にさまざまな合併症を引き起こします。これらの合併症は、高血糖が長く続くほど、また高血圧や脂質異常症を伴うと、より高率に起こることが知られています。

  合併症は全身の血管が障害されるために起こりますが、大きく二つに分類されます。一つは、細い血管の病気で細小血管障害といいます。これには、眼(網膜症)、腎臓(腎症)、神経(神経障害)があります。糖尿病を発症して5〜10年経過してから起きてくることが多いものです。いずれも初期には症状が現れにくいため、早期発見のために定期的に検査を受ける必要があります。

  網膜症が悪化して失明する患者さんは年間3000人、腎症が悪化して血液透析が必要になる患者さんは年間1万5000人です。治療が遅れると深刻な事態を招くことがあります。

  もう一つは、太い血管の病気で大血管障害といいます。狭心症、心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症が含まれます。大血管障害は動脈硬化が原因です。動脈硬化は、わずかに食後血糖が上がる境界型の時期から進行します。

  メタボリックシンドロームや高血圧、脂質異常症を合併することが多く、一層動脈硬化を押しすすめます。糖尿病のある人が大血管障害を発症する危険性は、糖尿病でない人に比べて2〜4倍高いと考えられています。

  毎年1回は検査を受けましょう。心電図検査、胸部レントゲン検査、眼底検査、アルブミン尿検査は特に大切です。糖尿病を治療する目的は、合併症を予防して元気に長生きすることです。このために、境界型の時期には糖尿病にならないように生活習慣を改善することが大切ですし、糖尿病と診断されたならとにかく早くから血糖値、血圧、コレステロール値を適切な数値にコントロールすることが重要です。

糖尿病(下)

2010年03月31日 読売新聞 Yomiuri-On Line

金沢社会保険病院 代謝・糖尿病センター 浅野昭道センター長

食事、運動療法組み合わせ

 糖尿病の治療は、合併症を予防して元気に生活するためのものです。合併症の予防には血糖値だけでなく、血圧、脂質値を適正にコントロールして、喫煙などの生活習慣を早くから改めることが大切です。近年の臨床研究の結果より、診断直後から良好な血糖コントロールを維持すると、長期にわたって合併症を予防する効果が続くことが分かってきました。

  治療の中心となる血糖コントロールでは食事療法、運動療法、薬物治療が3本柱です。なかでも食事療法は糖尿病患者さん全員の基本となる治療です。きちんと食事療法を行えば、平均でHbA1cが1〜2%、血糖値は30〜40mg/dl程度改善します。運動療法と組み合わせると血圧や脂質値を改善し、体重コントロールにも効果があります。ただし、やみくもに行っては、かえって悪化の原因ともなりかねませんし、自分に合った「ちょうどよい」内容でなければ長続きもしません。ぜひ医師や栄養士の指導を受けて下さい。合併症のチェックもした上で、出来る範囲でコツコツ続けることが大切です。

  食事、運動療法を行っても血糖値が目標に達しなければ、薬物治療が必要になる場合があります。数種類の飲み薬とインスリン療法があり、患者さんの状態に合わせて決められるものです。また薬物治療が始まっても、食事療法をおろそかにしては良い血糖コントロールにはなりません。食事療法を薬で置き換えることはできないのです。

  糖尿病の治療は患者さんが主役ですが、血糖コントロールがうまくいかないときもあります。また忙しさのあまり、つい通院や治療を中断してしまうこともあります。病院には複数の職種から構成された糖尿病診療チームがあって、患者さんの様々な問題に対処できるようになっています。患者さんの力になれるようお待ちしていますので、ぜひご相談にお越しください。

糖尿病とアルツハイマー病の合併で症状悪化 “負の連鎖”を阪大研究チーム突き止める

2010.03.16 MSN産経新聞

 糖尿病とアルツハイマー病が合併して発症すると、いずれも症状が悪化することを、大阪大大学院医学系研究科の里直行准教授らの研究チームが突き止め、16日発行の米科学アカデミー紀要電子版に発表した。併発患者の治療法開発につながる成果で、注目される。

 糖尿病患者はアルツハイマー病にかかりやすいことが知られているが、里准教授らは糖尿病マウスとアルツハイマー病マウス、さらに双方を掛け合わせた合併マウスを比較した。

 その結果、合併マウスはアルツハイマー病の原因物質とされるタンパク質「ベータアミロイド」の脳血管内での蓄積が早いことを確認。蓄積が進む原因としては、糖尿病の影響で脳血管の硬化が起きていることなどが考えられるという。認知症の進行も、アルツハイマー病単独マウスよりも早いことが分かった。

 一方で、合併マウスは糖尿病マウスよりも血糖値が高くなる傾向があり、糖尿病がより重くなることが確認された。

 里准教授は「二つの病気にかかることで負の連鎖に陥り、いずれの症状も悪化することが分かった。悪循環を断ち切るため、食事や運動など生活習慣を改善することが大事だ」と話している。

糖尿病患者らに低カロリーケーキ 宇部の洋菓子店開発

2010年02月26日 読売新聞 Yomiuri On-Line

開発した低カロリーケーキを手にする大日田さん

 カロリー制限のある糖尿病患者らにケーキのおいしさを知ってもらおうと、宇部市の洋菓子店「お菓子のピエロ」がカロリーを93%カットしたケーキを開発した。「一生食べられないと我慢していた甘いものが食べられる」と患者から感謝の声が寄せられ、健康を気にする高齢者や女性らにも好評を得ているという。(小笠原瞳)

 ケーキは同店取締役の洋菓子1級技能士、大日田哲男さん(65)が昨年4月から約半年をかけ開発した。スポンジには、柔らかさを出す卵やショートニング(食用油脂)を使わず、カロリーゼロという甘味料と小麦粉などで、かるかんのような食感にした。クリームは卵白と甘味料をふんわりと泡立てて代用。カロリーを下げるだけでなく、味と見た目も普通のケーキに近付け、1個344キロ・カロリー程度というショートケーキのカロリーを24キロ・カロリーに抑えた。

 大日田さんは約20年前からアトピー患者の子どもの相談を受け、卵や牛乳を使わないクッキーやパンなどを開発し、製造技術で特許も取得している。

 2007年の厚生労働省の国民健康・栄養調査で、糖尿病の疑いがある人や予備軍は2210万人に上るということを知った大日田さんは、以前から寄せられていた低カロリーのケーキを作ってほしいという要望にも応えようと研究を開始。材料を10cc単位で混ぜて研究したり、病院に出向いて患者向けに試食会を開いたりして試行錯誤を重ねた。

 昨年6月、試食をした同市の40歳代の女性患者は店頭で泣き出し、「我慢できずに家族に隠れてこっそり食べて罪悪感を持つこともあった。ケーキが食べられて本当にうれしい」とお礼を言ったという。

 「開発費や材料費が高くもうけはあまりないですが、食べたくても食べられない患者さんの笑顔が見られれば」と大日田さんは話している。

 ケーキは1個400円で販売。全国の患者に味わってもらうため、レシピを提供し、製造・販売してくれる提携店も探している。問い合わせは同店(0836・51・5687)へ。

太っていなくても糖尿病 製薬会社調査 3人に1人が油断

2010.02.11 MSN産経新聞

 日本人は太っていなくても糖尿病になる可能性が高いが、40〜60代男女の3人に1人が「太っていないので糖尿病にはならない」と油断していることが製薬会社大手「ノボ ノルディスク ファーマ」の意識調査で明らかになった。

 調査は平成21年12月上旬、40〜60代の男女計1200人にインターネットで実施。その結果、太っていなくても糖尿病になる可能性が高いにもかかわらず、「太っている人が糖尿病になりやすいと思う」と回答した人は49・7%を占めた。

 また、太っていない人の36・3%が「自分が将来、糖尿病になる可能性がない」と回答。日本人は欧米人と比べて糖尿病になりやすい体質であることを「知らない」と答えた人は61・3%に上った。

 普段の生活を振り返ってもらったところ、糖尿病発症の可能性がある生活習慣のうち、最も多かった回答(複数回答)は「運動量が少ない」で68・1%。「甘いものをよく食べる」「ストレスを感じることが多い」「アルコールをよく飲む」「標準よりカロリーが多い食事をする」などが続いた。

 朝日生命成人病研究所の大西由希子治験部長は「日本人に多い2型糖尿病患者の6割は太っていない。日本人は欧米人と比べて血糖値を下げるインスリン分泌能力が低いため、太っていなくても糖尿病になりやすく注意が必要だ」と指摘している。

糖尿病、メタボ改善に光明 脂肪形成阻害の化合物発見 京大チーム

2009.08.28 MSN産経新聞

 石油などの天然原料から作られる有機化合物「ファトスタチン」に、脂肪の形成を阻害する働きがあることを、京都大学物質−細胞統合システム拠点の上杉志成教授らの研究チームが突き止めた。体内での脂肪蓄積の防止につながる発見で、実用化されればメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の改善に役立つことも期待される。

 研究成果は28日発売の米科学誌「ケミストリー・アンド・バイオロジー」に掲載された。上杉教授は「糖尿病や脂肪肝を改善する薬剤開発に一歩近づいた」としている。

 研究チームは、ファトスタチンをヒト細胞に加えると、脂肪を形成する遺伝子の発現量が下がることを究明。さらに、ファトスタチンには、この遺伝子を活性化させる因子「SREBP」の働きをコントロールするタンパク質と結合する習性があり、結果的にSREBPの働きを阻害することがわかった。

 その上で、2匹のマウスのうち一方にだけファトスタチンを注射投与しながら、両方に約1カ月間、餌を過剰に与える実験を実施。その結果、投与されなかったマウスは肥満体になり、糖尿病にかかったが、投与したマウスはほぼ健康体で、投与していないマウスに比べてやせており、血糖値は約70%、肝脂肪率は約60%下回っていた。

 上杉教授は「ファトスタチンは、SREBP自体の動きを阻害できるので効果的。今後、人体への安全性を確かめ、糖尿病などの薬剤の開発につなげたい」としている。

なくそう・減らそう糖尿病:「B型インスリン抵抗症」、ピロリ菌除去で完治

2009年07月31日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇東北大大学院チームが成功

 胃潰瘍(かいよう)などを引き起こすピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)を除去することで、糖尿病の一種「B型インスリン抵抗症」を完治させることに、東北大大学院の片桐秀樹教授(代謝学)らのチームが成功した。成功例はまだ1例だが、新たな治療法として普及すると期待される。

 この病気では、免疫異常によって血糖値を下げるホルモン「インスリン」に対する抗体ができて、高血糖と低血糖を繰り返す。患者は、急に血糖値が下がると冷や汗や震えの症状を訴える。だが、通常の治療に使うインスリン注射などの効き目は悪く、治療法は確立されていない。数千人から数万人に1人が発症すると推定されている。

 チームは、B型インスリン抵抗症の80代男性が、止血の働きをする血小板が減る「特発性血小板減少症(ITP)」を併発していることに注目した。ITP治療に有効なピロリ菌除去をすると、血糖値が正常に戻り抗体も完全になくなった。男性は1年後も糖尿病を再発せず、完治したと判断された。

 片桐教授は「B型インスリン抵抗症の原因に、ピロリ菌の感染がかかわっている可能性がある。除菌が根治療法として効果的ではないか」と話す。

 成果は18日付の英医学誌ランセットに掲載された。【比嘉洋】

インスリン分泌促すたんぱく質…神戸大発見

2009年07月31日 読売新聞 Yomiuri on-LINE

 糖尿病治療に有効なインスリンの分泌を促す、たんぱく質(Epac2)を神戸大の清野進教授らが見つけた。

 新たな糖尿病治療薬開発につながる成果で、31日の科学誌サイエンスに発表する。

 これまで、膵臓(すいぞう)のβ細胞にあるEpac2が、インスリン分泌に関与することはわかっていたが、日本で最も多い、100万人以上が服用する治療薬「スルホニル尿素薬(SU薬)」が効くのは、Epac2とは関係ない仕組みと考えられていた。

 清野教授らは、今回、このSU薬が、従来の仕組み以外にも、直接Epac2と結合することで、インスリン分泌が促されることを突き止めた。

低血糖起きにくい糖尿病薬 欧州で承認、国内でも審査

2009.07.28 47News からだ・こころナビ

 血糖値のレベルに合わせてインスリンの分泌を促す「インクレチン」というホルモンに着目した2型糖尿病新薬が欧州で承認された。血糖値を抑える半面、治療で注意を要する低血糖がこれまでの薬に比べ起きにくいとされ、日本でも審査が進んでいる。

 インクレチンは、炭水化物や脂質を摂取した後に腸から分泌されるホルモンの総称。このうち「GLP1」などが薬の研究対象になっている。

 インスリンは、血液中のブドウ糖濃度の上昇に合わせて膵臓の細胞から分泌され血糖値を下げる。GLP1はこの働きを促進するほか、膵臓の別の細胞から出て逆に血糖値を上げるグルカゴンの分泌は抑制、さらに脳の視床下部に作用して食欲を抑えるなどする。

 欧州で承認されたのは、GLP1と同様の働きをして受容体に作用する「リラグルチド」。メーカーのノボ・ノルディスクファーマ (東京)によると、GLP1は体内で「DPP4」という酵素ですぐに分解されてしまうため、製剤化には課題があったが、構造を工夫するなどして1日1回の注射で効果が持続するようにした。

 日本でも昨年7月に承認申請。400人を対象にした国内の臨床試験結果によると、糖尿病の診断基準として国際的に推奨されているヘモグロビンA1c(6・5%以上が糖尿病)の値は、リラグルチドを24週間投与したグループで、インスリン分泌を促進する別の経口薬を投与したグループより有意に低下した。

 ヘモグロビンA1cが平均8・4%の患者264人を対象に、リラグルチドと経口薬とを併用する別の臨床試験も行われた。24週で目標値の6・5%未満に達した人の割合は経口薬単独では5%だったが、併用では47%に高まったという。

 低血糖は重大なものはみられず、軽度を含めた発生頻度もリラグルチドの方が経口薬に比べ大幅に低下した。副作用ではほかに、一時的な胃腸障害が確認された。

 清野裕・関西電力病院長(糖尿病学)は「日本人の2型糖尿病患者は、欧米人に比べインスリン分泌の低下が顕著。インクレチン作用の低下が関与している可能性がある。新薬への期待は高い」と話す。

 インクレチン関連の糖尿病薬には、DPP4の働きを阻害してGLPlの作用を延ばす薬などもある。

〔話題株〕武田薬品<4502.T>:日本で糖尿病治療剤などで製造販売を承認申請

2009年07月28日 REUTERS(ロイター日本語ニュース 吉池 威記者)

 [東京 28日 ロイター] 武田薬品工業(4502.T: 株価, ニュース, レポート)は27日、2型糖尿病治療剤「アクトス」とスルホニルウレア系薬剤(SU剤)との合剤について厚生労働省に承認申請したと発表した。

 武田薬品によると、アクトスは同社が開発したチアゾリジンジオン骨格を持つ糖尿病治療薬剤。2型糖尿病に特徴的な病態であるインスリン抵抗性を改善することによって効果を発揮する。また、SU剤はすい臓の細胞を刺激してインスリンの分泌を促進する。合剤は2型糖尿病患者の服薬利便性を高め、飲み忘れを防ぐことで、より良好な血糖コントロールが得られるという。

 武田薬品の27日終値は前営業日比50円高の3790円。

【注目の論文報告】コーヒーの糖尿病予防効果 カフェインでなくポリフェノールが効く!?

2009年07月27日 日経ヘルス

 コーヒーが糖尿病の発症を防ぐとする報告は数多くあるが、コーヒーのどの成分による予防効果なのかはっきりしなかった。最新の研究で、コーヒーに含まれるクロロゲン酸というポリフェノールと、トリゴネリンの効果である可能性が高くなった。

 クロロゲン酸は抗酸化作用があり、トリゴネリンは植物に含まれている物質で、加熱によって、糖や脂肪の代謝に重要なナイアシンに変わる。どちらも動物実験では血糖を下げることが確認されている。

 研究では、太りぎみの男性15人に、カフェインを除去したデカフェコーヒー12gか、クロロゲン酸1g、トリゴネリン500mg、マンニトール1g(糖の一種、対照飲料)の4種類のうち、どれか一つを270mlの水に溶かしてのんでもらった。

 その後、さらにブドウ糖をのんで、血糖値がどのように上昇するかを調べた。すると、クロロゲン酸あるいはトリゴネリンをのんだ場合は、対照飲料に比べて、血糖値もインスリン濃度も低く、特にのんで15分後での効果が高かった。つまり、食後の血糖値の上昇を抑制したことになる。デカフェコーヒーにもクロロゲン酸が264mg、トリゴネリン72mgが含まれているが、効果はやや弱かった。なお、コーヒー1缶にはクロロゲン酸が300mg程度含まれるとされる。 (Diabetes Care;32,1023-1025,2009) (ライター・八倉巻尚子)

【4】命を支える食育と健康 魚と野菜食生活改善

2009年07月24日 読売新聞Yomiuri On-LINE

 山梨大学と読売新聞甲府支局が共催する連続市民講座「いのちの輝きに想(おも)いを寄せて」の第4回講義が18日、同大甲府東キャンパスで開かれた。医学部看護学科の中村美知子教授が「命を支える食育と健康」と題し、栄養バランスのとれた食事の重要性を解説し、「何が適切な食事か自ら考え、選択することが必要」と訴えた。

◆健康に過ごすには

 フローレンス・ナイチンゲール(1820〜1910)は「看護師のバイブル」といわれる「看護覚え書」を書き下ろしたり、イギリスに看護学校を建てたりして優秀な看護師を育てました。看護覚え書の中には「病気の症状とは、全く別のものからくる症状――静かさ、清潔さ、食事の規則正しさと食事の世話などのうちのどれか、または全部が欠けていることから生じる症状であることが非常に多い――」とあります。食事がきちんと生活に取り入れられることは重要です。

 2005年に制定された食育基本法の背景には、私たちの食生活の乱れがあります。栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、過度のやせ志向、とりわけ子どもたちの食生活の乱れが顕著です。少子高齢化社会を支えるには健康で長寿が大切です。そのためには食生活を変えていくことが大切ということでこの法律ができました。

◆栄養優れるほうとう

 バランスの良い食事を具体的にどうとっていくかがが課題です。そこで栄養がとれているかについて、いくつかの調査方法を紹介します。一つは、食べた食物をその度に記録していく「食物記録法」。次は朝昼晩に何を食べたか思い出す、「24時間食事思い出し法」。三つ目は、1週間のうちどの位食べたかをまとめて一日当たりの平均を出す「食物摂取頻度調査法」。そして、一番正確ですが専門家向けとなる、専門の機関に依頼し測定してもらう「栄養成分実測法」です。

 食物記録法は学生に朝昼晩、間食や飲料も含めて書いてもらっています。食べた量、エネルギー、脂質、炭水化物を書いてトータルでどの位摂取したのかを換算します。ただ、毎日記録するのは大変です。

 栄養成分実測法は、食べたものをミキサーにかけて分析センターに依頼すると、測定してくれます。ビタミンやたんぱく質などがどの位含まれているのかなどが詳細に分かります。

 栄養バランスを山梨の郷土料理のほうとうを例に見てみました。ほうとうは栄養バランスに優れた食事なのでしょうか。実際に1食分を作ってみました。ほうとうだけではバランスが悪いと思い、ニジマスとハッサクも付けました。ほうとうにはニンジン、ゴボウ、ネギ、カボチャ、シイタケ、豚肉……。1人前をミキサーにかけ、食品分析センターに調査してもらいました。

 調査結果は、栄養バランスはおおむね良く、たんぱく質、ビタミンA、ビタミンEが特に高い値でした。これはカボチャやニンジンの緑黄色野菜が関係し、食物繊維も高かったです。しかし、問題は食塩。市販のうどんとみそに塩分が多かったのです。塩分の摂取をどう抑制するかが課題だと思います。

◆簡便化と「メタボ」

 戦後、食生活はどう変化したのでしょうか。戦前は、コメ、みそ、しょうゆの典型的な和食でした。戦後はGHQの指導でいろいろな食品が入ってきました。1950年代は栄養バランスを考えようと学校給食が普及、電化製品が出回り食事のインスタント化も始まりました。その後、ファミリーレストランなどが出回り、調理済みの食事が増えました。90年代は飽食の時代で、コンビニエンスストアも食品の開発をしました。これらの基にあるのは簡便化、一人で食べられることの追求です。その後は簡便化でいいのか、健康問題に目を向けようということになりました。

 国でもこうした変化に合わせるように国民健康・栄養調査を実施しました。調査項目は時代によって増え、貧血、尿、皮下脂肪、血液成分、最近ではメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の測定が入っています。

 この調査によると、糖尿病の患者が増えています。20歳以上で糖尿病やその疑いが強い人は890万人。可能性が否定できない人と合わせると2210万人で日本人の5人に1人に糖尿病が疑われています。02年の同じ調査では1620万人で600万人増えました。ますます食育が大事となっています。

 また、2年前のメタボリックシンドロームの調査では、40歳から74歳は男性の2人に1人、女性は5人に1人が「メタボ」か、強く疑われるという結果でした。30歳代でもますます増える可能性があり、食事や運動の見直しが必要といわれています。

 一方、07年の同調査では食生活について朝食の欠食率が増えています。加えて野菜摂取量の目標値が350グラム以上のところで平均値が290グラム。食塩摂取量の平均が男性12・0、女性10・3グラム。目標は男性10グラム、女性8グラム未満です。

 朝食を食べている人は野菜を食べている割合が多く、一方、朝食を抜いている人は野菜の割合が少ないです。

◆重要な食事バランス

 ここで注目されるのはバランス、食事のとり方です。

 食の3大栄養素、たんぱく質、脂質、炭水化物。食事全体でたんぱく質は15〜20%、脂質が20〜25%、炭水化物60%が基準といわれています。これを「PFC比」といいます。糖尿病やメタボの増加は、このPFCのバランスが崩れ、とりわけ脂質の割合が高くなっていることの影響も考えられます。

 日本のPFC比は優れており、世界からも注目をされています。私たちは更に良い生活を送れるよう見直していく必要があります。

 適正な食事で重要なのは、野菜、緑黄色野菜のバランス。もう一つは食塩。とりすぎは高血圧に関係します。

◆魚で「悪玉」抑制

 脂質のアブラの中では、比重が重いのが「HDL」や「VHDL」、いわゆる善玉コレステロールで、軽いのが「LDL」「VLDL」で中性脂肪、悪玉コレステロールといいます。悪玉を減らすことが大切です。

 悪玉の抑制に「魚」が一役買っています。私が行った実験を紹介します。高齢者老人ホームで、カツオ、イワシ、サンマなどの缶詰を30日間、間食で食べてもらい、採血して血液を測定しました。HDLが若干上がりましたが、有意な変化はありませんでした。悪玉のLDLは若干減り、VLDLは更に減りました。中性脂肪も下がりました。魚を食べると必ず中性脂肪や悪玉コレステロールが下がります。継続して食べることが重要です。若い頃から一日平均80グラム程度の魚を継続して食べることが望ましいです。

 野菜はどうでしょうか。野菜はカロリーが少なく、血中の脂質を下げたり、排泄機能を促進したりする食物繊維が豊富です。ビタミンやミネラルも多く含んでいます。

 不溶性の食物繊維は脂質などに吸着して排出します。大腸がんの発生の抑制にもなり、糖尿病や高脂血症の予防にも広く応用されています。それに食物繊維に関しては、いくら食べても健康障害を起こすという報告はありません。

 ビタミンA、C、葉酸、カルシウム、カリウム、鉄、銅……。葉酸は貧血。カリウムは高血圧予防。こうした栄養素が野菜には豊富に含まれています。

◆自己管理で正しい食事

 毎日、栄養バランスがとれた食事をしているのでしょうか。簡単なチェック方法に厚生労働省、農林水産省の「食事バランスガイド」があります。

 厚労省のホームページからもプリントアウトすることができます。コマの形をしていて、朝ご飯、昼ご飯に何をどの位食べたかを書き入れると、必要な量が分かる仕組みです。

 食事で自分の一日の適量は知っておくべきです。チェックは自分のできるところから行うのが大切です。(チェックする用紙を)台所に置いておくとか、献立を思い出して書く習慣をつけるとかです。

 野菜と魚を食べましょう。塩分は少なく、そしてPFCのバランスがとれた食事を心がけ、健康で正しい食生活を送りましょう。

 冒頭、ナイチンゲールの話題を出したのは、彼女の言葉に「看護でないものは、おせっかいな忠告と励まし」とあります。これをすると、何をするにもやらなくなってしまいます。

 食事の啓蒙活動も、自分がやる気にならなければいけません。子どもからお年寄りまで自立した健康管理が大切です。食育の推進、食の選択力をつけること、健康を実現するには一人ひとりが主体的に取り組み、正しい食事の認識を持つことが欠かせません。

糖尿病の一種、原因にピロリ菌…東北大教授ら発表

2009年07月19日 読売新聞 YOMIURI On-Line

 胃潰瘍(かいよう)などを引き起こすヘリコバクター・ピロリ菌が、糖尿病の一種「B型インスリン抵抗症」の原因になることを、東北大創生応用医学研究センターの片桐秀樹教授らが突き止めた。

 患者からピロリ菌を除菌したところ糖尿病が完治した。診療例は著名な英医学誌「ランセット」7月18日号に掲載された。

 B型インスリン抵抗症は、患者の免疫機能がインスリンの働きを妨げる糖尿病。数千人から数万人に1人が発症する比較的珍しいタイプで、通常の糖尿病治療はほとんど効果がない。

 片桐教授らは、B型インスリン抵抗症の患者が血小板減少症にかかっていたため調べたところ、ピロリ菌感染が判明。昨年3月に血小板減少症に対する治療として、抗生物質による除菌を実施すると、糖尿病も治癒し、現在まで再発せず完治したという。

 片桐教授は「ピロリ菌が、患者の免疫に何らかの悪影響を与えることで、糖尿病の一因になったようだ。除菌は根治療法として期待できる」と話している。

糖尿病治療にITシステム/香大付属病院が導入へ

2009/07/18 SHIKOKU NEWS 四国新聞社

 香川大医学部付属病院(石田俊彦院長)は、香川県医師会(森下立昭会長)や香川県と共同で、糖尿病に特化した県内外でのIT治療システムを年内に導入する。医療機関が糖尿病患者のデータなどをネット上で共有することで、患者はシステムに加盟している78の医療機関で糖尿病の専門治療を受けることが可能になる。

 システムは、医療機関同士で画像データなどを共有している既存の「かがわ遠隔医療ネットワーク(K―MIX)」を応用。システムに加盟する医療機関が患者の診療情報をサーバー上で共有し、病院間での医療連携体制を確立する。

 糖尿病患者は、医師不足が深刻な地域の診療所などでも専門治療が受けられ、主治医以外の専門医の意見(セカンド・オピニオン)も確認できる。病院や医師会は患者の病理・治療データや香川県の保有する健診データなどを利用し、新たな治療法や予防法の構築に役立てる。

 K―MIXは2003年6月に運用を開始。現在、加盟している医療機関は78施設(県内68、県外10)に上っており、石田院長は「患者数の多い糖尿病をきっかけに加盟施設を増やし、今後はすべての生活習慣病でのシステム確立に取り組みたい」と話している。

 香川県によると、糖尿病患者は脳卒中や腎不全、心臓病などの合併症を引き起こし、死に至るケースが多い。県内の人口10万人当たりの糖尿病死亡率(07年データ)は、全国平均11・1人を大きく上回る14・0人で全国8位となっている。

 20日午後1時半からは、香川県高松市丸亀町の三町ドームで同事業をPRするイベントを実施。システムを紹介するパネル展や健康測定コーナーなどがある。

7/17 

中年男性、糖尿病にかかる確率は女性の2倍

2009/07/17 UK Today BY JAPAN JOURNALS LTD

 中年男性が糖尿病になる危険性は女性の2倍であることが研究調査で明らかになった。

 チャリティ団体「Diabetes UK」によると、イングランドの35歳から44歳の女性が糖尿病になる確率が1.2%なのに対し、同年代の男性では2.4%になっているという。また、45歳から54歳の年代では女性が3.6%、男性が5%だった。

 さらに、過去1年間で、35歳から44歳の男性が糖尿病になるケースは、同年代の女性と比較すると4倍も増えていることがわかっている。

 糖尿病は心臓病や卒中、腎不全や失明などの合併症を起こす可能性があり、英国では250万人が糖尿病と診断されている。

 男性の糖尿病になる確率が高いのは、同年代の女性よりも太っているためとみられている。

 この年代の男性は常に体重が増え続ける傾向にあり、それが2型糖尿病の発病に結びついているとされる。2型糖尿病は肥満や運動不足と深く関係しているという。

二つ目の特許取得へ 梅の効能でみなべ町

2009年07月16日 紀伊民報

 和歌山県みなべ町の小谷芳正町長は、梅の効能に関する二つ目の特許を申請中であることを明らかにした。今回は、糖尿病に有効な成分を特定した内容。町うめ課は「順調に進めば年度内にも取得できるのでは」と期待している。

 町の梅に関する特許取得については、旧南部川村時代に、当時の山田五良村長が、体にいいと言い伝えられている梅の効能を医学的に証明しようと立ち上がったのが始まり。町うめ21研究センターと県立医大の梅の医学的効能研究グループが、2001年から4年かけて共同研究をし、胃潰瘍(いかいよう)や胃がんの発生を促すとされるヘリコバクターピロリ菌の運動能阻害剤を発明し、08年に「ヘリコバクターピロリの運動能阻害剤」で特許を取得した。

 今回の特許申請は、ヘリコバクターピロリ菌の運動能阻害剤発明の申請1年後に手続きを始めた。現在、審査が最終的な段階に入ったという。町が作製したパンフレット「梅干パワーで、どんどん健康になる!」では「梅を肥満糖尿病モデルラットに投与すると、体重が減少し、血糖が低下することが明らかになった。梅の血糖降下作用成分は梅に含まれるポリフェノール類が関与しているのではないかと考えられている」と説明している。

 国内では、糖尿病の疑いが強い人が690万人に上るとされ、糖尿病の可能性を否定できない人680万人を含めると、1370万人と推定されている。

岩盤浴の遠赤外線 糖尿病症状緩和に効果 上者岡山大大学院教授ら調査

2009年07月15日 山陽新聞

 岡山大大学院保健学研究科の上者(じょうじゃ)郁夫教授(放射線技術科学分野)の研究グループは、岩盤浴で受ける遠赤外線によって身体が温まると、糖尿病の症状が改善するとの調査結果をまとめた。上者教授は「新陳代謝や血流が活発化し免疫力が高まった結果。花粉症などアレルギー疾患にも効果があるのでは」としている。 

 調査は2007年4月から1年間、2型糖尿病患者7人に週2回の岩盤浴を実施。月に1回の血液検査で空腹時血糖値(正常値110ミリグラム/デシリットル以下)などのデータを比較した。

 通常時の血糖値レベルを示すHbA1c値(同5・8%以下)は正常値内だった1人を除く6人に大きな改善がみられ、最も効果があった患者は8・5%から1・2ポイント減少。空腹時血糖値も160ミリグラム/デシリットルから正常値内になるなど全員に良好な結果が得られた。血糖値を下げるホルモン・インスリンの効きにくさを示すインスリン抵抗性指数や中性脂肪、総コレステロールなど、生活習慣病に関する数値も改善したという。

 6人にその後1年間自由に生活してもらい、同じ検査を実施。「多くの患者は定期的に岩盤浴を続けなかったため、数値は元に戻るか、悪化した」(上者教授)という。

 上者教授は07年、自身の岩盤浴体験で花粉症の症状緩和を感じたことから研究に着手。温熱効果で活発化する特殊なタンパク質(HSP)に着目、共同研究先の施設などで調査していた。

清涼飲料のがぶ飲み危険!糖尿病予備軍は注意を

2009年07月15日 スポーツ報知大阪版

 真夏、汗をかいた後に飲む清涼飲料の一杯は実にさわやかだ。ところが、毎日ゴクゴク大量に飲むうちに、逆に脱水症状を招き、急性の糖尿病になることがある。「ペットボトル症候群」。若い肥満気味の男性や血糖値が高めの糖尿病予備軍の人たちがかかりやすい。最近では女性や中高年の男性も増えてきたという。北野病院(大阪市)の糖尿病内分泌センター長・越山裕行先生は「飲み方の問題。がぶ飲みを続けると昏睡(こんすい)に陥ることもある」と注意を呼び掛けている。(構成・高堀賢二郎)

 渇きを癒やすため清涼飲料を大量に飲み続けると、なぜ脱水状態になるのか? 越山先生にまず発症の仕組みから教えてもらった。「がぶ飲みし血糖値が上がると、さらに口が渇き、尿の回数が増える。これを繰り返すうちにインスリンの働きが低下し、ブドウ糖をエネルギー源として使えなくなる。そこで代わりに脂肪を分解し、エネルギーとして補給するが、その過程で血中に老廃物のケトン体が増え症状を引き起こす」

 ペットボトル症候群の正式名は「ソフトドリンク・ケトーシス」。ケトーシスは「ケトン体が多い状態」を意味する。さらにケトン体が増え続けると、本来弱アルカリ性の血液が酸性に傾き「ケトアシドーシス」という状態へ。そうなると血中酸素が不足し、脳細胞への酸素の供給が滞る。重症者が意識もうろうとなるのもこのためだ。

 ペットボトル症候群は日本から提唱された概念で欧米ではほとんど症例の報告がないという。日本に多い理由について、越山先生は「自動販売機やコンビニで手軽に清涼飲料が入手でき、ペットボトルを持ち歩く習慣が影響しているのでは」と推測する。「もともとアジア人はインスリンの分泌が少ない。分泌が多い欧米人は同じ量を飲んでも耐えられるようだ」

 この病気の特徴は血糖値が高めの肥満気味の男性に多いこと。「清涼飲料を飲みすぎても血糖値が正常なら肥満になるだけ。女性に少ないのは人前でがぶ飲みするということがあまりないからではないか」

 ただ、北野病院でこの数年に治療した患者10人のうち2人が女性だった。10人の年齢は31歳から61歳までと幅が広い。これまで10〜30代の青年に多いとみられていたが、最近は中高年にも増えてきた。患者の中には清涼飲料ではなく、大好きなスイカを毎日1個食べ続けて発症した人もいたという。吸収が速い果糖を多く含む果物の大量摂取も要注意だ。

「腹7分目」健康の元 加齢性の病気減、サルで実証

2009年07月13日 asahi.com

 摂取カロリーを約3割減らすと、糖尿病やがんといった加齢に関連した病気で死ぬ確率が3分の1に減ることが、米ウィスコンシン大チームがアカゲザルを使った約20年間の実験でわかった。米科学誌サイエンスに発表した。

 摂取カロリーの制限で老化を防げることは線虫やショウジョウバエ、マウスなどでは確認されているが、霊長類ではよくわかっていなかった。

 チームは89年以降、計76匹のアカゲザルについて、好きなだけエサを食べさせるグループ(38匹)と、摂取カロリーをそれより3割減らすグループ(38匹)に分けて飼育した。このうち、いまも生存しているサル(平均27歳)は、カロリー制限したサルが20匹、好きなだけ食べさせたサルは13匹だった。

 飼育中に死んだサルを解剖して調べると、糖尿病やがん、心血管疾患、脳の萎縮(いしゅく)など加齢性の病気で死んだ割合が「カロリー制限なし」で14匹に上り、「制限あり」5匹の約3倍に達していた。

 実験開始時の年齢は7〜14歳の大人。このことからチームは、大人になってからカロリー制限をすることで、加齢性の病気の発病を減らし、老化を遅らすことができた、としている。

 カロリー制限で寿命が延びる仕組みはまだ不明だが、糖の代謝機能の改善がかかわっているとみられている。今回の成果について、京都大病院老年内科の近藤祥司助教は「人に近いサルでカロリー制限の効果が示されたことはすばらしい。ただ、人の場合にどの段階でカロリー制限をすればいいかなど、難しい問題も残っている」と話す。(本多昭彦)

カロリー制限で寿命延びる 米国、サルで20年間実験

2009/07/10 47News【共同通信】

 食物から摂取するカロリーを制限すると、そうでない場合より寿命が長く、かつ健康的に過ごせるとする研究結果を米ウィスコンシン大などのチームがまとめた。アカゲザルを使って20年間にわたり実験を続けた成果で、10日付の米科学誌サイエンスに発表した。

 チームは「栄養不良にならない程度のカロリー制限が、老化を遅くすることを霊長類で示せた。人間にも同様のことが起こりうる」としている。

 実験は、米ウィスコンシン国立霊長類研究センターで1989年にスタート。7〜14歳のおとなのアカゲザル計76匹を半分ずつ二つのグループに分け、片方には好きなだけ餌を与え続けた。もう一方は、最初の3カ月で餌のカロリーを約30%減らし、その後も、このカロリー制限を維持しながら飼育した。

 自由に餌を食べたグループは、38匹中14匹(37%)が糖尿病やがん、心疾患、脳萎縮など加齢に関連する病気で死んだ。一方、カロリーを制限したグループで加齢に関連する病気で死んだのは5匹(13%)。制限なしのグループの3分の1にとどまり、チームは寿命が延びたと判断した。

 アカゲザルの平均寿命は27歳前後で、40歳近くまで生きることもあるという。

糖尿病・がん “国民病完治事業”着手 東北大

2009年07月10日 河北新聞

 東北大は本年度、国民病とされる糖尿病やがんの完治を目指す「健康寿命増進型メディカルイノベーション開発事業」に着手する。創薬や機器開発などに取り組み、増大する医療費の抑制に向けて国民病への新たな対策づくりを進める。

 プロジェクトは9日、経済産業省の先端イノベーション拠点整備事業に採択された。事業の補助額は5億7000万円。実験機材の購入などの初期投資に充てられる。

 開発事業の内容は(1)がんや糖尿病の合併症を進行させる活性酸素などを細胞から消去する薬剤の開発(2)血糖値を下げるインスリンを作る細胞の活性化を促す医療機器、医薬品の開発(3)重症糖尿病患者に移植する人工臓器の開発―など。臓器やインスリンを作る細胞など、人体が本来持つ機能を活用。最小限の治療で国民病を根治させる方法の確立を目指す。

 がんの医療費は国内で年間2兆6000億円に上るほか、人工透析を受ける糖尿病患者の医療費は毎年650億円ずつ増加している。

 事業を担当する大学院医学研究科の片桐秀樹教授(代謝学)は「長期にわたる治療や対症療法が中心だった糖尿病、がんの医療を革新し、医療費抑制や新たな医療産業の創出につなげたい」と話している。

医療食対応レストラン:「笑・恋」来月、四日市に開店 食事制限や高齢者向け /三重

2009年07月10日 毎日新聞〔三重版〕

 ◇日替わりで用意

 食事制限の必要な人や高齢者向けの食事を提供する、医療食対応レストラン「笑(しょう)・(どっと)恋(こい)」が8月1日、四日市市楠町小倉に開店する。腎臓病、糖尿病、高血圧症の客を想定し、カロリーや塩分などをひかえた料理を日替わりで用意する。具体的に制限値を提示すれば、その人に適した料理の提供にも応える。

