TOPIC No.2-74-5 【すごいぞ!ニッポンのキーテク】産経新聞

01. すごいぞ!ニッポンのキーテク by産経新聞 特集


副生水素を利用し低NOx実現 脱硝設備が不要なガスタービン技術 川崎重工

2014.9.15 産経ニュ−ス

 川崎重工業は、工場で副次的に生産される水素ガスを有効利用しながらNOx(窒素酸化物)の排出を抑えられる水素ガス混焼ガスタービン技術を開発した。燃焼温度を低く抑えることでNOx排出量を削減できるドライ・ロー・エミッション(DLE)燃焼器をガスタービンに搭載し、副生水素ガスを60%まで天然ガスに混ぜて燃焼しても、排ガスに含まれるNOx値を天然ガス焚き並みの25ppm(1ppmは100万分の1)以下に抑えられる。DLE燃焼器にパイロットバーナーやメーンバーナーから噴出される燃焼ガスに加えて、追焚きバーナーから空気と燃料を投入することで燃焼の持続が難しい条件下でも燃焼を維持できる「追焚き燃焼方式」という独自方式を採用することで実現した。

 同社はパイロットバーナー、メーンバーナー、追焚きバーナーの多段バーナー構成によるDLE燃焼器を開発・実用化している。

 既存のDLE燃焼器は、低排出の燃焼をさせるため、あらかじめ最適な燃料を空気と混ぜて燃焼させる「予混合希薄燃焼」方式をとるものが多い。しかし火が消えやすいか、あるいは火が燃焼域より上流の予混合部まで戻って燃焼器を溶かしてしまう「逆火」という現象が生じやすいという課題があった。このため予混合部には「1%程度の水素を入れるのがやっとだった」(ガスタービン・機械カンパニーの笠正憲ガスタービン開発部長)。

 そこで、実績のあるDLE燃焼器をベースに、パイロットバーナーとメーンバーナーは天然ガス焚き用、逆火などのリスクの低い追焚きバーナーは水素ガス焚き用に改良。これにより、使用する全燃料の体積当たり60%に相当する水素ガス混焼を実現。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の高温高圧燃焼試験設備で低NOx性能を確認した。

 「発想を変え、予混合部ではなく、独自開発の追焚きバーナーに水素を入れることで、安定して60%の水素混焼が可能になった」と笠部長は説明する。

 開発途中には苦労もあった。「水素を追焚きバーナーに投入するところまでは比較的容易に進んだ」が、水素の特性からNOxの増加を抑えられなかった。ノズルを改造して試験を行ったが、ノズルを溶かしてしまうハプニングも発生。このため、さまざまなバリエーションを検討することになったが「試験に先立って詳細に解析したため、短期間で正解に達することができた」という。

 開発した水素ガス混焼ガスタービンは、石油精製工場や石油化学工場から発生する未利用の副生水素ガスを有効利用できる。このため天然ガス使用量を減らし、CO2を削減できる。また水素ガスを体積当たり0〜60%の間で、任意の割合で利用可能なため、顧客の副生ガスの発生状況に自在に対応できる。

 笠部長は「イニシャルコストは水素を燃料として扱う系統が増えたため高くなるが、天然ガスの燃料費を大幅に減らせる」とメリットを強調。NOx排出値が低いため、脱硝設備が不要、あるいは脱硝率を下げることが期待でき、ランニングコストも低減できる。

 同社は今後、一層の低NOx化に向け技術開発を進める。この技術を導入した3万キロワット級の高効率ガスタービン「L30A」を来年度に発売する計画で、石油精製や化学工場といった余剰の副生水素ガスを持つ顧客をターゲットに営業を展開していく。(那須慎一)


二酸化炭素の海底貯留「CCS」の実用化へ CO2封じ込めの切り札

2014.9.7 産経ニュ−ス

 工場や発電所から出る二酸化炭素(CO2)を地中深くに閉じ込める「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」という技術の実用化に向けて、政府が本腰を入れている。地球温暖化の原因とされるCO2の排出量を削減する狙いで、北海道で初の大規模実証事業を進めているほか、今秋から日本近海で適地調査に乗り出す方針。環境省と共同でCCS事業を進める経済産業省の幹部は「地球温暖化対策の切り札となる革新的技術」と強調、2020年ごろの実用化を目指している。

 CCSは、工場などの排ガスを溶剤に通すなどしてCO2を分離・回収し、地中深くに閉じ込める仕組み。海外ではノルウェーなどで事業化されている。日本では、4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、20年ごろの実用化を目指して研究開発を進めるという方針が打ち出された。

 CCSの実用化に向けて、政府は「実証事業」「適地調査」「技術開発」の3本柱で取り組みを進める考え。

 中でも中核事業と位置づけるのが北海道で行っている大規模実証事業。出光興産の北海道製油所(苫小牧市)の敷地内に専用設備を設け、実際に分離・回収したCO2を地中に貯留する計画を12年度から進めている。電力会社やガス、石油、エンジニアリングなど35社が出資する日本CCS調査(東京都千代田区)に委託し、今年7月には関連設備の建設に着手した。16年度からCO2を地下に送り込む作業を始める予定だ。

 実証事業と並行してCCSの適地調査も進める。日本CCS調査に委託し、今秋にも日本近海の海底下の構造を把握する調査に着手。既存の地質データの分析のほか、船から振動を発して海底下の構造を把握する「弾性波探査」などで、17年度ごろまでに日本近海の10カ所程度で地質構造を把握。その後、3カ所程度に有望地を絞り込み、実際に海底下の地層を詳しく調べる掘削調査を行う計画だ。

 また、CCS技術の高度化に向けた技術開発も同時並行で進める。現在、CCSを実施するには多額の費用が掛かることなどが課題となっており、技術開発を進めることで課題を克服して実用化にめどをつけたい考えだ。

 地球温暖化対策が課題となる中で、温室効果ガスを大幅に削減する手段の1つとしてCCSへの注目が世界的に高まっている。日本国内では約1460億トンのCO2を貯留できる余地があるという試算も存在するという。

 経産省幹部は「高コストといった実用化に向けた課題もあるが、日本の低炭素社会実現のための選択肢の1つとしてCCSを育てたい」との考えを示している。


昼に電力使わずに冷やし続ける “前人未踏”の自販機 日本コカ・コーラ

2014.8.24 産経ニュ−ス

 赤いボディーにシロクマが描かれた日本コカ・コーラグループの自動販売機は、夏場の各種イベント会場にも設置されている。実はこの自販機、朝7時から深夜23時までの最大16時間、冷却のために電力を使わず、夜間だけ冷却する「ピークシフト自販機」だ。東日本大震災直後の平成23年夏、電力不足が深刻になる中、大手飲料メーカーなどでつくる全国清涼飲料工業会は、東京電力管内の自販機約87万台の冷却機能を3交代で止めることを迫られた。これを機に飲料最大手として、日常から昼間の電力削減に先行して乗り出した。

 飲料関係の記者の間で、7月31日に行われた日本コカ・コーラの会見が話題になっている。ティム・ブレッド社長が会見で、ピークシフト自販機の国内設置台数が6万台を突破したことを表明。さらに「過去2年間の投資200億円と同等の投資を継続し、平成32年までにピークシフト自販機を半数以上にする」目標を明確に語った。

 通常、外資系は今後の事業目標について経営トップが口にすることはほとんどなく、日本コカ・コーラも例外ではなかった。にもかかわらず投資額、設置目標を明言したのは、「それだけピークシフト自販機の普及に真摯(しんし)に取り組むことの決意を示した」(同社関係者)といえる。背景には強い危機感がある。

 震災直後の23年4月。当時の東京都の石原慎太郎知事がパチンコと並び、自販機を「典型的な電力の浪費」と指摘。それが業界の輪番稼働につながっただけでなく、自販機不要論が広がる懸念も高まった。自販機がなくなれば、同社の飲料ビジネスは成り立たなくなる。そこで自主的な取り組みとしてピークシフト自販機の開発を急いだ。

 すぐにグループの社長会直轄のプロジェクトがスタート。コードネームは「アポロ」。米航空宇宙局(NASA)の月への有人宇宙飛行計画からとった。プロジェクトリーダーであるプラットフォーム企画グループの中里泰雄グループマネジャーは「昼間に電力を使わず、冷却を維持する前人未到の計画。その上、次々に開発を進めていく。アポロと一緒だ」と命名の由来を説明する。

 基本的な考え方は、気温が上がる昼間も自販機内や飲料の温度を上げないことだ。まず従来の発泡ウレタンの10分の1の厚さで10倍の断熱性能を誇る真空断熱材に切り替えた。外形サイズや収納本数を変えないことが条件だった。「エコのため、性能面で何らかの犠牲が出ることは許されない」(中里氏)からだ。

 さらに冷却方式では、今までの自販機の常識を覆した。これまでの自販機は、収納した飲料のうち販売直前のものだけを冷やす「ゾーン冷却」だ。多くは自販機の下の方で、収納した飲料の3分の1だけを冷やす。

 一方、ピークシフト自販機は全体、そしてすべての飲料を冷やす仕組みにした。昼間は冷却せず、夜間に冷やした温度を維持させるピークシフト機では「蓄冷材の役割を飲料自体にもたせる」(中里氏)という発想だ。

 24年8月には、暑い町で有名な岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市などで実際にテスト機を起き、実用に耐えうることを確認。設置を本格化した25年は目標を12%上回る2万8000台をピークシフト機に切り替えた。26年末までに7万3000台を設置する計画を8万3000台に上方修正しており、32年に向けて計画を加速させている。(平尾孝)


燃費ナンバーワン「ミライース」に立ちはだかる「リッター40キロ」の壁

2014.7.27 産経ニュ−ス

 ダイハツ工業は7月、主力車種「ミライース」を一部改良し、軽自動車で最高となるガソリン1リットル当たり35.2キロの燃費効率を達成した。30.0キロから33.4キロに引き上げた昨年7月に次ぐ2年連続の一部改良で、スズキの「アルトエコ」(昨年10月に35.0キロを達成)と激しい燃費のトップ争いを繰り広げている。エンジンの改良が、今回の燃費効率の向上に大きく寄与した。

 「難しかったのは高圧縮比化。いかにノッキングを取り除きつつ、実現できるかに苦労した」。開発部の西島健二主担当員はこう振り返る。

 今回、エンジンの燃焼室に送り込むガソリンと空気の混合ガスの圧縮比を11.3から12.2に引き上げた。ただ単純に圧縮比を向上させただけでは、温度の上昇によって、燃焼室内でノッキングと呼ばれる意図しない燃焼が起こり、出力低下や機関損傷につながるおそれがある。「圧縮比とバルブ開閉のタイミングを変えたものを何種類も作り、最適化を探った。ようやく12.2の圧縮比を実現できた」と、西島主担当員は試行錯誤を重ねたことを強調した。