 同レストランは、病気療養食の真空パックの宅配や老人施設などへの委託販売を手掛ける「シルバーフードサービス」(本社・四日市市昌栄町)の社長、古谷賢治さん(40)がオーナーとなり経営する。隣接する高齢者向けマンションと同時オープンで、最初は入居者と周辺住民への販売を見込み意見や要望を聴きながら将来の店のあり方を探る。

 日替わりランチのみでスタート。さまざまな客の来店後の注文には、真空パック食材の活用で対応できるという。医療食に詳しい栄養士を配置し、毎日、腎臓病と糖尿病用、高血圧症には制限値による2種類を用意。高齢者には特殊な加工で豆腐ぐらいの軟らかい料理を提供する。普通食650円、医療食は1000円程を見込んでいる。

 栄養士で店長を務める宇佐美智子さん(45)は「一人一人違う料理の提供は難しいが、できるだけおいしい食事を工夫したい」と意欲満々。古谷さんは「医療食の調理は家庭では難しく困っている人も多い。安心して外食を楽しんでもらえる店を目指したい」と話している。【井上章】


和食のススメ (1)ご飯中心で食生活改善

2009年06月23日 読売新聞 YOMIURI On-Line

オフィス街では、朝食におにぎりを買う人も(東京都千代田区の「おむすび権米衛・大手町カンファレンスセンター店」で)

 忙しい毎日で、バランスの良い食生活を実践するのはなかなか難しい。管理栄養士の幕内秀夫さんは、「まずはご飯中心の食事にすること」とアドバイスする。

 たとえば朝食なら、主食を米飯にすると、みそ汁や納豆、アジの干物、小松菜のおひたしなどを取り合わせるようになる。大豆からはマグネシウムやビタミンB1、アジからはビタミンDやカリウム、小松菜からは鉄分やカルシウムなど、現代の食生活で不足しがちなビタミン、ミネラルが摂取できる。食物繊維も豊富。バターを塗ったトーストとハムエッグ、ドレッシングをかけたサラダという献立に比べれば、脂質が抑えられていることがよく分かる。

 米飯中心の献立にすると、自然と旬の魚介や野菜などが食卓に上るようになる。面倒な栄養素の計算などしなくても済むからありがたい。

 ご飯自体の長所も見過ごせない。炭水化物のほか、たんぱく質や亜鉛、マグネシウムも含まれる。玄米や分づき米、胚芽(はいが)米にすれば、ビタミンE・B群や食物繊維がさらに増える。また、ご飯は製粉せずに粒のまま口にするため、よくかむ必要があり、脳の血流アップなどの効果が期待できる。ゆっくり消化されるので、血糖値の上昇も緩やかだ。

 仕事が忙しい時などは、おにぎりがおすすめ。最近では玄米や、カルシウム、鉄分が豊富な雑穀を混ぜたものも手軽に買えるようになってきた。

 自宅でご飯をおいしく食べるには、どんな点に気をつければよいのか。米穀店の団体が認定する「五ツ星お米マイスター」の市野沢利明さんによれば、米を洗う際は、あまりごしごしこすったり、水が澄むまですすいだりするのは禁物。「米粒の表面に集まったうまみが流れてしまう」ためだ。優しく洗って3回ほど水を換えれば十分だという。

 精米後、半月以内に食べきるのが理想。長期間保存する場合は酸化を防ぐため、洗って乾かしたペットボトルに詰めて冷蔵庫で保存するとよい。

和食のススメ(2)カツオだしで疲労回復

2009年06月24日 読売新聞 YOMIURI On-Line

 和食に欠かせない昆布やカツオなどの「だし」。そば店の前などで、ふんわりと漂う香りに、食欲をそそられたという人も多いだろう。

 中でもカツオだしは、味や香りが良いだけでなく、疲労回復効果もあることが分かってきた。

 「味の素」(本社・東京都中央区)が2005年に行った調査では、みそ汁約8杯分のカツオだし(カツオ節25グラム相当)を毎日飲み続けた人たちは、飲まなかった人たちに比べ、3週目には目の疲れや肩こりなどの症状が改善していた。さらに、精神的な疲労も軽減させるほか、肌の水分量を保ち、透明感がアップするというデータもある。

 パソコンと長時間向かい合うような人にはうれしいことずくめだ。同社健康基盤研究所の石崎太一主任研究員によると、「これらの効果は、カツオに含まれるアミノ酸やミネラル、ビタミン類などの成分が複合的に働くことにより、血液の流動性が高まって血行が良くなるため」という。

 手軽な顆粒(かりゅう)だしでも「血液さらさら効果」が得られると聞けば、早起きしてみそ汁を作る意欲もわきそうだ。

 一方で、汁物は塩分が気になるという人もいるだろう。

 だが、福岡女子大学の早渕仁美教授(栄養健康科学)は、「献立に汁物を加えると、塩分が多くなるわけではない。むしろ、だしのうま味を生かすことで、塩分を減らす効果もある」と話す。

 同じ量の豚肉と野菜を使って豚汁定食と肉野菜いため定食を作った場合、豚汁定食の方が塩分が低い。さらに、エネルギーは70キロ・カロリー分、脂質は約半分にまで抑えられた。

 カツオ節の消費量が多い地域ほど、食塩の摂取量が少ない傾向があることも、だしの減塩効果を裏付ける。「だしの力」を見直して、食生活の中に上手に取り入れたい。

和食のススメ(3)実は骨折しにくい日本人

2009年06月25日 読売新聞 YOMIURI On-Line

 骨によい食品といえば、まず頭に浮かぶのが牛乳だ。だが、昔から乳製品を食べる習慣がある欧米に比べ、そうでない日本の高齢者が大腿(だいたい)骨頸部(けいぶ)を骨折する頻度は、半分〜3分の1程度にとどまる。

 欧米人よりもきゃしゃで骨の量も少ない日本人が、骨折しにくいのはなぜなのか。国立長寿医療センター研究所(愛知県大府市)の鈴木隆雄所長は、「その理由は、和風の暮らしぶりにある」と見る。

 鈴木さんらが国内の高齢者を対象に行った調査では、伝統的な日本の生活様式を守っていた人は、洋風の生活を送っていた人より骨折が少なかった。布団の上げ下げやぞうきんがけなどが筋力を維持し、転倒を防いでいることに加え、和食の効用が考えられるという。

 実は、和食の食材にはカルシウムが豊富なものが少なくない。干しエビやヒジキ、小松菜などに含まれるカルシウムの量は、牛乳やヨーグルトにひけをとらない。干しエビとヒジキは、カルシウムの半量を摂取するのが理想的とされるマグネシウムも多い。

 さらに、サケやサンマ、干しシイタケに含まれるビタミンDが、カルシウムの吸収を助ける。納豆やほうれん草、春菊などは、骨の形成を促すビタミンKが豊富だ。

 大豆製品には、加齢による女性の骨量低下を防ぐ効果も期待できる。女性ホルモンの減少が骨粗しょう症と密接にかかわっており、大豆に含まれるイソフラボンには女性ホルモンと似た働きがあるためだ。納豆を多く食べる地域ほど、女性の大腿骨頸部骨折が少ないという調査もある。

 骨折予防には、筋肉を作るためのたんぱく質も欠かせない。鈴木さんは、「骨に良い成分を多く含む食品でも、偏った食べ方ではだめ。肉なども敬遠せず、幅広く食べてほしい」と話している。

和食のススメ(4)和菓子で頭も癒やされる

2009年06月29日 読売新聞 YOMIURI On-Line

日本の風物をかたどった和菓子は、季節感たっぷり。豊かな栄養と彩りで、疲れを癒やしてくれる

 勉強や仕事で頭を使うと、無性に甘いものが欲しくなる時がある。そんな時、和菓子をつまんでみてはどうだろう。

 和菓子に含まれる砂糖は、素早く消化されて脳のエネルギー源であるブドウ糖になるので、頭の疲れを癒やすにはもってこいだ。ケーキやチョコレートなどに比べ、脂肪を気にせずに食べられるのもうれしい。

 全国和菓子協会専務理事の藪光生さんは、「職場で、午後の休憩時間に和菓子を囲んでみて」と勧める。昼食から数時間たったころにブドウ糖を補給すれば、仕事の効率がアップする。

 また、和菓子には、かしわ餅や月見団子のように、年中行事とのかかわりやいわれのあるものが多い。同僚との話題が広がり、職場のコミュニケーションが円滑になる。

 季節の草花をかたどった練りきりや涼しげな水ようかんなどは、目も喜ばせてくれる。「頻繁に商品が替わるので、時々、店頭をのぞいてみると楽しいですよ」と藪さん。「和菓子は心の栄養」と言うのもうなずける。

 「和菓子の主原料である小豆は、優れた健康食品」と、「体の栄養」を強調するのは、「小豆でぐんぐん健康になる本」(BABジャパン)の著書もある北海道庁職員の加藤淳さんだ。

 小豆に含まれるポリフェノールの量は、赤ワインをしのぐ。ポリフェノールは、有害な活性酸素に対抗する抗酸化物質だ。加藤さんによると、「野菜などのポリフェノールは、ゆでるとほとんど失われてしまうが、ゆで小豆やあんこにはかなり残る」という。

 ほかにもコレステロールを抑えるサポニンや、鉄分、カリウムなどのミネラル類、ビタミンB群など、実に様々な栄養が小さな粒の中に詰まっている。中でも食物繊維は、煮るとさらに増える。

 いいことずくめの和菓子だが、食べ過ぎれば、やっぱりカロリーオーバーの元。おやつや食後のデザートに、適量を楽しみたい。(飯田祐子)


【糖尿病の食事・糖尿病食】糖尿病患者のためのコーヒーやチョコレートの愉しみ方 河合 勝幸

2009年04月30日 All about

 低GI食品として食後の血糖上昇を抑える加工食品の広告を目にするようになりました。それはそれで結構ですが、脂肪を添加して食後の血糖を穏やかにしたとすれば、いいのか悪いのか……。注意すべきポイントをご紹介します。

 チョコレートはカカオマス70%以上のものを召し上がれ。

 低GI食品として食後の血糖上昇を抑える加工食品のPRを目にするようになりましたね。それはそれで結構ですが、脂肪を添加して食後の血糖を穏やかにしたとすれば、いいのか悪いのか分かりません。分かりやすくご説明しましょう。

 体への良し悪しはどう決まる?

 最近は「血糖値が気になる人」向けのテレビコマーシャルをよく見ます。いろいろな情報があふれていますが、私たちはどう判断すべきかを考えてみましょう。

 一つの例としてバターを取り上げてみましょう。50年以上前の世界中の食生活が貧しかった頃は、バターをたっぷりと使った料理はごちそうでした。それがコレステロールが話題になるといつの間にか悪役になって、最後はバターを使った料理を客が嫌がるようになりました。同時に植物油から作ったマーガリンがヘルシー食品になりました。ところがマーガリンに多く含まれるトランス型脂肪酸がより危険だとする研究が発表されるとまた評価が逆転です。

 今ではトランス型脂肪酸の少ないマーガリンはやはりバターより心臓に優しいという説もあります。さて、バターとマーガリン、どちらがヘルシーなのでしょうか?

 この答えですが、実はまだよく分かっていないのです。もっと大規模な治験をしなければ、という意見もありますし、スタディデザインが不備だからもっと厳密にしようとか、同じ実験を他のグループに行って検証しようという意見もあります。

 これらの実験の試行錯誤は、糖尿病によいと言われている食品やサプリメントに関しても同じなのです。

 さあ、困りましたね。

 多くの専門家は何ごとも「度をこさない程度」を勧めています。薬だって医師の処方量を守るからちゃんと効く薬になるのであって、欲張って2倍、3倍も服用すれば体を傷つけることもあるでしょう。食物だって同じなのです。

 どんな食物でも時どき食べる分には悪い物などあろうはずがありません。たとえばアブラナ科の野菜のガン予防の話は有名ですが、昔はアブラナ科の野菜には軽い毒性があることが知られていました。その物質がからだの免疫力を刺激して高めるので結局は抗ガン効果が生じるという話ですから、ブロッコリや芽キャベツを山のように食べたってお腹の具合が悪くなるだけで、あまり意味がありません。 このセオリーを踏まえてコーヒーやチョコの上手な楽しみ方についても考えてみましょう。

 コーヒーは甘くしすぎず3〜4杯ならOK

 最近の研究によると、コーヒーを毎日飲むと肝ガンのリスクを始め、アルツハイマー病、パーキンソン病、2型糖尿病、うつ病、胆石のリスクも下がるといわれています。一方で、専門家は期待できるが確たる証拠はないと言っています。逆にカフェリンの取り過ぎは食後血糖値を上げ、血圧やコレステロールにも悪影響を及ぼすとも考えられているのです。

 糖尿病者がコーヒーに生クリームや砂糖を入れて一日何杯も飲んでいるとすれば問題ですね。現在のお薦めは一日あたりカフェイン400mg以下ですから、一日3〜4杯のコーヒーというところですよ。これなら我慢することはありません。

 チョコレートはカカオ成分が高いビュアなものを

 チョコレートがからだにいいという説は多くあります。脳の機能を高め、血圧を下げ、心血管イベントを減らし、コレステロールを下げるとします。一方でチョコレートはやはり高カロリー食品なので食べ過ぎは良くないことです。

 専門家の意見はチョコレートをからだのご利益のために食べるのはやめようというものです。抗酸化効果ならもっとカロリーの少ないブルーベリーなどがありますから。そして、なるべくカカオ成分が70〜80%と多いチョコレートを選ぶこと。成分表にいろいろな成分の表示がありますが、なるべく原材料の少ないもの(すなわち、ピュアなもの)を選ぶようにしましょう。

 ほどほどに、お楽しみを!

糖尿病治療……食事療法のウソ・ホント 河合 勝幸

2009年04月01日 All about

糖尿病治療の基本は食事療法です。最も効果のある治療法ですから軽視してはいけません。しかし、今まで自由に食事を楽しんできたので、改めて正しい食事の仕方を教わるとその違いに誰でも驚きます。

 糖尿病治療の基本は食事療法です。最も効果のある治療法ですから軽視してはいけません。しかし、今まで自由に食事を楽しんできた分、改めて正しい食事の仕方を教わるとその落差に誰でも驚きます。特に尿糖(エネルギー)が出ていた人は知らず知らずに大食の習慣がついているので、最初はとてもお腹が空きますが、治療によって血糖が下がれば異常な食欲も収まります。

 まず、何のために食事療法を行うのかを理解しましょう。

1.インスリン量に見合う量の炭水化物を摂る

 なるべく正常に近い血糖値を保つためには、からだが分泌できるインスリン(あるいはインスリン注射)とバランスのとれた量の食物(特に炭水化物)を取ることが必要。

2.合併症予防のためのヘルシー食

 合併症予防のために、高血圧や血中脂質異常にならないようなヘルシー食を心掛ける。

3.適正エネルギーを得るためのカロリー計算

 成人の場合、その人にとってのヘルシー体重を実現・維持するための適正なカロリー計算とその順守。子どもや青少年では正常なからだの成長を目指すために。妊娠中や授乳期では増大するエネルギーや栄養素の過不足がないように。

4.低血糖を防ぐ血糖値の調整

 インスリン療法で起こりがちな低血糖や、運動が血糖に与える影響への対策。

5.健康な体を保つ栄養バランス

 健康な体を保つために、ベストな栄養素が摂取できるように調整。

 日本では食品交換表を使った食事指導が主ですが、少しずつ個人に合った食事計画がされるようになってきました。食品交換表とは食品を栄養素に準じて6群に分けて、同じグループ内のものは自由に交換できるように配したものです。それぞれの80kcalあたりの1ユニットを決めてあって、朝昼晩3回の食事にバランスよく配分すると必要なエネルギーと栄養素が摂れるようになっています。

 食品交換表のいいところは、栄養学の心得がない人でも指示を守れば適切なカロリーと栄養素をバランスよく摂れることです。

 その代わり、覚えるべきアイテムが食品の数だけありますから使い勝手が悪く、自由に何でも食べられるという交換表の趣旨に反してとかくワンパターンの食事になりがちです。

 食品交換表のお仕着せの食事が嫌いな人や外食の多い人は、血糖の源となる炭水化物食品のみに焦点を当てて食べ過ぎないようにするカーブカウンティングが便利です。砂糖類と共に穀類、野菜、果物、牛乳の食品群のみが炭水化物食品なので、これらを優先的にマークすれば血糖上昇を抑えられるからです。

 欠点としてはカロリー(エネルギー)が二義的になりますから、肥満のある人は油脂にも気配りする必要があります。

 糖尿病になっても食べてはいけない食物などありません。何でも食べられるのですが治療食ですから節度は必要です。一般に言われるような低カロリー食が糖尿病食ではありません。まず第一に心掛けるのは「ヘルシー食」なのです。

糖尿病治療のスポーツ・運動療法 河合 勝幸

2009年04月01日 All about

 運動療法は食事療法と共に、糖尿病治療の中心となるものです。その効果は明らかで、とても大きなものです。

 運動療法は食事療法と共に糖尿病治療の中心となるものです。その効果は明らかで、とても大きなものです。

 運動によって得られる7つのメリット

1.血糖コントロールを改善することができる

2.食事療法と組み合わせ、減量やヘルシー体重を維持できる

3.脂質代謝を改善して動脈硬化を抑え、心臓病のリスクを減らせる

4.血圧を下げられる

5.インスリンが効率よく作用するため、インスリンや経口薬を減らせる

6.筋肉を鍛え、体力を増し、体のしなやかさやバランス感覚が育つ

7.気分転換とストレス解消にも役立つ

 運動を始める前に、まずはメディカルチェックを

 糖尿病の場合、2型糖尿病と診断されたときが病気の始まりではありません。実際の発病は、おそらく診断よりも10年以上前に起こっていたことになります。ですから診断時に既に合併症のある人が20%はいるでしょう。

 そのため、急に思い立ってジョギングなどを始めるのはとても危険です。目の検査、腎臓や心臓、足の神経障害などのメディカルチェックを受けてから、自分に合った運動のアドバイスをもらいましょう。自分の体の状態を、正しく理解することが第一です。

運動時に注意するべきこと

 効果的な運動のポイント

 ■ 自分の好みに合ったものを選ぶ

 長続きの秘訣。一人でマイペースで行うのが好きな人もいれば、ゴルフやテニスのように友達と一緒が好きな人もいるでしょう。スポーツは多くの人と友達になれる絶好の機会でもあるので、効果的に使っていきましょう。

 ■ 運動前後の体操を行う

 運動の前のウォームアップと、終った後のクールダウンを心掛けましょう。安全が第一です。

 ■ 効果的な運動を組み合わせる

 全身の有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせると効果的です。

 ■ 規則的に行う習慣をつける

 運動の効果は2日位しか続かないので、規則的に行うようにしましょう。少なくとも30分の運動を週3回はすることが大切です。

 ■ 安心して暴飲暴食をしないよう注意する

 運動で消費するエネルギー自体はあまり大きくありません。安心しすぎて食べたり飲んだりしないよう気をつけましょう。

 ■ 低血糖の対策を行う

 インスリン治療をしている人は低血糖の対策を十分にしましょう。運動の効果は10時間以上続くので、注意が必要です。

 ■ 悪天候の中、無理をしないようにする

 悪天候、猛暑、厳寒の日に体に負荷をかけすぎるのは体調を崩す元です。あまりに自分に厳しくならないよう、無理はしないでパスするようにしましょう。

 ■ こまめに水分補給を行う

 脱水に注意して適度な水分補給を行いましょう。運動中に動悸や不整脈、胸の痛み、めまい、筋肉や関節の痛みを感じたら我慢しないで中止しましょう。

 ■ 自分に合った格好を心がける

 足に合った靴、適切な服装など、体をしっかりと守る用意を忘れずにしましょう

 ■ 足のチェックを行う

 足のチェックは毎日行いましょう。特にスポーツの後は念入りにするべきです。

 ■ 高血糖や低血糖の場合は運動を避ける

 1型糖尿病のある人は必ず血糖をチェックしましょう。スポーツを折り込んだ食事とインスリンのバランスを会得することが大切です。

 ■ 運動の強度を知る

 運動の強度は次の計算式で求められる心拍数を目安にしましょう

 (<220-年齢>-安静時心拍数)*0.6+安静時心拍数 たとえば50歳で安静時心拍数を70/分とすると (<220-50>-70)*0.6+70=130/分

 ビギナーの場合は0.6ではなく、0.5を掛ける程度で始めるといいでしょう。この場合の心拍数は120/分になります。

 ■ 医師の指示を仰ぐ

 糖尿病患者は運動療法が制限されたり、禁止されたりすることがあります。例えば血糖コントロールが極端に悪い。増殖網膜症による新しい眼底出血がある。腎不全の状態である。心疾患や心肺機能に障害がある。足の壊疽。高度の糖尿病自律神経障害がある、などなど。気になることがあれば医師の意見を求めるようにしましょう。

 正しく効果的な運動習慣は、あなたの糖尿病治療に一役買ってくれるはずです。

なくそう・減らそう糖尿病:糖尿病患者・予備群2000万人突破(その1)

2009年02月25日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇生活改善が急務に カギは食事と運動

 厚生労働省が昨年末に公表した07年の国民健康・栄養調査で、日本の糖尿病患者・予備群が計約2210万人と、初めて2000万人を突破した。20歳以上の男性の29.3%、女性の23.2%にあたり、国民一人ひとりが糖尿病と真剣に向き合うことが求められている。糖尿病や予備群と分かった場合の心構え、生活習慣の改善を学ぶ教育入院の仕組みを、専門家に聞いた。【永山悦子、下桐実雅子】

 ◇目標持ってまず一歩

 ◇「お菓子のために生きているのか」  「これ、何とかしませんか」

 健康診断でベッドに横たわる男性のおなかをペンペンとたたくと、多くの人が苦笑いする。「生活習慣病の予備群の人は、自分の健康状態を気にしている。聞く耳を持っているので、そこへ働きかければいいのです」。糖尿病の患者指導に詳しい朝比奈クリニック(東京都日野市)の朝比奈崇介(たかゆき)院長は、こう話す。

 糖尿病をはじめとする生活習慣病は自覚症状がなく、血液検査で数値の悪化を指摘されても、なかなか生活習慣の改善を始めにくい。糖尿病予備群が何もしないと、その7〜8割が後に糖尿病と診断されるといわれ、自覚症状のなさは糖尿病患者増加に歯止めがかからない一因といえる。

 朝比奈院長が患者に接する際、大切にしているのは「何のための治療か」という視点だ。「やせたり、血糖値を下げることが目的ではない。高血糖状態が続いて失明や腎臓の機能障害などの合併症で苦しまないようにすることが、糖尿病治療の最終的な目的。そのことが理解できれば、生活習慣は変わる」と話す。食事の改善ができない糖尿病患者に「今までと同じような食事をしていたら、お孫さんの顔が見られなくなりますよ」と話しかけることで、減量に成功した例もある。

 「お酒を飲まないと生きている意味がない」「お菓子なしの生活は考えられない」という患者には、「お酒を飲むためや、お菓子を食べるために生きているんですか」と問いかけている。

 ◇「自分にもできる」 目標設定が大事

 目的が明確になれば、何をしなければならないかが見えてくる。「3キロやせる」とか「血糖値を下げる」という目標は具体性に欠け、何から手をつけなければならないかが分かりにくい。「毎日20分歩く」「早食いをやめるために20回以上かむ」など具体的な目標であれば、やるべきことが明確で、後からの評価もしやすい。

 このとき、「自分にできること」を目標に置くことがポイントだ。高い目標を掲げても、続かなければ意味がないからだ。何か一つ、続けられることから始める。一つの行動が違和感なくできるようになったら、もう一つ足す。それだけで血糖値の低下が不十分な場合は、薬の助けを借りることも検討する。

 血糖値の低下に効果がある行動変容の一つが、ウオーキングだ。摂取カロリーを減らすより、消費カロリーを増やす方が精神的な負担が低いとされ、本格的なスポーツを始めることが難しい働き盛りの人に勧められる。

 一般に、その人の最大酸素摂取量の半分に達する運動を1日20分間することが、血糖値を下げる効果が高い。自分にあった運動量は脈拍数で分かる=別表。この脈拍数は、隣の人と息切れをしないで会話できるくらいの運動量、つまりウオーキング程度という。朝比奈院長は「科学的には2日に1度でも効果はある。ただ雨が降ったり、荷物があったり、疲れているなど、人はどうしても言い訳をつくってさぼってしまう。だから、目標を毎日としておけば、ちょうど2日に1度くらいのペースになる」と語る。

 ◇検査値の数字に一喜一憂しない

 健診などで異常値が出たり、再検査を勧められたときのとらえ方にもコツがある。朝比奈院長は「検査値の数字に一喜一憂しないこと」と指摘する。

 一般に、75グラムのブドウ糖負荷後血糖値が血液1デシリットルあたり200ミリグラム以上になると糖尿病と診断される。このため、「199」だと、「糖尿病ではなかった」と安心しがちだ。だが、生活習慣改善の必要性から考えると、1ミリグラムの違いは実質的にほとんどなく、予備群として何らかの行動を始めることが求められる。一方、1回の検査では、前日の食生活や運動量によって通常とは異なる数値が出ている可能性もある。このため、継続して検査を受け、傾向をつかむことが重要になるという。

 患者や予備群の人が、医師や看護師、栄養士を上手に使うことも必要だ。医療関係者から生活習慣改善の指示を出されると、できそうになくても、つい「やります」と答えてしまいがちだ。だが、そこで「できません」と正直に言えば、医療関係者は「この人にとって、効果的な生活習慣改善の方法は何か」と、お仕着せではない個人向けのプランを真剣に考えてくれる。

 朝比奈院長は「医療側は本来、個別にプランを考えることが仕事。患者側が交渉力をつければ、個別プランを引き出すことができる」と話す。

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 ◇国民の理解、深める運動−−日本糖尿病協会理事長・清野裕氏

 糖尿病の治療を中断したり、放置している人が依然として多い。断続的にでなく、定期的にきちんと受診している患者は200万人ぐらいではないか。長く放置し、病院にきたときには、さまざまな合併症が見つかる事態になる。

 発症予防に取り組むことはもちろん大切だが、(患者数が減るという)成果が出るのは10年、20年先だ。まずは今、糖尿病を発症した患者の病気の進行と重症化を食い止めることが喫緊の課題だ。

 患者には糖尿病だと認めたくない、という気持ちがある。食事に気を使い運動を心がけるなど、生活が制約されると思いがちだからだ。確かに人間の本能的な部分である食欲のコントロールは、容易でない。まずは一つでも、できることから取り組むことが大切だ。たとえば、3カ月に1回は医療機関に行って、過去1〜2カ月の血糖の状態を示すヘモグロビンA1cの数値を測ることから始めてはどうだろうか。

 血糖値のコントロールがそれほどよくなくても、定期的に受診している人は、重篤な合併症を起こすことが少ないと感じる。治療の継続には、初期のころの患者教育が重要だ。しかし、厳しいばかりでは患者が耐えられず、結局、治療から脱落してしまう。患者の身になって考え、信頼関係を築くことが大切だ。また、糖尿病療養指導士らが知識だけでなく、患者教育の実技を身につける方策も考える必要がある。

 (私が所属する)関西電力病院では、10年以上前から周辺の診療所との連携を始めた。それによって、かかりつけ医の糖尿病への関心が高まり、医療の質が向上している。専門医の数が限られる中、そうした地域連携が重要だ。

 世界的に糖尿病の患者が増えている。3月6日、台湾でアジア糖尿病学会が設立された。日本や中国、韓国をはじめ、カンボジア、タイなど17カ国・地域が参加している。

 欧米と違い、アジア人ではやせていても糖尿病になることがある。しかし、アジアの中でも食生活や文化、風土が違うため、各国の糖尿病の特徴や疫学調査などの研究を踏まえ協力していきたい。

 日本の患者数はいずれ1000万人を超えるのではないかと危機感を持っている。今年も世界糖尿病デー(11月14日)などを通じて、国民に糖尿病への理解を深めてもらう活動を続けていく。

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 ■人物略歴

 ◇せいの・ゆたか

 京都大医卒。米ワシントン大客員研究員などを経て、96年、京都大糖尿病・栄養内科学教授。01年、京都大病院副院長、04年から関西電力病院長。国際糖尿病連合理事、アジア糖尿病学会長。67歳。

なくそう・減らそう糖尿病:糖尿病患者・予備群2000万人突破(その2止)

2009年02月25日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇自ら学ぶ「教育入院」

 JR東京駅近くのビル内にある朝日生命成人病研究所丸の内病院。糖尿病患者が外来の8割を占める。85年の開院当初から糖尿病患者の教育入院を始めた草分けとして知られる。

 1〜2週間の入院から、仕事を長期に休めない患者向けの週末入院コース(3泊)もある。28床で、年間約600人が入院するという。健診で高血糖だと分かり入院を勧められたり、診療所で血糖値の高い状態が続いて紹介されてきた患者が多い。

 教育入院とは、患者が糖尿病という病気を理解し、生活上の注意点を自分で考えて、病気と上手に付き合えるようにすることが目的だ。吉田洋子・糖尿病代謝科部長は「糖尿病は薬だけで治療できない。教育入院を通じて、患者さんが主体的に食事や運動療法を行えるように支援する」と話す。

 3月中旬、病院を訪ねた。この日の夕食メニューは、豚のもも肉をみそで味付けして焼いた「もろみ焼き」、「ホタテと大根のサラダ」、「ジャガイモとタマネギの煮物」、「澄まし汁」にオレンジだ。

 午後6時すぎ、十数人の患者が食堂に集まってきた。それぞれの摂取カロリーに応じて、茶わんにご飯を計ってよそう。自分の食事の量を体験して覚えていく。

「ホタテは10グラムしか入っていませんが、缶詰を使っているので味が出ます。大根は千切りにして塩を振ってもんで、水気をしっかり切るのが大事です。シャキシャキ感が残ります」。栄養士の戸部江美さんが、献立の食材や調理方法を解説した。患者からは「大根は火を通さないのですか」「シャキシャキしていておいしい」などと、次々に質問や感想が上がる。

 患者はスケジュール=表=に沿って生活する。午前と午後に1時間ずつ開かれる糖尿病教室に参加し、医師や看護師らの話を聞く。また、ストレッチをこなしたり、病棟内にある1周120メートルのウオーキングコースを食後に歩く患者の姿も見られた。近くの皇居周辺を歩くこともできる。インスリン注射は食事前に処置室に集まって行い、看護師が正しく注射できているかを1人ずつ確認する。

 横浜市の森谷捷三(しょうぞう)さん(66)は5年前から毎年1回、教育入院をしている。働いていたときから服薬していたが、徐々に血糖値が悪化し、退職を契機に教育入院を決意した。

 森谷さんは「自宅では、どうしてもカロリーを取り過ぎてしまう。入院すると、自分が食べ過ぎているのを再認識できる。気持ちを新たにして、食事や運動療法に取り組める。目の検査など、病気の進行度をチェックしてもらえるので、年1回、定期検査も兼ねて来ている」と話す。

 吉田さんは「食事や運動の効果を実際に体験してもらい、自分の生活に取り入れてほしい」と助言する。

 ◇「治療している」55%どまり

 厚労省の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人(患者)」が約890万人、「可能性を否定できない人(予備群)」が約1320万人と推計され、患者と予備群の合計が約2210万人に達した。前回(02年)の調査では、患者約740万人、予備群約880万人の計約1620万人だったため、糖尿病の患者・予備群が急増している様子がうかがえる。

 20歳以上の患者のうち、「現在、治療を受けている人」は55・7%にとどまり、39・2%は「治療を受けたことがない」と答えた。

 患者・予備群が増加している背景には、▽食生活の欧米化(脂肪摂取の増加)▽運動量の減少−−などが指摘されている。また、最近は、「やせ」の若い女性の増加に伴う低出生体重児の増加への関心が高まっている。低体重児は血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌機能の発達が不十分なことが多い。

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 ◇5年間で患者減、可能だ−−日本糖尿病学会理事長・門脇孝氏

 糖尿病の患者が増えたのは、欧米型の生活習慣が普及したのが最大の要因だ。脂肪を取り過ぎている上に、運動不足が重なり、内臓脂肪が蓄積している。内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)対策を正しく進めることは発症予防に役立つ。

 自覚症状のない病気とあって、血糖値を測定して早期に診断することが重要だ。診断精度を高めるため、血糖測定だけでなく、過去1〜2カ月の血糖の状態を示すヘモグロビンA1cの数値を用いることの検討も始める。

 学会では5年前に策定した「対糖尿病戦略5カ年計画」の改定作業を進めている。計画には糖尿病の病態解明と治療・予防環境の向上の2本柱を掲げた。病態解明では、日本人の糖尿病の特質を説明する関連遺伝子を発見するなどの成果を上げてきた。治療・予防環境についても、日本人の臨床研究を進めて治療データを蓄積しており、今後5年間にはそれらの結果が出る。これらの成果を治療や予防に反映していきたい。

 患者数と合併症が増えているが、私としては、今後5年間で患者数の増加を減少に転じさせることを明確に掲げたいと思っている。

 私たちは、それが可能ではないかという気持ちを持ち始めている。というのは、解明が困難と言われていた糖尿病の遺伝子が次々見つかったからだ。また、啓発活動が功を奏して、男女とも脂肪摂取が横ばい、むしろ最近では減少傾向にある。

 今後は運動を増やしていけるように、運動療法士の養成を支援したり、ウオーキングできる場所やスポーツ施設の充実を街づくりに反映するよう提言したい。

 また、レストランのメニューなどに、糖尿病患者向けのヘルシーメニューを増やすよう働きかけていく。つまり、社会として生活習慣病を減らす仕組みや、患者が負担なく食事や運動療法に取り組める環境づくりが重要だ。そうした取り組みを通じて、患者を減らしたい。

 学会はこれまで糖尿病の原因や治療研究を重視し、成果も上げてきた。しかし、学術研究だけでなく、社会的責任も増していると感じる。医師会や糖尿病協会などとつくった糖尿病対策推進会議、地方自治体や国との連携、国際的な連携を重視したい。こうしたつながりを大切に、学会の考えを明確に伝える努力をしていきたい。

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 ■ことば

 ◇糖尿病予備群

 糖尿病と確定診断されなくても、血糖値が正常値より高めの人を指す。日本糖尿病学会の診断基準は「境界型」と位置づけ、空腹時血糖値が血液1デシリットルあたり110〜126ミリグラム未満、食後血糖値が140〜200ミリグラム未満の人が該当する。同学会は、糖尿病に準じた対応が必要と定める。

 厚労省の国民健康・栄養調査では、「糖尿病の可能性が否定できない人」として、過去1〜2カ月の平均的な血糖状態を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)が5.6〜6.1%未満の人を対象にしている。また、同学会は08年、正常値でも空腹時血糖値が100〜110ミリグラム未満の場合、「正常高値」と診断する新しい基準を公表した。正常高値は「健康な人の中でも将来糖尿病になりやすいグループ」という。

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 ■教育入院の主な一日(丸の内病院の場合)

 6時    起床・検温

 6時半   血糖測定、体重測定

 7時45分 インスリンを自己注射してから朝食

10時〜   主治医の回診、看護師の訪室

11時    糖尿病教室

12時    血糖測定、インスリン注射後に昼食

13時    ロビーでストレッチや体操

13時半   糖尿病教室

16時半   血糖測定

18時    インスリン注射後に夕食

19時    看護師の訪室

21時    血糖測定

22時    インスリン注射し就寝

 *インスリン注射は必要な患者の場合

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 ■人物略歴

 ◇かどわき・たかし

 東京大医卒。米国立衛生研究所客員研究員、東京大講師、助教授などを経て、03年から東京大糖尿病・代謝内科教授。05年、東京大病院副院長兼務。08年5月から日本糖尿病学会理事長。56歳。

なくそう・減らそう糖尿病:生活習慣や遺伝子との関係、多面的研究が重要

2009年03月13日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇セミナーで日英研究者

 糖尿病と生活習慣、遺伝子との関係を考える「日英糖尿病セミナー」(英国大使館科学技術部、スコットランド国際開発庁主催、毎日新聞後援)が2月、東京都内で開かれた。参加者は、糖尿病の効果的な治療には、日常生活の改善や遺伝子の研究強化など多面的に取り組む重要性を確認した。

 国立国際医療センター戸山病院の野田光彦部長は、糖尿病発症と生活習慣との関係を探った国内の大規模調査を報告した。それによると、1日に日本酒1合以上を飲む男性は糖尿病の発症リスクを上げるという。野田さんは「欧米では飲酒でリスクが下がるという報告がある。国や人種によって結果に違いがある」と語り、各国がそれぞれデータを集約するよう訴えた。

 糖尿病の遺伝学を研究するロンドン大のグレアム・ヒットマン教授は「糖尿病に関連した遺伝子が発見されている。発症には遺伝子と生活環境が互いに影響しあっていると考えるべきだ」と提案した。また、オックスフォード大のポール・ジョンソン教授は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」分泌細胞の移植(膵島(すいとう)移植)の現状を報告。「最近の結果では85%の患者が移植後1年はインスリン注射が不要になった。しかし、世界的にドナー(臓器提供者)が不足している」と現状の課題を紹介した。【下桐実雅子】

糖尿病:診断基準見直し 血糖値、2カ月平均の数値に−−学会方針

2009年02月20日 毎日新聞 東京朝刊

 糖尿病の診断で使われている血糖値は食事や運動の影響を受けやすく、検査前の一時的な節制や過食でも簡単に数値が変わる。このため、日本糖尿病学会(門脇孝理事長)は19日、長野県松本市で理事会を開き、診断基準を見直す検討委員会の設置を決めた。過去1〜2カ月の平均的な血糖の状態を示す血液検査値「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」の導入を検討する。

 現在の診断基準は99年に策定。空腹時血糖値が血液1デシリットルあたり126ミリグラム以上または食後血糖値(ブドウ糖負荷後2時間血糖値)が同200ミリグラム以上の場合、糖尿病と診断される。だが、血糖値は検査前数日の食事や運動の影響が強く表れるため、変動が大きい。

 HbA1cは、赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結びついたもので、赤血球の寿命が長いため、過去1〜2カ月の血糖状態を把握できる。このため、世界保健機関(WHO)や米国糖尿病学会もHbA1cを診断基準に導入する検討を進めている。

 ただ、ヘモグロビンに異常があると正しい血糖状態が分からなかったり、検査費用が割高になるとの課題がある。門脇理事長は「血糖値とHbA1cは、長所短所がある。日本にあった新しい診断基準を検討したい」と話す。【永山悦子】

「膵島細胞」効率よく分離 若年の糖尿病治療に新装置

2009年02月19日 信濃毎日新聞

 金属加工・産業機械製造などの野村ユニソン(茅野市)は、若年層が発症する1型糖尿病の治療法として研究が進む膵島(すいとう)移植に必要な膵島細胞を、ドナーから提供された膵臓(すいぞう)から効率よく分離させる装置を東北大と共同開発した。従来は分離の際に酸素が不足して死滅する細胞が多かったが、同社が工業用装置製造で培ってきた中空糸膜(ちゅうくうしまく)(マカロニ状の管)の技術を生かし、酸素を供給することに成功した。

 同社は2005年から、同大国際高等研究教育機構の後藤昌史准教授(膵島移植)と、豚などの膵臓を使って実験を繰り返してきた。10年度までに人体への応用が可能な装置を完成させ、臨床試験を経て14年ごろには製品化する計画だ。

 血糖値を下げるインスリンを分泌する膵島は、膵臓に島状に点在。人間の場合、膵臓全体の1%程度の約1グラムある。膵島移植では、脳死や心停止となったドナーから摘出した膵臓に、膵島細胞を分離するための消化酵素を含んだ溶液を注入。温度を保ちながら溶液を循環させる。

 分離して溶液に混ざる膵島細胞は一般に、約1時間かかる循環の過程で酸欠状態になり、死滅するものも多い。開発した装置は、酸素を透過する直径約2ミリの中空糸膜の中に溶液を通すことで酸素を取り込めるようにした。

 膵島移植は海外では1970年代に始まり、脳死での臓器提供が主流の米国などで盛んだが、国内では04年に京大病院が初めて実施。開腹手術でなく点滴で移植するため患者の負担が軽いとされる。

 移植に取り組む医師らでつくる膵・膵島移植研究会(事務局・福島県立医大)によると、これまで60例以上の膵島分離が行われたが、必要な膵島細胞を確保するために、患者1人に最大3人のドナーから提供されているという。

 提供はほとんどが心停止後といい、後藤准教授は「心停止後は(酸素が供給されない時間が長く)臓器が傷んでいるので膵島分離には不利。新しい装置は(脳死移植が少ない)日本の移植環境では必要になる。1人の患者に必要なドナーを減らしていきたい」、野村稔社長は「1型糖尿病は子どもの時に発症する人が多い。さらに実験をして信頼性を高め、治療の役に立ちたい」と話している。

糖尿病の阪神・岩田投手が広告契約

2009年02月17日 Kyoto Shimbun

患者支援活動に協力

 医用分析装置メーカーのアークレイ(京都市中京区)は、糖尿病患者で阪神タイガースの岩田稔投手と広告出演契約を結んだと発表した。岩田投手の患者支援活動にも協力する。

 岩田投手は高校2年の時に、若年者が突然発症する1型糖尿病を発症した。治療を続けながらプロ選手として活躍する岩田投手と契約し、3月中旬から子どもたちに向けたメッセージや写真を同社の雑誌広告、ラジオCMなどに使用する。

 岩田投手が行っている患者との交流活動を支援するほか、子どもの患者向けイベントで岩田投手のメッセージを伝えることなども検討している。

血糖下げる細胞の源を発見 九大、糖尿病根本治療に道

2009/02/13 【共同通信】47News

 血糖値を下げるインスリンを膵臓内で分泌する「ベータ細胞」の源となる細胞を、九州大大学院医学研究院の稲田明理特任准教授らのグループがマウスで突き止め、糖尿病の新たな治療法に道を開く発見と注目されている。

 糖尿病では、ベータ細胞が減少してインスリン分泌が減り、血糖値を調節できなくなる。このため、ベータ細胞を再生できれば根本的な治療になると考えられている。

 ベータ細胞の供給源を探っていた同グループは、膵液を運ぶ膵管の細胞に着目。マウスを使い、遺伝子操作で膵管細胞に印を付けて追跡し、この細胞の一部がベータ細胞へ分化したことを確認した。

 別のマウスの実験では、損傷した膵臓の組織が再生する際、膵管細胞からベータ細胞が供給されることも分かった。

 稲田特任准教授は「人体でも膵管細胞を刺激してベータ細胞の増加を促すことができれば、新たな治療法につながる可能性がある。今後はベータ細胞に分化する仕組みの研究が期待される」と話している。

 ベータ細胞の起源をめぐっては、米ハーバード大のグループがベータ細胞の分裂以外にないとの説を主張していた。稲田特任准教授は、同大に在職中の2002年から研究に取り組み、この説を覆した。成果は昨年12月、米科学アカデミー紀要に掲載された。

 厚生労働省の「2007年国民健康・栄養調査」によると、成人で糖尿病の患者や罹患が疑われる人は、推計2210万人で、4・7人に1人の計算。


なくそう・減らそう糖尿病:第11部・在宅療養を支える/1

2009年02月06日 毎日新聞 東京朝刊

 食事の見直しや適度な運動、インスリン注射−−。糖尿病患者は血糖値の改善と維持のため、日常生活で徹底した自己管理が強いられる。それに耐えられず治療をやめてしまう人もいる。重要性が高まる在宅での療養を支える試みを探った。【下桐実雅子】

 ◇高齢患者、こたつで受診 投薬、注射…往診の医師、きめ細かく対応

 ◇予備軍890万人に専門医4000人止まり

 雨が降りしきる金曜日の午後、糖尿病専門クリニック「近藤医院」(東京都小平市)の近藤甲斐夫院長(74)が2人の看護師と一緒に、女性患者(80)の自宅を訪れた。

 「変わりはないですか」と近藤さんは語りかけながら、患者の血圧を測定し、採血した。また、病状の進行度が推し量られる足のむくみをチェックした。その間、松森晴美看護師が血圧や血糖値などを、カルテと患者の糖尿病手帳に書き込んでいた。丸井純子看護師は飲み薬を渡した。薬局に行く負担を軽減できるからだ。

 女性は夫と2人で暮らす。脳梗塞(こうそく)を起こし、左足が思うように動かなくなり、昨年12月から訪問診療を受けるようになった。診察はこたつに入ったまま行われた。女性は「別の病院に行くことがあるが、車いすなので大変。往診は本当に助かる」と笑った。

 続いて、1人暮らしの男性(92)の自宅に向かった。男性は朝晩2回、自分でインスリン注射している。しかし、男性の負担を減らすため、朝1回で効果が続く注射に切り替えることにした。1回の場合のインスリン量や打ち方を教え、付き添っていた家族には、慣れるまできちんと注射できているかを確認するように指示した。

 3軒目の女性(78)の自宅では、使い切られないまま捨てられた詰め替え用のインスリン容器が見つかった。容器には2日分のインスリンが残っていた。捨てた理由を聞かれた女性は「よく見えなかった」と漏らした。治療は長期に及び、経済的負担も軽くはない。松森さんは容器1本で6日間使えることを説明し、同居する家族に、詰め替え日をカレンダーに記載してもらった。

     *

 近藤さんらはこの日、5軒を訪れ、クリニックに戻ったのは午後6時に近かった。往診に費やしたのは約3時間。同じ時間をクリニックにいれば、何倍もの患者を診ることができるだろう。

 しかし、自宅を訪れて気付くことは多い。そこから、患者の生活様式に合わせたきめ細かい対応ができる。

 近藤さんは82年の開院当初から、働き盛りの患者が仕事前に通院できるように、午前7時の早朝診療を続けている。毎週火曜日と金曜日の午後は、患者宅を訪問する往診にあてている。現在、糖尿病の14人だけでなく、脳出血や頸椎(けいつい)損傷など他の病気の患者を含め、24人を往診している。

     *

 厚生労働省が05年に実施した調査では、調査日に外来で受診した糖尿病の患者数は推定約20万人で、入院患者(約3万人)を上回り、患者の多くは自宅で治療しているとみられる。また、07年国民健康・栄養調査によると、糖尿病が疑われる人は約890万人。02年の前回調査に比べ、約150万人増えた。約890万人の56%が治療を受ける。だが、現在、糖尿病専門医は約4000人しかいない。

 専門医ではない一般の内科医の場合、夜間などに低血糖を起こしたときの対処に不慣れで、糖尿病患者を敬遠しがちだ。インスリン注射が必要な患者にも、管理が難しいために飲み薬で済ませてしまう。近藤さんは「インスリン注射の方はお断り、という老人ホームも多い」と話す。

 患者の3人に1人は70歳以上の高齢者と推定される。高齢化に伴い、視力が低下してインスリンの量をあわせる目盛りが読みにくくなる。手が震えて、針の取り付けなどの細かい作業も難しい。体が不自由になったり認知症が出てくると、通院は困難になる。

 松森さんは「たんすにインスリンをため込む患者さんもいるが、自分からは言い出しにくい。高齢になると身の回りの管理ができなくなり、注射や薬を飲むのがおっくうになってしまうようだ」と現状を懸念する。

 課題は山積し、どう解決していくのか。「患者さんの立場にたった医療を考えることに尽きる」。往診を続ける近藤さんの思いである。=つづく

なくそう・減らそう糖尿病:第11部・在宅療養を支える/2

2009年02月13日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇ヘルパーの役割重要

 重い糖尿病患者が適切な血糖を維持するのにインスリン注射が欠かせない。しかし、認知機能や身体機能が低下した高齢者が、自己注射を継続するのは困難を伴う。注射する資格のある訪問看護師を頻繁に要請することは経済的負担から難しい。周囲がどう支援すべきか。模索が始まっている。

 金沢医科大病院の内分泌・代謝内科の森垣こずえ看護師は、在宅療養する患者11人(72〜84歳)を約半年間、観察した。すると、介護職であるヘルパーが、注射の声掛けや確認に重要な役割を果たすことに気付いた。

 ヘルパーは、患者と接する頻度が高く、尿量や食事量などの変化を発見しやすい。低血糖の知識があるヘルパーが、意識混濁した様子の男性(74)に気づき、ブドウ糖を早期補給したケースもあった。森垣さんは「医師や看護師はヘルパーに低血糖の症状や対処法を伝える。ヘルパーは患者の変化を医師らに報告することが大切」と話す。

 青森県立保健大の細川満子准教授(在宅看護学)も訪問看護に携わった当時、患者の自宅を訪れたことで、患者の重症化を回避できた経験がある。通所介護施設の職員から「血糖管理がおもうようにいかない」と聞き、80代の女性患者宅を訪れた。女性は血糖自己測定の採血をインスリン注射と思い込み、注射をしていなかった。

 「よいケアには、専門職同士の相互連携と情報交換が重要だ」。森垣さんと細川さんに共通する思いだ。【下桐実雅子】

なくそう・減らそう糖尿病:第11部・在宅療養を支える/3

2009年02月20日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇栄養士が訪問指導

 東京都足立区の男性(58)は20代で頸髄(けいずい)損傷し、体が不自由になった。約15年前に糖尿病を発症したが、脂肪分の多い肉類を好み、運動療法ができない。太ると、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の働きが低下しやすい。

 そこで、近くの福岡クリニックの中村育子・管理栄養士が、糖尿病の合併症を防ぐための食事療法を支援している。月2回、自宅を訪れ、前日の食事内容を聞き、体脂肪を計測する。台所でカロリーゼロの甘味料を使った牛乳寒天を調理し、「試してくださいね」と声をかけていた。

 腎機能にも問題があり、透析にならないよう注意が必要だ。男性は「体内に爆弾を抱えている状態だ。食事から摂取カロリーを計算してくれるので助かる」と話す。

 中村さんは訪問栄養指導を中心に、他の医療機関の患者を含め約60人を担当する。患者の栄養状態を判定するほか、野菜や肉の模型(フードモデル)を使い食事内容や量を助言する。一緒に台所に立ち、調理実習する。

 全国在宅訪問栄養食事指導研究会(電話03・3880・4070)はホームページで、訪問栄養指導の実施機関を公表した。全国で数十カ所だが、今後、参加機関の拡大を図る。現行の訪問栄養指導で医療保険や介護保険が適用されるのは、通院できない患者に限定されている。中村さんは「訪問で生活の様子が分かる。一緒に調理して味も覚えてもらえる。外来で効果のない患者さんには、合併症予防の次の段階として訪問栄養指導できるようにしてほしい」と話す。【下桐実雅子】=つづく

なくそう・減らそう糖尿病:第11部・在宅療養を支える/4

2009年02月27日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇低カロリー宅配食活用

 多忙な人が自分の健康状態に応じた食事を作るのは大変だ。ましてカロリー計算は簡単ではない。それを支える方法として宅配食が注目されている。

 東京都葛飾区の女性(66)は眼科で糖尿病を疑われ、自宅近くの加藤内科クリニックを受診した。血糖値を下げる薬を服用し、1カ月で正常値に戻り、薬も不要になった。正常な血糖値を維持するため、食事療法の指導を受けた。野菜不足と気付いたが、カロリー過多になりやすい外食中心の生活で、自分で作るのは不得手だった。

 目に入ったのが、クリニックにあった低カロリーの宅配食カタログだ。さっそく、1日1食程度利用した。運動も心がけ、体重は15キロ減った。女性は「月1万円以上と割高だが、仕事をしている私には便利」と語る。クリニックの加藤則子・管理栄養士も「パンと牛乳ですませるより、同じカロリーでもバランスのよい食事ができる。調理法が分からない、作る時間がない患者さんに向く」と話す。

 冷凍弁当やレトルトパックの糖尿病食や健康食を販売する宅配業者が増えてきた。自治体によっては、高齢者向け配食サービスを実施している。

 久留米大の山岸昌一教授によると、低カロリー・低塩分の宅配弁当を毎日1回利用するようになった糖尿病患者は、未利用の患者に比べ、摂取カロリーや間食に気を付けるようになったという。山岸教授は「自分で必要量を計量し調理するのが理想だが、できる人は少ない。一食の量や味付けの目安を知る教材として宅配食を活用する方法もある」と提言する。【下桐実雅子】=つづく

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 イラストは、過食を警告するシンボルマークの「エンゼルピッグ」

なくそう・減らそう糖尿病:第11部・在宅療養を支える/5止

2009年03月06日 毎日新聞 東京朝刊

 ◇治療再開、電話で促す

 1本の電話が患者を救うことがある。

 茨城県つくばみらい市の会社社長、新谷修一さん(62)は10年前に糖尿病を発症した。当初は症状も軽く、近隣の川井クリニック(つくば市)で食事指導などを受け、血糖値が改善。気が緩み、仕事の忙しさも重なり、通院をやめた。

 一度足が遠のくと、クリニックに行きづらくなった。06年には、体の不調を覚えた。しばらくして、クリニックの片貝貞江看護師から「最近いらっしゃっていませんが、具合はいかがですか」と自宅に電話がかかってきた。「調子が悪い」と伝え、すぐに予約を入れてもらった。

 新谷さんは「救いの電話だった。電話がなかったら、受診せずに重症化していたかもしれない」と振り返る。

 クリニックでは97年から、3〜4カ月来ない患者に電話を入れている。川井紘一院長は「声を聞くと、来院しない理由が分かる。転院していることもある」と説明する。

 再来院した患者に治療中断の理由を聞くと、半数が「仕事で多忙」を挙げ、15%が「面倒になった」と答えた。3人に1人は電話をきっかけに再来院した。片貝さんは「電話を待っていたという人もいる。どこの医療機関でも構わないので治療を続けてほしいと伝えている」と話す。

 07年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病の患者は約890万人だが、治療を受けているのは56%だ。厚生労働省は地域の医師会の協力を得て、電話などで受診を促したり、食事や運動療法の指導を行う取り組みを始めた。地道に活動する人を支えていくことが大切だ。【下桐実雅子】=おわり

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 イラストは、過食を警告するシンボルマークの「エンゼルピッグ」


検診の法的整備を 訪問診療充実、公益に力尽くす

2009年02月03日 読売新聞 Yomiuri On-Line

愛知県歯科医師会会長再任 宮村氏に聞く

(聞き手・読売新聞中部支社 片岡太)

 ――抱負は。

 歯科開業医の経営は厳しいものがありますが、会員には県民、市民の「公益」のために尽くしてほしいと強く訴えています。それが、公益法人としての県歯科医師会の使命なので、公益を重視した会の運営に全力を尽くします

 ――歯周病と糖尿病との関係が指摘されていますが、どういうことですか。

 歯周病は、糖尿病の合併症の一つで、糖尿病の患者さんは歯周病にかかりやすく、悪化しやすいということが分かっています。糖尿病になると、唾液の分泌量が低下して感染しやすくなったり、歯周病が重くなったりします。このため、県歯科医師会では、県からの委託を受けて、研修会の実施や指導医の養成を行うなど、県医師会と連携してこの問題に取り組んでいます。

 ――歯の診断が骨粗しょう症の早期発見につながるといわれています。

 歯科の診断に使うパノラマX線というレントゲンを使って、下あごの骨の一部を見ることで、骨粗しょう症の早期診断が可能です。

 このため、県医師会との協力で50歳以上の女性を対象に、レントゲン写真の読影トレーニングを受けた歯科医師が予備判定を行っています。この結果、骨粗しょう症の疑いがあれば、患者さんに十分な説明をし、同意を得た上で、医科を紹介しています。こうした取り組みを補助金事業として行っているのは、全国でも当会だけです。

 ――県民に対する今後の歯科医療の取り組みは。

 歯の健康は、全身の健康の維持に欠かせないばかりか、健康寿命と深い関係があり、歯の大切さに重点を置いた歯科医療に取り組みます。

 歯の健康を守るには、一生を通じて切れ目のない歯科医療を受けることのできる、法的に裏付けされた歯科検診体系の整備が必要で、口腔保健条例(仮称)の制定実現に向けて頑張りたいと思います。

 また、寝たきりなどの事情で歯科の診察室に来られない方にも、歯の診療を受けられるように訪問診療の充実にも最大限の努力をしていきます。

なくそう・減らそう糖尿病:「1型」根治目指し研究者2人に助成 基金活用し患者団体

2009年01月30日 毎日新聞 東京朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 1型糖尿病の患者団体「日本IDDMネットワーク」(井上龍夫理事長)は病気の根治につながる研究に取り組む研究者2人に、各100万円を助成することを決めた。患者や家族からの募金で運用されている基金を活用した。助成は今回が初めてで、ネットワークは今後も支援を呼びかけている。

 助成されるのは、膵臓(すいぞう)の別の細胞をインスリン分泌細胞に「変身」させるのに必要な技術開発に取り組む松崎高志・大阪大特任助教▽他人からのインスリン分泌細胞の移植で、拒絶反応を防ぐ研究をしている杉本光司・徳島大研究員。31日、岡山市で開かれる全国シンポジウムで贈呈する。

 1型糖尿病は血糖値を下げるホルモン「インスリン」を分泌する膵臓の細胞が破壊される病気。生涯、インスリンを注射で補う必要があり、根治治療への期待が強い。

 この活動には、1型糖尿病のプロ野球選手、岩田稔投手(阪神タイガース)も協力を申し出ているという。井上理事長は「年間1億円程度の助成を目標にしたい」と話す。【下桐実雅子】

糖尿病 有効な対策 急務

2009年01月20日 読売新聞 Yomiuri On-Line

愛知学院大 松原・主任教授 講演

 愛知学院大学の「第34回モーニング・セミナー」で、同大内科学講座の松原達昭・主任教授=写真=が「他人事ではない糖尿病 あなたは大丈夫ですか――そもそも糖尿病とはどんな病気?」と題して講演した。要旨は次の通り。

 厚生労働省は昨年12月、2007年の国民健康・栄養調査の結果を発表しました。

 今回の重点調査項目の一つは糖尿病で、調査結果によると、糖尿病が強く疑われる人は890万人、予備軍は1320万人で、計2210万人と推定されています。これは、02年調査の計1620万人を大幅に上回り、糖尿病に対する有効な対策が急務になっています。

 糖尿病学会の長年にわたる調査では、糖尿病患者さんは、正常者よりも男性で約10年、女性で約13年、寿命の短いことが分かっています。その理由は、糖尿病は腎臓病の原因になり、さらに軽い糖尿病でも心筋梗塞にかかりやすいためです。

 糖尿病のコントロールが悪いと、慢性的に血糖値の高い状態が続き、全身の血管が傷つき、様々な合併症を引き起こします。この合併症は、細い血管が傷ついて起こるものと、太い血管によるものとに分けられます。

 細い血管に起こる3大合併症としては、自律神経が侵され、立ちくらみや便秘、下痢などの起こる神経障害と、失明の原因にもなる網膜症、腎不全をきたす腎症があります。

 太い血管に起こる合併症は一層深刻で、高血糖によって血管が傷つくと、血管壁にコレステロールが蓄積しやすくなり、動脈硬化が進んで心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなります。

 その危険度は正常者に比べて2〜4倍。また、自律神経障害を伴っている場合、急性心筋梗塞を起こしてもはっきりとした症状のないことが多く、気付いた時には重症になっていて、心不全や不整脈を合併していることも少なくありません。

 さらに、3大合併症と異なり、動脈硬化は、糖尿病予備軍の段階から始まっています。実際、予備軍の人でも、正常者の2倍近く心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすいことが分かっています。

 糖尿病治療の目標は、食事療法(食品交換表の利用が有用)と運動療法(例えば、食後1〜2時間後の散歩)を基本に良好な血糖コントロールを維持して、心筋梗塞や脳梗塞、3大合併症の発症と進展を阻止し、健康な人と変わらない日常生活を送り、健康な人と変わらない寿命を確保することです。


エアロビック選手 大村詠一(おおむらえいいち)さん 22「糖尿病」(1)8歳「注射打ち続ける病気」

2009年01月12日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 昨年11月に東京都内で開かれた全日本エアロビック選手権大会。どうしても獲得できなかった男子シングル(個人)部門での初優勝が決まった瞬間、思わず泣き崩れた。

 「不安や焦りがあった時期もあったけど、自分を信じて続けてきて本当に良かった」

 阿蘇山のふもとの熊本県大津町に住む。エアロビックを始めたのは4歳。指導員の母親の影響で、お遊戯代わりに体を動かすようになった。

 小学2年生の時、体に異変を感じた。夜中、1、2時間ごとにトイレに行きたくて目が覚め、のどが渇いて水をがぶ飲みした。

 「風邪かな?」。最初はそう思ったが、1週間以上続いたため、病院を受診。検査で「1型糖尿病」と診断され、即入院した。担当医は、絵本で病気を説明してくれた。

 血糖値を下げるホルモンであるインスリンが、まったく、またはほとんど分泌されなくなる病気。のどの渇きや頻尿は症状の一つで、ひどい疲れや体重減少も表れる。子どもの時の発症が多く、食事や運動療法で改善できる「2型」とは区別される。

 8歳の理解力には限界があったが、これだけは理解できた。「注射を打ち続けなければならない病気なんだな」

エアロビック選手 大村詠一(おおむらえいいち)さん 22 「糖尿病」(2)学校でアメ 級友から偏見

2009年01月19日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 小学2年で診断された1型糖尿病。血糖値を下げるインスリン注射は、3度の食事の前と寝る前の、1日4回打つ必要があった。学校では給食前に保健室に行き、自分で太ももや腹に注射した。

 「『何で自分だけこんな病気になったのか』と、糖尿病を受け入れられなかった」

 体育や休み時間に体を動かし過ぎたりすると、低血糖状態に陥り、脱力感を感じた。放っておくと、めまいや震え、最悪の場合は意識障害を起こす。すぐにアメをなめる、ジュースを飲む、といった応急処置が欠かせない。

 「なんで詠一君だけアメ食べていいの? いいなあ」。級友から、うらやましがられた。家族は近所の人から「あの家はぜいたく」と中傷された。それが嫌で、ますます暗い気持ちになっていた。

 小学5年生になり、転機が訪れた。担任の提案で、クラス全員で糖尿病の紙芝居を作ったのだ。1人1枚ずつ絵と文を書き、各学年のクラスを回って“上演”した。

 以来、注射は教室で堂々と打つようになり、毎日の給食当番は、ご飯の重さをはかりで量ってくれた。

 「あの先生のおかげで、気持ちが明るくなった。本当に感謝しています」

エアロビック選手 大村詠一(おおむらえいいち)さん 22 「糖尿病」(3)治療法変更で血糖値が安定

2009年01月26日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 4歳で始めたエアロビックは、小学5年生から大会に出場するようになった。練習量は毎日最低3時間に増え、技は上達。中学1年の時には、九州地区代表として初めて全国大会に出場した。

 ただ、1型糖尿病のコントロールに最も苦労したのもこの時期。医師からは、食事の量を制限し、血糖値を下げるインスリン注射の量を少なめにする指導を受けていた。しかし血糖の調整がうまくいかず、入退院を繰り返した。

 中学1年の時、身長130センチ、体重38キロと小学3年程度の体格。おなかがすいて間食をし、血糖値が上がることもあった。「このままでエアロビックを続けられるのだろうか」と不安が募った。

 そんな時に出会ったのが、福岡市で開業する糖尿病専門医。自らも1型糖尿病を抱える院長は、食事制限をなくし、インスリンの量を増やす方法に切り替えた。その結果、血糖値は安定、体も大きくなった。エアロビックの技にも磨きがかかり、高校2年、3年の時、世界選手権のユース部門で2連覇を果たした。

 「医師によってこんなに治療法が変わるものなのか、と驚きました。先生も同じ病気なので相談しやすい。今も月1回の受診は欠かせません」

エアロビック選手 大村詠一(おおむらえいいち)さん 22 糖尿病(4)病も個性 出会いに感謝

2009年02月02日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 エアロビック世界選手権のユース部門2連覇の後、全日本選手権のペア部門で優勝、その後、熊本大教育学部に進学した。

 1型糖尿病との付き合いにも慣れ、大学3年の時は全日本選手権のトリオ部門で優勝。昨年春から同大大学院に進み、11月、シングル部門で念願の初優勝を果たした。

 現在、現役選手として活躍する傍ら、母親が熊本で経営するスタジオで子どもたちにエアロビックを指導。糖尿病の子がいる学校からの依頼で講演することもある。

 「糖尿病があっても、コントロールさえきちんとすれば何でもできる。僕の体験で、子どもたちを勇気づけられればうれしい」

 今年は全国6か所で開かれるイベントで、糖尿病患者に簡単なエアロビックを指導する。教員志望だったが、今はエアロビックにかかわる仕事を希望している。この競技のすばらしさをもっと国民に知ってもらい、夢は五輪の正式種目に採用されることだ。

 「エアロビックと糖尿病は僕の個性。この二つのおかげで、たくさんの人たちに出会えたことに感謝しています」

 (文・山口博弥、写真・多田貫司)(次は俳優、布川敏和さんです)


若さは口から(1)唾液分泌量 老いの指標

2009年01月07日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 唇の周りのシワやあごのたるみなど、口元には加齢のサインが現れやすい。歯周病や虫歯で歯を失ったり、むせやすくなったりして、老いを意識した人も少なくないだろう。

 「口の老化は生活の質を低下させ、全身の老化につながる」と話すのは、鶴見大学歯学部の斎藤一郎教授だ。

 口と全身の健康は、様々に影響しあっている。歯周病は、糖尿病や動脈硬化などとのかかわりが指摘されており、のみ込む力の低下は、高齢者の肺炎の原因となることが分かっている。消化や抗菌、歯と粘膜の保護など、唾液(だえき)の機能も健康維持に欠かせない。

 斎藤教授が特に注目しているのが、唾液中に含まれ、傷や神経の修復などの働きを持つ様々な成分だ。それらは口の粘膜から吸収され、全身を強化する。斎藤教授が、「唾液こそ健康の秘薬」と言うのもうなずける。

 同学部附属病院では、唾液の分泌のほか、かむ力や歯肉の状態など、加齢により衰える5項目を検査して口の老化度を測る。全身の老化度の検査結果と合わせて分析し、生活改善の指導などを行う。

 斎藤教授は、「まずは老化や健康の知識を積むこと。そのうえでライフスタイルを見直し、ストレスをコントロールするのが、理想的な老化防止のステップ」と説く。

 検査をしなくても、大まかな老化度がわかる目安もある。

 厚生労働省の調査によると、歯の数の平均は、30歳代前半が28・6本、40歳代前半が27・5本、50歳代前半が24・8本、60歳代前半が21・3本、70歳代前半が15・2本と減っていき、80歳代以上は10本に満たない。

 唾液の分泌量は、ガムをかみ、出てきた唾液を計量カップなどで測る。年齢にかかわらず、10分間で10ミリ・リットルより少ない場合は、分泌機能が低下している心配がある。

若さは口から(2)口輪筋鍛え「老け顔」防止

2009年01月08日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 年齢を重ねるにしたがって、ほおがたるみ、口角が下がる。小鼻の脇から下に向かう縦じわも深くなり、いわゆる「老け顔」になってしまう。

 老け顔の最大の原因は、加齢による表情筋の衰えだ。表情筋には、ほおを引き締める頬筋(きょうきん)や目の周りの眼輪筋、額の前頭筋などがあるが、石井歯科診療所(東京都港区)の石井聖子歯科医師は、「顔のたるみを解消するには、口輪筋を中心に、口元の表情筋を鍛えましょう」とアドバイスする。

 口輪筋は、唇の周囲を取り囲む筋肉。唇を閉じたりすぼめたりする時に働くが、普段、意識して動かすことが少なく、加齢とともに衰えやすい。たくさんの表情筋が口輪筋から放射状に伸びており、口輪筋が弱くなると、周囲の表情筋もあまり動かなくなってしまうという。

 鶴見大学歯学部附属病院のアンチエイジング外来で行われている口輪筋のトレーニング方法を図で紹介する。ほおのたるみや小鼻の脇の縦じわを改善し、口角が上がり、見た目が若々しくなるほか、唾液(だえき)の分泌を促す効果がある。ただし、アゴの開閉に問題がある顎(がく)関節症の人は、症状を悪化させる危険があるので、前もって歯科医師などに相談するのが望ましい。

 唇を閉じる筋肉が弱くなると、常に口が半開きになり、口で呼吸する癖がついてしまうことがある。口やのどの粘膜が乾燥し、唾液による洗浄・抗菌効果が低下するので、口臭や虫歯の原因になる。

 石井さんは、まずは唇を閉じる力を自分でチェックするよう勧めている。軽く口を閉じたとき、舌先の位置が上の前歯の後ろにあれば問題ないが、口を閉じる力が衰えていると、下の前歯の後ろに舌先が付く。

若さは口から(3)歯肉 指でマッサージ

2009年01月09日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 食生活や喫煙などとかかわりが深く、生活習慣病の一つでもある歯周病。女性の場合は、加齢による女性ホルモンの減少も発病・悪化の原因になる。

 歯と歯肉の境目に汚れが放置されると、歯肉が炎症を起こし、歯周病へと進行する。予防の基本は、汚れをためないことだが、歯磨きの際に力を入れすぎて歯や歯肉を傷つけたり、歯並びの悪い所に磨き残しがあったり、適切なブラッシングができている人は意外に少ない。

 歯科医師の宝田恭子さんは、「部分ごとに器具を使い分けるのがカギです」とアドバイスする。歯並びが悪い部分や奥歯を磨く時には、毛束が一つのワンタフトブラシが便利。歯と歯の間を清潔に保つには、デンタルフロスや歯間ブラシなどを活用したい。

 宝田さんは、指を使った歯肉マッサージを勧める。歯肉の血行が促され、見た目も生き生きとしてくるという。直接触れれば歯の形状や歯並びがよく分かり、使いやすい器具を選ぶ助けにもなる。

 歯磨きの後、歯の根の部分と、歯と歯の間の三角形の部分を人さし指で優しくさする。前歯は付け根を人さし指と親指で挟んで軽くこする。奥歯から前歯の中央に向かって上下左右3回ずつ。歯肉を傷つけないよう爪を短く切っておくか、ゴム手袋をはめる。

 歯磨きにもこだわりたい。宝田さんが薦めるのは、ハーブなどの天然抗菌成分を配合した薬用歯磨きだ。研磨剤入りの歯磨きを頻繁に使うと、歯や歯肉を傷つけてしまうこともあるので、無配合のものが望ましい。「喫煙者など、研磨剤無配合ではすっきりしないという人は、週に数回程度、研磨剤入りの製品を使うといい」という。

若さは口から(4)舌の運動で病気知らず

2009年01月10日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 食事量の少なくなった高齢者こそ、口のケアが大切。そんな事実を示す研究がある。

 全国国民健康保険診療施設協議会が2004年に行った調査によると、口内の清掃や、のみ込む力の訓練などを組み合わせたプログラムにより、高齢者の活動度が高まった。栄養状態が改善し、健康状態が良くなったためと考えられている。

 同協議会会長で、公立甲賀病院(滋賀県甲賀市)院長の冨永芳徳さんは、「口の状態が良ければ、食べることを楽しめるし、気兼ねなく口を開けて笑える。生きる喜びが生まれることも、大きいのではないか」と見る。

 口の状態は、お年寄りがかかりやすい病気とも深くかかわっている。その一つが肺炎。日本人の死因の第4位で、年間死亡者11万人の9割以上が65歳以上の高齢者だ。

 加齢によってのみ込む力が衰えると、食べ物や唾液(だえき)が、誤って気管に入ってしまう。一緒に入り込んだウイルスや細菌が、肺炎を引き起こす。

 口のケアにより、インフルエンザの予防効果が期待できることも分かってきた。食べ物をかむと脳の血流が増すことなどから、口の健康と認知症のかかわりを探る研究もある。

 口の機能は鍛えることができる。同協議会が作成した口の機能向上マニュアルには、のみ込む力のほか、呼吸、発音の改善を目的としたトレーニングが紹介されている。

 手軽にできるのが舌の運動だ。口を大きく開いて突き出したり引っ込めたり、舌先で唇のまわりをなぞったりする。舌の動きがなめらかになるほか、唾液の分泌が促されるので、食べ物をのみ込みやすくなる。(飯田祐子)


続・糖尿病50話:第40話 満足のいく医療の意味

2009年01月06日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 患者の皆さんの中には、自分の病気の治療に不安を持ちながらも、「結局は医師に任せざるを得ない」と感じている方が多いのではないでしょうか。だから、逆に医療の内容や結果に不満が生じると、任せたのに「なぜ?」という疑問が出るのも当然です。とくに糖尿病のような慢性の生活習慣病では、患者と医療者のかかわりが深く、そして長期間にわたりますので、いろいろな場面、いろいろな段階で患者さんの納得と満足が確認されていくことはとても大切です。

 患者の意思と権利、医療の質と満足を保ち、高めるために「インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)」と呼ばれる考え方が米国で確立され、日本でも理解されるようになってきました。医師から納得のいく説明を聞いて、各種の治療の良い面(効果)と、良くない面(副作用など)の両方を理解する。次に自分の意思で選択し、これを受けたいと決定した治療法で医療を受けることに同意する。そういう手順が重要なのは、人それぞれに自分の病気や生命に関する決定権を持っているからです。

 自分の健康には、自分が責任を持つという自覚の上で、満足な医療を受ける権利ということもできます。この権利は、自分さえよければいいという利己主義とは異なり、自分にとって大事なことは人に頼らず自分で考えて決めるという姿勢をもとにしており、欧米では個人主義と呼ばれています。でも、具体的にはどうしたらいいでしょうか?