 このノッキング抑制に大きく役立ったのが「アトキンソンサイクル」と「デュアルインジェクタ」の採用だ。

 アトキンソンサイクルは、圧縮工程に入っても、空気を吸う吸気バルブを開けたままにすることで温度の上昇を防ぐ仕組み。西島主担当員によると「実際には空気を吹き戻す形になっている」。一方のデュアルインジェクタは、燃料のガソリンを噴射するインジェクタを1気筒当たり2本に増やし、噴射する燃料を霧状に微粒化。燃焼の安定化につなげたという。

 いずれも、他社が先駆けて採用しているうえ、圧縮比でいえば、マツダが14.0、トヨタ自動車が13.5を実現、ダイハツを上回っている。しかし「排気量660ccの軽自動車用エンジンで高圧縮比を実現するには全く異なる技術が必要になる。単純な数値だけの話ではない」と西島主担当員は話す。

 燃費向上には、高級車に使われる「フロアアンダーカバー」の採用も役立った。走行抵抗を低減するためのもので、後部タイヤの前の空気の流れを外部に逃し、タイヤの床下回りの流れを改善した。このほか、アクセルを離してから、ブレーキをかけずに止まるまでの距離を数メートル伸ばすことでも燃費改善につなげた。

 軽自動車は、燃費向上を巡る競争が激しさを増している。営業現場にとって「燃費ナンバーワン」を訴えることが販促につながりやすいというのが一番の理由だ。ただ、低価格を売りにする車種は、価格に技術を転嫁できず、低価格・低燃費で売り出すミライースも今回、価格を据え置いた。

 このため技術を新開発して採用するより、既存技術をいかに活用して、コストを低減しつつ燃費向上を図るかが大きな課題だった。ダイハツは「価格を気にせず軽量化すれば当社もガソリン1リットル当たり40キロは達成できる。しかし各社とも価格との兼ね合いで、勝負している」と現状の競争について分析する。

 一方で、競争激化に伴い開発期間が短縮している。ダイハツも「開発期間を従来の半分から10分の1まで短縮している」(中島雅之チーフエンジニア)。当面は我慢比べが続く見通しだ。(飯田耕司)


「PM2・5」をなんと9割減 三菱日立パワーの排煙処理装置

2014.7.21 産経ニュ−ス

 微小粒子状物質「PM2.5」による大気汚染が深刻化する中国で、三菱重工業グループの三菱日立パワーシステムズが総合排煙処理システムの本格展開に乗り出す。公害の反省から日本は厳しい環境規制に対応した高性能装置の開発が進んでおり、三菱日立パワーは石炭火力発電所向けシステムで国内シェア9割を誇る。中国では、現地企業と合弁で環境装置専業の新会社を設立、石炭火力発電所から排出されるPM2.5などの煤塵(ばいじん)除去に取り組む計画だ。

 三菱日立パワーは火力発電設備に加えて、総合排煙処理システムのすべての機器をワンストップで供給できる世界でも数少ないメーカーだ。これまで三菱重工が力を入れてきたが、今年2月に日立製作所と火力発電事業を統合して設立した三菱日立パワーがそれを引き継いだ。

 同社の総合排煙処理システムは、ボイラーから出た排ガスを、窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置▽煤塵を除去する電気集塵機▽硫黄酸化物(SOx)を除去する排煙脱硫装置−などに通すことで、クリーンにして煙突から排出するものだ。

 特に排煙脱硫装置については、排ガスに特殊な液体を噴射してSOxを除去する湿式石灰石膏(せっこう)法による技術を開発し、1972年に実用化。200基を超える納入実績を誇る。

 石炭や重油を使う発電プラントだけでなく化学プラントなどにも対応するほか、ガス中の煤塵を除去する能力も高いという。さらにその過程で生成される石膏は、石膏ボードやセメントなどに再利用することができ、資源リサイクルという側面でもメリットがある。

 排ガスに対する規制が厳しい国内と違い、海外では規制自体がなかったり、装置も一部だけしか設置しなかったりするケースが少なくない。このため、技術や製品を持っていても、海外展開には限界があった。

 ただ、中国でPM2.5による大気汚染が深刻化し、政府も規制強化に乗り出す中で、「ビジネスチャンスも広がる」(同社)とみて売り込みをかける。中国では、PM2.5発生源の20%前後を石炭火力発電所が占めるとされる一方で、今後も増設が計画されている。

 中国では具体的に、電気集塵機で国内シェアの40%を握る環境装置大手FEIDAと折半出資で新会社を設立する。出資金は約6億8000万円で、董事長は三菱日立パワーから派遣。FEIDAと三菱日立パワーから環境システムの技術供与を受け、PM2.5などの煤塵を除去する技術・製品の設計、販売を手がける。秋に営業を開始し、3年後には売上高を200億円まで引き上げる計画だ。

 三菱日立パワーは「自社の販売ルートと、電気集塵機を得意とするFEIDAのネットワークを使って、ビジネスを展開していく」と意気込む。

 新会社が提供する高性能の煤塵除去システムを一般的な石炭火力発電所に導入した場合、PM2.5などの煤塵の排出を10分の1にまで減らすことができるという。

 三菱日立パワーは「火力発電事業と環境事業の分野で世界ナンバーワンプレーヤーになる」(西澤隆人社長)という目標を掲げる。ガスタービンなどの火力発電システムだけでなく、総合排煙処理システムなどの環境関連設備もどれだけ海外で受注を増やしていけるかが成長のカギを握っている。(田村龍彦)


「エネルギーゼロ」の次世代ビル 大成建設が2020年までに都市部で展開

2014.6.29 産経新聞ニュ−ス

 大成建設は、1つの建物で年間の消費エネルギーと創出エネルギーの収支がゼロになるゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の実証棟を、同社技術センター(神奈川県横浜市)に建設した。政府が新築公共建築物で実現を目指す2020年までに、オフィスビルが集中する都市部で展開したい考えだ。

 実証棟は鉄筋コンクリート3階建てで、延べ床面積が約1300平方メートルの免震構造になっている。ZEBを実現するため空調設備や照明、コンセントの省エネを図り、年間エネルギー消費量を一般的なオフィスビルと比べて75%削減。残る25%は太陽光パネルによる創出で補い、収支ゼロを目指す。

 国内の電力使用量の48%が都市部に集中していることから、大成建設では都市部のビルのZEB化に取り組む。都市部では1つの建物もしくは狭いエリアで収支を合わせなければならない。実証棟では、新しいシステムの開発や従来技術の効率的な組み合わせで徹底的な省エネを図る。

 空調では、風や外の気温、建物内の人の位置といった各種データから、どの窓を開閉すると快適かを教えるシステムを導入。座席の足元に吹き出し口を設け、好みの風量や風向きを選べるようにした。また高密度市街地で建築面を最大限確保するための工夫や、超高強度コンクリートを採用し、見通しよく解放感のある空間を作りあげた。  省エネでは、一般的なオフィスビルの消費エネルギーの約2割を占める照明で一層の削減が求められている。そこで開発したのが、無線技術を使って照明器具を調光制御できる無線制御システム「T・グリーン・ワイヤレス」。オフィスでレイアウト変更があっても機器配置や配線の変更工事を必要としない。

 同システムは照明電源のオン・オフ制御と調光設定の2つの機能を備えた小型無線制御ユニット(子機)と総合管理を行う無線制御機(親機)で構成。照明メーカーを問わず、さまざまな照明器具への制御が可能で、働く人の快適性や生産性の向上のため、将来のリニューアルやレイアウト変更も見据えた。

 照明器具の無駄な待機電力をカットできるほか、明るさを一定に保つ簡易初期照度補正や任意の明るさへの設定変更が可能な機能も搭載。消費電力をグラフ表示で「見える化」して節電効果を確認できる。

 また実証棟で必要になるエネルギーは、屋上に設置した効率性の高い太陽光パネルと、壁面に貼った有機薄膜太陽電池で創り出す。三菱化学と共同開発した軽い電池を使って、デザイン性に富んだ壁面で太陽光からエネルギーを創出する。ただ実証棟で必要なエネルギー(66キロワット)のうち、外壁の薄膜電池で作れるのは10キロワット程度。ビルが高層化するにつれて、必要となるエネルギーも増えるが、屋上の広さが限られることから薄膜電池の効率をより向上させる必要がある。

 ZEBは、09年に経済産業省から提案された。建物で消費するエネルギーを極限まで少なくし、さらにエネルギーを創出する設備を持つことで年間の収支がゼロとなる建物だ。 海外では米国やシンガポールで郊外の大学や政府系施設などの建物に採用。冷房が不要な気候でエネルギー消費量が低い地域や、エネルギー負荷の小さい低層建物、他の建物や駐車場などの太陽光発電も利用して対象となる建物のエネルギー創出に役立てるなど比較的容易に実現している。(藤沢志穂子)


使用済みペットボトルから高品質のペットボトル 日本だからできた完全リサイクル

2014.6.22  産経ニュ−ス

 再生樹脂製造を手がける協栄産業(栃木県小山市)は、使用済みペットボトルから、原油由来と遜色(そんしょく)ない品質のペットボトルを作る技術を開発し事業化にも成功した。大手流通や飲料メーカーと協働し、新たなリサイクルの仕組みを構築、再生ペットボトルとしての利用に確かな道筋をつけた。

 使用済みペットボトルは、自治体による回収を経て、同社のグループ会社の工場に持ち込まれる。ここで選別、粉砕、洗浄してフレーク状の小片にしたあと、協栄産業のペットボトルリサイクル専用工場「MR・ファクトリー」(同)に移送。細かな粒状にしてから高温真空状態のもとで不純物を除去し、未使用のものと同品質のPET樹脂に戻す。これを新たなペットボトル原料として、ボトルメーカーに引き渡す仕組みを作り上げた。

 使用済みペットボトルからは繊維や卵パックができることは知られているが、ペットボトルへのリサイクルは容易ではなかった。というのも、リサイクルのたびにPET樹脂の品質や強度が落ちるため、ペットボトルからペットボトルへのリサイクルは難しいとされていた。

 そこで同社は、PET樹脂に入り込んだ不純物を、特殊な洗浄と高温真空状態にして除去するとともに品質を回復させる技術を独自に開発。飲料メーカーの要求に応えられる高品質のPET樹脂に再生できるようにした。

 このPET樹脂は、2011年にはサントリー食品インターナショナル、12年にはキリンビバレッジで採用された。

 日本国内で発生する使用済みペットボトルは年間60万トン。このうち約30万トンが中国など海外に資源として輸出されている。古沢栄一社長は使用済みペットボトルを身近な石油資源「都市油田」と位置づけ、「貴重な石油資源がそのまま海外に流出してしまうのは、日本の国富を失うのと同じ。日本国内でペットボトルに再生できる道筋をつける必要がある」と、その社会的意義を強調する。