 これについては、次回お話しします。(大阪府立成人病センター特別研究員、中島弘)

続・糖尿病50話:第41話 患者として賢くなる

2009年01月13日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 前回は、患者さんが自分にとって大事なことを自分が決めてこそ、医療に満足が得られる、というお話をしました。でも、急に「自分で考えなさい」といわれても困る方も多いと思います。NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML(コムル)」が、98年に作成した「新・医者にかかる10箇条−あなたが“いのちの主人公・からだの責任者”」から、「賢い患者」になるヒントをご紹介します。

 (1)伝えたいことはメモして準備。

 (2)対話の始まりはあいさつから。

 (3)よりよい関係づくりはあなたにも責任が。

 (4)自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報。

 (5)これからの見通しを聞きましょう。

 (6)その後の変化も伝える努力を。

 (7)大事なことはメモをとって確認。

 (8)納得できないときは何度でも質問を。

 (9)医療にも不確実なことや限界がある。

 (10)治療方法を決めるのはあなたです。

 このように医療者と良い人間関係を保ちながら患者自身が医療の理解を深めることが大切です。糖尿病など、生活習慣病の皆さんにはもうひとつ、ポイントを付け加えたいと思います。

 (11)日ごろの生活習慣は自分が自分の主治医になって管理しましょう。

 生活習慣病の対策で重要な食事療法や運動療法は、病院でなく実際の日常生活の中で自らが自分をコントロールしてこそ効果があるものです。この11カ条を参考に、賢い患者になってください。(大阪府立成人病センター特別研究員、中島弘)

続・糖尿病50話:第42話 外食を「害食」にしない

2009年01月20日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 日々の食生活には次の三つの方法があります。

 家庭内で食事をする(内食)▽レストランや食堂など自宅以外で食事をする(外食)▽出来上がった総菜やすしなどを買ってきて食事をする(中食)−−などです。食事療法が必要な場合には、内容がよくわかっている家庭料理が一番ですが、今日では外食や中食を利用する機会がどうしても多くなります。

 一般に外食や中食は、穀類と油脂及び油脂性食品を使った料理が多く、野菜が少ないという傾向がありますので、食事のコントロールに失敗しないように次のことに気をつけましょう。

 (1)炭水化物や脂質に偏った食品や複雑に調理されたものは避け、なるべく和風定食など料理数の多いメニューを選ぶ。

 (2)量は1日に必要な食事量の3分の1を目標にする。なかでも主食量や、魚・肉などの主菜量、野菜量はできるだけ3分の1をとることを目安にする。

 (3)あらかじめ何をどれだけ食べれば良いか、あるいは何をどれだけ残せば良いかを決めておく。

 (4)丼物やめん類などの一品物を選ぶ場合は、不足しやすい野菜を一品料理でとるか、その日の家庭の食事で補うようにする。

 (5)めん類の汁には塩分が多いので残すよう気をつける。

 (6)韓国・東南アジア料理など外国料理は、思ったより油や香辛料が多く使われていることがあるので、食べ過ぎないよう注意する。

 (7)宴会やパーティーなどのコース料理は雰囲気に負け、つい食べすぎるので、1日の食事計画の中で他の2食も含めて考えておく。

 「害食」にしないために、外食や中食と上手につきあいましょう。(大阪府立成人病センター管理栄養士・糖尿病療養指導士、福田也寸子)

続・糖尿病50話:第43話 2型糖尿病・運動の役割

2009年01月27日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 皆さんは糖尿病のよい治療には、運動、食事、血糖降下薬の3本柱が必要だとご存じでしょう。最初に糖尿病と診断されたときに聞かれたはずです。ところが治療歴が長くなるにつれて次第に薬だけに頼っていませんか。今日は運動について考えてみましょう。

 私たちは静かにあおむけになっているだけでもエネルギーが必要で、これを基礎代謝といい、単位に使われます。運動の強さを表すにはメッツ(M)を使いますがこれはある運動が基礎代謝の何倍かで表現します。Mを使う利点は体重に無関係に運動量が比較できることです。特定の運動が何Mに相当するかは詳しい表(厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」参照)がありますので、これを見てご自分に合った運動を見つけて実行してみてください。例えば普通の歩行は3M、サイクリングは8M、階段を上ると15Mといった具合です。Mに時間をかければ運動量になり、その単位をエクササイズ(E)と言います。

 ところで、普通の筋肉運動では主に脂肪酸が使われます。脂肪酸は血糖を上昇させますので脂肪酸が消費されると血糖は下がるのです。図は同じ量の食パン420キロカロリーを食べた後、30分間歩行運動(ウオーキング)をした場合(運動量は3M×0・5時間=1・5E)と、しなかった場合で血糖の動きを比較したグラフです。わずか1・5Eでこんなに差があるのです。近くには歩いて行く、階段は歩いて上る、テレビを見ながら下肢(大きな筋肉)を動かすなどの習慣を心がければ皆さんのHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)はグンとよくなるはずです。成績のよい患者さんは、必ずよい運動習慣を持っておいでです。(久留米大学名誉教授、野中共平)

続・糖尿病50話:第44話 血糖値への食事の影響

2009年02月03日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病患者さんで血糖の自己測定をされている方は少なくないでしょう。ご自分の食後の血糖値予測は大体当たりますか、それとも外れますか。食事療法は難しいですか。今回はこの予測が難しい理由を述べてみましょう。

 食事療法のための食品交換表で表1から表6までの食品がありますが、表1食品(糖質)と呼ばれるのはでんぷんを主とする食物です。普通食事全体量の50〜60%を表1食品でとるように指導されていると思います。でんぷんが消化・吸収されてできるブドウ糖は、血中では血糖と呼ばれています。では表1の食品を等カロリー食べて血糖を見るとどうなるでしょう。

 図はその一部を示します。ご覧のように食後の血糖パターンは大変多様です。「くずきり」「はるさめ」や「生(非加熱)コーンスターチ」はゆっくり低く長く持続する血糖の山を示しますので、夜間の低血糖の予防に使われます。対照的に米飯や「加熱コーンスターチ」は高い急峻(きゅうしゅん)な山形を描いています。砂糖(調味料)は図のように急激上昇型ですので低血糖の早い回復を目指して使われます。ついでながら低血糖からの回復には砂糖よりもブドウ糖がさらに迅速ですのでブドウ糖はいつも携帯しましょう。

 もちろん実際の食事では単品を用いることはなく、表1〜表6を種々の割合に含んだ食品を摂取します。単品でも食後血糖は多様ですから、混合食では食後血糖を予測することは一層難しいのです。

 食後の高血糖をできるだけ抑えるためには、食物繊維を多めにとったり、よくそしゃくして食事に時間をかけることが有効ですが、自分が使いやすい血糖測定器や方法を使って時々食後の血糖値を自己測定する必要があるのです。(久留米大学名誉教授、野中共平)

続・糖尿病50話:第45話 ストレスとの関係

2009年02月10日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病の患者さんは世界中で激増し、ここ10年は、日本でも毎年50万人以上のペースで増えています。その原因は、脂肪を中心とした過食と運動不足といわれていますが、実は、ストレスも大きくかかわっていることが知られています。

 ストレス時に分泌される副腎皮質ホルモンをはじめとした多くのいわゆるストレスホルモンは、本来外敵に対し、これから戦おうとする準備状態に必要なものです。心拍数、血圧を上昇させることで全身の筋肉に血液を送り込みます。同時に筋肉のエネルギー源として必要なブドウ糖を作るために、膵臓(すいぞう)でのインスリンの分泌を抑え、あるいはインスリンの働きを妨げることで蓄えてあるグリコーゲンや脂肪を分解します。

 筋肉でブドウ糖が使われるときには血糖値はあまり上がりませんが、体を動かさないのに、ストレスホルモンだけ過剰に分泌されると血糖値は上昇してきます。肉体的ストレスとして外科手術を受けるときなどは、糖尿病の治療を受けている方だけでなく、予備軍でも血糖値が結構上がる方が多いので注意が必要です。もちろん、精神的ストレスも重要で、インスリン治療中の患者さんで、リラクセーションなどのストレス治療を行うとインスリン使用量が20%以上減少したという報告もあります。

 ストレスが慢性的に持続すると糖尿病発症のきっかけになりますし、糖尿病になってからの血糖コントロールにも悪影響をもたらし、さらにそのことが次のストレスを生み出すという悪循環に陥ります。ストレスコントロール自体も難しい場合が多いのですが、この悪循環を断つためには、糖尿病に関する正しい知識を身につけ、早い時期に専門医に相談することも必要です。(大阪市立北市民病院副院長兼糖尿病科部長、佐藤利彦)

続・糖尿病50話:第46話 動脈硬化症に注意を

2009年02月17日 毎日新聞 大阪朝刊 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病では、糖尿病でない人の数倍も、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などの動脈硬化性疾患がおこりやすいと言われています。動脈硬化症はかなり進行しても、ほとんど無症状なので、症状や肥満の有無にかかわらず糖尿病では動脈硬化症の検査が必要です。

 動脈硬化症の検査には幾つかありますが、心電図やエコー検査など簡単な検査でかなりのことがわかります。私たちは、糖尿病患者さんのほとんど全員に心電図、頸(けい)動脈エコー、脈波速度検査などをしています。昨年1年間だけでも10人近い患者さんで、症状が無いにもかかわらず頸動脈エコーなどで動脈硬化症の進行を認め、さらに詳しい検査(MRI、CT、心筋シンチなど)をしたところ、脳や心臓の血管が詰まりかけていることが判明し、外科的血管治療などにより心筋梗塞や脳梗塞の発症を防止できました。

 このように、早期発見はとても大切なことですが、もっと大事なことは動脈硬化症が進まないようにすることでしょう。高血糖のみならず、高脂血症、高血圧、肥満、喫煙などは動脈硬化症の原因になることが知られています。禁煙・肥満是正などの生活習慣改善は基本的な動脈硬化症の治療です。

 高血圧、高脂血症の薬物治療なども必要ですが、動脈硬化症の進行度、年齢などによって、どの程度の治療をするかは変わってきます。まだ動脈硬化症の検査をしていない方、特に糖尿病もしくは予備軍の方は、症状が出る前にぜひ、頸動脈エコーなどの動脈硬化症の検査を受けてください。(大阪警察病院内科統括部長・副院長、小杉圭右)


糖尿病2000万人突破 予備軍含め、10年で1・6倍

2008/12/25 中国新聞ニュース

 糖尿病の疑いがある成人が二〇〇七年十一月時点で、計二千二百十万人に上ると推計されることが二十五日、厚生労働省の「〇七年国民健康・栄養調査」で分かった。患者だけでなく予備軍も含まれる。一九九七年から十年間で一・六倍となり、四・七人に一人となる計算。前年調査と比べ三百四十万人の大幅増となった。

 国民の間で生活習慣病の危険が急速に広がっている実態が浮き彫りになったかたちで、厚労省は「食生活の乱れや、運動不足がなかなか改善されてないのが大きな要因」(生活習慣病対策室)としている。

 調査は、〇七年十一月、無作為に抽出した約六千世帯を対象に実施。回答者のうち、成人男女計約四千人の血液検査結果などを基に推計した。

 糖尿病の診断指標のひとつ、血糖の状態を示すヘモグロビンA1cの濃度(正常値は5・6%未満)が6・1%以上の「糖尿病が強く疑われる人」が約八百九十万人(前年約八百二十万人)、5・6%以上6・1%未満の「糖尿病の可能性を否定できない人」は約千三百二十万人(同千五十万人)で、合わせて約二千二百十万人に上った。

 年代別の人口に占める割合は七十歳以上が37・6%で最も多く、六十代35・5%、五十代27・3%、四十代15・3%、三十代6%と続いた。

 厚労省は強く疑われる人を「患者」とみなしている。調査対象者で「強く疑われる」との結果が出た人のうち、39・2%が「ほとんど治療を受けたことがない」と回答。厚労省の担当者は「糖尿病の初期は自覚症状が出にくく、治療が遅れるケースが多い」としている。

糖尿病予備軍の食事法 血糖値が気になる人は「酢」を飲もう 河合 勝幸

2008年12月18日 All about

 高価な健康食品も結構ですが、食事の時に「酢」を大さじ1杯飲むだけで食後の血糖上昇を抑えられるという研究がいろいろあります。

 食事の時は大さじ1杯を心掛けよう。飲んで良し、サラダでよし。 高価な健康食品も結構ですが、食事の時に「酢」を大さじ1杯飲むだけで食後の血糖上昇を抑えられるという研究がいろいろあります。一番いいのがワインビネガー、そしてリンゴ酢だそうです。これは安上がりですね!私もやっていますよ。

 このテーマは日本の研究者が先鞭をつけたものです。たとえば、普通のご飯よりも酢めしのほうが食後の血糖上昇が少ないのはグリセミック指数の研究会でも以前から報告されていました。 食酢(以下、酢とします)はどの家庭にもある調味料ですし、日常的によく使われています。これはとても興味をそそる研究ですね。

 なぜ酢が血糖上昇を抑えるかについては、いろいろな機序が指摘されています。まず、酢の有効成分は酢酸(さくさん)であることは間違いなさそうです。ふつうの食酢には酢酸が5%位含まれています。そして、酢を使った料理を食べると胃から腸への移動が遅くなります。これだけでも食後の血糖上昇のピークを低くできます。 次に酢は小腸での2糖類分解酵素の作用を抑えます。ご飯のデンプンは単糖のブドウ糖が長く大量につながったものです。それが口や胃の中からすでに小さなブロックに切り分けられ、最後はブドウ糖2個の麦芽糖から2糖類分解酵素によってブドウ糖単体になって吸収されます。

 2型糖尿病の人はタケダの"ベイスン"のようなアルファーグルコシダーゼ阻害薬を服用していることが多いと思います。この薬はまさしく2糖類分解酵素の働きを阻害することにとってブドウ糖に分解されることを抑えて食後の血糖上昇をゆるやかにするものです。 実験によると食事の2分前に酢大さじ1杯を水で割って飲むと"ベイスン"と同じ働きをするのです。

 さらに酢は筋肉細胞において、ある酵素の活性を高めることによってブドウ糖の分解を抑え、ブドウ糖をグリコーゲン(動物性のデンプンのようなもの。水溶性)に合成することを促進します。その結果、血液から筋肉細胞へのブドウ糖の取り込みが増加します。つまり、酢を飲むとメタボや太った2型糖尿病に見られる"インスリン抵抗性"が改善することが期待できるのです。 その上、肝臓にも作用してブドウ糖の放出を抑制する仕組みも解明されていますから、まるで糖尿病薬"メトホルミン"みたいですね。

 酢が代謝に関与する研究は日本の研究者が世界の最先端ですが、臨床的な立場で糖尿病と酢の関係を調べている論文はアメリカ糖尿病協会(ADA)の出版物に多く載っています。

 変った研究では血糖コントロールのいい2型糖尿病者はベッドタイムに大さじ2杯のリンゴ酢と30gのチーズ(タンパク質8g、炭水化物1g、脂肪1.5g)を摂取すると、明朝の空腹時血糖が明らかに下がるというものがあります。 [Diabetes Care 11月号 2007]

 チーズを一緒に摂るのは、経験的に空腹時に酢を飲むのが不適切だからです。でも、これは少人数、短期間のものですから、エビデンスというより問題提起のレベルだと思います。

 日本人のようにご飯を主食とする人達、つまり高炭水化物食の人達には食前にリンゴ酢20g、水40g、サッカリン小スプーン1)を飲めば、炭水化物87gの食事を摂ると明らかに酢を飲むと食後30分、60分の血糖上昇が抑えられたという報告もあります。 この場合は特にメタボリックシンドロームのようなインスリン抵抗性の高い人に効果がありました。[Diabetes Care 27.281-282.2004]

 糖尿病のある人は経験的に酸味の発酵食品は血糖を上げないことを知っています。

 私達は黒酢のような米から作った高価な"飲む酢"を知っていますが、アメリカの研究者によると米酢は糖質が多いのでワインビネガーやリンゴ酢の方がいいとのことです。 でも大スプーン1杯の糖質なんて高が知れていますから、好みで選んでください。

 私は500ml 300円ぐらいのリンゴ酢で実験中ですよ。

冬の運動(1)ジョギング 温かな服を

2008年12月17日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 運動不足になりがちな冬の季節。寒さに気をつけながら、運動したい。冬ならではの運動や注意点を紹介する。

 ジョギングは、冬に適した運動だ。夏より楽に走ることができるからだ。

 夏と違って一番気をつけなければならないのは服装。冷気が肌にかかると血管が収縮して心臓に負担をかける。血圧が上がりやすくなるので高血圧の中高年は気をつけたほうがいい。手袋や帽子などを身につけ、ウインドブレーカーなど風を通さない防寒着、汗を吸い取る吸湿性、速乾性に優れたシャツを選ぶ。脱ぎやすいシャツやジャージーを重ね着して、体温を調節すれば、寒さとうまくつきあえる。

 温かな服に着替えたら、外で準備運動をする。冬は筋肉の柔軟性が低下しているため、5〜10分ぐらいかけて念入りに。体が冷えているので、屈伸運動や足踏みをゆっくりと行って体を温める。

 「走る時も、体に無理な負担がかからないように、ゆっくりと」とアドバイスするのは「はとりクリニック」(川崎)の医師でスポーツ医学に詳しい羽鳥裕さん。呼吸は口ではなく、鼻でする。口からでは冷たい空気が入って風邪を引きやすい。鼻呼吸には、加湿効果もある。

 運動後、汗をかいていたらすぐに着替え、入念に軽い運動やストレッチなどを行う。筋肉中に疲労物質がたまるのを防ぐ効果があるという。

 汗をかいていなくても水分を発散しているので、コップ一杯分の水を飲むといい。血液の濃度が上がって脳卒中などになることを防ぐためだ。

 冬は寒さに加えて、宴会などのつきあいがあり運動をさぼりがちだが、週2回ぐらい継続的に行うのが大事だ。羽鳥さんは「細切れの運動でも内臓脂肪は燃えやすい。15分と短時間の運動でも無駄ではない」と話している。

冬の運動(2)家事の合間にストレッチ

2008年12月18日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 冬は気温の低下で、血管が細くなり、血流が悪くなって、冷え性も悪化しやすい。女性ばかりでなく、最近は男性の冷え性も増えている。

 効果的なのは、体の内部から温めること。筋肉は血液が多く集まるところで、太ももや、おなかから腰にかけての大きな筋肉を使うと、温かい血液が全身に流れる。

 とはいえ、冬は、外に出ての運動はなかなか長続きしない。室内で気軽にできる「日常ながら運動」がお勧めだ。「時間も金もかけず、家事をしている時や、デスクワークをしている時などにできる」と、「日常ながら運動推進協会」(東京)代表の長野茂さんは話す。

 まずは太ももを使う。「台所で立って、料理しながらできます」と長野さんが勧めるのは「脚の巻き上げ運動」。足を後ろに曲げてかかとを勢いよく尻に当てる。太ももの筋肉が伸び、下半身の血液の流れがよくなる。左右交互に1分間で計60回。尻から太ももの裏側にかけての筋肉を引き締める効果もある。

 座って行うのは「脚裏ストレッチ運動」。腰掛けて背筋を伸ばし、右足を伸ばしてつま先を立て、少し前傾して、ふくらはぎや太ももの裏を伸ばした状態で30秒静止する。左足も同様に30秒伸ばす。足の筋肉は血液を上半身に戻すポンプの役割をしている。下半身の筋肉を繰り返し伸ばして刺激すればポンプの働きは活発になり、血液の流れもよくなる。

 脚とともに、動かすと体が温まるのはおなかまわりの筋肉。腹筋運動の「上体倒し運動」がお勧めだ。いすに浅く座り、おなかをベルト1穴分引っ込めたまま息を吐いて、背もたれにつく直前に体を止め10秒間維持する。ゆっくり戻して、これを3回繰り返す。腰が弱い人は注意する。

 それぞれの運動を1時間ごとに1分間行う。「1日トータルで15分ほど運動すれば、継続的に体を温められる」と長野さんは話している。

◆長野さんはCS放送「日テレG+」でも「日常ながら運動」を紹介しています。こちらのページからその一部を動画でご覧になれます。

冬の運動(3)腕振ってウオーキング

2008年12月19日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 気軽な運動として人気の高いウオーキング。日本ウオーキング協会の主席指導員である吉見秀文さんは「ウオーキングなら、冬でも無理なく運動できる」と話す。

 冬のウオーキングの服装は、重ね着が基本。脱ぎ着して体温を調整するので、チャックを下げて脱げる服がいい。脱いだ服は手に持つのではなくリュックに入れる。ウオーキングで手を振るのも運動なので、何も持たないほうがいい。

 冬は体が冷えているので、準備運動として、体が温まるまで入念にストレッチを行う。歩く時は、ペースを一定に保つこと。速くしたり、遅くしたりすると、体に負担をかけ、疲れやすくなる。

 ある程度のスピードをつけ、腕を前後に振って心臓の高さまで上げたり、歩幅を広げて足の筋肉を使ったりすると、血液が循環しやすくなる。

 吉見さんは「初心者は、疲れが残らないよう、最初は無理せず自分の歩ける範囲で歩いたほうがいい」と話す。初心者の目安は、長くても1、2時間、5〜10キロくらい。

 止まると体が冷えやすいので、なるべく信号の少ないコースを選んだほうがいい。河川敷などを利用する。

 休憩は20分に1回程度。1回5分程度休む。休憩時にストレッチをすると、体も冷やさず、疲れを残さない。

 歩く時間帯は、寒さが厳しい朝や夜を避け、できるだけ太陽が出ている昼間を選ぶ。冬は早く暗くなるので、夕方や夜に歩くなら、夜光反射材付きの靴やウインドブレーカーを身につけたり、リュックに反射材のシールなどを付けたりすると、より安全だ。

 毎日5分でも10分でも続けるのが理想。無理なら週3日程度でも構わない。ただし、風が強い厳寒時は体を冷やしやすいので、ウオーキングはお休みにすること。

冬の運動(4)「かんじき」で雪の上歩く

2008年12月22日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 氷や雪の上での運動は、冬ならではの楽しみ。

 最近、雪が積もった低山などを歩く「スノーシューイング」のツアーが人気を集めている。雪の上を歩くためにくつの下に装着するアルミ製の歩行補助器をスノーシューという。古来、日本で使われているかんじきに似ている。浮力があって雪に沈まず、ひざへの負担が軽い。

 スノーシューをつけて歩くのが「スノーシューイング」。日本スノーシューイング連盟(東京)代表の原田克彦さんは、「体の動かし方は通常のウオーキングに近く、子どもから高齢者まで楽しめます」と話す。

 やや歩幅を小さくして雪を踏みしめ、ゆっくり歩くのが基本。ストックを持って体を安定させる。通常のウオーキングの倍近い運動量になるので、距離も、ウオーキングで歩く時の半分くらいが目安。人里離れた土地を行く時は、ツアーに参加するか、地元の観光協会などでガイドを紹介してもらおう。

 服装は帽子や紫外線を遮断するゴーグルのほか、シャツやフリース、パーカーなどを重ね着し、リュックに下着の着替えや水筒を入れておく。

 女子フィギュア選手の活躍で、スケートの人気も出てきている。明治神宮アイススケート場(東京)のインストラクター吉田万里子さんは「すねの外側やふくらはぎ、太ももなど普段使わない筋肉を使うので、いい運動になる」と話す。初心者はスケート場のインストラクターに教えてもらおう。「歩く時と体勢が違うので気をつけて」と江戸川区スポーツランド(東京)のスケートインストラクターの長久保初枝さん。両足を60度くらいのV字形にして、足を横に押し出すように滑るのが基本。 (小野仁)


かむ効用(1)唾液 活性酸素を撃退

2008年12月10日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 テレビで体にいいと言われた食べ物が突然スーパーで品切れになるなど、何を食べるかに関心を持つ人は多い。しかし、食べ物を体内に取り込む際の「かむ」という動作が、どれほど健康とかかわっているかは意外と知られていない。

 食べ物を歯でかみ砕き、唾液(だえき)を混ぜて、のみ込みやすい大きさの塊にする。下あごや舌が連動した「咀嚼(そしゃく)」とは、こんなに複雑な動作だ。日本歯科大教授の小林義典さんは「咀嚼の神経回路は、呼吸や姿勢保持、血液循環などと同様、脳幹にある。咀嚼が、いかに生命維持に重要かを示している」と話す。

 ところがファストフードに象徴される軟らかい食べ物の普及で、現代人の平均的な咀嚼回数は、戦前に比べて約6割も減っている。

 それによって生じる問題の一つが、食べ物をかみしめるほど多く分泌される唾液の減少だ。唾液には、糖分を分解するアミラーゼなどの消化酵素が含まれていることは知られているが、それは多様な機能の一部に過ぎない。

 小林さんによると、歯の汚れの除去や粘膜の傷の修復、歯の補強、抗菌作用や免疫強化のほか、ウイルスを直接攻撃してくれる免疫細胞を増やす作用もあるという。

 毒消し効果もある。日常の食べ物には栄養素だけでなく、微量ながら発がん性物質を含む物も多い。その多くが、わずか30秒間、唾液に浸されるだけで毒性がほとんど消えるという。発がん性物質が作り出す活性酸素は、がんや老化につながるが、唾液中に含まれるペルオキシダーゼなどの酵素は、その活性酸素を消す作用を持っているためだ。

 小林さんは「『一口30回以上かめ』といわれるが、唾液の機能を十分発揮させるためにも、そのぐらいの時間が必要ということ」と説明する。

唾液の多様な機能

・酵素で食べ物を消化する
・歯の汚れを洗い流す
・食道や胃の粘膜を保護する
・歯のエナメル質保護や再石灰化促進
・細菌の発育を抑える
・免疫力を強化する
・食物の発がん性を減らす
・活性酸素の消去
・成長を促すホルモンを分泌する

かむ効用(2)ゆっくり食べ 少量で満腹

2008年12月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「太っている人は、食べるのが早い」。こんな印象通り、よくかまずに早食いすることは、確かに肥満の原因になるらしい。

 東京歯科大とライオン歯科衛生研究所は、肥満と食習慣の関連を共同研究している。それによると、大人も子どもも早食いの人ほど、また、よくかまない人ほど肥満の傾向が強いことが分かった。

 研究では意外にも、夜食やおやつ、遅い夕食など、「いつ食べるか」は肥満との明確な関連がみられず、「いかに食べるか」の重要性がはっきりと浮かび上がってきた。

 多くかむ人の特徴は、食事時間が長い一方、食事量は少ないこと。これは、食べ物をよくかむほど脳の満腹中枢が刺激されて、食欲が抑えられるためだ。早食いの人は、満腹感を感じる前に大量に食べてしまいがちになる。

 研究グループが、健康な男性を50回以上かむ多咀嚼(そしゃく)と通常の咀嚼に分けて、満腹になるまでおにぎりを食べてもらったところ、多咀嚼は528グラム、通常の咀嚼は693グラムで、多咀嚼の方が確かに少ない量で満腹になった。

 血糖値を抑えるインスリンの分泌量も、多咀嚼の方が上昇が穏やかで、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)に優しい。インスリン分泌は年齢とともに衰えて、糖尿病の原因になるため、若い時からインスリンを節約する食事は糖尿病を予防し、健康長寿につながる。

 同研究所研究部主任の武井典子さんは「大人になってから早食いを改善するのは難しい。子どもの時から、先に口に入れた食べ物をのみ込むまで次の食べ物を入れないなど、よくかむ習慣を身につけさせたい」と話している。

■早食い防止10か条(武井さんによる)

・かむ回数を意識的に増やす
・一口の量を減らす
・のみ込んでから次の食べ物を口に入れる
・水分と一緒に流し込まない
・ゆっくりと、唾液を混ぜ合わせる
・歯ごたえがある食材を選ぶ
・野菜はゆですぎず、大きめに切る
・品数を増やし、外食では定食を選ぶ
・時々、はしを置く
・2人以上で食べて会話を楽しむ


かむ効用(3)脳への効果 指運動より大

2008年12月12日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 よくかむことは身体の健康保持に役立つだけでなく、脳を活性化する効果もある。

 「細かい手作業は、認知症防止に役立つ」といわれるが、日本歯科大教授の小林義典さんによると、指の運動よりも咀嚼(そしゃく)の方が脳を活性化する効果は大きいという。小林さんらが、硬さが違う4種類のグミゼリーを咀嚼した時の脳血流量を調べたところ、硬いものほど血流量が多くなった。

 咀嚼力低下と認知機能の関連を示す研究もある。東北大の研究では、70歳以上の高齢者1167人の認知機能と歯の本数の関係を調べた。認知機能が正常なグループは歯の平均本数が14・9本だったのに対し、軽度の認知障害の疑いがあるグループは13・2本、認知症の疑いがあるグループは9・4本と少なかった。

 ネズミの歯を抜くと学習や記憶能力が低下するという動物実験もあり、人でも咀嚼力の低下が認知機能に影響を与えている可能性がある。

 そのほか、ガムをかむことで学生のテスト成績が向上したという実験や、幼稚園児の知能指数と咀嚼の仕方に相関があったとの報告もある。

 カナダの脳外科医ペンフィールドが、大脳皮質の場所と体の部位との対応を調べて作った有名な脳機能地図がある。歯やあご、唇、舌など口周辺の機能に関連する大脳皮質面積が全体の4割近くを占めており、かむことが脳に及ぼす影響の大きさが容易に想像できる。

 小林さんは「歯ごたえがあるものを食べることが、脳の活性化につながる」と話す。

かむ効用(4)転倒予防へ口腔ケア

2008年12月15日 読売新聞 Yomiuri On-Line

高齢者の自立支援のため、口腔ケアの重要性がますます高まっている(菊谷さん提供) かむことと力の発揮との間には深い関係がある。

 東京歯科大准教授でスポーツ歯学が専門の武田友孝さんによると、かむと大脳皮質の運動野が活性化され、全身の関節周辺の筋肉が働き、体が固定される。「動物がエサを食べる時、体がぐらつかないように進化した」と解説する。

 かみしめ効果が大きいのは重量挙げのように体を固めて力を出す動きだ。逆に100メートル走などは、かめば逆効果になる。ただし、速い運動でも、体操の着地やサッカーのヘディング、ボクサーがパンチを当てた時など、瞬間的にかむことは多い。

 ボクシングやラグビーの選手が使うマウスピースは樹脂製で軟らかく、歯と歯でかむよりも強い力でかめる。そのため、首回りが固定されてけがを防ぐほか、より大きな力を発揮できる。

 高齢者の転倒予防にも、かむ効果は生かせる。広島大のグループが、自立歩行できる認知症高齢者146人の転倒頻度とかみ合わせの関係を調べたところ、年2回以上転倒したグループでは、奥歯を失い、かめない人が66%いたが、転倒が1回以下のグループでは22%と少なかった。奥歯がない人でも入れ歯でかめるようにすると転倒は減った。

 日本歯科大病院口腔(こうくう)介護・リハビリテーションセンター長の菊谷武さんは「かみ合わせが戻れば、転倒しそうになった時にふんばりが利き、バランスが保てる。高齢者の自立支援には、口腔機能の改善が欠かせない」と話している。

 健康情報があふれる中、「かむ」という基本動作の重要性を見直したい。(藤田勝)


歯茎からの出血

2008年12月09日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 糖尿病と関係は 最近、歯茎から出血するようになりました。糖尿病なのですが、この病気と関係がありますか。 (愛知県豊川市 60歳の主婦)

歯肉炎や歯周病 悪化する傾向に

星野 周二 愛知県歯科医師会豊川会長

 糖尿病になると、免疫力(抵抗力)や血流量の低下から、傷が治りにくくなったり、炎症が起きやすくなったりするなどの症状が現れます。

 口腔(こうくう)内領域では虫歯や歯肉炎、歯周病などにかかりやすくなります。特に、歯周病が悪化する傾向があり、糖尿病の方とそうでない方を比較すると、歯周病発症のリスクは約2・5倍と言われています。

 ご質問については、歯肉炎か、歯周病が疑われるため、歯科を受診されることをお勧めします。その際、服用している薬や糖の状態、持病があれば合わせて歯科医に相談して下さい。

 歯科治療の際、糖尿病の方は血糖値がコントロールされていることが大切です。特に、出血を伴う外科的処置(抜歯など)の際には、医科との連携が必要です。


「元気」を測ろう(1)楽しい歩数計で長続き

2008年12月03日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 健康状態を自分でチェックできる機器が、暮らしの中に広がっている。まずは、おなじみの歩数計から紹介しよう。

 歩数計は、歩数以外に消費カロリーや距離、脂肪燃焼量も測定できる多彩な機能が付き、なお進化が続いている。

 東急ハンズ新宿店は、10月から、歩数計売り場の面積を広げた。高機能なものだと売れ筋は4000円前後で、ポケットに入れたまま測れるタイプが人気を集めているという。いろいろな方向の振動を感知でき、かばんの中でも服の中でも測ることができる。

 歩くことが楽しくなるような仕掛けも、各社が競い合っている。例えば、データをパソコンなどに送信し、歩数だけでなく、どの時間帯にどれだけの速さで歩いたかなど、1日の行動を振り返ることができる機能付きのものだ。

 任天堂は11月、歩数表示のない歩数計を発売した。「生活リズム計」といい、1分単位で歩数データが記録され、ゲーム機のDS本体に向けて赤外線通信することで、1日の終わりに歩数確認が楽しめる。曜日ごと、月単位などの記録分析も可能で、今まで気づかなかった生活リズムを知り、健康を意識できるようにした。

 バンダイは、「遊歩計」と名付けた歩数計を近く発売する。宇宙戦艦ヤマトと、母をたずねて三千里をモチーフに、歩数によってストーリーやエンディングが変わる。データはパソコンで管理でき、アニメの登場人物から健康アドバイスも受けられるという。

 携帯電話にも、歩数計内蔵の新機種が続々と誕生している。このほかにも、見ただけでは歩数計と分からないようなデザインも多い。使って楽しいかどうかが、長く使い続けられるものを選ぶ際のポイントのようだ。

「元気」を測ろう(2)体組成計でダイエット

2008年12月04日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 家庭用体重計が発売されて50年になる。50グラム単位で測定できる高精度なものも登場しているが、メーカー各社が今、販売に力を入れているのが、内臓脂肪や筋肉のつき具合まで測定できる体組成計だ。

 骨全体に含まれるカルシウムなどの「骨量」や、生きていくために最低限必要な「基礎代謝量」までわかり、ダイエットなどの健康管理に役立てることができる。

 健康コンサルタント・ニュートリートの佐野喜子社長は、「体組成計を使うことで、食事制限だけで減量する危険防止にもなる」と説明する。食事制限をすると、脂肪が減るが同時に筋肉も減少する。さらに基礎代謝量が低下するため、しばらくすると体重の下げ止まりが生じる。体が体重や体脂肪を維持しようとする働きを強めるからだ。この時期は体重だけでなく、体組成計の他の指標を注目したい。

 「3か月以内で、厳しい食事制限をしながら10%以上体重を減らした人は、リバウンドに注意して」という。

 佐野さんは、1日のうちで体重が軽くなる起床直後と、食後で重くなる就寝直前の2回の体重を、毎日測定するよう勧めている。100グラム単位で量って変化をグラフにすると、飲み会で食べ過ぎた翌朝には、前日の朝より体重が増えていたり、たくさん食べても運動量が多いと減るのが分かり、自分なりの対策が立てられるようになる。

 測定したデータをインターネット上で管理し、助言も受けられる会員制サービスも広がっている。タニタが運営する「からだカルテ」では、参加した会員が減らした脂肪量1キロ当たり1円を、国連の世界食糧計画(WFP)に、タニタが代わって寄付する。パナソニックの「からだバランスラボ」は、体のタイプに合わせて手軽に続けられる運動を動画で配信してくれる。

「元気」を測ろう(3)朝一番の血圧チェック

2008年12月05日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「不思議なくらい売れている」とメーカーが話すのが家庭用血圧計だ。国内市場の7割近くを占めるオムロンヘルスケアによると、自分の健康管理のために購入する人が増えており、半分は正常値の人だという。

 腕を入れる上腕式と、腕に巻き付けるタイプ、手首で測る機種がある。健康管理を考える正常値の人は、手軽に測れる手首式を選ぶケースが多いようだ。

 使い方について、同社国内営業本部の吉村実営業戦略課長は、「正確な測定には、手首を心臓の高さに合わせることが大切」と強調する。測る際の手の高さによって血圧が変わり、手を高く上げれば低く、下げれば高くなるからだ。心臓の高さから10センチ離れると血圧が平均で8程度変わる。腕をだらんと下げて測れば、血圧が30ほど高くなるという。

 同社では、測定精度を高めることに特に力を入れており、測定姿勢をセンサーが検知する「手首高さガイド」や、腕の太さにかかわらず腕帯を簡単に巻き付けられる「フィットカフ」などの機能を付加した製品を開発してきた。

 近年注目されているのが、家庭でしか発見できないとされる「早朝高血圧」。家庭で測定する場合、最高血圧が135以上、最低血圧が85以上あることが高血圧の目安となっているが、これらの数値を朝に超えた場合を、早朝高血圧と呼んでいる。

 心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞が朝の時間帯に発生しやすいとのデータがあることから、起きてから1、2時間以内に測ることが推奨されている。目安となる値を超えた場合、自動的に注意を促す機能付きの機種もある。

 まだ一般的ではないが、血圧以外にも、血糖値や尿糖を測る機器が、一般向けに発売されている。毎日の健康管理のため、活用を検討したい。

オムロンヘルスケアの血圧手帳参照

〈1〉リラックスして測る
〈2〉排尿、排便してから
〈3〉座った姿勢で
〈4〉毎日同じ時間帯で
〈5〉20度前後の部屋で

「元気」を測ろう(4)関心高まる血管年齢

2008年12月08日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 毎日気をつけるほどではないが、健康管理のため時々は測っておきたいものもある。自治体などの健康祭りで最も人気が高い血管年齢がそのひとつだ。

 血管年齢とは、血管の老化度を分かりやすく数値化したもの。「人は血管と共に老いる」と言われる。年をとると血管の弾力性がなくなり硬くなっていくためで、動脈硬化による疾患の危険性が高まる。

 記者も実際に測ってみた。手の指先をちょんと穴の中に入れて20秒弱。瞬く間に測定が終わり、パソコンの画面に「あなたの血管年齢は43歳です」との表示。この後、「年齢に応じたまずまずの血管弾力性である」などと印字された結果表を受け取った。「年齢より若い血管を目指し、有酸素運動を積極的に取り入れてみませんか」とも。いずれにしろ一安心だ。

 心電図のようにも見える脈の波形は、年齢によって変化する。測定した結果と標準的な波形を比べ、血管年齢を診断するというわけだ。

 鈴鹿医療科学大学の高田晴子教授(予防医学)は、「喫煙者や肥満だと、10年後に血管が平均よりも老化するリスクが2倍程度高くなる。波形を見て、生活習慣を見直すきっかけにしてほしい」と話す。

 血管年齢の測定機器は高価なため、保健所などで測ってもらうしかないが、家庭向けの商品化も検討されている。血管年齢に加え、脈の揺らぎを見ることで、ストレス度も分かるという。

 このほか、「肺年齢」や「骨密度」もある。肺年齢は、息を一気に吐き出すことで肺機能を測定するもので、現在は人間ドックや医療機関での受診が主体だが、5月9日(呼吸の日)や、8月1日(肺の日)のイベントなどで測ってもらえるようだ。(内田健司)


インスリン:分泌量3倍に マウスの肝臓機能利用 糖尿病治療に応用も−−東北大

2008年11月23日 毎日新聞 東京朝刊

 肥満時に肝臓で作られるたんぱく質の働きを利用し、血糖値を下げるインスリンの分泌細胞を膵臓(すいぞう)で増殖させることに、東北大学の片桐秀樹教授(代謝学)らのチームがマウス実験で成功した。糖尿病の新たな治療法につながる成果と期待される。21日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

 インスリンは膵臓のベータ細胞から分泌される。チームは、肥満になるとベータ細胞が増えることに注目。肥満時に肝臓で作られるたんぱく質を増やす遺伝子を正常なマウスに導入したところ、膵臓でベータ細胞が急増した。糖尿病を発症させたマウスでもベータ細胞が増殖。導入しない糖尿病マウスに比べ、インスリン分泌量が約3倍になった。

 また、肝臓から脳、膵臓へとつながる神経を切断して同じ実験をするとベータ細胞は増えなかった。チームは、肝臓が肥満状態を感知するとこのたんぱく質が作られ、信号が脳を経由して膵臓に伝わり、ベータ細胞を増殖させると考えている。片桐教授は「臓器間の神経ネットワークを使うことによって、ベータ細胞を増殖できた。将来、インスリン注射や移植が不要になるかもしれない」と話す。【斎藤広子】

インスリンつくる細胞が増えた 東北大などマウスで成功

2008年11月21日 asahi.com

 インスリンをつくる膵臓(すいぞう)のβ(ベータ)細胞を増やすことに、東北大の片桐秀樹教授(代謝学)、岡芳知教授(同)らがマウスの実験で成功した。肝臓を刺激すると、神経を通してこの刺激が膵臓に伝わり、β細胞が増えた。糖尿病の新たな治療法につながる成果だ。21日付の米科学誌サイエンスに発表した。

 片桐教授らは、遺伝子導入でマウスの肝臓に特定のたんぱく質をつくらせると、肝臓が「肥満状態」だと感知。これが刺激となり、膵臓でβ細胞が増えることを見つけた。

 刺激がどのように伝えられるのかを調べるため、肝臓と脳をつなぐ神経の働きを妨げたり、脳と膵臓をつなぐ神経を切ったりしたところ、β細胞は増えず、肝臓から膵臓に神経を通して刺激が伝わり、β細胞を増やす仕組みがあることがわかった。

 インスリンの分泌を悪くした「糖尿病マウス」の肝臓を遺伝子導入で刺激したら、インスリン分泌が増え、治療に効果があることも確かめた。

 糖尿病は、インスリンの分泌が減ったり、インスリンの効きが悪くなったりして、血糖値が下がりにくくなる。また、一般に肥満になるとインスリンの効きが悪くなる。

 片桐教授は「肝臓が肥満状態を感知し、神経を通してβ細胞を増やす仕組みが体に備わっていることがわかった。この仕組みを利用して治療につなげたい」と話す。(浅井文和)


甘みと生活 (1)おやつ 子供に不可欠

2008年11月05日 読売新聞 Yomiuri On-Line

子供のエネルギー補給に甘い物は欠かせない 甘い物は、上手に取れば心身の健康を保ち、生活を楽しむことにもつながる。初回は、子供の成長と甘みについて考える。

 子供は活動的で、成長過程にあるため、エネルギーを十分にとることが重要だ。1〜2歳児でも、1日1000キロ・カロリー前後は必要。朝昼晩のバランスの良い食事で取るのが基本だが、大人に比べ、消化吸収機能が整っていないため、1回の食事で摂取できるエネルギー量が少ない。

 そこで、午後3時ごろ、おやつを食べて補う。甘い物は摂取後すぐにエネルギーになるので、放課後の運動や勉強にも役立つ。

 砂糖として摂取する量は、5歳までは1日5グラム、6歳以上は大人並みになり10グラムがバランスがいい。おかずに砂糖を使う時は、その分を引く。2歳までは、おやつの時間を午前10時と午後3時の2回に分ける。

 松田早苗・女子栄養大学短期大学部准教授のお薦めはスイートポテト、果物入りヨーグルト、リンゴなどの砂糖煮のヨーグルト添えなど。カルシウム源となる乳製品も併せて取ると良い。

 ポテトチップスなどスナック菓子を好む子供も多いが、油分が多すぎるので避ける。水分も一緒に補給するが、ジュースや乳酸菌飲料には砂糖が多すぎるものもあるので、牛乳や麦茶にする。

 食べ方にも注意したい。決まった時間に短時間で食べる。テレビを見ながらだと、きりがなくなる。親が皿に出してあげるなどして、量を加減する。菓子の袋を抱えさせないことが大切だ。うがいを習慣づければ、虫歯も防げる。

 松田准教授は、「小学校高学年になると、太ることを気にする女の子もいるが、甘い物を適量、楽しみながら取り、しっかり体を動かす方が健康にはずっと良い」と話す。

子供に必要な1日のエネルギー量 (キロ・カロリー)(普通の身体活動レベルの場合。厚生労働省の基準より) 年齢 男子 女子

0〜5か月母乳 600 550
同・人工乳 650 600
6〜11か月 700 650
1〜2歳 1050 950
3〜5歳 1400 1250
6〜7歳 1650 1450
8〜9歳 1950 1800
10〜11歳 2300 2150
12〜14歳 2650 2300
15〜17歳 2750 2200

甘みと生活 (2)運動中にも糖分補給

2008年11月06日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 健康のため、運動を心がける人は多い。運動のエネルギー補給には甘い物が有効だ。

 糖質を含む飲食物を摂取すると、最終的にブドウ糖に分解されて血液に取り込まれ、体を動かすエネルギーとなる。余ったブドウ糖は、グリコーゲンとなって筋肉や肝臓に蓄えられ、運動の際、ブドウ糖に戻されてエネルギーとなる。

 激しい運動をすると、グリコーゲンがなくなってしまい、疲労するだけでなく、低血糖となって手が震えたり、動悸が激しくなったりする。ひどい場合は、意識を失うこともある。

 そこで、運動中に、「ちょっと疲れたな」と感じたら、アメ、チョコレートを少量食べる。ミネラルを含み、食べやすいバナナ、ゼリー状の栄養補助食品もお薦めだ。

糖分は運動の前後だけでなく、運動中も適量を補給するのが望ましい 汗で失った水分やミネラルを補うのに効果的なスポーツドリンクは、糖分が多すぎるものもあり注意が必要だ。特に、運動の直前に、糖分の多いスポーツドリンクや清涼飲料水を飲むと、血糖を下げる役割のある「インスリン」を急激に増加させ、低血糖を起こす場合がある。

 浜岡隆文・鹿屋体育大学教授は、果糖(フルクトース)を使ったスポーツドリンクを薦める。果糖は、インスリンを増加させにくいからだ。スポーツドリンクの糖濃度は5%以下のものを選び、それ以上ある場合は、水で薄めて飲むようにしたい。

 運動の直後にも、糖質を取るといい。運動で使ってしまったグリコーゲンを補給でき、筋肉の疲れを回復できる。

 浜岡教授は、「健康な人なら、甘い物を無理に我慢する必要はない。甘い物を食べても、十分に運動する方が健康的だ」と話している。

甘みと生活(3)ブドウ糖脳を活発に

2008年11月07日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 長時間の勉強や仕事で疲れた時、チョコレートなどの甘い物を口にして、また元気がわいてきたという経験はないだろうか。

 脳がエネルギー源として利用できるのは、ブドウ糖だけ。甘い物に含まれる砂糖は、食べるとすぐに果糖とブドウ糖に分解されるから、活動した後の脳にエネルギーを補給するには最適というわけだ。

 実は、ブドウ糖にはもう一つ、脳の働きをサポートする重要な役割がある。

 脳内には、脳を興奮させ、集中力を高めるドーパミンや、脳をリラックスさせるセロトニンなどの神経伝達物質があり、それぞれバランスを取りながら、脳がうまく働くのを助けている。

 セロトニンが欠乏すると、学習や記憶の能力が低下する。セロトニンの原料は、必須アミノ酸のトリプトファンだが、ブドウ糖が不足していると、他のアミノ酸が先に脳内に取り込まれ、トリプトファンが入りにくくなってしまう。

 イギリスのチームが、アルツハイマー病患者を対象に行った研究では、ブドウ糖の摂取により、文章や単語、人の顔を記憶する力や、方向感覚が向上する効果が確認された。

 セロトニンを効率よく分泌するには、トリプトファンを豊富に含む乳製品や肉、魚などと一緒に、砂糖をとるとよい。日本応用糖質科学会名誉会員の橋本仁さんは、「欧米で、肉料理の後に甘いデザートを食べるのはそのため。消化するとブドウ糖になるコメの食事なら、食後に甘い物は必要ありません」と言う。

 橋本さんが、「受験生にぴったり」と薦めるのが、すき焼き。トリプトファンが豊富な牛肉や鶏卵と、砂糖を同時にとることができる必勝メニューだ。

甘みと生活(4)砂糖に高い癒やし効果

2008年11月10日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 たんぱく質と砂糖により分泌が促進される脳内物質のセロトニンは、記憶や学習にかかわりがあるだけではない。感情をコントロールし、精神を安定させる働きも持っている。

 セロトニンが不足すると、やる気が出なくなったり、食欲がなくなったりするのは、感情の制御がうまくいかなくなり、ストレスに対抗できなくなるためだ。

 浜松医大の高田明和名誉教授によると、甘い物を食べてほっとするような時、脳内では、セロトニンのほかに、もう一つの神経伝達物質が活躍しているという。

 舌には、様々な味を感じる味蕾がある。味蕾には、数十個の味細胞が集まっていて、甘味のほか、酸味や苦味、塩味などに反応する。それぞれの味蕾が反応する味は決まっている。

 甘い物を食べると、甘味に反応する味蕾の味細胞から、味神経を通じて脳に信号が送られる。すると、脳の中枢神経が刺激され、エンドルフィンというホルモンが分泌される。

 エンドルフィンは、鎮痛効果や、多幸感をもたらす。モルヒネに似た作用を示すため、「脳内麻薬」とも呼ばれる。

 トルコの大学による研究では、乳児に注射する際に、25%の砂糖水を口に含ませると、水や母乳を与えた場合より早く泣きやんだという。高田さんは、「砂糖に高い癒やし効果があることを示している」と解説する。

 高田さんお薦めのリラックスドリンクは、砂糖をたっぷり入れたホットミルク。セロトニンの原料となるトリプトファンと砂糖を一緒に摂取し、甘味でエンドルフィンの分泌を促すことができる。(安田武晴、飯田祐子)



肌のかゆみ (1)加齢とともに乾燥、悪化

2008年10月22日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 空気が乾燥してくるこれからの季節。肌が潤いをなくし、かゆみを感じる人が増える。

 「冬になると、すねや腰などの肌がカサカサになり、かゆみを感じる人が増えます。その多くは、肌の乾燥が原因です」と、順天堂大学浦安病院院長の高森建二さんは指摘する。

 健康な肌=イラスト上=では、表面を覆う皮脂膜と、角質細胞内の天然保湿因子、角質細胞と角質細胞の間の脂質の三つが水分をため、蒸発を防いでいる。しかし、加齢とともに新陳代謝が悪くなると、これら三つを作る能力が低下。冬になって湿度が低くなると、角層内の水分が蒸発して肌が乾燥する。

 乾燥肌=同下=では角質細胞の間にすき間ができ、かゆみを感じる神経も表面近くまで伸びてくる。このため、外部からの刺激を受けやすくなり、かゆみを感じるという。

 乾燥肌は20歳代から始まり、40、50歳代になると悪化するという。高齢者には特に多い。乾燥しやすいのは、上腕から肩、すね、太もも、脇腹、腰など。衣類との摩擦で水分が取られやすいためだ。

 「乾燥が原因のかゆみでは、まずは保湿に努めることが大事」と高森さん。特に注意したいのが、入浴方法だ。

 皮脂膜や角質細胞間脂質が取れるため、熱い湯や長湯、体の洗い過ぎは厳禁。お湯の温度は38〜40度くらい。冬は全身をせっけんで洗うのは週1、2回にし、毎日洗うのは、顔や首、陰部、手足など汚れやすい部分だけにする。洗いすぎると、乾燥肌はひどくなる。

 入浴後、急速に水分が蒸発して入浴前よりも潤いが減るため、早めに保湿剤を塗る。

 「暖房のかけ過ぎにも注意が必要。適切な湿度は50〜60%です」と高森さんは話す。

肌のかゆみ(2)眠りの妨げ 保湿剤で改善

2008年10月23日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 肌のかゆみは眠りの妨げにもなる。スキンケアをすることで、ぐっすりとした眠りを手に入れたい。

 ストレスが不眠の原因と考える人が多いようだ。だが、杏林大学医学部教授の古賀良彦さん(精神神経科)は「軽視されがちですが、かゆみが原因の一つになっている場合も多い」と話す。

 古賀さんとユースキン製薬(神奈川)は今年5〜6月、肌の乾燥によるかゆみを解消することで熟睡感を得られるか実証試験を行った。神奈川県内の老人施設で2週間、かゆみを感じている79〜100歳の高齢者6人に入浴後などに、かゆみ止めローションを塗ってもらった。

 その結果、全員のかゆみが改善。試験前は全員が夜中に2、3回、目を覚ましていたが、2週間後は全員が1回に。眠りも深くなり、4人が熟睡感を得ることができた。

 古賀さんは「かゆいのは仕方がないと考えがちだが、積極的に手当てをすれば、良い睡眠が取れ、日中の暮らしの質も上がる」と話す。

 睡眠中のかゆみは睡眠を妨げるだけでなく、肌の状態そのものを悪くする可能性もある。質の良い睡眠が取れないと、成長ホルモンが分泌されず、肌の新陳代謝が行われないためだ。ユースキン製薬の田口一紀さんは「睡眠中は無意識にかくため、肌が荒れて、さらにかゆくなる『かゆみの悪循環』が起きやすい。そうなれば、さらに睡眠も妨げられる」と指摘する。

 田口さんに、かゆみを抑えるかゆみ止めや乾燥を防ぐ保湿剤の塗り方を教わった=図=。寝る前か、風呂上がりに塗る。衣類についても、「肌に優しい木綿がお薦め。洗濯する際はすすぎを十分に。洗剤が残ると、肌への刺激になります」とアドバイスする。

肌のかゆみ(3)じんましん 食物以外でも

2008年10月24日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 記者(40)はここ数年、朝起きて、時々、腕や脚がかゆくなっているのに、気づくようになった。最初は加齢による乾燥肌が原因と思っていたが、赤く腫れていることもある。どうも、じんましんらしい。

 じんましんは、特定の体質の人に、特定の食べ物が原因で起こるというイメージが強く、自分は違うと思っていた。しかし、野村皮膚科医院(横浜)の院長、野村有子さんは「ストレスや疲れ、体調不良、消化不良などが原因になることも多く、誰にいつ起きてもおかしくありません」と話す。

 じんましんは、かゆみとともに、蚊に刺されたような赤いミミズ腫れやブツブツが複数、肌に現れるのが特徴。数時間単位で出たり引っ込んだりし、かくと範囲が広がってしまう。

 かゆみを起こすのは、皮膚の特定の細胞に蓄えられたヒスタミン。細胞が何らかの刺激を受けると放出され、神経に作用してかゆみを感じる。また、ヒスタミンは毛細血管にも作用し、血液成分が血管の外に漏れ出してミミズ腫れなどになる。

 野村さんによると、じんましんを起こしやすい食べ物は、表の通り。消化器官が弱っていると、油っこいものを食べて急になる場合もある。ストレスや疲れが原因となったケースでは、会社員が部署の異動で新しい上司とうまくいかずに起こした例がある。学校の定期テストを前にした中学生や、運動会や遠足が重なった幼稚園児など、子供もストレスや疲れから、じんましんが起こることがある。

 じんましんが出たら、まず〈1〉食べる度にかゆくなる食べ物がないか〈2〉夜勤や残業、飲み会など疲れの原因はないか〈3〉食後に胃がもたれなかったか〈4〉精神的なストレスを感じるものはないか――といった点をチェック。心当たりがあれば、こうした原因を取り除くことが必要だ。

 ただ2、3日以上繰り返し出てきたり、夜に眠れないほどかゆかったりする場合は、病院で診察を受けたほうがいい。「1か月以上続くと慢性化して、治りづらくなります」と野村さんは話す。

肌のかゆみ(4)内臓疾患の可能性も

2008年10月25日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「皮膚は内臓の鏡」とも言われる。肌のかゆみの陰に、内臓などの病気が潜んでいる場合もある。

 マイシティクリニック(東京)の院長、平沢精一さんは「皮膚にブツブツやミミズ腫れなどの症状がないのに、かゆみが続く場合、内臓の疾患などが原因の可能性があり、注意が必要です」と指摘する。かゆみの原因となる内臓などの病気は、表の通りだ。

 平沢さんが最も注意を呼びかけるのが、糖尿病。発汗の機能が低下したり、高血糖によって脱水傾向が強まったりして、皮膚が乾燥し、かゆみを感じることがある。

 女性に比較的多い甲状腺機能障害の場合も、皮膚の乾燥などが原因でかゆみが出ることがある。肝機能障害では、初期症状としてかゆみが表れることがあるという。

 ただ、どの病気の場合にはどんな症状のかゆみが出る、と一概には言えない。かゆみが何か月も続いたり、全身のあちこちに出たりと様々で、判断は難しいという。

 平沢さんは「肌が乾燥しやすい冬だけでなく、1年を通して、しつこいかゆみが続くといった場合などは、かかりつけの医師や皮膚科に行って下さい」とアドバイスする。

 肌のかゆみは、つい放っておきがちだが、日頃から注意を払う必要がありそうだ。(西内高志)

かゆみの原因となる内臓などの病気
・糖尿病
・肝機能障害
・甲状腺機能障害(甲状腺機能亢進 症、甲状腺機能低下症)
・悪性疾患(胃がん、白血病、悪性 リンパ腫など)
・血液疾患(鉄欠乏性貧血など)


糖尿病なりかけに「緑茶が効果」 1日7杯で血糖値改善

2008年10月04日 asahi.com

 緑茶を1日に7杯分ほど飲むことで、糖尿病になりかかっている人たちの血糖値が改善することが、静岡県立大などの研究でわかった。健康な人で緑茶をよく飲んでいると糖尿病になりにくいという報告はあるが、高血糖の人たちの値が下がることを確認した報告は珍しいという。

 血糖値が高めで、糖尿病と診断される手前の「境界型」などに該当する会社員ら60人に協力してもらった。

 緑茶に含まれる渋み成分のカテキンの摂取量を一定にするため、いったんいれたお茶を乾燥させるなどして実験用の粉末を作製。これを毎日、湯に溶かして飲むグループと、飲まないグループに無作為に分け、2カ月後の血糖値を比べた。

 平均的な血糖値の変化を、「Hb(ヘモグロビン)A1c」という指標でみると、緑茶粉末を飲んだ人たちは当初の6.2%が、2カ月後に5.9%に下がった。飲まなかった人たちは変わらなかった。飲まなかった人たちに改めて飲んでもらうと、同じように2カ月間で6.1%から5.9%に下がった。

 一般にHbA1cが6.1%以上だと糖尿病の疑いがあるとされ、6.5%以上だと糖尿病と即断される。逆に患者の血糖値を5.8%未満に維持できれば優れた管理とされる。今回の成果は、糖尿病一歩手前の人が緑茶をたくさん飲むことで、糖尿病にならずに済んだり、発症を遅らせたりできる可能性を示した。

 2グループで体格や摂取エネルギーなどに差はなく、緑茶からのカテキン摂取量が血糖値に影響したらしい。1日分の緑茶粉末は一般的な濃さの緑茶で湯飲み(約100ミリリットル)約5杯分のカテキンを含み、緑茶粉末を飲んだ人では普通に飲んだ緑茶と合わせ1日に約7杯分のカテキンをとっていた。

 研究の中心で、今春に静岡県立大から移った吹野洋子・常磐大教授(公衆栄養学)は「運動などの生活習慣改善とともに、食事の中で積極的に緑茶を取り入れてほしい」といっている。(田村建二)


甘みとつきあう(1)砂糖は脳のエネルギー源

2008年10月08日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「甘いものは太る」と敬遠されがちだが、体内では重要な役割を担っている。このシリーズでは甘みとの上手なつきあい方を探る。まずは、砂糖の働きから。

 紀元前の古代インドで最初に作られたとされる砂糖の語源は、サンスクリット語でサトウキビを意味する「Sarkara(サルカラ)」。日本には奈良時代に中国から伝わったというが、庶民に行き渡るようになったのは明治期のことだ。

 ご飯やパンと同じ「糖質(炭水化物)」の仲間で、エネルギー量はご飯やパンの主成分デンプンと同じ、1グラムあたり約4キロ・カロリー。砂糖は太るというのは誤解なのだ。

 では、他の糖質とどう違うのか。

 「食べるとすぐエネルギーとして利用できることです」と、野村正彦・埼玉医科大国際交流センター長(神経生理学)が教えてくれた。

 糖質を体内でエネルギーにするには、分子1個ずつに分解する必要がある。砂糖はブドウ糖と果糖が1個ずつ結合しただけなので、食べると数十秒で分解され、血管を通って全身に運ばれる。これに対してデンプンは、何万個もの分子が結合しており、分解するのに時間がかかるという。

 砂糖が分解してできるブドウ糖は、脳の唯一のエネルギー源だ。筋肉や他の臓器は脂肪やたんぱく質もエネルギーとして使い、余ったブドウ糖は肝臓などに蓄えられるが、脳はほとんど蓄えられない。

 「生命維持や記憶など高度な役割を担い、どの臓器よりも多くのエネルギーが必要な脳にとって、砂糖は即座に役立つすぐれもの」と野村さん。受験勉強や仕事で疲れた時、砂糖入りのコーヒーや1粒のチョコレートが、脳をすぐに活性化させてくれるという。

甘みとつきあう(2)肥満予防に間食の勧め

2008年10月09日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 肥満予防などのために、甘いものを控える人が多いが、管理栄養士で、せんぽ東京高輪病院(東京都港区)栄養管理室長の足立香代子さんは、「甘いものを含む間食を、積極的にとるべきだ」と提唱する。特に、仕事で夕食が遅くなりがちな人にお勧めという。

 昼食から夕食までの間に何も食べないと、夕食時の空腹感が強く、つい食べ過ぎてしまう。まして、午後9時以降に大量に食べると、胃腸に負担をかけ、健康にも良くない。適切な間食をとっておけば、夕食の食べ過ぎを防ぐことができ、むしろ肥満防止になる。

 間食のタイミングは、午後4〜5時が良い。よく「3時のおやつ」と言われるが、昼食が終わるのが午後1時ごろとすると、2時間程度しかたっていないので、適当とは言えない。

 甘いものも、200キロ・カロリー程度なら食べても問題ない。200キロ・カロリーというと、おおむね和菓子1個分。甘いものを口にすることで、ほっと一息つくことができ、精神的な満足感が得られる。間食後の仕事のエネルギーにもなる。足立さんは、糖尿病患者にも、1日に、調味料に使う砂糖と、まんじゅう1個程度を認める食事療法を実践している。

 和菓子のほかには、バナナ1本とカップのヨーグルト1個も良い。油と一緒にとると血糖値を上げにくくなるので、クルミやピーナツ入りのチョコレートなども適している。最近の菓子は、カロリーが表示されているものが多いので、参考にしてほしい。

 注意しなければならないのは、一口食べると後を引いてしまう人。「大袋入りの菓子は、ついつい手が伸びて食べ過ぎてしまう。小分けになった菓子なら、1袋食べ終わったところでやめられる」と、足立さんはアドバイスする。

甘みとつきあう(3)「腹八分目」で糖尿病予防

2008年10月10日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 「砂糖を控えれば糖尿病を防げるの?」。精糖工業会の内田豊・事務局長は、こんな質問をよく受けるという。糖尿病という病名から、原因は砂糖だと思われがちだが、それは誤解だ。


甘みとつきあう(4)低カロリーな甘味料も

2008年10月11日 読売新聞 Yomiuri On-Line



ジョギング(1)ウオーキングより減量効果

2008年10月01日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 今春からウオーキングを始めたところ、数か月で体重が6キロも落ちた。それならばと、より身体的な効果が高いジョギングに挑むことにした。自ら体験を踏まえ、ジョギングの魅力を紹介する。

 メタボが気になる42歳。腰痛持ちなので、「走るより歩く方がよい」と考えていた。実際、走ると着地の瞬間、足や腰に体重の2倍の衝撃が加わる。でも、けがにさえ気をつければ、ジョギングにはウオーキングにない効能がある。

 まずは、エネルギー消費。近年、運動の強さを表すのに、体重1キロ・グラムあたりの酸素摂取量を基にした単位「メッツ」がある。厚生労働省がまとめた「健康づくりのための運動基準・指針2006」に盛り込まれた、新しい概念だ。

 毎分、体重1キロ・グラム当たり3・5ミリ・リットルの酸素を取り込む「安静に座る状態」が1メッツ。ウオーキングが3メッツ、軽いジョギングは6メッツ。ランニングや水泳は8メッツになる。

 メッツと活動時間を掛け合わせた運動量の指標「エクササイズ」(単位)を出すことで、体重別のエネルギー消費量も計算できる。例えば、記者の体重73キロ・グラムの場合、30分の軽いジョギングで230キロ・カロリーのエネルギーを消費できる。同じ時間のウオーキングだと、115キロ・カロリー。脂肪1キロ・グラムを燃焼させるのに、7000キロ・カロリーのエネルギー消費が必要となる。明らかにウオーキングよりもジョギングの方が減量の近道といえる。

 着地の瞬間の衝撃は筋力向上や骨を太くするのに役立つ。東京医科大健康増進スポーツ医学講座教授の勝村俊仁さんは「骨に刺激が加わり、骨粗しょう症を防げる」と話す。

 生粋の浪速っ子で元々速足。歩いていると走りたい衝動に駆られた。走ると気持ちもすっきりする。(増田弘治)

1エクササイズの体重別エネルギー消費量

体重(キロ・グラム) 40 50 60 70 80 90
エネルギー消費量(キロ・カロリー) 42 53 63 74 84 95

ジョギング(2)運動不足まず「1キロ10分」

2008年10月02日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 この10年、まともに走ったことがなかった。ジョギングの基礎を学ぼうと、講習会に参加することにした。

 国立競技場のトレーニングセンター(東京・新宿)では、水曜日と金曜日の午後6時半から講習会を開いている。講師の内山雅博さんは、この道30年のベテラン、東京都武蔵野市でも不定期ながら走り方の講習会を開く。

 内山さんは、まず参加者を2グループにわけて指導する。まったく運動と縁のない生活をしてきた人たちと、ウオーキングの経験があり運動の基礎がある人たちだ。

 内山さんによると、1キロを7分半ほどで走るのが、ジョギングの平均的なペース。ウオーキングの経験者は最初からこのペースで走ってもよい。しかし、運動不足のグループには、1キロを10分(時速6キロ)かけて走り始めることを勧めている。速歩と変わらないペースだが、体力のない人が自分のペースをつかむのに最適な速さだという。

 「走る時は『ス、ス、ス、ス』『ハ、ハ、ハ、ハ』と小刻みに4回吸って4回吐くリズムを保とう」と内山さん。これなら走る速度が上がらず、楽に走れる。呼吸が乱れてくるのはペースが速すぎる証拠だ。

 呼吸のリズムを確認しながら少しずつペースを上げる。呼吸のリズムは「ス、ス、ハ、ハ」に、さらに速くなれば「ス、ス、ハー」と意識的に変えていこう。

 走る姿勢も大事だ。背筋を伸ばして、遠くを見る。腕は後ろに引くよう意識、小さな歩幅でかかとから着地して、つま先へ体重を移す。

 内山さんにペースを調整してもらい、呼吸のリズムと姿勢を確認して走る。気がつくと3キロ走れていた。疲れない。これなら、走るのも長続きしそうだ。

ジョギング(3)続ければ死亡率低下

2008年10月03日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 適度なジョギングには健康な体になる基礎を築く効果があるという。減量を狙うだけではなく、それ以外の効果も意識して続けたほうがよい。

 東京医科大健康増進スポーツ医学講座教授の勝村俊仁さんは、ジョギングを継続すると「血管の弾力性を高め、血液をサラサラに保つほかに、筋肉に酸素や栄養を与える毛細血管の量を増やす劇的な効果がある」という。

 血管を作るのに必要なたんぱく質の一種「血管内皮増殖因子」は、走り始めるとすぐに反応する。週5日のジョギングで筋肉を取り巻く毛細血管が増え始め、それを3週続けると毛細血管の量はピークを迎えるという。

 その結果、筋肉が酸素を利用する能力も飛躍的に高まり、持久力も向上する。

 加えて、ジョギングの距離や速度を上げていくと、エネルギーの消費が、走った後も数日間にわたって続くことが最近の研究でわかっている。睡眠や安静時の消費エネルギー量も、運動を続ける前に比べて増加する。

 ただ、数週間走り続けた後でも5日間何もしないと、運動を始める前のエネルギー消費量に戻ってしまうという。1日おきにでも、走り続けることが大切なのだ。

 ジョギングを続けても、体重や血糖値、コレステロールが減らないこともある。しかし、勝村さんは「それでも、運動の効果は出ている」と話す。ジョギングのような有酸素運動を続ける人たちの死亡率は、たとえ太っていても低く抑えられるという結果が、米国での研究で明らかになっているからだ。

 体によいジョギングだが、体調を無視してやっても駄目。頻度は高くないが、心臓への負担から突然死する危険性もある。走る前に、必ず「自己点検」を心がけたい。

走る前の自己点検項目

01 熱はないか
02 体はだるくないか
03 昨夜の睡眠は十分か
04 食欲はあるか
05 下痢をしていないか
06 頭痛や胸痛はないか
07 関節の痛みはないか
08 過労はないか
09 前回の疲れは残っていないか
10 今日の運動を行う意欲は十分にあるか

 ※一つでも問題があれば休養。1週間以上続けば、医師の診察を。日本体育協会「スポーツ行事の安全管理に関する研究」より

ジョギング(4)関節の柔らかさ確認を

2008年10月06日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 ジョギングで、ひざの関節や骨に異常が出ることを「ランニング障害」という。主な原因は、張り切って走りすぎること。米国の研究では、ランニング障害を起こす人の60%でトレーニングの方法に問題があり、うち29%が週に50キロ以上も走っていたという。

 東芝病院スポーツ整形外科部長の増島篤さんは「走ると筋肉に細かい傷ができ、回復する過程で筋肉は太くなる。回復を妨げる過度の運動はよいはずがない」と指摘する。

 日本体育協会は、障害を予防する目安を〈1〉1日15キロ以内〈2〉1時間以内〈3〉1キロ6分以上かけて走る――としている。

 増島さんは、初心者は、ジョギングの前に「全身関節弛緩(しかん)性テスト(図)」で、関節の柔らかさを確認すべきと強調する。7項目のうち、男性では2〜1、女性なら3項目が該当すれば平均的な柔らかさ。それ以上だと、ひざ関節が大きく曲がりやすい。じん帯を切断する危険性が高まるので、ひざ周辺の筋力を高め、関節やじん帯を守ろう。

 自分ではチェックできない「癖」も問題になる。着地時に足が外側や内側に傾いてしまう人だ。この「癖」は矯正しないと、ひざや足首に過度の負担が加わって危険だ。スポーツ整形外科医など、専門家のチェックが必要だ。

 東芝病院のように、専門外来がある病院は数少ない。日体協のホームページにある、相談できる医師のリストを活用したい。走法を会得して楽に走れるようになっても、調子に乗っては元も子もない。長続きするジョガーを目指したい。(増田弘治)


微量な血液で検査可能な装置 ロームなど3社が共同開発

2008年09月30日 中国新聞ニュース

 ローム、ウシオ電機、三和化学研究所(名古屋市)の3社は30日、微量の血液で検査できる装置「バナリストエース」を共同開発したと発表した。10月30日から発売する。

 指先や耳たぶから1滴程度の血液を採取すれば、感染症、糖尿病などの検査ができ、患者の負担が軽減される。7−9分程度で結果が出るため、検査直後の診断や指導も可能。ロームの微細加工技術とウシオの光学技術、三和化学の製品化ノウハウを結集した。

 分析装置はウシオ電機が販売し、1台156万円。採取した血液を入れるチップは三和化学が販売する。

三重で「糖尿病の予知・予防・治療」セミナー

2008年09月09日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 特定健診・保健指導を評価 行政とのスクラム確認

 賢島で開かれた糖尿病Up・Dateセミナー 国内の糖尿病患者は、潜在患者を含めて1000万人を超え、医師らの連携がますます重要になっている。こうした中、開業医を対象にした「糖尿病Up・Date賢島セミナー」(代表世話人=堀田饒(にぎし)・中部労災病院長)が先月下旬、三重県志摩市の賢島で開かれ、参加者は対糖尿病戦略にはまだ多くの課題が残されていることを再確認した。

 同セミナーは毎回、糖尿病の診療と研究の第一線で活躍する専門医が最新の研究成果などを報告。25回目を迎えた今回は、「対糖尿病戦略のイノベーション(技術革新) 予知・予防から治療へ」をテーマに、活発な質疑応答が行われた。

 予知の観点からは、特定の遺伝子多型によって糖尿病になる危険性が約1・4倍になるという、最近発表された研究結果に関連して、遺伝的に糖尿病になりやすい人に対しては、生活習慣の改善を積極的に指導することで、病気への進展が食い止められるという報告があった。

 新薬については、間もなく国内で認可されるインクレチン関連製剤が紹介された。血糖低下作用のあるこの薬剤は、低血糖が起きにくいうえ、体重増加をきたさず、さらに膵臓(すいぞう)を保護してインスリン分泌を改善させる効果が認められるなど、期待されているという。

 また、糖尿病を取り巻く行政の対応についても盛んに意見交換が行われた。

 特に、今年4月からスタートした特定健診・保健指導については、メタボリック症候群や糖尿病の予防・早期発見、国民の健康維持に寄与すると積極的に評価。健診受診者や保健指導者、医療提供者が制度をうまく活用していくことが重要だという提言があった。

 さらに、糖尿病の予知・予防、治療には、臨床医や研究者、行政が一体となって取り組むことが不可欠との意見で一致した。

糖尿病患者 専門医に集中 軽症者は診療所へ「逆紹介」

2008年09月07日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 糖尿病の患者数は全国で820万人、予備軍を含めると1870万人と言われる。がんや脳卒中、心臓病などと並ぶ国民病だ。

 糖尿病には、主に1型と2型がある。1型は、多くが若い年代で発症する。血糖を下げるインスリンホルモンが膵臓(すいぞう)から分泌されなくなるため、注射によるインスリン補充が欠かせない。

 糖尿病のほとんどを占めるのは2型で、遺伝要因に加え、運動不足や栄養の取りすぎ、肥満、喫煙などが引き金となる。治療はまず、生活習慣を改めたうえで、血糖値が十分下がらない場合には飲み薬やインスリンの自己注射を行う。

 読売新聞では日本糖尿病学会の専門医制度に基づく認定教育施設531か所に対し、治療実績や体制などをアンケートし、364か所から回答を得た(回収率69%)。本欄では、患者数の多かった230施設を掲載した。

 一覧には〈1〉1か月の患者数〈2〉常勤の専門医数〈3〉糖尿病療養指導士の数〈4〉2型糖尿病患者のうちインスリン治療をしている患者の割合(%)を示した。

 1施設平均の患者数は1070人、専門医数は2・6人で、専門医1人当たりの患者数は400人を超えた。「本来は診療所で診るべき軽症の患者まで病院に集中するため、専門医の負担が大きい」との意見が多数寄せられた。治療で良くなった患者は、再び診療所へと“逆紹介”する連携体制作りも各地で進められているが、まだ不十分だ。

 インスリン治療導入率(一覧表の〈4〉)は、その施設における重症患者の割合を示す目安になる。平均は34%だった。この割合が高いある施設は、「インスリン治療が不要な軽い患者は、積極的に診療所へ逆紹介している結果」と説明する。

 表には示していないが、患者の過去1〜2か月の平均血糖値を示すヘモグロビンA1cについても尋ねた。「良好な状態」の目安である6・5%未満を達成している患者の割合は平均36%。患者の平均ヘモグロビンA1cは7・1%だった。

 運動や食事などの生活指導に大きな役割を担うのが糖尿病療養指導士(一覧表の〈3〉)だ。同学会などで作る認定機構が、研修を受けた看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士を認定している。1施設当たりの平均人数は9・8人。糖尿病療養指導士1人当たりの患者数は、110人だった。

 糖尿病治療では、失明の原因となる網膜症や、人工透析に至る腎症、神経障害などによる足切断といった合併症を防ぐことが重要だ。足切断や神経障害のある通院患者に対し一定の条件を満たすフットケアの実施・指導が行われた場合には今年度から保険が適用されるようになった。(田村良彦)

全国医療機関の糖尿病治療実績 :中国・四国

インスリン作る細胞再生 米教授、マウスの膵臓に遺伝子

2008年08月28日 asahi.com

 膵臓(すいぞう)でインスリンをつくっているベータ細胞を再生することに、米ハーバード大のダグラス・メルトン教授のチームがマウスで成功した。このベータ細胞の働きで血糖値も半分以下に下がったといい、将来の糖尿病治療への応用が期待される。27日付の英科学誌ネイチャー(電子版)に発表する。

 膵臓には消化液の膵液を出す外分泌細胞と、インスリンを出すベータ細胞とがある。ベータ細胞が死滅したり機能が落ちたりすると、糖尿病(1型糖尿病)になる。

 メルトン教授らは膵臓で働く遺伝子のうち、ベータ細胞ができるのにかかわっている可能性がある20個ほどの遺伝子に着目。このうちの三つをウイルスを運び屋にして、生きているマウスの膵臓の外分泌細胞に入れた。すると、ベータ細胞が再生された。

 糖尿病のマウスで試したら血糖値の上昇に応じてインスリンが分泌され、血糖値も大幅に下がった。再生されたベータ細胞は、見た目も遺伝子レベルでも、通常のベータ細胞と見分けがつかないほどよく似ていたという。

 細胞に複数の遺伝子を入れることで、別の細胞に変えてしまうのは、京都大の山中伸弥教授が皮膚の細胞から万能細胞(iPS細胞)をつくったのと同じ手法だ。山中教授は最初に四つの遺伝子を使ってiPS細胞をつくった。

 万能細胞からベータ細胞づくりを目指す研究は世界で盛んだが、メルトン教授らは今回、膵臓の細胞の大半を占める外分泌細胞から直接、ベータ細胞をつくった。

 山中教授は「生体内でも少数の遺伝子を導入して『細胞の種類』を変えられることを示したもので、意義深い」と話す。

 メルトン教授は「ウイルスを使わないより安全な方法を見つけ、臨床につなげたい」としている。(竹石涼子)

糖尿病体質示す遺伝子特定 日本の2グループ同時発表

2008年08月18日 中国新聞ニュース

 成人が発症し、糖尿病患者の約95%を占める2型糖尿病のなりやすさに強くかかわる遺伝子を、国立国際医療センターと理化学研究所がそれぞれ中心となった2つのグループが、日本人を対象にした別々の研究で突き止め、17日付米科学誌ネイチャージェネティクス電子版に同時発表した。

 特定した遺伝子は「KCNQ1」。従来、心臓の筋肉の動きに重要であることが知られていた。この遺伝子の塩基配列にわずかな違いがあると、2型糖尿病を発症する危険性が1・3−1・4倍に高まるという。

 2型糖尿病に関連する遺伝子は、欧米人対象の解析で数種類見つかっていたが、アジア人で特定されるのは初めて。予防のための体質診断や、新しい治療法の開発につながると期待される。

 両グループは、患者と一般人で、遺伝子の塩基配列が1カ所だけ異なる「一塩基多型(SNP)」があるかどうかを調べ、発症との関連を統計学的に分析した。

 国際医療センターの春日雅人研究所長らは、日本人の患者と一般人計約8800人分を解析。この遺伝子に特定のSNPがあると、血糖を下げるインスリンの膵臓からの分泌を低下させる可能性があることが分かった。


ホルモン活性化(1)ゆっくり筋トレ 脂肪分解

2008年08月13日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 体内の様々な活動をコントロールし、健康を支えるホルモン。このシリーズでは、乱れがちなホルモンバランスを整えて快調に過ごす方法を探る。まずは、成長ホルモンによる減量法から。

 成長ホルモンには、発育期に骨を伸ばし、臓器や筋肉を大きくするほか、脂肪を分解させる強い働きがある。

 東京大学の石井直方教授(身体運動科学)によると、成長ホルモンの分泌は、筋肉トレーニングで活性化される。筋肉は多くのエネルギーを必要とするので、鍛えて増やせば消費カロリーもアップする。

 石井教授が「昼休みなどちょっとした時間にもできる」と薦めるのが、鍛えたい部分をゆっくりと動かし続ける「スロートレーニング(スロトレ)」。常に筋肉に力が入り、静脈を圧迫し続けるため、「高い負荷がかかっている」と体が錯覚し、たくさんの成長ホルモンが分泌される。

 例えばスクワットなら、ゆっくりひざを曲げ、太ももが水平になったら、動きを止めずにひざを伸ばし始める。完全に立ち上がる直前に再びひざを曲げ始める。多少きついと感じる回数(5〜10回)を1セットとして3セット行う。週に2、3回やるのがいい。

 筋トレの後、6時間程度は、成長ホルモンによる脂肪分解作用が続くという。その間に、ウオーキングなどの有酸素運動で分解された脂肪を燃やす。階段を使うなど、日常生活の中で体を動かすよう心がけるだけでも効果がある。

 重要なのは、筋トレの後に有酸素運動という順番を必ず守ること。有酸素運動は成長ホルモンの分泌を抑えるため、順番が逆だと効果がない。

ホルモン活性化(2)大豆や野菜でメタボ撃退

2008年08月14日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 様々な生活習慣病に対する予防、改善効果で、注目を浴びているホルモンがある。1996年に大阪大学の研究グループが発見したアディポネクチンだ。

 糖尿病、高脂血症、高血圧を抑え、動脈硬化を予防・改善。メタボ撃退の切り札と期待されている。さらに、がん抑制効果の報告もある。

 東京・銀座で「岡部クリニック」を開く岡部正医師によると、アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるが、なぜか、脂肪が増えるほど分泌量が減ってしまう。太ると生活習慣病にかかりやすくなるのは、アディポネクチンが少なくなるためなのだ。

 アディポネクチンの分泌を高めるには、内臓脂肪を減らすのが最も効果的。岡部医師は、「20歳の時の体重が理想ですが、高すぎる目標は挫折の元。まずは、体重の5%減を目指しましょう」とアドバイスする。