 1997年に容器包装リサイクル法が本格施行されてから、消費者の協力により日本で回収される使用済みペットボトルは世界でも例がないほどきれいなものになっている。

 だからこそ、それを国内でしっかりと活用し、「ペットボトルがペットボトルに生まれ変わる」という消費者に最も分かりやすい国内循環の仕組みを構築する必要があった。それを求心力に、既存用途も含めてペットボトルのリサイクルを活性化させるという考えだ。

 古沢社長は10年前、「消費者の協力に応えるにはペットボトルに戻す技術の開発が不可欠」と判断、リサイクル技術の確立に乗り出した。技術の確立後、飲料メーカーに再生ペットボトルの採用を呼びかけたが、安全面での懸念などから良い感触が得られなかった。こうした中、最初に前向きな姿勢を示したのがサントリー食品インターナショナルだった。

 同社は2010年に再生材料由来のラベルを採用。その後1年にわたって安全性を検証した。その結果、問題が全くないことが分かったため、11年に再生ペットボトルを採用した。当初は再生樹脂を50%配合したものだったが、12年には再生樹脂100%のペットボトルを実用化。石油由来の原料を一切使用しないペットボトルが日本で初めて誕生した。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、協栄産業が再生樹脂生産に伴い発生する二酸化炭素(CO2)量は、石油から新品を作るよりも約60%削減できるという。同じ用途で繰り返し使える「水平リサイクル」の実現は、限りある石油資源の有効活用とCO2の大幅削減につながる。

 東日本大震災後の原発稼働停止、さらに円安も重なって、石油価格の上昇が続く。それに連なるかたちでペットボトルの原材料価格も上昇基調にある。協栄産業のもとには、環境に対する消費者意識の高まりを受け、他の飲料メーカーなどからも再生樹脂に関する問い合わせが来ている。

 古沢社長は「飲み終わったペットボトルからラベルをはがしキャップを取って、軽く水ですすぐという今では当たり前の習慣が再生樹脂100%のペットボトルを可能にしている。限られた資源を最大限に活用することで消費者の協力に応えていきたい」と話す。


「リカちゃんハウス」で遊びながら環境を意識 ここまできた玩具新次元 タカラトミーの「エコトイ」

2014.6.15  産経ニュ−ス

 タカラトミーが環境に配慮した玩具「エコトイ」のラインアップを充実させている。4年前に取り組みをスタートし、2年前に玩具として初めて、環境負荷が少ないと認定された商品に付けられるラベル「エコマーク」取得商品を発売。来月にはロングセラー商品「リカちゃんハウス」で、遊びながら環境を意識したライフスタイルがはぐくまれるという新コンセプトの商品を売り出す。原材料やメンテナンスなどハード面の工夫にとどまらず、子供の“気付き”にも着目、玩具メーカーならではの視点から開発に挑み続ける。

 「新築おめでとうございます!」

 12日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開幕した見本市「東京おもちゃショー」。タカラトミーのブースには住宅メーカー大手パナホームの藤井康照社長が登壇、着ぐるみのリカちゃんに鍵を手渡す新居引き渡しセレモニーが行われた。両社が初めて共同開発した「リカちゃんおしゃべりスマートハウス ゆったりさん」を紹介するイベントだ。

 ゆったりさんは、第1弾が30年前に発売され毎年約10万個を売り上げる人気商品。今回は新たに、子供の関心が高いスマートフォンを活用したAR(拡張現実)技術を採用した。

 専用アプリを起動したスマホで「冷蔵庫」や「玄関」を撮影すると、「開けたらこまめに閉めようね」「EV(電気自動車)に充電した?」といった声が再生されたり、エコ生活にちなんだクイズやゲームで遊べる新機軸が盛り込まれている。遊びの中で、環境への意識が自然にはぐくまれるという仕掛けだ。

 タカラトミー環境課の高林慎享課長は「10年以上親しまれている定番商品のエコトイ化に力を入れている。環境に配慮した玩具作りを息長く続けていくため」と説明する。

 同社が独自に定めたエコトイの商品カテゴリーはもともと、大別して3つだった。まずエコトイマークを付けて送り出したのは「遊びがエコ(省エネ・電池不要)」分野。車体を手で動かすと発電し、LEDのヘッドライトが光るミニカー「テコロジートミカ」や太陽光電池で揺れ動く人形などだ。「長く遊べてエコ(長期使用の促進)」分野では、子供の身体的成長に合わせて組み直せるプラスチック製室内遊具や、主要部品が壊れても交換して繰り返し遊べる商品を開発した。

 取り組みの知名度を一挙に高めたのは「玩具作りがエコ(省資源・廃棄物削減)」分野で、看板商品「プラレール」をエコトイ化した。再生プラスチックを50%以上使って生産したレールは2012年、エコマークを玩具として初めて取得、大きな話題となった。今年5月には、再生材料の使用でエコマーク認定されたミニカー用「パーキング」を発売した。

 これらに対しゆったりさんは、新分野「気付いてエコ(環境配慮の心を育成)」に属する。既存3分野と異なり主観的な要素が強いため、エコトイのカテゴリーに加えるべきかどうか社内でも意見が分かれた。しかし開発協力を得たNPOなどから「環境について学ぶことも大事だが、玩具ならではの説得力を生かしてほしい」との声を受け踏み切った。

 タカラトミーは「出張エコ授業」などにも取り組む。高林氏は訪問先で、「今の子供は環境保護についてよく知っている」と感心させられるという。そうした知識が遊びの中で自然に根付くような玩具作りを目指し、先駆者としての取り組みを続ける。(山沢義徳)


社内コンペで誕生 資生堂のクレンジングいらずの化粧下地 節水に一役

2014.5.25   産経ニュ−ス

 資生堂が2012年12月に売り出した化粧下地の「フルメークウォッシャブルベース」(FWB)は発売から1年余りで、セルフ化粧下地市場で売り上げシェア1位を獲得したヒット商品だ。この下地を塗っておくと、メークを湯だけで落とせるという手軽さや時短効果が受けているからだ。ただ手軽さだけでなく、1回の化粧における水の消費量を減らすというエコの側面を持った商品でもある。それもそのはずで、同社の社内コンペティション「エコプロダクツコンテスト」の第1回大会で生まれた商品なのだ。

 同社は09年、それまでCSR部などで対応していた環境の専任部署を設置。同年には環境省が認定する「エコ・ファースト企業」に化粧品会社として初めて認定された。また、全社員をメンバーとする「アースケアプロジェクト」も発足させ、環境活動に精力的に取り組んでいる。

 一連の活動の一環としてエコプロダクツコンテストが10年にスタートした。環境部門を担当する環境企画室の尾上真由美課長は「化粧品のレフィル(詰め替え)や植物由来樹脂の採用などパッケージにおいて環境対応を行ってきたが、『もっと斬新なアイデアの商品を』という狙いで始まった」という。すでに4回のコンテストが行われたが、10年開催の第1回コンテストに出てきたのが、まさにFWBだった。60件以上のアイデアの中から選ばれた。

 下地を塗り、ファンデーションを施した上にアイメークや口紅などをする。これを落とすには、クレンジング剤でメーク落としをしてから、さらに洗顔料で洗顔−。通常の化粧行為における流れだが、ファンデーションの代わりにFWBを使うと、メーク落としの際にクレンジング剤が不要になる。

 その秘密は、FWBが肌の表面に作る極めて薄い膜にある。「ヴェールアクションポリマー」と呼ばれるこの膜は、その上に塗布したファンデーションやメークと一緒に湯ではがれ落ちるため、クレンジング剤を使わなくて済む。ポイントは40度以上の湯を使うことだ。言い換えると、汗や体温ではがれ落ちることはない。

 その仕組みはこうだ。FWBは、湯だけに反応するセンサー分子とポリマーを独立した状態で配合。揮発成分が揮散すると球状のポリマー粒子が徐々に集まって柔らかなメッシュ構造を形成、極めて薄い膜となった状態で肌に残る。ポリマーとセンサー分子は独立しており、顔に塗ったときもベタベタしない。一方、湯だけに反応するセンサー分子が塗った後も残っており、洗い流すときに役立つ。

 同社が着目したのはクレンジング剤が不要ということ。それだけ水の消費量が減るからだ。商品の原料調達から生産、廃棄までの全過程における水の消費量を表す「ウオーターフットプリント」の手法を用いると、1回の化粧行為あたり通常なら11.6リットル消費される水が10リットルに削減される。尾上課長は「化粧品は水で洗い流す商品が多い。世界的に水問題に対する注目度が高まる中、環境負荷を極力減らしていきたい」と強調。水の使用量を削減できるFWBの意義を説明する。

 最近のコンテストには100件以上のアイデアが出されるという。FWBに次ぐ商品化はまだ実現してないが、尾上課長は「今後もぜひつなげていきたい」と環境対応商品の“二の矢、三の矢”を期待する。(兼松康) 


130年前のエンジン技術を蘇生 大幅燃費向上を達成したトヨタの“男気”

2014.5.18  産経ニュ−ス

 トヨタ自動車が、世界最高レベルの熱効率(燃やしたガソリンが動力に変換される割合)を実現した次世代エンジンを開発した。ハイブリッド車(HV)に用いてきた「アトキンソンサイクル」と呼ばれる効率のよい燃焼方式をベースに、不足するパワーを従来型エンジンで磨いた技術などで補い、10%以上の大幅な燃費向上を実現。4月に発売した小型車「パッソ」「ヴィッツ」を皮切りに、2015年までに計14モデルで導入する計画だ。課題だった小型車セグメントで競合他社を突き放すとともに、得意のHVにも応用してさらなる性能強化を図る。

 アトキンソンサイクルとは、霧状にしたガソリンと空気の混合気の圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善する燃焼方式。技術自体は約130年前に確立していたが、熱効率を高めると出力が低下する欠点があり、長らく日の目を見なかった。最近は、トヨタがHV「プリウス」で用いているほか、ホンダも小型車「フィット」のHVなどで採用して低燃費化に成功している。

 トヨタの次世代エンジンは、ガソリンエンジン車でも出力を低下させずにアトキンソンサイクルを利用できる形に改良したのが特徴だ。出力低下を防ぐため圧縮比を高めると、ノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなる。これを回避するため燃焼室内の排気効率を高めたり、新構造のウォータージャケットスペーサーでシリンダーの壁温を調整したりといった工夫を重ねた。また、新形状の吸気ポートは、エンジンのシリンダーに混合気を取り込む際、シリンダーのなかで特殊な気流を生み出して燃料が急速に燃えるように形を工夫し、熱効率の改善に貢献している。