 同クリニックでの調査では、5キロの減量で、アディポネクチンが約4割アップする。速足でのウオーキングなど、中程度の運動を毎日10分ほど続けるのがお薦めだ。

 アディポネクチンは、豆腐などの大豆製品に含まれるベータコングリシニンによって増加することが分かっている。食物繊維の多い緑黄色野菜、エイコサペンタエン酸(EPA)が豊富な青魚、マグネシウムを含む食品などにも、アディポネクチンを増やす効果がある。また、リンゴ、キウイ、トマトなどに含まれる植物たんぱくのオスモチンは、一部の立体構造がアディポネクチンと似ていて、同じ作用が期待できる。

 中には、遺伝的にアディポネクチンが少ない人もいるので、岡部医師は、体形にかかわらず、血中濃度を測るよう勧めている。検査は、基本的にどの医療機関でも可能で、自費診療で数千円かかる。

ホルモン活性化(3)和食しっかり 夜ぐっすり

2008年08月15日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 熱帯夜が続き、寝不足になりがちな季節。睡眠を誘発するホルモンのメラトニンで、快眠を目指そう。

 メラトニンは、脳の松果体で、必須アミノ酸のトリプトファンを原料に、セロトニンを経て合成される。

 朝日が昇り、その光が目に入ると、セロトニンの合成が始まる。日没後、セロトニンからメラトニンが作られ、眠くなる。日の出を迎えるころ、メラトニンの分泌が止まり、目が覚める。

 「この自然のリズムを無視し、夜間に活動する生活スタイルが珍しくなくなった。そのため、睡眠障害に陥りやすくなっている」と、東邦大学医学部の有田秀穂教授は指摘する。

 熟睡のカギは、メラトニンとセロトニンの分泌リズムを整えることだ。まずは、目が覚めたらすぐにカーテンを開けて朝日を浴び、しっかりとセロトニンを作ること。同じ動きを繰り返す「リズム運動」も、セロトニンを増やすことが分かっており、ウオーキングや水泳などのほか、ガムをかむだけでも効果があるという。

 眠る時に部屋を暗くすることも大切。周囲が明るいと、メラトニンの分泌が妨げられるからだ。

 メラトニンは、アメリカではサプリメントとして販売されているが、日本では医師の処方がないと入手できない。

 トリプトファンは、良質のたんぱく源である大豆製品や、赤身の魚、肉に多く含まれる。セロトニン合成の際に必要なビタミンB6と一緒に取るとよい。

 ハクサイやキャベツ、ケールなどの葉物野菜には、メラトニンそのものが含まれている。有田教授は、「バランス良く摂取するには、伝統的な和食が一番」と話している。

ホルモン活性化(4)更年期 漢方薬も助けに

2008年08月18日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 体に柔らかな丸みを持たせたり、肌をつやつやにしたりして、美しさの源となる女性ホルモン。卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンが一定のリズムで増減し、バランスを保っている。

 加齢による卵巣機能の衰えとともに訪れるのが、更年期障害だ。体が火照ったり、逆に冷えたり、めまいや動悸(どうき)がして、なんだか憂うつになる――。エストロゲンは、骨の強化や動脈硬化の抑制などの作用で体全体を守っているため、閉経を迎える50歳前後に分泌量が急低下すると、あちこちに不調が現れる。

 中高年だけの問題と思われがちだが、実は30歳代後半ごろから、徐々に体質が変わっていく「プレ更年期」が始まる。若い女性でも油断できない。『プレ更年期からの女性ホルモン塾』(小学館)の著書もある美容家の吉川千明さんは、「不規則な生活や偏った食事、長時間パソコンに向かうストレスで、20歳代でも、卵巣機能が衰えることがある」と警告する。

 女性ホルモンの低下を防ぐには、休養と適度な運動を取り入れ、ストレスをためないことが一番という。特に運動は、軽いストレッチ程度でも、心身両面のリフレッシュ効果が高い。

 リラックスには、アロマテラピーやマッサージがよい。不調がある場合は、漢方薬が助けになる。症状に応じて、数種類を組み合わせることも可能だ。漢方薬は、男性の更年期障害にも効果がある。

 内服薬などで、女性ホルモンを補う方法もある。吉川さんは、「ホルモン摂取には抵抗を感じるという声も聞きますが、医師の指示通りに使えば安全。豊かな人生を送るための選択肢としてほしい」と話している。(飯田祐子)


運動で糖尿病予防(1)目安は30〜40分継続

2008年07月23日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 国内に患者と予備軍合わせて約1870万人といわれる糖尿病――。予防や治療は、適切な食事と運動が柱になるが、お茶の水女子大准教授の曽根博仁さん(生活習慣病医学)は「糖尿病を防ぐ運動にはコツがある」と話す。

 まず、運動にかける時間は、「20分以下ではもったいない」と曽根さん。「目安は30〜40分、理想は1時間」という。

 糖尿病は、血液中の高濃度の糖が血管を傷つけ、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中、失明、腎不全を招く。大半は、食べ過ぎや運動不足などが関係する2型糖尿病だ。

 曽根さんによると、運動すると、血糖はエネルギーとして筋肉の細胞に取り込まれていく。このとき働くのが、細胞内の「GLUT4」というタンパク。運動で筋肉が刺激されると、細胞の表面に出てきて、外の糖を取り込む。ただし、こうした働きが本格化するには、しばらく時間がかかると考えられるという。

 実際、血糖値を下げるホルモンの「インスリン」は、運動開始から15分ぐらいまでの間に減るが、これは「インスリンに頼らず、効率よく血糖を取り込める状態になったことを示す」という。

 「科学的な理屈は難しいかもしれませんね」と曽根さん。「でも、結論は簡単。30〜40分の継続した運動がお勧めということです」

 昨年の米国糖尿病学会誌に、こんな調査が報告された。

 40〜55歳の男性約8600人を4年間追跡調査し解析したところ、2型糖尿病になる確率が、通勤時に歩く時間が片道21分以上の人と比べると、11〜20分の人は1・2倍、10分以下の人は1・4倍だった。

 調査した大阪市大准教授の林朝茂さん(産業医学)は「ちょっとした運動でも生活に取り込む工夫をしてほしい。もちろん、まとまった時間続けられれば、その方が効果は大きい」と話す。

運動で糖尿病予防(2)「ややきつい」程度で

2008年07月24日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 糖尿病の予防を目的にする場合、どの程度の強さの運動が必要なのだろうか。

 お茶の水女子大准教授の曽根博仁さん(生活習慣病医学)は「簡単に言えば、自分で『ややきつい』と感じるぐらい」と解説する。

 運動中の感覚としては、〈1〉呼吸は弾むが、会話はできる〈2〉軽く汗ばむ――そんな程度がちょうど良い。息が切れて会話できないようでは、きつすぎる。逆に、歌を歌いながらできたり、全然汗が出なかったりするのは、軽すぎる。

 心拍数(1分当たり)でいうと、安静時心拍数(60〜70ぐらい)と最高心拍数(220から年齢を引いた値)の幅の中で、5〜6割に当たる程度(計算式を参照)。40歳なら120〜130、60歳なら110〜120が目安だ。

 曽根さんによると、「ややきつい」運動で筋肉が刺激されると、筋肉が血中の糖を取り込む働きが活発になる。

 一方、あまり激しい運動をすると、体はそれを強いストレスと感じ、ストレスに対抗するホルモンを出す。これらには血糖値を上昇させる作用もあり、激しい運動は逆効果になりかねないという。

 50歳ごろから糖尿病予備軍と指摘されていた新潟県の井出勝正さん(63)。「老後、薬漬けになりたくない」と6年前、自力で予備軍から脱出しようと決意。始めた運動は、週1回、30〜40分かけて行う5キロのジョギングと、ほぼ毎日、室内でテレビを見ながら行う健康器具の足踏み運動=写真=。無理して三日坊主では意味がないと、どちらも「ややきつい」運動だった。

 それでも、140あった食後2時間の血糖値は、1年で96まで下がり、無事、糖尿病予備軍を脱した。次第に運動に慣れ、今は1時間で10キロ走らないと手応えがない。

 「体力がつくと『ややきつい』と感じる運動も変わってきます。体力に合わせて運動強度を変えると効果が持続します」と曽根さんは話す。

運動で糖尿病予防(3)食後1時間からが最適

2008年07月25日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 糖尿病予防の運動は、いつ行うのが良いのか――。実は、より効果を高められるタイミングがある。

 「食後1時間ぐらいから始めるのが最適」と、お茶の水女子大准教授、曽根博仁さん(生活習慣病医学)は語る。

 糖尿病患者、予備軍の血糖値は、特に食後1〜2時間ぐらいで最高になる。だから、血糖値の上昇が始まる時間帯に運動をぶつける、という考え方だ。

 食後に血糖値が高くなるのは、食べ物が胃で消化された後、その中の糖質が小腸でブドウ糖に分解、吸収され、血液中に入るからだ。健康な人は、インスリンの働きで血糖値が正常に保たれるが、食べ過ぎ、運動不足などの影響でインスリンが効きにくい人は高くなってしまう。

 高血糖状態は血管を傷つけ、動脈硬化などの危険性を高める。ところが、運動で筋肉が刺激されると、大体15〜20分で血糖を効率的に取り込む状態になるので、高血糖のピークを抑えやすくなるというわけだ。

 こうした運動を長期的に続けていれば、結果的に、体が高血糖にさらされる時間の大幅削減が期待できる。

 糖尿病予備軍の中には、空腹時は正常なのに食後だけ血糖値が高くなる人も多い。この状態が続くと、そのうち、本格的な糖尿病に進行する恐れが高まるので、食後の運動の意味は大きい。

 食後1〜2時間の血糖値が200を超える人が、食事45分後から45分間の自転車運動をした場合、160前後まで下がったというデンマークの研究報告もある。

 とはいえ、「仕事の都合などで食後の運動は難しいという人は、そんなに神経質にならなくてもよい」と曽根さん。「少なくとも1日おきに運動すれば、血糖を効率的に消費する体になっていくので、まずは習慣にすることが大事です」と指摘する。

運動で糖尿病予防(4)間違った食事 効果相殺

2008年07月26日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 運動でエネルギーを消費したら、いつもよりたくさん食べても大丈夫?

 「気持ちはわかるけれど、そうはいきません」。お茶の水女子大准教授、曽根博仁さん(生活習慣病医学)はクギを刺す。

 例えば、体重60キロの人が30分間のウオーキングで消費するエネルギーは100キロ・カロリー程度。100キロ・カロリーの食品といえば、ご飯なら茶わん半分、食パンなら6枚切りの3分の2枚ほどだ。運動だけでエネルギーを消費するのは実に難しい。

 運動直後に1、2キロ体重が減っても、それは汗が出て脱水状態になっただけ。「やせた」と早合点し、その分食べて内臓脂肪が増えれば、血糖値を下げるインスリンの働きを抑える別のホルモンが出る。これでは、せっかくの運動効果が相殺されてしまう。

 昨夏、糖尿病予備軍と指摘された茨城県の会社員、中島裕一さん(51)は、週4日ほど、昼休みに20分と夜に1時間のウオーキングを始めた。最初は「運動すれば、いいだろう」と、脂っこい食事や間食も多いままで、1か月後の検査では、ほとんど効果なし。当時は身長170センチ、体重84キロの肥満体型で、食後2時間の血糖値は176だった。

 その後、運動を続けながら、間食をやめ、ご飯を茶わん半分程度に抑え、毎日の体重を記録。その結果、今春には、体重は67キロまで落ち、食後2時間の血糖値は128まで下がり、予備軍を脱した。

 曽根さんは「運動と食事は、糖尿病予防、改善の2本柱で、どちらも欠かせない」と話す。

 すでに薬で血糖値を下げている患者は、空腹時などに運動すると、逆に低血糖状態になる恐れがある。「治療中の人が運動をする際は、医師に相談してください」と注意を促す。(高橋圭史)


ストレッチ(1)ポンプ作用 高める効果

2008年07月16日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 体のあちこちの筋肉を伸ばすストレッチ。スポーツの前の準備運動だけでなく、体や心の健康作りにもつながるという。日常生活の中で気軽に取り組める方法を紹介する。

 筋肉を伸ばすことが、なぜ心身にいいのか。まずはメカニズムを勉強しよう。

 ストレッチを中心に体づくりの相談指導を行う「すとれっち塾」(埼玉県戸田市)のフィジカルコーディネーター、岡秀信さんの説明によると、筋肉には、体の様々な部分を動かしたり、熱を生み出して適当な体温を保ったりするほかに、血液を循環させるポンプの役割がある。

 筋肉が緊張して硬くなると、ホースの一部をつまんで絞ったように、筋肉の中の血管が圧迫され、血流が悪くなる。この結果、酸素や栄養分が体中に行き渡らず、老廃物も滞り、やがて、肩のこりや張り、足のむくみ、疲労感などとして現れる。交感神経と副交感神経のバランスも崩れ、イライラしたり、血圧が高くなって心臓に負担をかけたりする。

 逆に、こりや張り、むくみを防止するには、毎日の生活の中でストレッチをこまめに繰り返せばいい。筋肉のポンプ作用を高めることにより、血液の流れがスムーズになる。この結果、新陳代謝がよくなり、精神的にも安定した状態につながるという。

 また、高齢者の介護予防体操にもストレッチが取り入れられており、老化防止にも役立つ。

 時々、無意識に両手を上にあげて“伸び”をすることがある。「これもストレッチの一種です。筋肉を柔らかくして、ポンプ作用を高めることにつながっている」と岡さんは解説する。

 ただ、ストレッチには、退屈な動きの繰り返しという面もあり、長続きさせるのは大変だ。岡さんは、「ストレッチを続ける動機付けになるよう、メカニズムや効果を理解することが大切」と強調している。

ストレッチ(2)専用器具で筋肉ほぐす

2008年07月17日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 簡単で長続きするストレッチ法として、まずお薦めしたいのが、傾斜のついたストレッチ用の盤に乗る方法だ。

 この盤を患者に薦めている杉田接骨院(横浜市)の杉田一寿院長によると、毎日、1分半から3分ほど盤に乗るだけで、ふくらはぎのだるさや張りが取れ、気分的にもすっきりするという。「重力のためひざから下に滞りがちな血液が、ふくらはぎの筋肉を伸ばして柔らかくすることにより、スムーズに流れるようになる」と杉田院長。

 盤は4000〜1万5000円程度で市販されており、ほとんどの製品が、筋肉の硬さに合わせて傾斜の角度を変えられる。盤に乗った状態で前屈すれば、ももの裏側や、腰、背中の筋肉も伸ばすことができ、全身のストレッチにもなるという。

 ストレッチ用のポールを使う方法もお手軽だ。ポールは、直径約15センチ・メートル、長さ約1メートルの円筒形をしており、発泡ポリエチレンなどでできている。円筒を縦に割ったかまぼこ形のものもある。

 背骨の下にポールが当たるようにして、楽な体勢で5分ほどあおむけになる。両腕を肩の方へゆっくり動かしたり、もとに戻したりしてもよい。背中の筋肉をほぐし、背骨のゆがみを修正する効果があり、腰痛や肩こりの解消などにつながる。上半身がすっきりした感じも味わえる。

 このほか、ちょっとした段差を利用してふくらはぎを伸ばすなど、生活の中でできることは多い。「歯磨きと同じ感覚で、こまめに筋肉をケアしてほしい」と杉田院長は話している。

ストレッチ(3)「痛い」けど「気持ちいい」程度に

2008年07月18日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 ストレッチは、やり方を少し工夫するだけで効果が高まる。NPO法人日本ストレッチング協会(埼玉県戸田市)理事の杉浦晋さんは、「安らかな気持ちで、“痛気持(いたきも)ちいい”と感じる程度に伸ばすのがコツ」とアドバイスする。

 日常生活の中で行うには、静的ストレッチが適している。反動をつけずに、筋肉を伸ばした状態で20〜60秒保つ。気持ちをリラックスさせるため、呼吸は止めない。苦痛を感じるほど無理に伸ばすのは厳禁だ。最初は筋肉が硬い人も、続けるうちに必ず柔らかくなっていく。

 杉浦さんは、「漫然と伸ばすのでなく、ストレッチする部分を意識して確実に伸ばすことも大切」とも言う。例えば、太ももの裏の部分は、大腿(だいたい)二頭筋、半腱(けん)様筋、半膜様筋の三つの筋肉で構成されているが、異なる3種類の方法で、それぞれの筋肉に意識を向けながら伸ばす。

 ストレッチを行う時間帯にも気を配りたい。体が温まっている風呂上がりや10分程度の散歩、軽いジョギングの後が最適だ。体調が悪い時や酔っている時、食事の直後は控える。

 スポーツのウオーミングアップには、まず、静的ストレッチを行い、その後、ラジオ体操のように反動をつけて筋肉を伸ばす動的ストレッチも行うとよい。動的ストレッチも、反動をつけすぎないよう注意が必要だ。また、スポーツが終わった後、何もしない人が多いが、静的ストレッチを少し入念に行うと、翌日に疲れが残りにくくなる。

 杉浦さんは、「私たちは常に筋肉を使って生きているが、筋肉の“メンテナンス”に気を配る人は少ない」と指摘する。健康で暮らすためにも、正しいストレッチで筋肉をいたわってあげたいものだ。

ストレッチ(4)血流を良くし脂肪燃焼

2008年07月19日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 ストレッチを生活に取り入れることで、やせる効果も期待できる。「5秒ストレッチ・ダイエット」を提唱する「ボディメンテナンス学院」(本部・埼玉県川口市)学院長の饗庭秀直(あいばひでなお)さんによると、体内の脂肪を燃やす筋肉の機能をストレッチが助けるからだという。

 脂肪燃焼には酸素が必要だ。酸素は血液とともに筋肉に届けられるが、緊張や運動不足、加齢で硬くなった筋肉では、筋肉の中の血管も通りが悪く、血液がスムーズに流れない。

 そこで、ストレッチで筋肉を柔軟にすることで、筋肉のポンプ作用を高める。そうすれば、血の流れが良くなり、筋肉に十分に酸素を送り込めるので、脂肪をよりいっそう燃やすことができる。

 饗庭さんが、「時間がない人は、これだけでも続けてほしい」と薦めるストレッチは、座るところさえあれば、オフィスやトイレでも簡単にできる。まず、いすに浅く腰掛ける。頭の後ろで手を組み、鼻から息を吸いながら、ひじを開いて胸を張り、あごを上げ、そのまま5秒保つ。次に、この状態から体の力を抜いて、へそをのぞき見るように背中を丸め、頭を下げる。5秒かけて口から息を吐ききる。

 前半のストレッチでは腹筋が伸び、後半のストレッチでは背筋が伸びる。腹筋と背筋は、私たちの体の筋肉の中で、大きな割合を占めているので、短時間で簡単な割に効果が高い。老廃物の滞りも解消でき、疲れが取れて気分がすっきりするほか、美肌や便秘解消の効果も期待できるという。

 ストレッチで代謝が上がっても、時間とともに低下する。饗庭さんは、「脂肪が燃えやすい状態を保つには、3〜4時間ごと、特に食事前の空腹時に欠かさずやるのが効果的。とにかく続けることが大切」とアドバイスする。(安田武晴)


<なくそう・減らそう糖尿病>第9部・楽々食事療法/1

2008年05月23日 毎日新聞

 ◇食後血糖値の急上昇招く、炭水化物の摂取を工夫

 糖尿病患者が血糖値を抑える効果的な方法に「食事療法」がある。だが、「ごちそうが食べられない」「カロリー計算が面倒」など、実行が難しいのも事実だ。簡単に楽しく続けられる食事療法はないか。「なくそう減らそう糖尿病」第9部では、ちょっとした工夫と心掛けで、血糖値抑制につながる食事の取り方を紹介する。1回目は、カロリー計算ではなく、栄養素や食材の選び方に注目した食事術を取り上げる。【永山悦子、大場あい】

 ◇カロリー主体からバランス重視へ

 ■2型発症、悪化防ぐ

 (1)主食抜き

 白米と焼き肉のどちらがより血糖値を上げるのか。同量であれば、カロリーの高い焼き肉の方が上げそうだが、実際は違う。米国糖尿病学会(ADA)によると、炭水化物は15〜90分で摂取した100%が血糖に変化する。一方、たんぱく質は50%が血糖になるのに約3時間かかり、脂肪は半日で10%未満しか血糖にならないから、白米の方が食後の血糖値を上げやすいのだ。

 食後高血糖が続くと生活習慣が主因とされる2型糖尿病を発症しやすい。この仕組みに注目し、「主食抜き食事療法」に取り組むのが、高雄病院(京都市)の江部康二理事長(58)だ。江部理事長は02年に糖尿病と分かった。食後血糖値が1デシリットルあたり260ミリグラム(正常値は140ミリグラム未満)と極端に高かった。

 主食となる米やパン、いも類は、食後の血糖値を上げる炭水化物の割合が高い。江部理事長は主食を抜き、おかず中心の食事に切り替えたところ、約半年で血糖値が正常範囲に戻った。「血糖値を急上昇させるのは、炭水化物に含まれる糖質。従来の糖尿病食では炭水化物の割合は、摂取カロリー全体の約6割を占めるが、1〜2割に抑えている」と話す。

 「脂肪の取りすぎは、体に悪いのではないか」との心配もある。江部理事長は「米国では、脂肪の摂取量と心血管疾患に関係はないとの研究成果が相次いで発表されている。米国民の脂肪摂取量は減り、逆に炭水化物が増え、肥満者が急増している」と説明する。

 ただし、主食を抜いても摂取カロリー全体が多ければ意味がない。標準的な総カロリーの中で、栄養素のバランスを考える。また、腎機能が落ちている場合は、たんぱく質の制限が必要なため、この食事は向かない。

 ■1型の低血糖防止

 (2)カーボカウント法

 食後血糖値を上昇させる炭水化物を、バランス良く摂取しようとの考え方を「カーボカウント法」という。大阪市立大では、自己免疫の異常でインスリン分泌ができない1型糖尿病患者向けに、これを指導している。

 1型の患者は、食後血糖値を抑えるため、食前にインスリン製剤を注射する。薬の量は決められているが、食事に含まれる炭水化物の量によって、血糖値の上がり方は違う。炭水化物が少なすぎると、低血糖を起こす恐れがある。川村智行・同大講師(発達小児医学)は「食事内容に応じて注射の量を調節するため、食事に含まれる炭水化物量を見抜く力を付けよう、との取り組みだ」と説明する。

 同大では、患者に「炭水化物を減らそう」とは言わない。炭水化物の多い食品には、食物繊維やミネラルなども含まれ、ある程度は摂取すべきだとの考えからだ。炭水化物を極端に減らす食生活は、「現在の日本人の生活習慣では、実行が難しいだろう」と指摘する。

 総カロリーに占める炭水化物の割合が特に高い場合は、全体の5〜6割に抑えることを勧めるが、通常は、カーボカウント法を使って、炭水化物の摂取が1食に偏らないよう呼びかけている。

 ◇食品、食べ方でも違い−−米より麦、食物繊維、酢や油と…〇

 たとえ同じ炭水化物、同じカロリーでも、食品の種類や食べ方によって食後血糖値の上がり方に違いが表れる。「グリセミック・インデックス(血糖値上昇反応指数、GI)」は、この血糖値の上がり方の差を数値化したもので、血糖コントロールにつながる指標として注目される。

 日本GI研究会事務局の林進・東京慈恵会医大青戸病院栄養部課長によると、GIの考え方は81年にカナダの研究者が提唱。日本では市販のパック入りご飯(約150グラム)を食べた時の血糖値の上がり方を100として、食品や食べ方ごとに数値化している。

 例えば、糖質の量が同じなら、白飯よりもすし飯、麦飯の方がGIが低い。また、白飯と酢の物やみそ汁を一緒に食べれば、白飯だけの時よりも低めになる。林課長は「食物繊維が多く含まれていたり、酢や油などで食品が覆われると、血糖値の上がり方が緩やかになる」と説明する。

 同病院で糖尿病教育入院患者23人に、ほぼ同じエネルギーの糖尿病通常食(白飯など)と低GIメニュー(麦飯など)を、それぞれ食べ比べてもらった。その結果、低GIの方が食後血糖値の上昇が抑えられていた。

 林課長は血糖コントロールの要点として、白飯を麦飯、普通の食パンを全粒粉パンに変えるなど主食を一工夫することや、食物繊維の多い野菜、海藻、キノコを摂取することを挙げている。

 ただし、日本の食卓に上がる食材やメニューには、GIが分からないものも多い。佐々木敏・東京大教授(社会予防疫学)は「従来の摂取カロリーを中心とした食事療法との比較がまだ十分とはいえない。GIを医療の食事で活用するには、さらに研究が必要だ」と話している。

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 イラストは、過食を警告するシンボルマークの「エンゼルピッグ」

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 ■江部理事長のある日の食事

《朝食》トマトジュース、チーズ、卵とじ、小松菜のごまあえ

《昼食》サワラの有馬焼き、ニンジン・セロリのかつお節あえ、トマト、冷ややっこ、大根サラダ、目玉焼き

《夕食》白菜のみそ汁、タラのちり蒸しポン酢、ハムと野菜の炒め煮、鶏肉のハーブ焼き、厚揚げのそぼろ煮

 (総カロリーは1209キロカロリー)

<なくそう・減らそう糖尿病>第9部・楽々食事療法/6止

2008年06月27日 毎日新聞

 ◇だし生かした料理を−−日本糖尿病協会理事長・清野さん、京都吉兆嵐山本店総料理長・徳岡さん

 日本料理は近年、糖尿病などの病気の予防につながる食事として世界で注目されている。だが、発祥地の日本では食生活の変化が一因となって、06年の糖尿病患者と予備群は02年比で15%増の約1870万人に上る。「だし」を生かした和食を推奨する清野裕・日本糖尿病協会理事長と、食育の重要性を訴える徳岡邦夫・京都吉兆嵐山本店総料理長が、糖尿病予防や食を通した治療などを語り合った。【構成・大場あい】

 ◇「食感を変えて味楽しむ」/「医療現場も栄養学を重視」

 徳岡 日本料理が健康食として評価されるのは、食材や調理法のおかげで油を摂取する量が少ないことが大きい。材料自体の味を楽しむ文化もある。

 清野 食材が多様であること、調理に手間をかけることも重要だ。糖尿病治療では、栄養素のバランスを重視する「糖尿病食事療法のための食品交換表」を基本にする。英訳版は海外で評価が高い。

 徳岡 多様な食材を考慮して調理法を考えるので、「しっかり炊く」「さっと炊く」などの変化が生まれる。味付けや食感、色彩を変えて、味の楽しみを増やしている。

 清野 だしのきいた味付けは、それだけで満足感が大きい。

 徳岡 欧米人は、昆布だしだけでは「味がない」と感じる。以前、知人が小学5年生に薄い昆布だしを飲んでもらったら、全員がだしの正体を昆布と当てた。日本の食生活は変わったと言われるが、みそ汁などで味を覚えている。

 清野 生活習慣が発症に影響する2型糖尿病の患者が増えている。背景には、この40年程度で食生活が欧米化したことがある。だしを生かした料理を家庭で食べ、おいしいと思う体験があれば、以前の食生活に戻れるのではないか。

 徳岡 だしのうまみのもとは、昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸。両方が合わさると、うまみの感覚が6〜7倍になる。グルタミン酸はトマトやチーズ、イノシン酸は赤身の肉にも含まれる。例えば肉のトマト煮など、うまみを最大限に楽しむ食べ方は世界中にある。世界の食生活を変えることができるかもしれない。

 清野 昔はステーキなどの肉料理は大変なごちそう。砂糖も貴重品で多く摂取せず、健康的な食生活だった。トンカツ摂取量と糖尿病患者の増加は比例すると言われる。最近は幼少期からフライドポテトなどの揚げ物を多く与えられ、2型糖尿病を発症する子どもが増えた。

 徳岡 若い親は食への関心を高めてほしい。食材選びの大切さを呼びかけた際「いい食事、食材は高い」と言われ、落胆した。現代の若者は食べることに苦労知らずのためか、食べ物への思い入れが薄い。食べ物よりブランド品や車などに投資するのはむなしい。

 清野 今年度から40〜74歳を対象に特定健診・保健指導(メタボ健診)が始まったが、40代以降に食生活を根本から変えるのは難しい。子どものころの食育が重要で、親の理解が欠かせない。たまに外で質の高い料理を食べヒントを得る。家庭では安い食材で応用したい。

 徳岡 義務教育で食育に力を入れるべきだ。科学者、生産者、食品メーカーなどと、食の大切さを実感する食育のあり方を模索したい。食育の教科書作りも検討している。

 清野 米ハーバード大医学部など海外では以前から、医療や健康との関係で栄養学研究を積極的に進めている。日本には食事で病気を予防・治療することへの関心が低い医師が多かったが、最近は医療現場でも栄養学が重視されている。

 徳岡 病気になって初めて食生活の大切さが分かる。健康時には、おなかがいっぱいになれば何でもいいという意識で食事をする人が多いのではないか。

 清野 ぜいたくで、上等な食事が糖尿病を招くのではなく、食への意識の低さが原因。世界各地で、低価格で高カロリーの食品を取りがちな貧困層でむしろ患者が増えている。

 徳岡 食事を満喫し、楽しく生きることが治療につながる。家庭でも、花の茎の部分をくるっと結んではし置きにしたり、見た目で食を楽しむこともできる。和気あいあいと食事してほしい。

 清野 会話が弾めば、食事の時間も長くなり、血糖値の上昇も緩やかになる。話をしたり食事中にかむ回数が増えれば、脳内で代謝改善ホルモンや神経活動が活発になる。楽しむことは神経系に好影響を与え、代謝改善にも役立つだろう。 おわり


ウオーキング(1)1日10分、1000歩多く

2008年04月02日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 春真っ盛り。何か体を動かしたい気分だが、運動不足の体に、いきなり激しいスポーツは腰が引ける。まずは、歩くことから始めてみてはいかがでしょう。

 健康のためには「1日1万歩」が定説だが、時間にすると、1時間以上歩かなければならない。

 日本ウオーキング協会副会長の泉嗣彦(つぐひこ)さん(内科医)は、「まず歩数計を手に入れ、自分が現在、1日どれだけ歩いているか調べましょう」とアドバイス。自分の日常の歩数がわかったら、それにプラス1000歩を、目標と定める。

 でも1000歩というと、約10分、距離にして600〜700メートル。これだけで効果はあるの?

 国の調査(表)によると、同じ年代の男性でも1日の歩数には個人差がかなりある。また、1日1万歩以上歩く人の割合は、40歳代(27・5%)でも60歳代(25・5%)でも、ほぼ同じ。一方、1日4000歩未満の人の割合は、40歳代(14・7%)、50歳代(18・2%)、60歳代(23・8%)と年をとるごとに増える。この“歩行不足”の人たちにとって、プラス1000歩は決して少なくない。

 以前は、1回最低20分間継続しないと効果がないとされていたが、細切れの運動でも良いというように考え方も変わった。

 「歩くことは、筋肉にブドウ糖を取り込むインスリンというホルモンの働きを改善します。中性脂肪を減らして善玉コレステロールを増やすことができるのも、運動の効果です」と泉さん。

 最近話題のメタボリック症候群をはじめ、生活習慣病の元凶は、こういった“歩行不足症候群”にあるという。

 明日は実践編です。

ウオーキング(2)歩幅広めで姿勢良く

2008年04月03日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 日本ウオーキング協会(東京・湯島、(電)03・5256・7855)が開いている「楽しいウオーキング教室」に、記者(45歳男性)も参加してみた。約10キロのコースを、歩き方の講習や昼食休憩を含め約3時間半をかけて歩く。初心者は5キロコースの参加も可能だ。

 最初に同協会主任指導員の西田富美子(ふみこ)さんから、ウオーミングアップのストレッチ体操、正しい歩き方を教わった。

 ストレッチは、腕を大きく振ってその場で大きく足踏みしたり、足を開いて腰を落としてアキレスけんやふくらはぎの筋肉を伸ばしたり、足腰を柔軟にするのが目的だ。

 次に、歩き方。ペアで向き合って左右の肩の高さがそろっているか、前かがみになっていないかなど、姿勢をチェックする。視線を10〜15メートル先におくと、おのずと姿勢もよくなる。

 平地の歩き方は、かかとから着地し、足裏全体で地面をとらえて重心を移動させる。「親指のつけ根で体を押し出すような感じ」(西田さん)で、ふだんよりもやや歩幅を広めに足を前に出す。腕の振り方は、肩の力を抜いて自然に。時々ひじを曲げて軽く振ってみよう。

 通常のゆっくり歩くペースは、時速約4キロ。健康のためのウオーキングでは、やや早足の4・5キロから5キロ程度で歩く。この日の参加者十数人は「健康のため週に1、2度歩く」という82歳から、腰痛のリハビリのためという46歳まで、動機も年齢もいろいろ。 大勢でワイワイ言いながら歩くのも、マイペースで一人黙々と歩くのも好き好きだが、初心者は一度、こういった教室に参加するのも良さそうだ。

ウオーキング(3)「ややドキドキ」が効果的

2008年04月04日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 ただ歩くだけでは物足りなくなった人が知っておいて損がないのは、1分間当たりの心拍数による運動強度の目安だ。「ややきついとは感じるが会話ができる程度」の速さで歩くことで、効率良く運動効果を上げることができる。

 計算方法は別表の通り。45歳の記者の場合、220から年齢の45を引いた175が最大心拍数で、0・6を掛けた105から、0・75を掛けた131の心拍数の間が、効果の高い運動強度ということになる。

 記者がウオーキング教室に参加した時に貸してもらった心拍計で測ったところ、平常時は70前後だったのがゆっくり歩きでも90前後に上昇。さらに、歩道橋など階段の上りの際には125前後にまで増えた。息が上がるほどではないが、胸に手を当てるとややドキドキしている。この「ややきつい」ぐらいが、適度な運動ということらしい。

 日本ウオーキング協会主任指導員の西田富美子さんは、「心拍数が適度に上がった時の感じや歩く速度を覚えておくと便利です」と話す。心拍数は手首の脈を自分で測ることもできるが、機械が自動的に測定してくれる腕時計タイプの心拍計も1万円前後から売られている。

 また、ウオーキング専用の靴にも、底が柔らかめの街歩き用、底が固めの野山歩き用など様々なタイプがある。本格的なものだと1足2万円前後するが、歩きやすく丈夫で長く使える。靴下は、5本指ソックスが歩きやすく便利という。

 数千円の運動靴に普通の靴下でも、もちろん歩くのには何の支障もない。ただ、サイフに余裕のある人なら、こういった本格派グッズを思い切ってそろえてしまうのも、続ける動機になりそうだ。

ウオーキング(4)日常を少し活動的に

2008年04月05日 読売新聞 Yomiuri On-Line

 健康のために歩く時間の余裕がない−−そんな人は、日常的な行動を今よりも少しだけ活動的にすることで歩数を増やすことを目指そう。

 家事や仕事をしながらより多く歩く。エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う。短い距離なら電車や車は使わない。

 日本ウオーキング協会副会長で内科医の泉嗣彦(つぐひこ)さんは、これらを「ライフスタイル・ウオーキング」と呼んでいる。表は、様々な日常生活の動きを10分間連続して行った場合を歩数に換算したもの。炊事を10分間続ければ700歩歩いたのと同じ、床ふきを10分間続ければ1000歩分の運動をしたと考えれば良い。

 歩数計を使っている人は、記録をグラフにしてみよう。その場合、1日分ずつの歩数を記録するのではなく、歩数計は1週間、数字をゼロに戻さないでおき、累積の歩数を毎日記録するのがポイントだ。

 目標の歩数をあらかじめ右斜め上がりの直線で引いておけば、累積で目標を上回っているのか不足しているのか、ひと目でわかる。

 1日の目標歩数を定めることは大切だが、かといって目標に達せずに焦ったり、ストレスを感じたりしたのでは健康には逆効果だ。「月曜日は残業が多いから、その分は火曜日に歩こうとか、平日は少なめでも土日に稼ごうとか。それぞれの生活に合わせて考えましょう」と泉さん。

 疲れたら無理しない。気分が良ければ、いつもより多めに歩く。1週間や1か月といった単位で「目標を達成すれば良い」と考えるのが、長続きさせる秘訣(ひけつ)だ。(医療情報部・田村良彦)


糖尿病治療に「適度な空腹」必要 東大などマウス実験

2008年07月02日 asahi.com

 生活習慣がおもな原因とされる2型糖尿病を治すには、適度な空腹が必要であることが、発症にかかわるたんぱく質の働きの解明から裏付けられた。東京大学などの研究チームによるマウスの実験で、このたんぱく質は空腹が続くと増え、血糖値を下げるインスリンの働きを仲介していることをつかんだ。2日付の米代謝学専門誌で発表する。

 東京大の窪田直人准教授(糖尿病・代謝内科)らは、インスリンの働きにかかわる、IRS2というたんぱく質が肝臓にないマウスをつくり、調べた。

 その結果、IRS2は、肝臓が体内の脂肪などを分解して糖をつくるのを抑えるインスリンの働きを促し、空腹が続くほど増え、食後にほとんどなくなることがわかった。インスリンは、肝臓が食後に糖から脂肪をつくってためこむのを助ける働きもあり、これにはIRS1という別のたんぱく質がかかわっていた。

 IRS1の量はほぼ一定なので、食べ続けることで肝臓には脂肪がためこまれる。2型糖尿病患者に高血糖と脂肪肝が同時に起こる原因とみている。治療薬開発につながる成果という。

 共同研究者の門脇孝・東大教授は、「間食をせずに3食リズムよく食べることが大切」と話している。(鍛治信太郎)

糖尿病の疑い1870万人…厚労省調査推計

2008年05月01日 読売新聞 Yomiuri On-Line

「運動してない」6割 / 9時以降夕食も影響

 全国で糖尿病の疑いがある人は推計1870万人に上り、4年前の前回調査を250万人も上回ったことが、厚生労働省が30日公表した「国民健康・栄養調査」でわかった。

 全体の6割近くが運動をしていないことや、午後9時以降に夕食を取っている人が男性で2割近くに上ることも判明。糖尿病をはじめとする生活習慣病が増加している背景に、運動不足や食生活の乱れがあることを浮き彫りにした。

 調査は2006年11月、1歳以上の1万8000人を対象に実施し、糖尿病については20歳以上の男女4296人の血液検査データをもとに推計した。

 それによると、糖尿病が強く疑われる人が820万人で、可能性が否定できない1050万人を合わせると1870万人に上った。前回02年は1620万人、前々回1997年は1370万人で、毎回250万人のハイペースで増えていることがわかった。

 生活習慣についても15歳以上の男女8212人に尋ねたところ、運動を「実行していない」人は全体の57%で、20〜50代の男性と20〜40代の女性はほぼ60%だった。歩いたり自転車に乗ったりするなど日常生活で体を動かすことを「実行していない」人も20〜50代の男性と、20〜40代の女性で40%を超えた。

 夕食の開始時間が午後9時を過ぎる人は男性19%、女性7%で20〜40代男性では30%を超えた。厚労省は「運動量が少ないわりにカロリー摂取が多く、不規則な食生活が糖尿病増加に影響しているのでは」と分析している。


(1)生活習慣病とは

2008年04月11日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 生活習慣病とは、食事、運動、喫煙、飲酒などの生活習慣が発症の要因として深くかかわっている病気の総称です。典型的なものとしては、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高LDL[悪玉]コレステロール血症、低HDL[善玉]コレステロール血症、高中性脂肪血症)などがあります。これらの病気は自覚症状がないことが多いのですが、放置しておくと心臓病や脳卒中の引き金になることが知られており、これら直接生命を脅かす疾患も生活習慣病に数えられます。

 また、日本人の死因の第1位であるがんの多くも生活習慣との関連が知られており、心臓病・脳卒中とあわせると日本人の約3分の2が生活習慣病がもとで命を落としていることになります。

 以前は、上に挙げたような疾患は年齢とともに発症する割合が高くなるので成人病といわれていましたが、生活習慣を改善すると予防や病気の進展を遅らせることができることから、10年ほど前から生活習慣病と呼ばれるようになってきました。そのような意味で最も典型的な生活習慣病というべきものは、最近耳にすることが多いメタボリックシンドローム(いわゆるメタボ)です。

 メタボリックシンドロームは、内臓の周りに蓄積した脂肪組織(内臓脂肪)から出てくるさまざまな物質(アディポカイン)の作用で、血糖値や血圧の上昇、脂質代謝異常などさまざまな障害が起きている状態のことです。これら一つひとつの異常は軽度であっても、それがいくつも重なっていると、心臓病や脳卒中などの危険が非常に高くなることが知られており、健康で長生きするためにはメタボの予防や改善が必要です。

 そのために重要なことは内臓脂肪肥満の改善であり、その指標としては一般的な肥満の尺度であるBMI[体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)、25以上で肥満]よりもウエスト周囲径(へその位置ではかる腹囲)がより有用です。

 内臓脂肪は、生活習慣の乱れで容易に増加しますが、逆に適切な食事療法や運動療法を行えば比較的短期間に燃焼されて減少します。このとき大事なことは、体の水分や栄養のバランスを崩す結果になる無理なダイエットなどで体重を一気に減らそうとせず、栄養バランスのとれた規則正しい食事や定期的な有酸素運動などの良い生活習慣を身につけることでウエスト周囲径を目安にしながら内臓脂肪の増加を防ぐ、あるいは徐々に減少させていくことです。一般的には、ウエスト周囲径を3センチ減少させる(体重にして約3キロ)だけでも、血糖・血圧・脂質の著明な改善が認められるといわれています。

 ただし、メタボに限らず生活習慣病は、遺伝(体質)の影響も大きく、同じような食事・運動をしていても太りやすさや病気になりやすさには、個人差があります。親や兄弟に糖尿病・高血圧・心臓病などになったことがある人がいる場合は、とくに注意が必要でウエスト周囲径がメタボの基準に達していない場合でも、内臓脂肪の増加を防ぐ生活習慣を維持していくことが大切です。また最近の研究の結果から、女性の場合にはウエスト周囲径80センチ以上から心臓病や脳卒中の危険が高まることがわかってきており、メタボ予備群としてこの時期から生活習慣改善に努めるようにしましょう。

 今年度からメタボをはじめとする生活習慣病の抑制を目指した新健診制度が始まります。新制度を利用して、自覚症状がなくても放置すると死に至る病気(サイレントキラー)=生活習慣病の早期発見や予防を心がけましょう。

植木浩二郎(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 准教授)

 ◇企画・監修:門脇孝東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授

 1978年東大医学部卒業。86年から90年まで 米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年、東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、 03年現職。05年より東大医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、 日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知ら れる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

(2)糖尿病とは

2008年04月22日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの作用不足によって、慢性的に血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が上昇している病気です。前の晩から何も食べずに朝食前にはかった血糖値(空腹時血糖)が126mg/dL以上であったり(正常は110mg/dL未満、100mg/dL以上は注意が必要)、食事の有無にかかわらず任意の時間に採血した血糖値が200mg/dL(正常では食事をして1〜2時間後でもほとんど140mg/dL未満)であれば糖尿病が疑われ、詳しい検査が必要です。

 また、1回の採血でも上記のような血糖の上昇(高血糖)に加え、同時に過去1、2カ月の血糖値の平均を反映する指標であるHbA1C(4.3〜5.8%が正常)が6.5% 以上であれば、糖尿病であると診断できます。糖尿病やその予備群でも、初期には空腹時血糖値はほぼ正常値であることが少なくなく、空腹時血糖値だけを測定する従来の多くの健康診断では、いわゆる「隠れ糖尿病」やその予備群が見逃されがちでした。本年度からはじまった特定健診では、HbA1Cを測定することが推奨されており、糖尿病の診断率が向上することも期待されています。

 糖尿病には、大別すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを注射しないと生存できない1型糖尿病と、インスリンの分泌が少ないなどの遺伝的な素因に加えて、過食や運動不足などによる肥満が引き金となってインスリンの作用が低下することによって起きる2型糖尿病があり、後者が糖尿病全体の90%を占めています。2002年の厚生労働省の調査によると、わが国の糖尿病患者は740万人で、50年前と比べると30倍以上増加していますが、これはおもに肥満のまん延などによる2型糖尿病の増加によるものです。

 高血糖が持続していても、よほど高値にならない限り自覚症状は少ないのですが、恐ろしいのは適切な治療を受けないまま数年以上経過すると、しばしば、いろいろな臓器に障害(合併症)が起きてくることです。ことに、視力低下につながる網膜症(中途失明の原因の第2位)、腎臓の機能低下を起こす腎症(透析導入の原因の第1位)、あるいは手足の感覚低下やしびれなどを引き起こす神経障害(足の切断などにいたる壊疽の原因にもなります)などが糖尿病に特徴的な合併症です。

 また、心筋梗塞や脳卒中などの大血管合併症は、それほど糖尿病が悪化していない状態や予備群の状態でも進行します。いずれの場合も良好な血糖コントロール(少なくともHbA1C6.5%未満)を保つことが大切ですが、これに加えて血圧(大血管合併症や腎症)やコレステロール(大血管合併症)を十分コントロールすることも重要です。

 このためには、適切な食事療法と、心臓などに病気がなければ、運動療法がすべての人に推奨されます。ことに肥満がある場合には、減量によって内臓脂肪から放出される悪玉アディポカイン(メタボリックシンドロームの項参照)を減少させることが重要です。それでも血糖のコントロールが良好にならないと、経口薬やインスリン注射などその人の状態に合った薬物療法が必要になります。

 糖尿病は、一度かかると治るということがありませんので、まず予防が第一です。ただし、もし糖尿病になったとしても、食事・運動・(必要なら)服薬など自分自身をコントロールしていくことで、健康な人と変わらない長寿を保つことが可能な病気です。根気よく頑張りましょう。

植木浩二郎(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 准教授)

 ◇企画・監修:門脇孝東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授

(3)糖尿病のタイプ

2008年05月13日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病は、「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の特定の機序・疾患による糖尿病」「妊娠糖尿病」の4つに分類されます。

 膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが筋肉、脂肪、肝臓などに働きかけて血糖値が低下するわけですが、「1型糖尿病」は「インスリンをつくる膵臓のβ(ベータ)細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなる」ことにより起こる糖尿病です。

 「1型糖尿病」ではインスリンが分泌されなくなるので、それを補うために、治療にはインスリン注射が必要となります。インスリン注射をしなければ血糖値はうまくコントロールできませんし、インスリン注射を怠ると生命に危険が及ぶ場合がほとんどです。

 一方「2型糖尿病」は、「インスリン分泌が低下している」ことと、「インスリンの利きが悪くなっている」こと(インスリン抵抗性といいます)が組み合わさることにより起こる糖尿病です。

 日本における糖尿病患者さんの9割以上は2型糖尿病です。遺伝因子(家系)がインスリン分泌の低下およびインスリン抵抗性に関与しますし、また環境因子(過食・肥満・運動不足などの生活習慣)はインスリン抵抗性に大きくかかわってきます。日本人と欧米人を比較すると、日本人ではインスリンを分泌する力が欧米人の半分くらいしかないため、欧米人よりも軽度のインスリン抵抗性、すなわち少し太っただけでも2型糖尿病を発症する場合が多いわけです。

 2型糖尿病の治療としては、適正な食事療法・運動療法を行うだけで高血糖が改善する場合もありますし、食事療法・運動療法に加えて飲み薬、あるいはインスリン注射が必要になる場合もあります。

 「その他の特定の機序・疾患による糖尿病」には、ひとつの遺伝子の異常で糖尿病を発症する疾患(ミトコンドリア遺伝子異常など)も含まれますし、膵臓の病気(慢性膵炎など)、肝臓疾患(肝硬変など)、あるいは内分泌疾患(クッシング症候群など)といった、他の病気があるために起こってくる糖尿病も含まれます。また、他の疾患の治療で用いるステロイドやインターフェロンなどの薬によって起こってくる糖尿病もこの分類に含まれます。

 「妊娠糖尿病」は、妊娠中に、発症あるいは初めて発見された耐糖能異常を指します。妊娠中に耐糖能異常があると、正常の方と比べて、母親にも胎児にも合併症が出現する可能性が高くなるので、血糖値の管理は厳格に行う必要があります。血糖値を下げるのに使う薬はインスリンです。なお、妊娠中に耐糖能異常のあった方も、出産後にはいったんは改善する場合が多いのですが、将来糖尿病を発症する可能性が高いので、定期的に血液検査を行って注意する必要があります。

塚本和久(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 講師)

(4)糖尿病の病態

2008年05月27日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 私たちの体の中では、空腹時の血糖値は70〜110mg/dLの間になるように、食事をした後も2時間後には140mg/dLを超えないように、さまざまなホルモンがうまく作用して精密なコントロールを達成しています。血糖値を上昇させるホルモンにはグルカゴンや糖質コルチコイド、カテコラミンなど数種類あるのですが、血糖値を下げる作用を持つホルモンはインスリンのみです。それゆえ、このインスリンが分泌されない、あるいはインスリンに対する体の反応性が鈍っていてインスリンが十分にその作用を発揮できないときに血糖値が上昇して糖尿病になるわけです。

 インスリンは膵臓のβ細胞で作られ、全身の細胞、とくに肝臓・筋肉・脂肪組織の細胞に働き、細胞の表面にあるインスリン受容体という蛋白に作用して細胞内に情報を伝え、ブドウ糖の代謝を調節しています。食事をすると小腸からブドウ糖が大量に吸収されて血液中に流れ込むわけですが、それに反応してβ細胞からインスリンが分泌され(追加分泌)、その作用で肝臓や筋肉では細胞内に取り込んだブドウ糖をエネルギーとして利用したりグリコーゲンに変換して蓄えます。

 また脂肪組織では、ブドウ糖を中性脂肪に変えて貯蔵エネルギー源として蓄えます。食事からのブドウ糖の供給のない空腹時には、おもに肝臓に蓄えたグリコーゲンからブドウ糖が作られて全身の細胞に供給されるわけですが、このようなときにもインスリンは一定の割合で分泌されており(基礎分泌)、肝臓で作られるブドウ糖が作られすぎないように調節しています。

 インスリン分泌が低下する典型的な場合が、β細胞が破壊されてインスリンが出なくなる1型糖尿病です。2型糖尿病でもインスリンの分泌が低下したり、あるいはブドウ糖に対する分泌の反応性が遅くなったりすることが原因として重要ですが、近年わが国で増加している2型糖尿病では、元々の日本人のブドウ糖に対するインスリン分泌の低さに加え、生活習慣の変化による肥満が重大な要因となっている「インスリンに対する体の反応性の低下」(インスリン抵抗性)が非常に大きな原因となっています。

 肥満が起こると、一つひとつの脂肪細胞が肥大化します。脂肪細胞は中性脂肪としてエネルギーを貯蓄する、という重要な役割を持っているのですが、最近、脂肪細胞自身がさまざまな因子(アディポカイン)を分泌していることがわかってきました。肥大化した脂肪細胞からは、「TNFα」や「IL?6」などの悪玉のアディポカインや遊離脂肪酸が過剰に分泌されており、これらが肝臓や筋肉におけるインスリンの作用の情報伝達を障害します。また、肥大化した脂肪細胞からは、善玉アディポカインである「アディポネクチン」の分泌が低下します。このように、脂肪細胞から分泌されるアディポカインの変化が、インスリン抵抗性を引き起こすわけです。

 このようにして、いったん血糖値が上昇し始めると、血糖値が高いこと自体がさらにインスリン分泌を低下させたりインスリン抵抗性を悪化させて(糖毒性)、さらに血糖値が高くなる、という悪循環が引き起こされることになります。

塚本 和久(東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科講師)

(5)肥満症とは

2008年06月10日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 肥満症の前に、まず肥満とは、体重が重過ぎることではなく、体脂肪の過剰な蓄積のことです。そして肥満の診断の判定は体脂肪量を反映する体格指数(Body Mass Index :BMI=体重[kg]/身長(m)×身長[m])によってなされます。

 わが国における肥満の診断基準は、体格指数BMI 25以上です。ちなみに理想体重とは、長寿になる可能性が高い体格指数BMIが22となる体重のことで、個人個人の身長によって異なります。平成10年の国民栄養調査によると日本の肥満(BMI≧25)人口(15歳以上)は、総計で2300万人、男性1300万人、女性1000万人と推定されています。50年前と比べると4倍以上増加していますが(図1)、これは脂質の摂取の増加や運動不足によるところが大きいと考えられています。

 さていよいよ「肥満症とは?」ですが、肥満が原因となって健康障害(糖尿病や脂質異常、高血圧など)を合併するか、あるいは合併する可能性が高いことが予測される場合で、医学的に減量を必要とする状態のことです。具体的には、肥満(体格指数BMI≧25)と判定され、さらに以下の条件のいずれかを満たす人が、肥満症と診断されます。

(1)肥満に関連し、減量が必要、または減量により改善が可能な健康障害を有する方。

(2)健康障害を伴いやすいハイリスク肥満:身体計測のスクリーニングにより内臓脂肪蓄積が疑われ(腹囲男性85センチ、女性90センチ以上の場合)、腹部CT検査によって確定診断された内臓脂肪型肥満の方(内臓脂肪面積100平方センチ以上の場合)。

 肥満が原因となる、あるいは肥満と関連し、減量を要する健康障害として表2のようなものが挙げられます。肥満のみで健康障害をきたしていない場合は治療の必要はありませんが、肥満症と診断された場合、治療が必要です。

 肥満症として治療を行う場合、他の病気が原因となって肥満になっていないかを除外する目的で、詳しい検査が必要です。エネルギー摂取が全身のエネルギー消費を上回ると肥満をきたしますので、個人個人にとって何が問題となっているかを分析し、治療方針を立てる必要があります。

 ちなみに、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞等)の危険因子(リスクファクター)が一個人に重積するメタボリックシンドロームは、腹囲に加えて、空腹時血糖値、血圧、中性脂肪あるいはHDLコレステロール値の3つのうち、2つ以上の異常を合併した場合に診断されます。

 本年度からはじまった特定健診では、ステップ1で腹囲と体格指数BMIで内臓脂肪蓄積のリスクを判定し、ステップ2で検査結果より、メタボリックシンドロームに関連するリスクを判定し(空腹時血糖100mg/dL以上、中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、血圧130/85mmHg以上)、特定保健指導レベルを決定することになっています。

 肥満症が持続していても、よほど高度にならない限り自覚症状は少ないのですが、適切な治療を受けないまま経過しますと、しばしば、心筋梗塞や脳卒中などに結びつく動脈硬化が、個々の健康障害がそれほど悪化していない状態や予備群の状態でも進行してしまいます。

 これらの予防のためには、適切な食事療法と、心臓などに病気がなければ、運動療法がすべての人に推奨されます。ことに肥満がある場合には、減量によって内臓脂肪から放出される悪玉アディポカイン(メタボリックシンドロームの項参照)を減少させ、善玉アディポカインであるアディポネクチンを増加させることが重要です。

 薬物療法に関しては、わが国では食欲抑制薬1剤が、肥満3度以上(表1参照)の高度肥満症の方に投与期間3か月以内限定で認可されているのみですが、研究の進展に伴って今後の開発が期待されているところです。内視鏡などを用いた外科的治療法も、肥満3度以上の高度肥満症の方に厳格な適応基準の下、安全性および有効性の確認がわが国でも始まっており、今後が期待されているところです。

 食事・運動・(必要なら)服薬など自分自身をコントロールしていくことで、健康な人と変わらない長寿を保つことが可能な病気です。根気よく頑張りましょう。

山内敏正(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 統合的分子代謝疾患科学講座 特任准教授)

(6)高血圧とは(糖尿病との関連で)

2008年06月24日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 高血圧とは、動脈内の圧力が異常に高い状態です。高血圧自体の自覚症状としては、頭痛、めまい、肩こり、むくみ、動悸などがありますが、症状が弱くて気づかないことがほとんどです。気づかずに放置していた場合には、脳卒中や心筋梗塞・心不全・腎不全など生死にかかわる脳・心臓・腎臓の血管障害に至ることが多いです(表)。それゆえ、高血圧もサイレント・キラー(沈黙の殺人者)の一つといわれています。

 糖尿病患者さんにおける高血圧の併発頻度は、糖尿病を持たない場合に比べ2倍ほど高いといわれています。また、高血圧患者さんにおける糖尿病の頻度も2〜3倍高いともいわれています。この両者の合併は偶然ではありません。両者ともメタボリックシンドロームの構成要素であるように、共通する原因によるものと考えられています。

 これまでの内外の臨床研究では、糖尿病に併発する高血圧は目標血圧をより低く設定したほうが心臓や脳などの合併症が少ないと報告されています。このような背景もあって、現在の治療ガイドラインでは降圧目標は130/80mmHg未満となっています。ただし、糖尿病性腎症のために1日の尿蛋白が1g以上ある場合には、降圧目標はより低く125/75mmHg未満としています。

 治療の流れを図に示します。血圧が130/80mmHg以上の場合は、生活習慣の改善を3〜6か月指導し、効果不十分の場合には降圧薬による治療を開始します。また、140/90mmHg以上の高血圧では、生活習慣の改善と同時に降圧薬による治療も開始します。

 生活習慣を改善するうえで重要なポイントは、食事療法・運動療法と禁煙です。最近の調査によると、日本人の食塩摂取量の平均値は11.2g(男性12.2g、女性10.5g)でした。高血圧の患者さんでは、1日6g未満が推奨されているので、薄味(減塩)に慣れていただくことが大切です。また、適正カロリーを遵守して、適正体重を維持あるいは減量することも血圧を下げるのに有効です。運動は早歩きや水中歩行などの有酸素運動が、降圧の点でも減量の点でも効果的とされていますが、運動療法の禁忌でないこと(心臓などの血管に障害がないことなど)を主治医に確認してから開始しましょう。

 薬物療法では、糖・脂質代謝への影響と合併症予防効果の両面から、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬が第一選択薬として推奨されています。とくに、ACE阻害薬とARBは糖尿病性腎症における有用性が証明され、腎症の発症・悪化を予防するので、これら薬剤の使用が推奨されています。薬の選択については、合併症や併用薬剤を勘案して決定されます。

 治療開始後は、血圧が24時間にわたり適切にコントロールされているかどうかを確認することが大変重要です。外来通院ではワンポイントの血圧しか確認できません。血圧は絶えず変動しています。したがって、家庭血圧測定が必要と考えられます。病院・診療所で血圧が上がってしまうケース(白衣高血圧)、逆に病院・診療所での血圧は正常で非医療環境で高血圧状態にあるケース(仮面高血圧)や早朝高血圧の診断や評価に役立つからです。

 最近、厚生労働省から発表された「平成18年 国民健康・栄養調査の概要」によると、「高血圧症有病者」は約3970万人、「正常高値血圧者」は約1520万人で、合計すると約5490万人でした(注)。とても多いことに驚かされます。さらに、40〜74歳での「高血圧症有病者」の中で薬物療法を受けている人は半数弱と報告されています。たかが高血圧とは思わないでください。適切な治療を受けることにより高血圧による合併症は確実に抑えられます。あなたとあなたの大切な家族のために。

(注)

・高血圧症有病者:収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上、または血圧を下げる薬を服用している者。

・正常高値血圧者:収縮期血圧130mmHg以上140mmHg未満で、かつ拡張期血圧90mmHg未満の者または、収縮期血圧が140mmHg未満で、かつ拡張期血圧が85mmHg以上90mmHg未満の者(ただし、薬を服用していない者)。

大須賀 淳一(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科) 

(7)高脂血症とは(糖尿病との関連で)

2008年07月08日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 高脂血症とは、血液中の脂質、とりわけコレステロールと中性脂肪(トリグリセリド)が増えた状態のことです。高脂血症はほとんどの場合、痛みなどの自覚症状を伴わず、検査をしない限りその存在は気づかれません。

 高脂血症の問題は、動脈硬化を引き起こす危険因子の一つです。心臓あるいは脳の動脈で動脈硬化が進んだ場合、ある日突然、脳血栓(脳梗塞)や心筋梗塞を引き起こし、緊急入院を余儀なくさせられ、最悪の場合には死に至ることもあります。そうした意味で、高脂血症は高血圧と同様にサイレント・キラー(沈黙の殺人者)と呼ばれている病気です。最近では、HDL-コレステロール(HDL-C)低値も動脈硬化の危険因子であることを意識して「脂質異常症」という言葉で包括されることもあります。

 生活習慣病に関する世論調査をみると、高脂血症を怖い病気だと思う人は他の生活習慣病に比べて少なく、怖いかどうかわからない人が多いようです(図1)。最近、厚生労働省から発表された「平成18年 国民健康・栄養調査の概要」によると、“脂質異常症が疑われる人”は、少なくとも約1410万人いると推計されており、この病気について熟知していただく必要があるように思われます。

 糖尿病自体も動脈硬化の危険因子になることが内外の研究で証明され、糖尿病を持つと冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクが2〜6倍に増加します。また、糖尿病に冠動脈疾患を併せ持つと、その後の経過が悪いことが知られています。わが国で行われた研究(JDCS)では、糖尿病における冠動脈疾患の危険因子の代表格はLDL-コレステロール(LDL-C)でした。実際お薬で糖尿病の方のLDL-Cを大幅に低下させると、冠動脈疾患や脳梗塞の発症が少なくなることが、海外の研究で明らかにされています。このような背景からも糖尿病を持つ人には、図2に示すような管理目標値が推奨されています。

 まずは血液検査で、朝、空腹の状態で血清脂質値を確認しましょう。そして、もし血清脂質が高いと言われた場合には、生活習慣の見直しをしましょう。禁煙、食生活の是正、身体活動の増加、適正体重の維持と内臓脂肪の減少を図ります。過剰なエネルギー摂取は肥満の原因となるので、適正なエネルギー摂取を心がけましょう。また、獣鳥の肉や脂肪より魚由来のものをとるようにし、コレステロールの摂取量に気を付け、食物繊維を積極的にとりましょう(表)。また、有酸素運動を行うことにより、血清脂質値の改善、血圧、血糖の低下が見込まれます。

 こうした生活習慣を3〜6か月行っても、血清脂質値の改善が見られなければ、お薬による治療が必要になるでしょう。すでに冠動脈疾患をお持ちの方は、生活習慣の見直しと同時にお薬による積極的な治療をおすすめいたします。お薬は、冠動脈疾患や脳硬塞といった動脈硬化による病気の発症や再発を予防するために使われるものです。長期にわたって服用する必要があります。したがって、あなたの病気のことをよく知っている主治医に相談して、あなたに合ったお薬を選んでもらうことが大切です。そして、血清脂質が十分に目標値まで低下していること、安全性に問題ないことを確認するために、定期通院を欠かさないことを忘れないでください。

大須賀 淳一(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)

(8)糖尿病の合併症(総論)

2008年07月22日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病の合併症には「急性」合併症と「慢性」合併症があります。急性合併症は、血糖を下げるホルモンのインスリンの量が極度に不足し、極端に血糖が高くなる状態をいいます。喉が渇く、だるい、体重が減ってきたなど特徴的な症状が強く出るために患者さんは医療機関を受診されます。20世紀初頭にインスリンが発見され、その後人工的に製造できるようになってからは、適切に治療されれば急性合併症で命を落とすことはまずなくなりました。

 これに対して慢性合併症は、状態がかなり進行しないと症状が出ないために、医療機関への受診・診断が遅れ、結果的に生活の質が大きく損なわれてしまうという怖い面があります。今回はおもに慢性合併症について説明します。

 長期間血糖が高い状態が続くと細い血管が集まっている目の網膜、腎臓、神経にさまざまな悪い変化が生じてきます。それぞれ「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」と呼ばれ、細い血管に起きてくるので3つをまとめて「細小血管症」と総称されています。

 網膜症では、目の奥の、光や色を感じる網膜という部分から出血し、視力の低下や視野が欠けたりして、最悪の場合には失明することがあります。糖尿病による網膜症は成人の失明や視力障害の主要な原因となっています。

 腎症は、体の老廃物を浄化する腎臓の働きが悪くなり、進行すると血液を人工的に浄化(人工透析)しないといけなくなります。新たに透析が必要になる人の中で腎症が原因の第1位になっています。

 神経障害では、両足の指先などにしびれが出たり、感覚が低下する末梢神経障害や、下痢・便秘、立ちくらみなど自律神経障害があります。

 細小血管症とともに、糖尿病では動脈硬化が進みやすいことが知られています。動脈硬化は、酸素や栄養を全身に運んでいる動脈という血管が狭くなることで、進行すると血栓(血の固まり)によって血管が完全につまることがあります。心臓の筋肉に酸素や栄養を運んでいる動脈(冠動脈といいます)にそのようなことが起きると心筋梗塞を、脳にいく血管では脳卒中を、足にいく血管では壊疽(えそ:足の指など先端部分が真っ黒になって切断しないといけなくなる病気)を起こします。動脈硬化は、割りと太い血管に起きてくるので「大血管症」とも呼ばれています。糖尿病は、症状がないからといって放置していると、細小血管症や大血管症などがじわじわと進行する怖い全身病なのです(図1)。

 それでは、慢性合併症を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。最も大切なのは、できるだけ症状が出ない血糖値を保つ(コントロールする)ことです。実際に、血糖値をコントロールすることで合併症になるリスクが減らせることが科学的に証明されているのです。1型糖尿病の方を対象に米国で行われたDCCTという研究結果で、インスリンによって血糖コントロールをより厳密に行ったほうが、網膜症や腎症が発症したり、進行する患者さんの数を明らかに減らすことが示されています。

 図2は、2型糖尿病を対象とした英国で行われたUKPDSという研究結果を示したものですが、内服薬かインスリンかにかかわらず、血糖コントロールをより厳密に行うことで細小血管症の発症が抑えられることが証明されました。日本でも熊本スタディという研究で、血糖コントロールによって細小血管症の発症が抑えられることが報告されています。

 さらに、血糖コントロールを行っていくと同時に、眼科の先生の診察や尿検査、足の診察を必ず定期的に行って適切な処置を行うことが、それぞれの合併症によって起きてくるさまざまな困難を防止するのに大切です。

 大血管症を予防するにはどうすればよいのでしょうか。糖尿病患者さんは血圧やコレステロール・中性脂肪の数値に異常があることが多いのですが、血圧・脂質をコントロールすることで大血管症を予防できることは明確になっています。血糖についても、一定の証拠が示されています。糖尿病患者さんに対して、血糖・血圧・脂質すべてについて厳密にコントロールすることで、大血管症を防ぐことができるかどうか、J−DOIT3という全国規模の研究が進行中です。数年後には結果が出され、糖尿病合併症をなくすための新しい治療ガイドラインができることが期待されています。

原一雄(東京大学医学部附属病院総合研修センター講師)

◇企画・監修:門脇孝(東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

 1978年東大医学部卒業。86年から90年まで 米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年、東大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、 03年現職。05年より東大医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、 日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知ら れる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

(9)糖尿病網膜症

2008年08月12日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 網膜は、眼球の一番奥(眼底)にあり、瞳から入った光を感じて映像を映すスクリーンの役割を果たしています。「糖尿病網膜症」は、糖尿病を発症してから治療しないで5〜7年放置すると約10〜20%の人に発症してきます。現在、日本で年間約3000人の方が糖尿病網膜症で失明しており、失明のもっとも大きな原因疾患の一つとなっています。

 糖尿病網膜症は、1)正常、2)単純網膜症、3)増殖前網膜症、4)増殖網膜症、と4期に分類されます(表)。

 高血糖が長期間続くことによって網膜の血管壁細胞の変性、基底膜の肥厚による血流障害、血液成分の漏出を生じたものが「単純網膜症」です。眼底検査によって明らかになりますが、この段階では多くの場合自覚症状はまったくなく、病気に気付きません。

 さらに高血糖が持続しますと、網膜の血管が閉塞し、酸素や栄養が不足して網膜の障害が進行します。そのため、血流不足を補うために、新生血管と呼ばれる血管が増殖しますが、これらの新生血管はもろく破綻しやすいために、眼底出血が悪化していき、「増殖網膜症」に進行していきます。

「硝子体(しょうしたい)出血」は、瞳から入ってきた光の通り道である硝子体が、出血した血液によって濁ってしまい光が入ってこられなくなった状態です。「網膜剥離」では、スクリーンの役割を果たす網膜が剥がれてしまい、焦点が合わなくなってしまった状態です。いずれも、急激に重篤な視力障害を生じてしまいます。

 糖尿病網膜症の治療は、第1に血糖をコントロール良好な状態で維持することによって、網膜症の発症・進行を予防することです。増殖前網膜症よりも進行してしまっている場合には、「レーザー光凝固」を行います。レーザー光凝固では、網膜の血流が低下した部位や新生血管に対してレーザー光を照射し凝固させ、新生血管が伸びるのを予防する治療法です。硝子体出血や網膜剥離を発症した場合には、眼科的な手術を行わないと失明する恐れがあります。

 網膜症の自覚症状は視力低下ですが、症状が出たときには、かなり進行してしまっていて、眼科的な手術が必要な状態になっていることも多くあります。そのため、糖尿病と診断されたら、自覚症状がなくても定期的に眼底検査を行い、網膜症を早期に発見していかなければいけません。早期発見し、早期治療を開始することで、網膜症の発症予防が可能であり、また進行を食い止めることもできます。

迫田秀之(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(10)糖尿病の合併症(糖尿病腎症)

2008年08月26日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 慢性合併症は、状態がかなり進行しないと症状が出ないために、医療機関への受診・診断が遅れ、結果的に生活の質が大きく損なわれてしまうという怖い面があることを前回述べました。今回は腎症について具体的にご説明します。腎臓は腰の少し上方で背骨を挟む形で左右1個ずつあり、大きさは手のひらサイズの臓器です。腎臓からはそれぞれ1本、尿管という管が出ていて、腎臓でできた尿がそこを通って膀胱にためられ、一定の量が溜まりますと尿意を感じて排尿されるようになっています。腎臓は血液の中を巡回している老廃物を濾過して血液を浄化する、とても重要な働きをしています。1個の腎臓の中には、毛細血管(体の中のもっとも細い血管)が集まった「糸球体:しきゅうたい」と呼ばれる濾過装置が100万個くらい収められていて、これが血液中の老廃物を濾過したり体の中のミネラルのバランスをとっているのです。この糸球体の働きが落ちると老廃物が除去できないために、老廃物が体に溜まったり、ミネラルのバランスがくずれて「尿毒症」と呼ばれるさまざまな症状(だるさ、むくみ、息苦しさ、かゆみなど)が出てきます。糖尿病の合併症(総論)でご説明しましたように、糖尿病腎症も他の合併症と同じように、最初のうちは症状がなくじわじわと進行するために、検査や治療がされないで放置しておくと、尿毒症の症状がでてきたときにはかなり進行した状態なのです。腎症が進行すると、最終的には血液を人工的に浄化(人工透析)しないといけなくなります。日本で新たに透析が必要になる人の中で、糖尿病腎症が原因の第1位になっています。

 それでは糖尿病腎症に対して、どのような対策をとれば良いのでしょうか。発症や進行を防止する手立てはあるのでしょうか。最近のさまざまな研究で、早い段階で手を打てば糖尿病腎症になること自体を防げることや、例え腎症になったとしてもその進行を防ぐことができることが分かってきました。腎臓の働きが元に戻ることもあることが報告されたのです。そのため、早期に糖尿病腎症を発見することがとても大切になってきます。その方法ですが、少し専門的になりますが、尿の中に出てくる蛋白の一種のアルブミンという物質の量を測定する方法です。アルブミンは体にとってなくてはならないもので、正常な状態ではアルブミンは腎臓で濾過されることはなく、尿の中にはほとんど検出されません。ところが、血糖値が高い状態が長く続くと、先ほどご説明しました糸球体の働きが悪くなり、アルブミンが尿の中に漏れ出してきます。糖尿病腎症が進むにつれて尿の中のアルブミンの量が増えてきます。最近アルブミンの量がごく微量でも測定することができるようになり、より早期に腎症を診断することができるようになったのです。図2のように腎症がある程度進むと(顕性腎症期)、尿の中の蛋白が増えてきて、通常の尿検査でも+となります。図2に腎症の5段階と、それぞれの段階の特徴や注意すべき点についてまとめました。

 それでは、腎症を防ぐには具体的にはどうしたら良いのでしょうか。もっとも大切なのは、できるだけ正常に近い血糖値を保つ(コントロールする)ことです。実際に、血糖値をコントロールすることで腎症になるリスクが減らせることが科学的に証明されていることは「総論」でご説明しました。HbA1cの値が6.5%未満の、血糖コントロール「良」以上が望まれます。血圧のコントロールも腎症を防ぐためにとても大切なことが分かっています。血圧が高いと、糸球体に負担がかかるために、いろいろな障害が起こってくるとされています。血圧は収縮期血圧(上の血圧)を130未満、拡張期血圧(下の血圧)を80未満にすることが望まれています。食事療法・運動療法で減量を心がけ、食事の味付けを薄味にして塩分の取りすぎに注意しましょう。腎症が進行している場合には、血圧を下げる薬などによってさらに厳しく収縮期血圧を125未満、拡張期血圧を75未満に保つことが望まれています。また、腎症がある程度進行した状態では、食事の中の蛋白を制限することが勧められています。蛋白が肉や魚に多く含まれているのはご存じと思いますが、ごはん(お米)の中にもある程度含まれていて、腎症が進むと、お米もでんぷん米といって蛋白の量が少ない特別なお米を使うことも必要かもしれません。

 最近、血糖や血圧を一定以下に保つことによって、腎症の発生や進行を予防できることがさまざまな研究で明らかになってきました。また、血糖や血圧をコントロールするための血糖や血圧を下げる内服薬が続々と開発されてきています。食事療法と内服薬の治療を総合的に行うことで、腎症の発症や進行を少しでも減らせるよう、これからも努力が続けられていくことと思われます。

原一雄(東京大学医学部附属病院総合研修センター講師)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(11)糖尿病神経症

2008年09月09日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病を発症して最初にでてくる合併症が神経障害です。早い時には、糖尿病発症後3年で症状が出現します。図1のように、全身にさまざまな症状を生じます。

 手足のしびれ、感覚の低下は、グラブアンドストッキング型の末梢神経障害といわれ、手袋や靴下をつける範囲の両手両足の先端から始まります。特に、足の裏の感覚が鈍くなり、裸足で歩いていても床との間に紙を1枚はさんでいるように感じることが多くあります。こむら返りを繰り返すこともあります。蟻走感という下肢などにむずむず感じる症状や、電気が走るような痛みなどの異常感覚がでることもあります。2、3か月間で急速に片側の大腿部などの筋が萎縮することがあり、これも神経障害の一種と考えられています。

 自律神経は、血圧や脈拍、体温、胃腸の働きなど体のいろいろな機能を調整する働きがあります。自律神経が侵されると、それらの調整がうまくいかなくなり、立ち上がった時に血圧が下がって立ちくらみしたり、胃腸の働きが不調になり、嘔気嘔吐や下痢、便秘を繰り返すようになったりします。尿が沢山たまっていても尿意を感じなくて排尿できなくなることや、勃起障害などの症状もあります。また、脈拍数の調整もうまくできなくなることもあり、進行すると稀ではありますが、突然死の原因ともなります。

 顔面麻痺は、単神経障害の一種で、顔面神経が侵されることで生じます。眼球の動きを調整する動眼神経などが侵されると、物が二重に見えてしまう複視の症状が出現します。

 神経障害は、糖尿病足病変の大きな要因となります。感覚低下のために、下肢の傷に気付かず知らない間に病変が拡大します。糖尿病患者は同時に、動脈硬化による血流障害や、高血糖による免疫力の低下などから、創傷治癒が非常に悪くなっています。そのために、普通ならすぐに治るような小さな傷が、気付いた時には、潰瘍や骨髄炎にまで進行し足壊疽と呼ばれる状態になります。重症の場合には、下肢を切断しないと敗血症を防げないこともあります。

 神経障害の治療は、1番は他の合併症と同じく血糖を良好にコントロールして、神経障害の発症進行を予防することです。神経障害の発症には、高血糖からソルビトールが蓄積することが原因の1つと考えられており、それを防ぐアルドース還元酵素阻害薬という薬剤が使われることもあります。血流改善を目的にプロスタグランジン製剤が使用されることもあります。痛みや蟻走感などの症状に対しては、鎮痛薬、抗うつ薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬など症状を和らげる薬が必要となることもあります。足壊疽に対しては、日常的にフットケアといって、足を毎日観察して傷を早期に見つけ、水虫や胼胝(たこ)などは治療しておくなど予防が非常に大切です。

 神経障害の症状はいずれも完全に治療することが難しく、長期間、異常感覚や痛みが続くことで不眠やうつ状態になることもあります。症状が出現する前に、しっかり血糖をコントロールし症状の出現を防ぐことが重要です。

迫田秀之(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(12)糖尿病の合併症(動脈硬化)

2008年09月23日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 ◇1. 動脈硬化とは

 網膜症、腎症、神経障害の三大合併症は細小血管症とよばれ、末梢の細い血管に対する障害が主な原因です。一方、糖尿病は太い血管(動脈)の障害、すなわち動脈硬化を促進します。これを大血管症とも呼びます。

 動脈硬化は、心臓や脳など重要な臓器を栄養する太い血管の壁が厚くなり、脂質などが蓄積することで始まります。進行すると動脈の内腔が徐々に狭くなって血流が低下します。さらにその部位に血栓(血液の固まり)ができることもあります。こうして血流が低下したり途絶したりすることで、その動脈によって栄養されている臓器が障害を受けます。こうして動脈硬化によって心臓では狭心症・心筋梗塞、脳では脳梗塞が引き起こされます。下肢(足)の動脈が閉塞し、壊疽や切断の一因となる閉塞性動脈硬化症も同様です。