 この結果、熱効率は従来型のガソリンエンジン(36%程度)を上回る最大38%まで向上。次世代エンジンを初搭載したパッソの場合、排気量1000ccモデルの燃費性能は、信号待ちなどでエンジンが自動停止するアイドリングストップ機能などと合わせ、従来型に比べ約3割改善し1リットル当たり27.6キロ。三菱自動車の小型車「ミラージュ」(27.2キロ)を抜き、HVと軽自動車を除くガソリンエンジン車で国内トップに立った。

 HVで独走態勢のトヨタに対し、競合他社はガソリンエンジンの改良で対抗、特に小型車ではトヨタを上回る燃費性能を実現してきた。トヨタは業績が好調とはいえ、低燃費の小型車に人気が集まる東南アジアなどでは販売が伸び悩んでいるのも事実だ。20年時点でも世界販売の7割をガソリン車が占め、HVは3割にとどまる見通しのなか、トヨタには「ガソリン車の燃費をさらによくしないと地球環境にもユーザーのニーズにも合わない」(開発担当者の山田哲主査)との危機感があった。

 ガソリンエンジンの低燃費化はこれまで、欧州メーカーなどが力を入れる直噴ターボを用いたダウンサイジングが主流になるとの見方が強かった。トヨタは燃料制御の最適化を図ることで、直噴ターボを用いなくても走行性能を犠牲にせず低燃費化を図ることに成功した。

 この次世代エンジン技術は、HVやディーゼルエンジン車にも応用する。特にHVはガソリン1リットル当たり40キロ台の燃費達成が今後の焦点となるが、トヨタ幹部は今回の技術革新で「射程圏に入ってきた」という。15年にも全面改良するHV「プリウス」で大台に到達する可能性が出てきた。(田辺裕晶)


開発段階からCO2低減 「オールキヤノン」の自負

2014.4.27 産経ニュ−ス

 キヤノンは、製品開発の段階からライフサイクルアセスメント(LCA)を導入し、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に低減する製品開発の取り組みを強化している。製品自体の環境負荷を減らすには、購入する材料から生産、使用、廃棄に至るすべての段階で配慮する必要があるが、同社は特に製品開発の初期に立てる目標設定からLCAの考え方を導入。製品が完成してから結果を評価するのではなく、明確な目標設定と徹底した進捗(しんちょく)管理を組み合わせて設計段階でCO2排出量を算定する。これにより、より高い排出削減効果が期待できるという。

 今回の取り組みはまず、CO2削減に向けた会社目標を設定。さらに事業ごと、製品ごとに目標を設ける。その上で、製品の構想時点の設計からLCAを考えて、CO2削減に取り組む。さらに開発時の設計を経て、量産試作段階ではCO2排出量の試算と改善を繰り返し、生産準備から実際の生産までの間に達成度の確認と評価を行う。

 設計時から環境負荷低減を考えることで、原材料の材質や重さ、部品の種類を厳選。加えて、使用時の省エネ化を図るため、低い融点でも定着するトナー技術や、効率の良いコントローラーの開発など目標を具体化する取り組みを徹底する。

 この取り組みによるCO2削減を実現した製品として、同社の複合機の上位機種である「イメージランナーアドバンス C9280PRO」がある。

 同製品は開発段階でコストとCO2を同時に評価し、従来機比50%のCO2削減目標を立てた。この目標に基づき、省エネについてはトナーの低融点化技術と定着技術を投入。印刷パターンに基づく1週間あたりの消費電力量を表す「TEC値」で業界トップクラスを実現した。省資源に関しては、外装の薄肉化に加えて、リサイクル材とバイオマスプラスチックを使用。Eドラムと呼ぶ長寿命の感光体も採用した。

 こうした総合的な取り組みにより、CO2排出量は従来機種に比べ約47%削減と、目標(50%削減)をほぼ達成できた。社員一人一人がCO2削減を意識することで、大きな効果を上げられることを実証した格好だ。

 設計時からLCAに配慮する取り組みは2007年から段階的に拡大しながら実施し、12年までの累計でCO2排出量を約760万トンと大幅に削減することができた。まさに「つくる・つかう・いかすというすべての製品ライフサイクルで、製品の高機能化と環境負荷の最小化に取り組んでいる」(環境統括センターの古田清人所長)ことが実を結び始めている。

 もちろん現場では当初、実施にあたって違和感もあった。古田所長は「従来、設計者は『CO2を5%削減してください』といわれても『どうすればいいのか』と頭をひねっていた。そこで事業の環境部門が『この技術を使えばこれだけ削減できる』と橋渡しすることで、実現しやすくなることを確認できた」と振り返る。

 手応えを感じている古田所長は「少ない資源でどれだけ製品の付加価値を上げていくのか。企業活動と環境活動を同じベクトルでやっていくことが重要」と指摘、今後の取り組みにさらなる意欲を示した。(那須慎一)


契約電力の約半分を再生エネに 「部分供給」を活用 三菱地所

2014.4.20 産経ニュ−ス

 三菱地所が東京・丸の内の超高層ビル「新丸の内ビルディング(新丸ビル)」で今月から、契約電力の約半分を再生可能エネルギーとする取り組みを始めた。電力をユーザーに代わって最適に調達する事業を手掛けるエナリス(東京都足立区)と電力契約を締結。一般電気事業者である東京電力に加え、新電力(PPS=特定規模電気事業者)からも電力の供給を受ける「部分供給」の仕組みを活用しているのが特徴だ。再生可能エネである木質バイオマス発電やバイオガス発電、太陽光発電を積極的に利用することで、環境負荷の低減や循環型社会づくりにつなげるほか、東日本大震災の復興支援にも貢献する効果があるとしている。

 新丸ビルは東京駅前にあり、地下4階・地上38階で、高さは約198メートル。大企業のオフィスのほか、飲食や物販などの店舗なども入居。現在の建物は2007年4月に完成した。

 三菱地所が新丸ビルで導入を始めた再生可能エネは、木質バイオマス発電など3種類。

 木質バイオマス発電を手掛けるのは岩手県宮古市の企業、ウッティかわい。間伐材や製材の端材を燃料とし、東日本大震災で被災した同県内の製材工場から燃料チップを買っている。バイオガス発電はバイオエナジー(東京都中央区)が担当。

 丸の内周辺のビルなどから出る生ゴミや食べ残しといった食品廃棄物を分解、回収したバイオガスをガスエンジンで発電している。太陽光発電は三菱地所が発電している。同社が開発するちばリサーチパーク(千葉県佐倉市、千葉市若葉区)の所有地にメガソーラー発電所を建設、昨年7月から発電を始めた。

 ウッティかわい、バイオエナジー、ちばリサーチパークはそれぞれ発電した電力を再生可能エネ供給専用のPPSである岩手ウッドパワー(岩手県宮古市)に提供。三菱地所は、東電と岩手ウッドパワーから電力を調達するエナリスとの間で新丸ビルでの電力代理購入サービス契約を締結している。1つのユーザーに対して2つの電力会社が電力を供給する部分供給と呼ばれる仕組みを活用して、契約電力の約半分に相当する電力を再生可能エネとする流れをつくった。

 被災した工場から購入した燃料チップを用いる木質バイオマス発電は震災復興支援、食品廃棄物を分解するバイオガス発電は循環型社会の構築につながる。三菱地所が自ら運営するメガソーラー発電所での太陽光発電は自産自消といえる取り組みだ。これは、15年度から運用が開始される東京都環境確保条例・排出総量削減義務「第2計画期間」での低炭素電力に認可される見込みという。

 新丸ビルはもともと、都環境確保条例の施行に伴い、10年4月から風力発電と水力発電からなる再生可能エネを導入していた。だが、震災発生とその後の深刻な電力不足を受け、再生可能エネの普及を狙って12年7月に固定価格買い取り制度が始まるなど電力を取り巻く状況が大きく変化。従来の仕組みによる電力購入が難しくなる中で、今回は部分供給の活用により契約電力の約半分を再生可能エネとすることができた。

 新丸ビルが再生可能エネを積極利用することで、他のオフィスビルにも広がる可能性がある。三菱地所の広報担当者は「まだ具体的な動きはないが、新丸ビルでの実績を踏まえて検討していきたい」としており、今後の取り組みに注目が集まる。(森田晶宏)


逆転の発想 廃棄基地局を“売り物に” コストを収益源に転換 KDDI

2014.3.30 産経ニュ−ス

 複数の周波数を使って音声通話やデータ通信サービスを提供する携帯電話事業者は、周波数の再編に伴って基地局設備を入れ替えなければならない。大がかりな周波数再編に備えてKDDIは、大量に出る基地局設備の廃棄物を逆に“売り物”に転換することで、産業廃棄物処理業者に支払っていた処理コストの収益化に成功した。

 KDDIが携帯電話サービスに使っていた800メガヘルツ周波数は、総務省の周波数再編政策により、いったん返却することになった。2006年4月から新旧の800メガヘルツ周波数を併用しつつ基地局の入れ替えを進めてきたが、12年7月に新800メガヘルツ周波数に完全移行した。

 旧800メガヘルツ用基地局は約1万5000。全国に散らばる基地局から排出される電源設備やバッテリーなどの設備機器を入れ替えるに当たり、KDDIは処理業者と交渉し運送コストを徹底削減。さらに、設備機器から抽出できる金属を再資源化することで、処理業者に支払うコストを逆に収益源にできないか考えた。

 12年春に入札を実施、10月には再資源化の部材を販売することができた。総務部CSR・環境推進室の田中俊行マネージャーは「処理業者と検討を重ね、銅や鉄、ステンレスなどを使って、売れる部材開発に取り組んだ」と説明する。

 開発した部材は、空調設備用パネルや椅子用パイプなど。処理業者にとっても再資源化による製品開発は新たな収益源として有望な分野となる。

 産廃量も激減。12年の通信設備などの産廃量は2041トンと前年比で半減した。06年から始まった旧800メガヘルツ用基地局設備の廃棄で大量に生じていた産廃は設備入れ替えの山を越えた11年に減少に転じたが「12年は再資源化による削減効果が大きかった」(田中氏)。

 大がかりな基地局入れ替え作業が終わり、産廃を出す基地局は現在、年間数千のペースに落ち着いている。そこでCSR・環境推進室が次に挑むのは通常時の廃棄物の再資源化だ。一挙に大量に廃棄物が出る時期と違い、運送コストや処理効率を考えると通常時には再資源化による収益化は難しいが、田中氏は「より付加価値の高い製品開発を目指して処理業者と検討している」という。

 一方、回収した携帯電話の収益化にも注力する。スマートフォン(高機能携帯電話)の販売競争が激化する中、古い機種はすぐ在庫となる。これまでは経理処理上、容易に処分できなかったが、13年度から使用済み携帯と同様に処理業者への売却を始めた。KDDIは、携帯電話1台に使用されている金や銀、銅、パラジウムなどの価値を計140円と算出。処理業者に買い取ってもらう仕組みを作り、収益源にした。

 回収した使用済み携帯電話は、障害者雇用の子会社KDDIチャレンジドに運び、80人近い社員が手作業で端末を20種の部材に分解する。利益は1〜2割減るが、資源化率を向上させることで環境保全効果を高めている。

 KDDIは16年度を最終年度とする環境保全5カ年計画を推進、基地局設備の再資源化もその一環。14年度中に携帯電話や通信設備の製造全般にかかわる二酸化炭素(CO2)排出量などを算出したいという。「社員の通勤や出張も含め企業活動全般を通じてどこを削減すればいいかという対策で他社に先駆けたい」(田中氏)考えだ。(芳賀由明)


茶殻に含まれるカテキンの消臭、抗菌特性活用 伊藤園の「茶殻リサイクルシステム」

2014.3.23 産経ニュ−ス

 茶系飲料最大手の伊藤園では、製造過程で大量の茶殻が出る。2012年は年間4万9000トンにも及んだ。茶殻のほとんどは飼料や堆(たい)肥(ひ)として再利用されているが、緑茶ポリフェノールであるカテキンは茶殻にも残っている。この消臭、抗菌といった特性を活用する目的で「茶殻リサイクルシステム」を開発、今では150の異業種企業と連携し茶殻に残る有用成分を生かした紙製品や樹脂、建材など応用範囲を広げている。

 茶殻の有効活用は1990年代後半、経営トップが開発部門に研究テーマとして指示したのが始まり。96年に500ミリリットルのペットボトル茶を発売し、一気に茶飲料市場が拡大。それに伴って茶殻も増加の一途をたどっていた。一方で、堆肥として使う農家の廃業などが相次ぎ、用途の多様化が必要になると判断したからだ。

 こうした中、2000年4月に秋田大学鉱山学部修士課程を修了した佐藤崇紀氏が入社。研修期間終了直後に、茶殻リサイクル研究の専任に抜擢(ばつてき)された。

 「最初は乾燥させたり、活性炭に利用できないかと考えていた」と佐藤氏は振り返る。確かに乾燥機を使えば、簡単に乾燥、炭化できるが、水分が85〜95%という茶殻を乾燥させるには「重油やガスを大量に使う。これがリサイクルや環境に貢献するのか」と疑問に感じ、水分が残ったままでの再利用方法を探ることになった。

 そうしたとき、祖母が自宅で、水気を絞った茶殻を畳の上にまき掃いて掃除をしていた記憶がよみがえった。そこで畳に使えないかと調べ、畳の芯材に茶殻を入れることを思いつく。研究室では何とかうまくいき、建材ボードメーカーに試作を依頼。ダンプカー1台分の茶殻を工場に送った。だが工場の担当者から翌日、猛烈な抗議を受けた。慌てて工場に向かった佐藤氏が目にしたのは、工場の隅に置かれた雪山のような白い小山。水分が多い茶殻から一気にカビが生え異臭を放っており、試作は断念せざるを得なかった。

 そこで乾かさず、しかも腐らずに茶殻をリサイクルするシステムを模索し、試行錯誤を繰り返し約半年後に確立した。冷凍でも薬品投入でもなく、独自開発の容器によって腐らずに茶殻を運べるようにした。このシステムの肝といえる技術は、特許を申請していない「秘中の秘」。テレビ番組で取材を受けた際も「モザイクをかけてもらった」ほどだ。

 これにより、かつて抗議を受けた工場で建材ボードの製品化にこぎ着けた。佐藤氏は入社2年目を迎える直前だった。

 しかし、なかなか応用製品の開発は進まなかった。苦悩の毎日が続く中、たまたま別の案件で出席した会議で営業課長が興味を示した。畳メーカーを紹介され「お茶入り畳 さらり畳」を製品化した。

 これを機に異業種と組んで、抗菌性、消臭生、香りといったカテキン機能を生かした製品の企画が広がった。そのひとつが日油と共同開発した茶配合樹脂。プランターやベンチなどさまざまな樹脂領域で展開が可能になった。次に取り組んだのが紙。茶殻を小さくしながら繊維化することでペーパーナプキンなどの薄い紙でも作れるようになった。建材やボードなど応用製品は増え、パートナーも150社に達する。佐藤氏は「新規の開発領域や日本の技術力を世界に示すため海外展開を図っていきたい」と意気込む。(平尾孝)


景気回復で再び脚光 ポリエステルのリサイクル

2014.3.16 産経ニュ−ス

 帝人が推進するポリエステルの循環型リサイクルシステム「エコサークル」が本格展開を始めて12年目を迎え、参画企業は海外を含め155社に拡大した。こうしたパートナーと共同で再生可能商品を開発・販売、使用後に回収し再びポリエステル製品として利用する取り組みで、環境教育のツールとしても活用されるなど自治体の参画も目立ち始めた。

 ポリエステルの再利用はペットボトルに代表されるように、回収後に粉砕して溶かし、糸状に戻す方法が一般的だった。ただ混在した不純物などを取り除くことはできず、再生したポリエステルの糸は品質が劣化、切れやすい短繊維状のものしかできなかった。このため「再生ポリエステルの品質は悪いというイメージが広まってしまった」と宮武龍太郎繊維素材統括部長は唇をかみしめる。

 この難題に帝人は40年以上前から取り組んできた。そして2002年、化学技術により再利用する画期的方法を確立した。ポリエステルを化学技術で分子レベルまで分解し、原料のジメチルテレフタレート(DMT)にまで戻すという世界初の技術だった。ポリエステル以外に綿などが含まれていても分離し原料まで戻す。このため品質劣化がなく、何度でも再利用することを可能にした。

 再生ポリエステルはゴミとして燃やすことも不要だ。同社によると、石油からポリエステルの原料を作って廃棄する場合に比べ、エネルギー消費量と二酸化炭素(CO2)排出量を約80%削減できるという。

 エコサークルは、企業の環境意識の高まりを追い風に賛同企業を増やしていった。05年には米アウトドアアパレル「パタゴニア」が加わると、エコバッグや病院用カーテンなど国内外で多様な分野に拡大していった。

 しかし08年のリーマン・ショックで風向きが一変。「再生したポリエステル原料は、石油から作ったものより価格が15〜20%高い。環境よりもコスト削減意識という機運が高まり、エコサークルは敬遠されがちになった」と宮武部長は振り返る。中国などが安価なポリエステル原料の増産に動き出したことも追い打ちとなり、賛同企業数は伸び悩んだ。

 それでもエコサークルによる“環境への貢献度”の大きさを地道に企業や団体に説明。景気回復の兆しが見られた13年度は国内外から問い合わせがかなり増えている。

 「省エネ・環境保全」を戦略的新興産業の一つに位置づける中国でも動きがあった。国内外で回収した衣類などはすべて、松山工場(松山市)で糸や生地に再生していたが、14年度には中国でリサイクル設備を建設し現地でのエコサークルを推進していく計画だ。宮武部長は「ポリエステルの消費量が多い中国で軌道に乗れば、環境貢献度は日本の比ではない」と期待する。

 エコサークルへの参画は、自治体にも広がる。08年に旭化成せんいと共同で始めた学校体操服のリサイクルプロジェクトは、不要となった小中学校の体操服を回収してポリエステル繊維に再生する取り組みだ。

 同プロジェクトに京都市が賛同。10年に環境教育の一環として市内小学校で導入した。リサイクル原料を使った体操服の方が価格は高いが、問い合わせは増え続けており、昨年4月時点で市内52の小中学校が実施。現在は関西地区しか参画していないが、宮武部長は「将来的には全国規模、さらには高校にも広げていきたい」と夢を語る。(西村利也)


FIエンジンを世界初採用 ホンダの新型除雪機 記録的豪雪で大活躍

2014.3.9 産経ニュ−ス

 関東甲信などで記録的な豪雪となった中、ホンダが昨年11月に発売した個人向け大型除雪機「HSL2511」が大活躍した。小型、中型を含めて在庫切れとなったほどで、販売店は対応に追われたという。少子高齢化が急速に進む過疎地では高齢者だけで除雪を行わざるを得ない世帯が増加したうえ、「二酸化炭素を排出しない」「作業効率を上げる」という点に特にこだわり、ニーズをつかんだことが拡販につながった。

 「バイクで当たり前となっている環境配慮型のFI(フューエルインジェクション)エンジンを世界で初めて除雪機に採用した」

 ホンダの研究開発を担う本田技術研究所汎用R&Dセンターの酒井征朱主任研究員はこう胸を張る。

 FIは、ガソリンをエンジン内に噴射する際、エンジンの燃焼状態からコンピューターが最適なガソリン噴射量などを計算し、効率的な噴射が可能になる仕組み。四輪車のみならず、二輪車でも採用が急速に進んでおり、従来の機械式の噴射装置「キャブレター」と比べ燃費を15%程度改善できるのが特徴だ。

 ホンダは、このFIを除雪機に世界で初めて採用した。ただ、採用に至るまでの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。常に過酷な環境条件で使用される除雪機への搭載は、エンジンの能力を最大限発揮できる一方、コストがかさむうえ、システムの構築には複雑を極めるためだ。 

 ホンダは、業界首位の除雪機開発経験を生かして、過酷な環境下での多様な作業を地道に再現。どれだけの量のガソリンを噴射させれば最も効率的になるかを妥協することなく数値化し克服した。

 酒井主任研究員はFI採用について、「これまでは寒い中、エンジンが暖まるのを待ってもらっていた。しかし除雪機は、エンジン始動後すぐに全開作業をしたいという顧客の要望があった」と話す。 

 加えて「使用頻度が限られるため、金額にシビア」(宇山由香・同センターチーフ)。このためバイク『カブ』、四輪車のスポーツ用多目的車(SUV)『CR−V』の部品を採用。除雪機専用の部品を極力抑えることができたため「価格を5万円アップにとどめ、150万1500円からにした」(小東賢太・同センター研究員)。

 また、オーガアシストと呼ばれる機能を追加したモデルは、鋭い歯を回して雪を砕くロータリー部分の角度を除雪面に合わせて自動調整する。除雪機が傾いた場合、下がった側と反対部分の盛り上がる雪を優先的に除雪することで作業効率を高める仕組みで、「これまで複数回かかっていた除雪作業が1回で済むようになった」(小東研究員)という。スマートフォンなどにも使われる方位磁針を本体中心部に配置したことで実現したという。

 豪雪地で多用される大型除雪機の多くは操作が難しく、慣れないと上手に作業できないといわれる。ホンダは、約15年ぶりに全面改良した新モデル投入で「雪国のお客さまの生活に役立てていく」(志賀雄次・汎用パワープロダクツ事業本部長)としている。