 ◇2. 糖尿病患者は動脈硬化の危険度が高い

 さまざまな調査で、糖尿病の人は糖尿病でない人と比べて動脈硬化性疾患にかかる危険が3倍から5倍高いことが明らかになっています。高血圧や脂質異常症など、危険因子を併せ持つ人では危険はさらに高くなります。心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を起こさず、糖尿病を持ちながら天寿を全うするためには、三大合併症だけでなく、動脈硬化の進行を少しでも抑えることが重要です。

 ◇3. 動脈硬化の診断

 動脈硬化についても、早期の診断と治療が大事です。(特に労作時の)胸痛や胸部不快感などの症状がある、心電図異常、危険因子を特に多くもつ場合などでは、運動負荷心電図検査や心臓超音波検査、さらに心筋シンチグラムやカテーテル検査などの精密検査を行います。頸動脈超音波検査を行うと、脳梗塞につながる頸動脈の狭窄や閉塞のほか、全身の動脈硬化の程度を推測することができます。下肢の動脈硬化については、血圧脈波検査などを行い、異常があればさらに精密検査を行います。

 ◇4. 動脈硬化を予防するために

 血糖コントロールは動脈硬化予防のためにも重要です。HbA1cで6.5%未満、できれば5.8%未満を目標に、正常に近い血糖値を目指します。さらに、動脈硬化の予防には血糖コントロールだけでは不十分であることが分かっています。動脈硬化の進展には、高血圧、脂質異常症、喫煙など、高血糖以外の因子もかかわっており、これらをより厳格にコントロールする必要があります。糖尿病患者では、血圧は130/80 mmHg未満(尿蛋白が1g/日以上の場合125/75 mmHg未満)、LDLコレステロールは120 mg/dL未満(狭心症・心筋梗塞の既往がある場合100 mg/dL未満)を目標に治療します。薬剤だけでなく、食事・運動療法によって体重や腹囲(内臓脂肪)を減らすよう自己管理を続けることも大事です。禁煙も大事な治療の1つです。こうした自己管理を何年にもわたって継続することで、動脈硬化による病気の発症と進行を抑えることができるのです。

原眞純(帝京大学医学部附属溝口病院第四内科講師)

 ◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(13)糖尿病の検査

2008年10月14日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病には、多飲・多尿などの自覚症状がありますが、糖尿病に真に特異的な症状ではありません。また、初期で合併症がない場合は、自覚症状に乏しい場合も多いです。したがって、糖尿病を疑った場合や健診を受診する場合、糖尿病のスクリーニング検査を受けることがとても重要になりますが、検尿(尿糖検査)と採血による血糖検査が代表的です。尿糖検査は簡単にできるという利点がありますが、一般に尿糖は血糖値がかなり高くならないと出現しないため、空腹時の尿糖スクリーニング検査はあまり意味がありません。逆に、腎性糖尿といって、血糖が正常な(つまり、糖尿病でない)場合でも尿糖が陽性になる場合もあります。やはり、血糖検査が一番重要です。血糖検査では、経口糖負荷試験といって75グラム(300キロカロリー)のブドウ糖を水に溶かしたものを服用して一定時間後に測る検査もありますが、この試験は、軽い糖の代謝異常を調べる鋭敏な方法です。これら血糖検査結果の評価法を図1に示します。また、過去1、2か月の血糖値の平均を反映するヘモグロビン(Hb)A1cという検査もとても重要です。

 現在のわが国の診断基準では、空腹時血糖値≧126mg/dL、75g経口糖負荷試験2時間値≧200mg/dL、随時血糖≧200mg/dLのいずれかが、別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよいとされています。これらの基準値を超えても、1回の検査だけの場合には糖尿病型と呼びます(図1)。糖尿病型を示し、かつ、i)糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)がある、ii)HbA1c≧6.5%、iii)確実な糖尿病網膜症の存在のいずれかの条件が満たされた場合は、1回だけの検査でも糖尿病と診断できます。

 糖尿病と診断されれば、次はタイプを決める必要があります。この際に行われる検査が抗GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体や抗IA-2(ICA512)抗体などです。これらは、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞を傷害しうる自己抗体というものであり、これが陽性の場合、インスリン分泌が高度に低下し、インスリンの使用が必須となるタイプ(1型糖尿病)と判断する材料となります。また、尿中や血中のC-ペプチドというものを測定することにより、実際の体内でのインスリンの分泌状態を知ることができます。

 糖尿病治療における経過観察の検査としては、血糖とHbA1cが重要です。また、適宜、糖尿病合併症の評価のための検査も行われます。網膜症については、眼底検査が重要ですが、通常、眼科にて行います。腎症については、通常の尿検査(尿蛋白、尿沈渣)、血清クレアチニンなどに加えて、尿中微量アルブミンの有用性が認められています。神経症については、診察に加えて、神経伝導速度や各種の自律神経機能検査などが行われます。

矢冨 裕(東京大学大学院医学系研究科臨床病態検査医学教授)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(14)糖尿病の治療(総論)

2008年10月28日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病は、病気が進行してさまざまな合併症(高血糖による「多尿・口渇・多飲」、眼底出血による「視力低下」、糖尿病性神経症による「手足のしびれ」など)を来さない限り、自覚症状はほとんどなく、日常生活への支障をあまり感じません。それでは、なぜ、症状がないのに「治療」をしなければならないのでしょうか。

 糖尿病治療の目標は、「今現在、困っている症状を治すこと(例えば、風邪を引いたときに熱を下げる、など)」ではなく、「『健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持』し、かつ『健康な人と変わらない寿命を確保』すること」なのです。

 また、糖尿病は「治る」病気ではなく、「糖尿病による合併症を起こさないようにコントロールしながら一生つき合っていく」病気です。「治療」により血糖値を正常化しても、糖尿病が完全に消えてしまうわけではありませんが、血糖値や他の危険因子を適正値に保つことによって、重篤な合併症の発症を予防でき、「糖尿病でない人」と同様に充実した一生を送ることができるのです。

 それでは、「治療の目標」としては、どの程度の血糖コントロールを目指せばよいのでしょうか。細小血管症(糖尿病三大合併症である、網膜症・腎症・神経障害)の発症予防や進展の抑制のためには、HbA1c(過去1、2か月間の血糖コントロール状態の指標となる数値)を6.5%未満に保つことが重要なことが分かっています。ただし、個々の患者さんの年齢や合併症に応じて、「7%未満」や「5.8%未満」のように、目標を個別に設定する必要があります(表1、2)。

 治療法には、次のものがあります。

(1)食事療法、(2)運動療法、(3)薬物療法(内服薬、インスリン自己注射)

 基本は食事療法と運動療法です。これらを2-3か月続けてもなお、目標の血糖コントロールを達成できない場合には、薬物療法が開始されます。

 食事療法の基本は、適切なエネルギー制限と、糖質・脂質・蛋白などを適切な配分で摂ること、食事の時間を規則的にすることです。糖尿病の患者さんによく見られる問題としては、外食や甘い物の間食、アルコールの大量摂取などにより、エネルギーが過剰となってしまうことがあります。

 運動療法は、インスリンの効きを良くすることで血糖を改善する効果があります。また、食事だけではなかなか減りにくい内臓脂肪を減らす効果があります。効果的な運動療法は、有酸素運動を中心に、1回20分以上、週に3回以上行うことですが、合併症の状態によっては運動療法が禁止または制限される患者さんもいますので、主治医に確認してから始めるようにしてください。

 上述のように、食事や運動療法を行っても十分なコントロールが得られない場合、薬物療法が開始されます。通常、まずは内服薬から始めます。内服薬には、作用機序の違いにより数種類があり、個々の患者さんに合った薬が選択されます。内服薬だけでは十分なコントロールが得られない場合や、インスリンの分泌が高度に低下している場合などは、インスリン注射による治療が必要になります。

藤城 緑(東京大学附属病院糖尿病・代謝内科助教)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(15)食事療法の基本

2008年11月11日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 食事療法は運動療法とならぶ糖尿病治療の基本です。太っている糖尿病の患者さんはもちろん、太っていなくても、また、どのような治療をしている人にとっても、食事療法が必要です。食事療法のポイントは、(1)適正な摂取エネルギー(食べ過ぎない)、(2)栄養のバランス(偏食しない)、(3)規則正しい食事の3つです。これらは、血糖コントロールを改善し、合併症を防ぐために役立つとともに、健康で長生きするための食生活の基本でもあります。つまり、糖尿病の食事療法は患者さんのための特殊な食事ではなく、家族全員にとっても生活習慣病の予防につながる「健康食」なのです。

(1)適正な摂取エネルギー

 1日に必要なエネルギー量は、年齢、身長、肥満度、身体活動量(日常生活でどれくらい体を動かすか)などによって決まります。それ以上食べ過ぎないことが、血糖コントロールのためにも、肥満の是正と予防のためにも大切です。通常、男性で1,400〜1,800 kcal、女性で1,200〜1,600 kcalです。一般的には図1のようにして求めますが、1人1人の状況によっても異なりますので、一度主治医に確認するとよいでしょう。よく食べる食品やメニューのおよそのエネルギー量を知っておくと、調節しやすくなります。

(2)栄養のバランス

 食事療法にあたっては、エネルギー量だけでなく、炭水化物・たんばく質・脂質の三大栄養素をバランスよくとり(図2)、併せて適量のビタミン、ミネラル、食物線維も摂取できるようにします。そのためには、第16回で取り上げる「食品交換表」が役に立ちます。

(3)規則正しい食事

 食後の血糖値の上昇をできるだけ少なくするために、1日の摂取エネルギー量を朝・昼・夕でほぼ均等に分け、食事と食事の間隔を十分にとりながら、毎日同じ時間帯に食事をするのがコツです。食事時間が不規則だったり、朝・昼は軽くすませて夕食時にまとめて食べる「まとめ食い」だと食べすぎの原因になる上、血糖値の変動も大きく、不安定になりやすいのです。

 糖尿病の患者さんでは、外食や間食によるエネルギーのとりすぎ、アルコールの飲みすぎなども問題となります。高血圧を合併している場合、塩分制限も必要です。

 食事療法はうまく実践できればとても効果的な治療になりますが、頭では十分理解していてもなかなか実行できないことが少なくありません。食事療法は「食事制限」や「ガマン」のイメージも強く、多くの患者さんにとってストレスの原因にもなっています。毎日の食事の自己管理では、自分に合ったやり方で、できることから少しずつ始めていきましょう。うまくいかないときほど、主治医や管理栄養士に相談してください。多くの病院で、管理栄養士による栄養相談を受けることができます。ご家族やふだん食事を作る人といっしょに栄養相談を受け、協力してもらうことも、無理なく続けるポイントです。

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 特任講師 大橋 健

 ◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

(16)「食品交換表」の使い方

2008年11月25日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 血糖のコントロールを維持し、合併症を予防するには、規則正しい食事をすることが必要です。良い食習慣が身につけば健康維持のためにもなり、いわば糖尿病食は健康長寿食でもあるのです。

 食事療法の基本は、(1)1日の摂取エネルギー量が適正であること(2)必要な栄養素を過不足なく摂ることです。これらのポイントを守りやすくするために、具体的な食事法として考案された「糖尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿病学会編、以下「食品交換表」)があります。

「食品交換表」の特徴は、食品を6つのグループに分類することと、80kcalを1単位とする考え方です。6つの食品グループでは、私たちが日常食べているさまざまな食品に対し、栄養成分の似通った食品を同一のグループとして扱います。この各食品グループには、「表1」から順に「表6」までの名前が付いています。すなわち、穀類・いも類・豆類などは「表1」、果物類は「表2」、魚介・肉・大豆製品などは「表3」、牛乳・乳製品は「表4」、油脂・油の多い食品が「表5」、そして「表6」は野菜類という分類になります。

 一方で、80kcalを1単位とすることが定まっています。私たちの日常に馴染みのある食品の分量が、80kcalかその倍数になっていることが多く、例えばMサイズの卵1個、白身魚1切れ、中程度の大きさのバナナ1本がそれぞれ1単位になります。「食品交換表」には「表1」〜「表6」までの具体的な食品名と、その食品の1単位分の重さや目安量が示されています。

 次に「食品交換表」の具体的な使い方について述べます。まず、主治医から1日に食べる食事の適正なエネルギー量および朝昼夕の配分や、何をどのように食べるかの指示を受けます。この指示されたエネルギー量を80で除すと食事指示単位が算出され、さらにその単位数を表ごとに割り振ります。「表1」は全体の5〜6割程度、「表3」を2割程度とし、それ以外の「表2」は1単位、「表4」は1.5単位、「表5」は1〜2単位に、「表6」は1単位、調味料として0.5単位とします。続いて、配分した各表の単位数をおおむね3等分して朝昼夕に分けます。さらに、単位数は具体的な食品に置き換えます。「食品交換表」に記載されている各表の中から食品を選択し、配分した単位数を乗じます。同一の表中から選ぶことがルールです。交換とは、同じ表からの範囲ならどの食品も自由に交換できる、との意味であることを理解しましょう。これで、食事療法のバリエーションも大いに広がります。図1に20単位食の単位配分例を示しますので、皆さんも是非一度試算してみてください。

「食品交換表」は難しそうに思えますが、慣れれば便利に使いこなせます。おおよそのエネルギー計算が瞬時にできるようにもなります。まずは「食品交換表」を手に取り、どの食品がどの表に属するのか、各食品の1単位の目安量はどのくらいかと、眺めてみることから始めましょう。巻末には実物大の写真も掲載されているので目安量の理解にも役立ちます。一通り読まれた方は、図2のクイズにもチャレンジしてみてください。

東京大学医学部附属病院 栄養管理室長 大谷幸子

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

糖尿病講座:(17)「体重コントロールのための食事療法」

2008年12月09日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 体重は、食事療法の順守度をみる上でも簡易で有用な指標です。つまり日常の生活活動量に見合った食事量であれば体重の変動はなく、必要量より多く摂取し続ければ体重増加となり、少ない摂取量が続けば体重が減少してしまいます。

 減量が必要な場合には、どのくらいをどの期間で減らすかについて医師の指示を受けますが、一般的に無理なくやせるためのペースは1か月で1〜2kg程度とされています。このペースを目指すなら、食事量にして1日に230〜470kcalを減らす必要があります。逆に、そのくらいを多く摂取し続けると、1年もたてば10kgは簡単に太ってしまうという計算になるのです。

 現在、適正体重の人はその体重を維持することが重要な課題です。何事も維持管理しようとすればそれなりの手間ひまをかけなければならず、体重管理にも努力が必要です。日常の食生活を工夫し、それが呼吸するのと同じくらい生理的で自然に身につくようになれば万全となります。

 体重管理のための基本的な食事として、図1のような「1汁3菜」をおすすめします。これは会席料理として日本に伝わる食事形式の1つで、主食と汁物に主菜および副菜の組み合わせパターンです。毎食このように組み合わせて食べることは、食事を大切にするスローフードの心に通じ、食べ過ぎ防止になります。また、複数の料理をそろえることで栄養素を過不足なく摂取できます。ただ、汁物は塩分過多にもつながるので毎食そろえる必要はありません。また、皿数にこだわらず、1皿上に「1汁3菜」ができていれば良しとします。組み合わせ食でも、うどんとおにぎりセットとかラーメンライスや、砂糖入りのコーヒーにケーキなどは否です。それらは、忙しい時に手っ取り早く空腹を満たせますが、「糖質+糖質」で体重のコントロールを乱すばかりか高血糖を招く原因ともなります。

 さらに、表1のように体重などを毎日測定し、自分で食事療法の遵守度をチェックしましょう。あなたの食事量が適正かどうか、体重計の目盛りが示してくれるでしょう。食べ方としては、(1)夕食は食べ過ぎない(2)野菜・海藻・きのこなどを多く食べる(3)適量範囲(許可のある場合)の菓子やアルコールは時間を決める(4)油料理は1日2品までにする(5)朝食を欠かさず、まとめ食いはしない(6)よく噛まずに食べられるものは避ける(7)食べてすぐ横にならない−−などを心がけましょう。

 体重コントロールが不良な人に、よく見受けられる日常的な生活パターンや癖と、その改善策の例を表2に示します。“人は自分を映す鏡”です。なかなか続けられない人や何度も挫折した人は、自分ができることから始めましょう。最初からエベレストの頂上をアタックするような無謀さでは誰だって成功が困難です。1つでも継続できて、それが体に心地よく快適であることを実感することが大切です。その時の食生活こそが、あなたにとっての最適な食事療法となります。

大谷 幸子(東京大学医学部附属病院栄養管理室長)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

糖尿病講座:(18)外食の工夫

2008年12月13日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 外食は、食事療法の基本である食事の分量や栄養バランスよく食べることをつい忘れ、視覚や雰囲気に任せ嗜好優先にメニューを選びがちです。ふだんから自分に合った食事の分量を把握し、適切なメニュー選びができるよう外食の特性を理解しておくことが重要です。

 外食の特性は、(1)1人前の量が多い(店により分量が違う)(2)脂肪の割合が多い(3)塩分が多い(4)野菜が少ないです。

 血糖コントロールのための賢い外食の具体策について述べます。

 ◇対策1 1食あたりの適正なエネルギー量

 あらかじめご自分の1食あたりの適正なエネルギー量(指示エネルギーの3分の1)を確認しておきます。エネルギー表示を参考に、食べてよい分量を見積もります。オーバーしている場合は、バランスよく残します。

 ◇対策2 脂肪の多いメニュー

 分量を少なくしても脂肪の多いメニューは、エネルギー管理が難しく、栄養バランスも乱しがちです。外食の場合、揚げ物以外にも炒め物や麺類、カレー・シチューのような料理にも脂肪が多いので、選ぶ頻度は、控えます。

 ◇対策3 減塩

 外食では、濃い味付けのものが多く、1人前あたり塩分3〜7gはあります。卓上調味料(しょうゆ、ソースなど)は使用せず、漬物や汁物、麺汁などは残すように心がけましょう。

 ◇対策4 もう1品の野菜料理

 野菜は、ビタミン、ミネラルが多く、食物繊維の補給源でもあります。1食あたり片手いっぱい(100g)はとりたいものです。

 外食では、野菜料理のあるセットメニューを選ぶようにし、丼ものや麺類には、サラダや和え物、煮物などを追加しましょう。

 応急処置として野菜ジュースを補う場合は、果汁の含まれるものは避け、家庭の食事で不足分を補うようにしましょう。

 ◇その他の外食

 スーパーやコンビニエンスストアの惣菜コーナーを利用する場合は、おにぎりやサンドイッチなど単品で食事を済ませるのではなく、牛乳やヨーグルトなど乳製品や、おひたしや煮物などの野菜料理を組み合わせるようにすると栄養のバランスが充実します。

 宴会やパーティー、そして、宿泊施設で増えつつあるバイキング形式の食事の場などでは、低エネルギーの野菜料理から食べ始め、肉・魚料理は少量ずつ楽しみ、揚げ物は避けるようにしましょう。また、おかわりは分量があいまいとなるため、あらかじめ食べるべき分量を皿に取り分けてから食べるのがよいでしょう。

 外食は、友人や家族とのコミュニケーションの場であり、不安を抱えながら食事をしていては楽しめません。まず、管理栄養士による栄養相談を受け、食事療法を十分に理解することが重要です。うまくいかない場合は、繰り返し医師や栄養士へ相談することをおすすめします。

関根理恵(東京大学医学部附属病院 栄養管理副室長)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

糖尿病講座:(19)運動療法とは

2009年01月13日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病の発症は食べ過ぎだけが原因でしょうか? 意外に思われるかもしれませんが、実は日本人のエネルギー摂取量は戦後間もない1950年代から現在まで約2,000kcalで大きな変化はありません。しかし、摂取エネルギーに占める脂肪の割合は、1950年に7.7%だったのが現在では約26%と大幅に増加しております。また自動車保有台数も年々増加しています。実は糖尿病患者数の増加とこの脂肪摂取量の増加・自動車保有台数の増加の様子は非常によく一致します。つまり食事の欧米化や自動車の普及による運動不足が糖尿病発症の大きな原因であると推測されるのです。したがって糖尿病や肥満の予防および治療には食事療法だけではなく、運動不足を解消することは非常に重要な意味があると考えられます。自動車が普及した現在では多くの人は1日に5,000歩程度しか歩行しておりません。図1右に示したように、1日の歩数と肥満のリスクには大きな相関があります。運動不足に陥りがちな生活習慣を改め、ぜひ歩数計をつけて自分の運動量をチェックしてみてください。

 運動療法で得られる効果には短期間のうちにその効果が表れる急性のものと、運動療法を継続することで効果の表れる慢性のものがあります。

 ◇ 急性効果

 急性効果で最も大きなものは血糖値の改善です。運動時には筋肉がエネルギーを必要とするため、そのエネルギー源であるブドウ糖の血液中から筋肉中への取り込みが促進されます。結果として血液中のブドウ糖量、すなわち血糖値が低下します。食後に運動を行えば、食後の急激な血糖上昇を抑えることができ、糖尿病のコントロールをよくすることが期待できます。運動によって爽快感を得られたりストレスを解消したりすることで生活の質を向上させることができるのも急性効果の一例です。

◇ 慢性効果

 慢性効果として大切なのは、継続的な運動によりエネルギー消費が多くなることで減量を実現できることです。しかも運動しながらの減量ですから、単に食事制限しただけの時と異なり、筋肉量を維持しながら脂肪だけを選択的に減少させることができます。余分な脂肪が減少すればインスリンの効きも良くなり、血糖値の改善につながります。また体力や心肺機能の向上、骨粗鬆症の予防、脂質異常症の改善なども期待できます。

窪田直人(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 システム疾患生命科学による先端医療技術開発特任准教授)


糖尿病講座:(20)運動療法の進め方

2009年01月27日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病では血液中の糖が慢性的に高い状態ですので、運動によって糖などのエネルギーを消費することは、継続的な血糖値のコントロールに非常に有効です。また、いわゆるメタボリックシンドロームで認められる肥満や高血圧、脂質代謝異常の改善にもつながるため、こうした病気を合併している患者さんにも効果が期待できます。運動療法は、大きく有酸素運動とレジスタンス運動の2種類に分類されます。有酸素運動は酸素の供給に見合った強度の運動を持続して行うことにより、糖や脂肪をエネルギーとして消費します。レジスタンス運動は主に抵抗負荷に対して動作を行う運動で、強い負荷強度で行えば無酸素運動に分類されますが、筋肉量の増加による基礎代謝量の増加や加齢に伴う筋委縮予防が期待できます。

 しかし運動療法を始めるにあたっては、合併症がある場合、むしろその状態を悪化させてしまう可能性があるので、事前に主治医の先生と相談をして安全で最適な運動療法を処方してもらうようにしましょう。糖尿病ではしばしば自分では気がつかないうちに合併症が進行している場合があります。自己判断で運動を始めてしまわないようにしてください。また日々の運動は体調を考慮して行い、無理はしないようにしましょう。

 運動療法のタイミングとしては、血糖値の上昇が認められる食後1時間前後に行うのがよいとされています。食事前や起床後まもなくの運動は、特に糖尿病の薬を内服している方やインスリン注射を行っている方では、低血糖を起こす可能性があるため控えたほうがよいでしょう。また運動中は脱水にならないようにこまめに水分を補給するようにし、低血糖が起きた時に備えて必ず砂糖やブドウ糖などを持参するようにしてください。運動によるけがの予防のため運動の前後には体操やストレッチなどの準備運動と整理体操をするとともに、靴は靴ずれをおこさない足に合ったクッション性にすぐれた運動靴を選び、体を動かしやすい服装で運動をするように心がけてください。

 運動には特別な場所や器具は必要ありません。ウオーキングやジョギング、水泳などの取り組みやすいものから始めるとよいでしょう。それでもなかなか運動のためにまとまった時間が取れない場合には、自動車を使わずに歩く、できるだけエレベーターやエスカレーターを使わずに階段を昇降するなど、普段の生活の中に運動を少しずつ取り入れてみてください。運動療法を続けるコツは、楽しみながら続けられる、自分にとって最適な運動をみつけてそれを実践していくことです。単に糖尿病治療の1つとして行うのではなく、レクリエーションとして楽しみ、潤いのある日常生活に変える手段として運動を行っていくようにしてください。

窪田直人(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 システム疾患生命科学による先端医療技術開発特任准教授)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

糖尿病講座:(21)経口血糖降下薬治療

2009年02月10日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法です。それでも良好な血糖コントロールが得られない場合には薬物療法をおこないます。薬物療法を受けていても、食事・運動療法は大切です。

 1型糖尿病では、インスリンの分泌がほぼ完全になくなってしまった状態であるため、インスリン療法が必要となります。2型糖尿病では、まず経口血糖降下薬を用いることが多いのですが、十分なコントロールが得られない場合などはインスリン療法が必要となります。

 ◇ 経口血糖降下薬の分類

 経口血糖降下薬は、次の4つに分類できます。

(1)膵臓を刺激してインスリンの分泌を促し、血糖値を下げる薬であるスルホニルウレア薬や速効型インスリン分泌促進薬

(2)脂肪細胞から出るアディポカインの異常を正常化し、筋肉での糖の取り込みを促進させ、肝臓からの糖の放出を抑えることでインスリンの働きを改善するチアゾリジン薬

(3)肝臓からの糖の放出を抑えるビグアナイド薬

(4)食物中の糖の消化・吸収を遅らせ、食後の急激な高血糖を抑えるα-グルコシダーゼ薬

 これらの薬を患者さんの状態にあわせて1種類、あるいは作用の異なる複数の薬を組み合わせて治療に用います。

 ◇ インスリンの分泌を増やす薬

 膵臓からのインスリン分泌を増やす薬には、スルホニルウレア(SU)薬と速効型インスリン分泌促進薬の2種類があります。

・スルホニルウレア(SU)薬
 スルホニルウレア薬は、膵臓のβ細胞にあるスルホニルウレア(SU)受容体に結合してインスリン分泌を促進することで血糖を下げます。主に空腹時高血糖のために使い、1日1〜2回の服用でほぼ1日中効果が持続します。

・速効型インスリン分泌促進薬
 速効型インスリン分泌促進薬の作用も、スルホニルウレア受容体に結合してインスリン分泌を促進する点ではスルホニルウレア薬と同じですが、薬の吸収と消失が速いため、服用してすぐに効き、すぐに効き目がなくなります。その特性を利用して食後高血糖是正のために使われていますので、必ず毎回の食事を始める直前(5〜10分以内)に服用してください。薬の服用から食事までに時間を空けてしまうと、低血糖を引き起こしてしまうことがあります。

 ◇ インスリンの働きを改善する薬

 糖尿病で高血糖になる原因は、膵臓のインスリン分泌量が足りないことのほかにも、インスリンの効きが悪くなること(インスリン抵抗性)があります。2型糖尿病の多くの患者さんには程度の差こそあれ肥満があることが多く、肥満はインスリン抵抗性の大きな原因となっています。

・チアゾリジン薬
 脂肪組織に作用して、脂肪細胞から出るアディポカインの異常を正常化し、インスリン抵抗性を改善します。その結果、肝臓からの糖の放出を抑制し、筋肉への糖の取り込みを促進することで血糖値を下げます。特に、肥満を伴った糖尿病患者さんに有効で、動脈硬化の進行予防に有効であることも証明されています。

・ビグアナイド薬
 ビグアナイド薬は、肝臓からの糖の放出を抑えることで血糖値を下げます。体重増加をきたしにくい薬剤であることも特徴です。

 ◇ 糖の吸収を遅くする薬

 食品中のでんぷんなどの多糖類は、唾液・膵液に含まれるアミラーゼにより二糖類(ショ糖など)まで分解され、小腸にあるさまざまな加水分解酵素(α-グルコシダーゼ)によってさらに単糖類(ブドウ糖など)まで分解された後に吸収されます。

・α-グルコシダーゼ阻害薬
 上記の分解酵素の働きを妨げることにより、小腸からの糖の吸収を遅くして、食後の血糖値の上昇を緩やかにする薬です。食事中の糖分の分解を妨げることで効く薬なので、毎回の食事を始める直前に薬を服用する必要があります。

・α-グルコシダーゼ阻害薬服用上の注意
 本薬を服用中に低血糖症状が出てしまった時には、ふつうのスティックシュガーなどに含まれるショ糖(砂糖)では吸収に時間がかかり効きが遅いので、ブドウ糖を常に持ち歩くようにしましょう。手元にブドウ糖がない場合には、市販のブドウ糖を含む飲料を摂取しましょう。

◇ 副作用について

 糖尿病の薬に限らず、薬には目的とする良い作用と、好ましくない作用(副作用)があります。したがって、それぞれの薬にはどのような副作用があるのかを知っておくことが大切です。

山内敏正(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 統合的分子代謝疾患科学講座 特任准教授)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

 1978年東京大学医学部卒業。86年から90年まで米国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年現職。05年より東京大学医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知られる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

糖尿病講座:(22)インスリン注射は怖くない

2009年02月24日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

「インスリン注射は痛いし面倒だ」「インスリンを始めると、もう手遅れの状態だ」と思っていらっしゃる方がいるかもしれません。現在では注射器や注射針の改良も進み、手軽にほとんど痛みなくインスリン注射ができます。血糖値が高いことを長く放置するよりは、食事・運動療法や経口薬による治療とあわせてインスリンを積極的に使って血糖値を下げることが、糖尿病の合併症の予防につながると考えられており、早めにインスリンを開始することは糖尿病の治療として普及しつつあります。また糖尿病がうまく治療されていない時には、「糖毒性」と言って飲み薬の効き目が悪いことがあり、一時的にインスリンを使って血糖を下げると、その後は飲み薬でも糖尿病の治療がうまくいくことがあります。このようにインスリンは糖尿病の治療で日常的に使われています。

 ◇ どのようなインスリンを使うのか

 人間のインスリン分泌には、24時間ほぼ一定量を出し続ける基礎分泌と、食事などを摂ったときに出てくる追加分泌の2種類があります(図1)。糖尿病の型や原因によって血糖の上昇するタイミングは違うので、さまざまな種類のインスリンを組み合わせて、基礎分泌や追加分泌、もしくはその両方を補うことがインスリン治療の原則です。

 この目標のために、さまざまなインスリンが作られています(図2)。追加分泌を補充する目的では、注射後すぐに効き始める「超速効型」や、30分ほどで効果を現す「速効型」が使われます。追加分泌を補うためには半日から24時間効果が持続する「中間型」「持効型」といったインスリンが使われます。「超速効型」あるいは「速効型」と中間型をあわせた「混合型」製剤もあります。図2にあるように今ではインスリンの多くがペン形の注射器で使われ、簡単にうつことができます。

 インスリンを使う際に、1つの理想は基礎分泌の補充に1日1回、そして3度の食事のたびに追加分泌を補う目的で注射をすることがあります。表にあげるようなインスリン注射が絶対に必要な場合には、そのような「4回打ち」が行われることが多いのですが、インスリンの使い方はそれに限りません。追加分泌を補うために1日3回の注射だったり、「混合型」製剤を使って1日2回の注射をしたり、飲み薬と組み合わせて追加分泌を補うインスリンを1日1回だけ注射することもあります。糖尿病の原因に合わせて、またライフスタイルに合わせて注射の仕方を工夫して、血糖を下げることが目的です。インスリンを使うことは必ずしもライフスタイルを窮屈にするものではないのです。食事や運動、それに他の薬剤とうまく組み合わせてインスリンを使い、血糖をきちんと下げ、糖尿病の合併症を予防したり進行を食い止めるのが大切なのです。

大杉 満(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科助教)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

 1978年東京大学医学部卒業。86年から90年まで米国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年現職。05年より東京大学医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知られる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

糖尿病講座:(23)シックデイ

2009年03月10日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

「シックデイ」は、直訳すると「体調の悪い日」。糖尿病の患者さんが何らかの他の病気、例えば風邪やインフルエンザ、胃腸炎などにかかって体調をくずした状態をシックデイといいます。ふつうならすぐに治るような病気でも油断は禁物。シックデイでは、血糖値が大きく乱れやすく、思わぬ病状の悪化を招くことがあるからです。

 感染症や発熱、痛みなどがあると、各種のストレスホルモンや炎症性物質がからだの中で増え、インスリンの働きを妨げます。そのため、シックデイでは、食べていなくても血糖値がいつもより高くなることが少なくありません。安易に薬やインスリン注射をやめてしまうと著しい高血糖になり、1型糖尿病ではケトアシドーシス、2型糖尿病では高血糖高浸透圧昏睡という、いずれも危険な状態の引き金となります。一方で、吐き気や食欲低下で食事がとれないときに、いつもと同じ量の薬やインスリンでは低血糖を起こしてしまうこともあります。このようにシックデイでは特別な対応が必要です。

 では、シックデイのときにはどんな点に気をつけたらよいのでしょうか。基本的な対応についてまとめておきます(表1)。

(1)温かくして安静に

 どんな病気のときも安静と保温が基本です。体力の消耗を防ぎ、回復を促進します。

(2)できるだけ食事をとる

 食欲が落ちていても、めん類やおかゆなど消化吸収のよいものを中心に、できるだけ指示エネルギーの食事を確保するようにしてください。

(3)水分・電解質の補給は十分に

 食事量の低下に加えて、発熱や下痢、嘔吐があると脱水になります。食べられないときも水分の補給だけは十分にしましょう。塩分のあるみそ汁やスープは電解質の補給にもなり、効果的です。

(4)こまめに血糖測定を

 特にインスリン治療中の方は、いつもより血糖測定の回数を増やして血糖値の変化を把握するのがポイントです。また、体温や食事・水分の摂取量もチェックしておきます。

(5)インスリンや薬の調節

 インスリン治療中の方が最も注意しなければいけないのは、自己判断でインスリン注射を中止しないこと。特に1型糖尿病の方は、食事が全くとれない場合にもインスリンを中止してはいけません。血糖値と実際に食べた量に合わせてインスリンの量を調節し、食事の後に注射する方法があります。薬の場合も、食事量に合わせて調節が必要なことがあります。シックデイのときの対応については、あらかじめ主治医とよく相談し、確認しておきましょう。

(6)早めの相談・受診を

 もし、判断に迷うときは、早めに主治医に連絡して相談します。特に、(1)38度以上の高熱が続く、(2)全く食事がとれない、(3)下痢や嘔吐が続く、(4)250 mg/dL以上の高血糖が持続する、(5)尿ケトン体が強陽性、(6)高齢(65歳以上)などの場合は、速やかに受診しましょう。いざというときすぐに相談できるように、表2のような項目についてあらかじめまとめておくと安心です。他の病気で具合が悪いときには血糖が乱れやすいということを、ご家族の方もよく覚えておいてください。

大橋 健(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 特任講師)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

 1978年東京大学医学部卒業。86年から90年まで米国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年現職。05年より東京大学医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知られる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

糖尿病講座:(24)糖尿病の自己管理

2009年03月24日 毎日新聞 Mainichi INTERACTICVE

 糖尿病は、今のところ残念ながら治る病気ではありません。糖尿病になれば、一生をともに歩むことになります。しかし、うまくコントロールさえできれば、合併症もなく過ごすことは可能です。では、どうしたらうまくコントロールができるのでしょうか? コントロールをするのは一体誰でしょうか? 皆さんはどうお考えになりますか?

 糖尿病は自転車に例えられることがあります。その自転車(糖尿病)に乗っているのは患者さん。わたしたち医療者はその乗り方を伝授するサポート役です。わたしたちが代わって乗ることはできないため、自転車(糖尿病)をコントロールできるのは患者さんご自身のみということです。そして、また、わたしたち医療者は、四六時中、糖尿病自転車に乗っている状態を見ていられるわけではありません。外来や入院などの時以外は、患者さん自らこぐしかないのです。そのため、できれば家族、友人などのサポートも受けられるといい、とわたしたちは考えています。

 さて、この自転車(糖尿病)には食事療法と運動療法の2つのタイヤがついています。タイヤがなければ自転車はこげません。この2つのタイヤが糖尿病自転車を乗りこなすために必要不可欠なタイヤだということを覚えておいてください。ただ、状態によってはこの2つのタイヤだけでは間に合わないこともあります。この時に登場するのがインスリンや内服薬などの薬物療法の補助輪です。

 皆さん、ここで考えてみてください。薬の補助輪があれば食事タイヤや運動タイヤは回っていなくても自転車は動いていくでしょうか? 時々、薬を飲んでいるから、インスリンを打っているから少々食べ過ぎても、運動しなくても大丈夫、と根拠がない勝手な解釈をして自分の体を知らず知らずのうちにいじめている方がいらっしゃいます。どんなに立派な補助輪をつけたとしても、自転車の両輪がともに起動していなければ自転車を乗りこなすことはできません。むしろ、転んで合併症という怪我をしてしまう恐れがあります。

 わたしたちは糖尿病自転車が転ばずうまく進むように、食事療法や運動療法、そして薬物療法のタイヤを回してもらえたらと思い、日々その乗り方について細やかな説明ができるようにしています。うまくこいでいけるようになるために、いつでもお手伝いをしたいと考えています。遠慮なく声をかけてください。

 また、糖尿病の患者さんにとってこのコツをお話しできるのは医療者だけではありません。強力なサポーターが実は同じ糖尿病の患者さんです。患者さんは身をもってこの自転車の乗り方、運動タイヤ・食事タイヤの動かし方、メンテナンス方法、休息の取り方、転んでしまった状態、転んでできた怪我との付き合い方などさまざまな経験をされています。生の声を聞くことで落ち込むこともあるかもしれませんが、同感することもあるでしょう。この同感は勇気の源になることもあります。また、多くの糖尿病の先輩は糖尿病を軽く見るな! とアドバイスをしています。自分は軽く見ていたからとの後悔を口にします。後輩へ自分と同じ過ちをしてほしくない! と心から考えてくれているのです。糖尿病になると自分だけが食べられない、運動を強いられると思いがちです。でも皆さんは1人ではありません。家族、仲間、そして医療者がついています。是非、さまざまな強力なサポーターをいっぱい見つけて、うまく糖尿病自転車を乗りこなしましょう!

 最後にご家族やご友人の方々へお願いがあります。皆さんは患者さんのことが心配なあまり、つい、「また食べているの!」「運動しなくていいの?」と患者さんの行動を警察のように取り締まることはないでしょうか? これをやられると人間、天邪鬼(あまのじゃく)ですから、つい、本音と違うことを言ってしまうようです。是非、今後は取り締まりではなく、さまざまな制限の辛さをまずは理解して、支援をしていただくようよろしくお願いいたします。

大橋優美子(東京大学医学部附属病院 看護部 糖尿病看護認定看護師)

◇企画・監修:門脇孝(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)

 1978年東京大学医学部卒業。86年から90年まで米国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門へ留学。01年東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科助教授、03年現職。05年より東京大学医学部附属病院副院長。糖尿病の成因と分子機構に関する研究で、上原賞、日本医師会医学賞、日本糖尿病学会賞、ベルツ賞など受賞多数。糖尿病治療の第一人者としても知られる。日本糖尿病学会常務理事、日本肥満学会理事。第51回日本糖尿病学会会長(08年5月22〜24日 東京国際フォーラム)を務める。

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