 ホンダはこうした取り組みなどを強化し、芝刈り機、水ポンプ、発電機、耕うん機といった汎用事業全体の拡販につなげていく考えだ。2013年度に605万台を見込む汎用販売を来年度は前年度比5.8%増の640万台に増やす計画だ。(飯田耕司)


鉄道車両も炭素繊維で 川重が世界初の次世代台車開発

2014.2.23 産経ニュ−ス

 川崎重工業が開発した鉄道車両の新型台車「efWING(イーエフウィング)」。世界で初めてというCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用した特殊な構造により、軽量化による省エネ性能の向上に加え、脱線に対する安全性や乗り心地も高めている。川崎重工は鉄道車両を中核事業の1つと位置付けており、「次世代の台車」として国内外で売り込む。

 CFRPは軽くて、強度が高いことが特徴で、航空機の胴体などに使用されている。川崎重工は米ボーイング向け部品などを手がけており、これまでCFRPのノウハウを蓄積してきた。

 鉄道車両の台車を軽量化する場合、従来は一部を薄くするなど形状を変更する手法が一般的だった。今回は素材を見直し、業界で初めてCFRPを採用した。

 通常の台車は鋼製で、メーンフレームである「側(がわ)バリ」と、レールから伝わる振動を抑制する「軸バネ」で構成されている。efWINGは、CFRP製のフレームを弓のようなV字型にして、サスペンション機能も持たせた。これにより、側バリと軸バネの機能がCFRP製のフレームに集約され、構造が簡素化、軽量化につながった。

 台車フレームの重量は従来比で約40%削減することができ、1両あたりでは約900キロ軽くなったという。この結果、走行燃費が向上してランニングコストの低減につながるほか、CO2(二酸化炭素)排出量の削減にも寄与する。例えば、年間走行距離が15万キロで、電気代を1キロワット時あたり12円とした場合、1両で年間8万9000円の節約になるという。

 さらに、車輪がレールに与える力が安定することで乗り心地が向上する。また、曲線や整っていない線路を走行する際、車輪からレールに伝わる上下荷重が減少して車輪が浮く「輪(りん)重(じゅう)抜け」が起こり、脱線の一因になるとされるが、efWINGなら輪重抜けの度合いを改善させ、走行時の脱線のリスクが小さくなる。

 川崎重工は、efWINGの実用化に先駆け、2012年6月に米国鉄道協会運輸技術センターで約4500キロの走行試験を実施。基本性能に加え、こうした走行安全性能などを確認した。

 課題はまだ納入実績がないことだが、14年度には国内でefWINGを搭載した車両が実際に営業運転を行う見通しだ。同社は「これまでCFRPを使った台車自体がなかったので、まずは実績をかさね、国内や海外で展開していきたい」と話す。

 川崎重工は、車両事業を航空や二輪と並ぶ中核事業の1つと位置付けている。車両事業の13年度の売上高は1550億円となる見通しだが、20年度には2600億円まで高める目標だ。そのためには国内だけでなく、米国やアジアなど海外での受注が重要になる。

 米ニューヨーク州交通局傘下のロングアイランド鉄道から通勤車両を受注するなど着実に海外展開を進めているが、「ビッグ3」と呼ばれる独シーメンス、カナダのボンバルディア、仏アルストムなどとの競争は激しくなっている。

 efWINGは、13年度のグッドデザイン賞金賞を受賞するなど、その斬新なデザインも評価されている。同社では「他社と技術で差別化して、顧客に提案していく」と意気込む。(田村龍彦)


湯沸かし=携帯充電 震災を機に生まれた「発電鍋」に脚光

2014.2.16 産経ニュ−ス

 鍋に火をかけることで発電できるため、湯を沸かしながら携帯電話の充電などができる「発電鍋」が注目を集めている。熱を直接電気に変える発電鍋を開発したのは大阪のベンチャー企業TESニューエナジーで、「ワンダーポット」の名称で売り出した。地震など災害時に役立つだけでなく、環境に配慮して太陽光発電を自宅の屋根に設置するといった消費者の動きにも適合できるとあって普及が期待される。

 TESニューエナジーは2010年5月、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)の技術をもとに、二酸化炭素(CO2)削減に貢献するベンチャー企業として設立された。所在地は、大阪府池田市にある産総研の関西センター内で、主に工場などで熱として棄てられている未利用エネルギーを電気に変える事業を展開している。熱を電気に変える技術を持つのが特徴だ。

 開発のきっかけは東日本大震災だった。TESニューエナジーの藤田和博社長は、11年3月11日にテレビ画面で見た東北の被災地の映像が自分を動かしたという。まだ寒い冬空の中、被災者が集めた木材をドラム缶に入れて暖を取っている姿が目に留まった。この光景を見た藤田社長は「あの火で何かできないか」と考えた。

 当時、多くの被災者は安否情報を携帯電話で確認していたが、電気が不通になった地域では携帯電話のバッテリーを充電できず、携帯電話が使えなくなっていた。そこで、藤田社長は「温かい飲み物や食べ物を作っている間に携帯電話の充電ができないか」と思い、自社の熱電技術を活用すれば、このイメージを具現化できるかもしれないと直感した。早速、震災当日の夜に開発を開始した。3カ月ほど試行を繰り返し、6月上旬には完成させて販売にこぎ着けた。

 発電鍋は、鍋底に熱発電板を組み込み、火で熱すると、水との温度差で電圧が生じる仕組みだ。鍋底の外側に取り付けた熱発電板は鉄のカバーで覆った。厚さは、主力商品である容量1リットルタイプ(深さ9.3センチ)の場合、6〜7ミリ程度となる。

 鍋の中に水を入れた状態で、火にかけると熱が発生、沸騰してできたお湯は約100度になる。一方、直火があたる鍋底は550度まで上昇する。熱発電板にある電子は、高温側から低温側に移動する特性を持つので、電子が流れて電気になる。発電した電気を導線で取りだして鍋の取っ手まで送り、取っ手の先端に取り付けた出力口にUSB充電ソケット用のケーブルを差し込む。こうして携帯電話の充電が可能になる。

 容量1リットルの発電鍋で発生する電気は7ワットほどで、スマートフォン(高機能携帯電話)のフル充電までは約3時間かかるという。

 発電鍋は今では、年間1500個ほど売れている。しかも国内だけでなく、電気が行き渡っていないウガンダなど世界16カ国にも輸出された。

 容量1リットルの発電鍋「ワンダーポット7」の価格は1万4700円。ほかに3.5リットル、5リットルなどもある。専用の蓄電池もあるので、電気をためておくことが可能だ。

 藤田社長は発電鍋について、「地震など大災害時の備えとして自治体などにも導入を働きかけていきたい」と話すが、個人が身近に実践できるエコグッズとして一層の浸透が期待されている。(佐藤克史)


災害時の早期復旧も 大和ハウスが売り込む次世代環境配慮型工場

2014.2.8 産経ニュ−ス

 大和ハウス工業が、次世代の環境配慮型工場と銘打った「D’s SMART FACTORY(ディーズ・スマート・ファクトリー)」の展開に力を入れている。老朽化した奈良県や茨城県の自社工場をこの手法で建て替えており、今後は外部への販売を強化して新たな収益源に育てる。あらゆる環境技術を駆使して二酸化炭素(CO2)排出量を大きく削減するだけでなく、地震などの災害発生時に工場が早期復旧できるよう事業継続計画(BCP)への対応を強化した点も売りとなっている。

 同社は企業や団体向けの建築物について、2020年までに環境負荷ゼロを目指す取り組みを進めており、ディーズ・スマート・ファクトリーはこの一環。11年7月に発売した環境配慮型オフィス「D’s SMART OFFICE(ディーズ・スマート・オフィス)」や、12年5月に実証実験を始めた次世代環境配慮型店舗「D’s SMART STORE(ディーズ・スマート・ストア)」などに続くエコ関連事業と位置づけている。

 ディーズ・スマート・ファクトリーの主な特徴は、(1)自然の力を生かす「パッシブコントロール」(2)創エネ・省エネ・蓄エネを行う「アクティブコントロール」(3)建築設備だけでなく生産設備のエネルギーも総合的に管理する「スマートマネジメント」(4)災害発生時の早期復旧を可能とするBCPの実践だ。

 パッシブコントロールは建築上の工夫により自然エネルギーをそのまま利用する。例えば工場の屋根に天窓を設けて採光し昼間の照明電力を削減。アクティブコントロールは、日射が遮られることの少ない工場の屋根面に太陽光発電システムを設置しエネルギー源を得るなど設備を用いた取り組みだ。スマートマネジメントはエネルギー消費量を「見える化」することで工場全体で最適制御する。

 また、工場では災害や事故が発生したときに生産をできるだけ早く復旧させ、サプライチェーン(供給網)の維持に努める必要がある。このためBCPの実践に向け、工場の建屋には地震を繰り返し受けても高い耐震性能を発揮できる工法の採用を提案したり、電力供給がストップしても常用発電機や蓄電池などを利用することで生産活動を継続できるようにすることも提案している。

 現在、ディーズ・スマート・ファクトリーとして完成または建設中なのは、同社の奈良工場(奈良市)と竜ヶ崎工場(茨城県龍ケ崎市)。ともに建設から約半世紀が経過し、防災性を高める狙いから建て替えを決めた。

 奈良工場では約40億円を投じ、昨年12月中旬に工場の一部が本格稼働を開始。残りの部分も今後建て替える。竜ヶ崎工場でも一部をディーズ・スマート・ファクトリーに建て替える工事を行っており、2月末に完成し4月からの本格稼働を見込む。同社は工業化住宅などを生産する工場を国内に10カ所持つが、他の8工場も「建て替えのタイミングに合わせて順次、ディーズ・スマート・ファクトリーに移行していく」(担当者)としている。

 今後は自社工場への採用にとどまらず、奈良、竜ヶ崎両工場をモデルケースとして外部への提案や販売を積極化させていく方針だ。同社の12年度の工場建設の売上高は約400億円で、環境配慮型工場が占める割合はごくわずかだったが、ディーズ・スマート・ファクトリーをテコに15年度には35%まで高めたいとしている。(森田晶宏)


機能性肥料に“変身” 「味の素」の副産物を有効活用 世界の農業に貢献

2014.1.26 産経ニュ−ス

 世界の食卓で愛用される味の素のうまみ調味料「味の素」。その副産物として年間200万トンも生じる発酵液には利用しきれなかったアミノ酸や核酸(イノシン酸)が豊富に含まれており、より有効な活用法の開発が課題だった。同社バイオ・ファイン事業本部は、一連の成分が農作物に及ぼす生育改善効果を解明。日本では3年前に「機能性肥料」として商品化、“強い農業”を支える助っ人として関係者の期待を集めている。

 「サトウキビの糖蜜などを発酵させて、味の素を50万トン生産したときに生じる副産物の量は160万トンと3倍強に上る」

 こう解説するのは、同事業本部の海老沢真専任部長。副産物の発酵液は従来、原料調達先であるブラジルなどのサトウキビ畑に有機肥料として散布。これにより「栄養を畑に返す『バイオサイクル』を実現していた」。

 タイなどでは水田やゴム農園向け肥料としても販売され、ピナツボ火山の噴火で被害を受けたフィリピンの農業復興にも一部活用された。ただ発酵液をそのまま利用するビジネスでは「運送コストがかさむわりに収益性が低い」という点が大きな課題だった。

 そこでアミノ酸や核酸が農作物の生育を促すメカニズムの解明に着手、使いやすい肥料として高付加価値化する取り組みを約10年前にスタートした。

 アミノ酸はタンパク質を、核酸は遺伝子を構成する。言い換えれば、どちらも「生命現象の中核を担う物質」(海老沢氏)だ。農作物への好影響は「以前から経験則として知られていた」が、より効果的な商品として送り出すためには、さまざまな農作物で実験を重ねてデータや使用法のノウハウを蓄積する必要があった。このため佐賀県内の工場を拠点に九州各地の農家に協力を依頼。07年からは北海道大学との共同研究にも乗り出した。

 アミノ酸肥料を葉面散布する実験では、温度管理のトラブルで弱っていたイチゴの樹勢回復やトマトの収量増加を検証。栄養素を葉から直接吸収させることで植物がタンパク質を合成する際のエネルギー消費を低く抑え、病害への抵抗力も高まる効果を確かめた。

 核酸肥料の実験では、イネやメロンなどの根に直接散布し、根毛の発育を促す作用を確認した。分析の結果、根を形成する植物ホルモンを増やす効果があるようだという。

「実験してくれた農家の多くが効果に満足し、口コミで協力の輪が1000軒近くに広がった」と振り返るのは同事業本部の小串匡彦専任部長。

 実験結果を受けて同社は、11年6月に核酸肥料「アミハート」を、12年12月にアミノ酸肥料「アジフォル アミノガード」を発売した。発芽促進、樹勢回復といった機能や用法をきめ細かく説明する販売手法で「まずはプロ農家に広げていく」(小串氏)という。

 「アジフォル」はブラジルやタイ、米国など海外7カ国でも販売しているが、「農作物がたくましくなって化学肥料や農薬の使用量が減った」と環境保護の観点からも好評を得ているという。今後は農家への指導ノウハウを高め、販売国を広げていく方針。今春には成分を調整して植物のストレス軽減に機能特化した新商品も発売する。

 「地球上の気候変動が激しくなっているいま、機能性肥料が果たすべき役割は大きい」と海老沢氏。日本発の発酵技術を、世界の農業に役立てたいと意気込む。(山沢義徳)


深海7000メートル相当の耐高圧を目指す水素ステーション向け容器 燃料電池車普及を支える神鋼の底力

2014.1.18 産経ニュ−ス

 環境に優しい燃料電池自動車(FCV)は2015年度にも発売される見通しだが、それと両輪で進められているのが水素ステーションの設置。その整備が本格化する中、燃料となる圧縮水素を充填(じゅうてん)するステーション用の容器や、FCVに搭載されるタンクを製造しているのが神戸製鋼所だ。

「FCVに積む水素タンクには70メガパスカル(700気圧)、水素スタンドには82メガパスカルの圧縮水素が充填される計画だが、70メガパスカルといえば7000メートルの深海にも相当する高圧だ」

 神戸製鋼で営業企画部水素・燃料電池推進プロジェクトの担当次長を務める三浦真一氏はこう説明する。

 通常、産業用の高圧圧縮機は、運転し続けなければならず、動かしたり止めたりすることは難しい。これに対し、水素ステーションなどの民生用は、FCVに燃料を入れるときに動かし、そうでないときは止めておくといったように、必要なときだけ動かすことが求められる。そのときに大きなパワーが求められる。

 自動車や自転車が巡航速度のときには大したパワーが必要でなくても、走り始めの際に大きなパワーを要するのと同じ理屈だ。こうした動作も「インバーターを搭載することで容易に運転、ストップができるようなモーターの使い方を可能にした」という。三浦氏は「ギアを変えやすくするようなイメージ」と説明する。

 神戸製鋼は、圧縮機の分野で世界有数のメーカーだ。圧縮機に使われるクロムモリブデン鋼などの特殊鋼の製造を手掛ける一方、レシプロ圧縮機(往復圧縮機)のメーカーとして国内トップシェアを誇る。同社は「戦前から水素製造装置を作っており、ガスから水素などを分離精製してきた」歴史を持つ。

 さらにエンジニアリング部門を持っていることも強みだ。「容器の大きさや物性などについてもシミュレーションを行い、ステーションの使い勝手などを検証しながら、単なる機器の大きさだけでなく、ステーション全体をコンパクトなつくりにすることなども検証できる」からだ。

 海外の水素ステーションに比べ、高圧ガス保安法が厳しいとされる日本では設置コストの高さが問題視される。仕様などが同一でないため単純に比較することはできないが、一説には海外では1億5000万円程度とされるのに対し、日本では3億〜5億円かかるとの指摘もある。経済産業省の規制見直しにより、コストを削減した新たな水素ステーションを開発する動きも出ている。

 神戸製鋼としては「FCVの発売前で検証も難しいが、容量や運転性、トラブルがないような静音性など全体を見てフィードバックしながら」(三浦氏)ステーション全体の構築に向けた動きをしているのが現状だ。

 自動車メーカーとインフラメーカーは15年度までに、首都圏など4大都市圏を中心に全国100カ所程度の水素ステーションを新設することを打ち出している。FCVの登場と軌を一にしながら、ステーションの設置が増えれば、それだけコストを抑えられる。三浦氏は「水素エネルギーの活用で、エネルギーの世界のあり方が根本から変わる」と指摘する。15年度に向けた開発競争の厳しさが増す中、鋼材や圧縮機の開発実績、スタンド設置のノウハウ蓄積などを続ける神戸製鋼の存在感は増していきそうだ。(兼松康)


深海7000メートル相当の耐高圧を目指す水素ステーション向け容器 燃料電池車普及を支える神鋼の底力

2014.1.13 産経ニュ−ス

 ブリヂストンが開発している非空気入りタイヤ「エアフリーコンセプト」の実用化がいよいよ現実味を帯びてきた。空気が入ったゴムチューブを用いる従来のタイヤと異なり、特殊形状の樹脂で荷重を支える新発想の製品で、パンクの心配や空気圧の調整が必要ない上、100%リサイクルできる優れものだ。このほど発表した「第2世代」の新型は、耐えられる車両の重量や最高速度を大幅に向上させており、今後は耐久性の向上などに努め2020年の本格実用化を目指す。

 「パンクしないタイヤなら自分の車にもぜひ着けたい」「はやく実用化してほしい」。昨年11、12月に開かれた東京モーターショーの会場で、新型エアフリーを装着した超小型車が来場者の関心を集めていた。

 エアフリーは、タイヤ表面のゴムとアルミホイールとの間に板状の波打った樹脂(スポーク)を張り巡らせ、その反発力で車の重みを支える構造だ。スポークはタイヤの外側と内側に60本ずつ計120本付いている。

樹脂の材質変化

 新型では樹脂の材質を「強度と柔軟性を併せ持つ新素材」(広報)に切り替えたほか、スポークの形状を見直し、圧力のかかるポイントを分散させた。この結果、耐えられる車両重量は、11年に発表した第1世代に比べ4倍増の410キロ、最高速度は10倍増の時速60キロまで向上した。

 また転がる際のタイヤの変形が抑制され、エネルギーロスが少なくなった結果、同社の空気入り低燃費タイヤとほぼ同レベルの燃費性能を実現することができたという。

 第1世代は、高齢者向けに作られた速度の遅い「シニアカー」などで用いるのが精いっぱいだったが、第2世代なら軽自動車よりコンパクトな1、2人乗りの超小型車などに装着し、地域の足としても利用可能な状態だ。

 タイヤは走行時の安全を文字通り支えてくれる存在。それだけにパンクや空気抜けは極力避けなければならない。「ならばいっそ、空気を使わないタイヤを作ってみたら?」。そんな発想から同社がエアフリーの開発に着手したのは08年のことだ。コンピューターによるシミュレーションを繰り返し、走行時の衝撃を吸収できるスポークの形状や材質を研究してきた。

リサイクルも可能

 次世代のタイヤに求められるのは走行性能だけではない。開発チームは環境性能にもこだわった。従来のタイヤは9割程度を燃料に再利用できるが、タイヤとして再生はできない。それに対しエアフリーは、樹脂や表面のゴムなど素材すべてをタイヤとしてリサイクルできるのが特徴だ。

 ブリヂストンは、二酸化炭素(CO2)の排出量を20年までに05年比で35%削減する目標を掲げており、エアフリーの実用化は大きなカギを握る。

 東京モーターショーでの期待通り、乗用車に装着するのなら、耐えられる車両重量をさらに大幅に引き上げる必要がある。耐久性についても、街乗り用に作られた超小型車や原動機付きバイクなどの場合は数千キロレベルで済むが、乗用車なら数万キロレベルが要求される。今後は走行試験を積み重ね、耐久性を実証する。製品を回収、リサイクルするシステムの確立も課題だ。

 同社幹部は「どんな車種に搭載できるかも含め、15年ごろには開発の方向性を明確に打ち出したい」としている。(田辺裕晶)



PM2・5や放射線… 見えない環境汚染を高精度測定 中国にも納入

2013.12.24 産経ニュ−ス

 呼吸器系疾患を引き起こす微小粒子状物質「PM2.5」や放射能汚染への不安が高まっていることを背景に、富士通が空気中の汚染物質の測定や分析を行うサービスを強化している。グループの総合的な技術力を生かして、リアルタイムの計測や詳細な分析、施策の提言までワンストップで対応しており、国内外の注目を集めている。

 富士通が全額出資する富士通クオリティ・ラボ(神奈川県川崎市)は2012年4月から、自治体向けにPM2.5の自動濃度測定から成分分析までを一括で提供するサービスを展開している。

 濃度測定サービスは約40〜50カ所で実施しており、自治体向けの測定機器では約3割のシェアをもつ。データは、国立環境研究所に集約され、インターネット上で公開。PM2.5の発生がより深刻な中国・福建省にも計測システムを納入している。

 PM2.5はさまざまな成分の混合物で、発生源も多岐にわたる。しかも、丸1日かけても1マイクログラム程度のごくわずかな量しか捕集できないことから、成分分析には非常に高度な技術が求められる。

 同社はフィルターで捕集したPM2.5について、重さのほか、無機イオン、無機元素などから成分を特定。ケイ素や硫黄、炭素などの含有割合から原因物質や発生源を探る。こうした成分分析まで手がけるサービスが評価され、これまでに約10の自治体が採用を決めた。

 地形やそのときの気象条件を勘案しながら汚染物質の飛散状況を3D(3次元)で解析するシミュレーション技術も開発した。それをもとに将来は、自治体などに具体的な対応策を提言するコンサルティングサービスも手がける計画という。

 一方、東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響で、目に見えない放射性物質に対する懸念も高まっている。

 これに対応するサービスを開発したのが富士通エフサス。放射線量を定期的に自動測定し、ネットワーク経由で提供している。太陽光パネルを搭載しており、屋外など電源のないところでの利用も可能だ。

 放射性物質を除染した場所の放射線量の推移を管理したい自治体や、東日本大震災の被災地のがれきを受け入れた自治体、観光地や観光施設の放射線量を公開して観光客に安心感を与えたい自治体などの利用を想定している。

 このうち福島県湯川村では12年12月、除染作業で除去した土や雑草を保管する「仮置き場」に、同社の計測機器を設置。13年1月から計測を開始した。

 計測値を計測機器に搭載された液晶パネルにリアルタイムで表示しているほか、放射線量や位置情報などのデータを10分おきに蓄積している。データをサーバーに送信し、分析するオプションのサービスは外すことで導入コストを抑えた。

 仮置き場の放射線量を正確に住民に伝えられるようになったことで、同村では「住民へ安心を提供するという意味では、これ以上のものはない。放射線についての問い合わせやクレームがないのがその証拠」と評価しているという。(米沢文)


【すごいぞ!ニッポンのキーテク】パンク無縁!100%リサイクルの空気不要タイヤ

2012.02.17 MSN産経ニュース

 ブリヂストンが開発した空気不要のタイヤが注目を集めている。パンクすることがなく、ゴムやプラスチックなど使っている素材を100%リサイクルすることが可能なのが特徴だ。乗用車用としては耐久性が課題のため市販時期は未定だが、原付きバイクや電動カートなど比較的軽い乗り物では実用化のめども立っているという。

 開発した空気不要タイヤ「エアフリーコンセプト」は、原付きバイクに使用されているタイヤとほぼ同じ大きさで、直径は35センチ。通常のタイヤが地面に接する部分のゴムを空気入りのゴムチューブで支えているのに対し、プラスチック製のスポークで支えているのが最大の特徴。

 スポークは60本あり、中心部分のアルミ製ホイールと外側のゴムの部分を網の目のように入り組みながらつないでいる。スポークの形状はコンピューターを使った設計シミュレーションで決定したという。

 スポーク一本一本は波打っていて“ばね”の役割を果たしており、力が加わるとゆがんでショックを吸収する。プラスチック製のため一見すると弾力性に欠けるようだが、地面に落とすと空気入りタイヤと同じ程度弾む。

 開発担当者の中央研究所研究第4部の阿部明彦課長は「ホイールと外側のゴムを放射状スポークでつなぐ場合に比べ、強度は数倍以上で、柔軟性も確保した」と胸を張る。タイヤ1本当たり最大300キロの荷重にも耐えられるという。製造コストも、原付きバイク用なら従来のタイヤと同等という。

 環境面では、これまでのゴム製タイヤは材料の約9割を占めるゴムを燃料としてリサイクルしていた。これに対し空気不要タイヤはゴムの部分が少ないため、使用後はゴムを細かく粉状にし、薬品を加えて再び空気不要タイヤに利用。これに加え、スポークには成形やリサイクルが容易な熱可塑性樹脂を利用したことで、「材料を100%リサイクルした上で、同じタイヤに戻すことができる」(阿部課長)。

 地面に接する部分のゴムの溝がすり減った場合、新しいゴムに張り替える同社の「リトレッド」と呼ばれる技術を利用し、寿命を長持ちさせることも検討している。

 実は、空気不要のタイヤは特殊用途としてすでに使われている。フォークリフトにはホイールの周りがすべてゴムでできているタイヤを採用。また、シニアカーなどと呼ばれるハンドル付き電動車いすにも、空気の代わりにウレタン樹脂が詰められたタイヤが使われている。ただ、いずれも通常のタイヤよりも重くて柔軟性も劣るため、乗り心地に難があるのが欠点という。

 空気不要タイヤを市販するには、長く使った場合の耐久性が課題だ。大きな力を一度に加えても問題がないことは室内実験ですでに判明しているが、小さな力を長時間加え続けた場合については現在も実験を重ねている。

 阿部課長は「原付きバイク用では走行距離数千キロレベルの耐久性で良いが、乗用車用では数万キロレベルが要求される。暑さや寒さ、高速走行にも耐える必要がある」。

 このタイヤを昨年末の東京モーターショーに出品したところ、「特にパンクの多い自転車用として早く販売してほしい」との要望が多かったという。「今後も数年かけて評価し、実用化にめどをつけたい」と阿部課長は普及を視野に入れている。(大坪玲央)

温暖化元凶CO2から樹脂 三井化学のマジック

2011.01.23 07:00 MSN産経ニュ−ス

天然ガスに代わり、二酸化炭素と水素からメタノールを作る三井化学大阪工場の試験設備=大阪府高石市

 温室効果ガスの代表的存在として厄介者扱いされている二酸化炭素(CO2)。省エネなどの努力もむなしく、新興国の経済発展もあって排出量は一向に減らず、削減だけでは追いつかないとの指摘も聞かれる。そんな中、にわかに注目され始めているのがCO2からエネルギーや素材を生み出す「資源化」の技術。なかでも工場の排ガスなどからメタノールを製造する三井化学の技術は、早期の実用化が期待される資源化技術の一つだ。

 メタノールは樹脂をはじめ、医薬品や燃料電池、繊維などの原料として幅広く使われ、世界生産量は年間4000万トンに達する。その約9割は天然ガスを改質して得た一酸化炭素(CO)と水素から作られている。

 これに対し、三井化学の技術は高温・高圧下でCO2と水素を反応させる。CO2は他の物質と反応しにくく、工業利用が難しい。そこで特殊な金属触媒に反応を仲立ちさせる。仮に20万トンのCO2と3万トンの水素があれば、8万トンの水と15万トンのメタノールが得られる計算だ。

 同社は1990年から99年にかけて地球環境産業技術研究機構の研究プロジェクトに参画。その過程で触媒を開発し、プロジェクトの終了後も粘り強く技術開発を続けてきた。昨年2月には試験生産設備を大阪工場(大阪府高石市)に完成させるところまでこぎつけた。試験設備とはいえ、CO2からメタノールを得られる設備は世界初。主に技術を外販するビジネスモデルを描き、電力会社などへの売り込みも始めた。

 「数年後には本格的に実用化したい」。生産・技術本部の高木岳彦・生産技術企画部企画管理グループリーダーはそう意気込む。

 ただ、現時点では課題も多い。「製造過程でエネルギーを使うため実際は計算通りの量が得られるわけではなく、効率をさらに上げる必要がある」(高木グループリーダー)。

 大量の水素を安価に、安定して調達する方法の確立も難所だ。ただでさえ、天然ガスを使う場合に比べ1.5倍の量が必要。水を水素と酸素に分解する方法が最も現実的だが、エネルギー節約のため原子力の熱や光触媒を使って分解する技術を導入する必要がある。

 生産コストは2〜3倍。天然ガスから置き換えるにはさらなる低減努力が必要だ。

 だが高木グループリーダーは、「(技術の進歩に加えて)化石資源の価格上昇が続けばコスト差は縮まる。技術のニーズも高まっていく」と強調する。

 温暖化防止につながるだけでなく、日本の化学メーカーにとって原料活用のメリットは大きい。中東では現地メーカーが原油採掘の際に得られる副生ガスを原料に、安価な製品を作れる大型設備を次々と立ち上げており、日本メーカーは競争力を低下させつつある。価格変動に振り回されないためにも化石資源に依存しすぎないことが必要だ。それは「持たざる国」日本の競争力確保にも通じる。

 今月に入り昨年のノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大特別教授が、金属触媒を使ってCO2から有用な物質を得る「人工光合成」の実現を目指す研究プロジェクトを提案。18日には文部科学省を訪れ、国に支援を求めた。強力な旗振り役を得たことで資源化に対する社会的理解は深まっていくと予想される。「必要は発明の母」という格言に従うなら、三井化学の技術は意外と早く花開くかもしれない。(井田通人)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】究極のエコカー、普及のカギ握る水素スタンド

2011.01.16 07:00 MSN産経ニュ−ス

燃料電池車のバスに水素を充填する東京ガスの水素ステーション=東京都大田区

 水素を使った燃料電池自動車の実証事業が首都圏で本格化してきた。水素ステーションを空港などに設置し、主に都心と結ぶ高速道路で路線バスやハイヤーを運行する「水素ハイウェイプロジェクト」が相次いで実施される。エネルギー会社などが参画する「水素供給・利用技術研究組合」が経済産業省の委託を受けて行っている事業で、燃料電池車の普及に欠かせないインフラ整備の課題を探るのが目的だ。2015年の事業化を目指している。

 燃料電池車は水素を反応させて作った電気で駆動する。普及させるには水素を供給するインフラを整えることが不可欠だが、普及台数が少ないうちからガソリンスタンドのように全国くまなく設置することはできない。そこで、水素ステーションを起点にした路線バスやハイヤーから始めることにした。

 東京ガスは昨年12月、羽田空港近くの東京都大田区に持っている自動車向けの天然ガススタンド「京島エコ・ステーション」に「羽田水素ステーション」を併設した。同ステーションを利用するのは羽田空港と新宿区、中央区を結ぶ路線バス。トヨタ自動車と日野自動車が共同開発した燃料電池ハイブリッドバスを使用し、毎日1往復する。

 同ステーションには、配管を通じて水素の原料となる都市ガスを供給する。水素製造時には二酸化炭素(CO2)が発生するが、分離・回収して液化、工業用原料として利用する計画だ。このため同ステーションは水素製造装置、水素圧縮機、CO2分離回収装置なども備えた。

 事業化にはできるだけ無駄を出さないことも重要。既存の天然ガススタンドと併設したのもそのためで、東ガスは「人員共通化による人件費削減、メンテナンス費用など維持管理コストの削減が期待できる」としている。同社はすでに東京都荒川区に水素ステーションを持っており、燃料電池車を運用。システム構築のノウハウを積んできているが、公共交通機関に応用するのは初めてだ。

 一方、成田国際空港と都心を結ぶのはハイヤーだ。導入台数などは未定だが、ハイヤー・タクシー会社と連携して行う。空港で旅客を迎え、都心を営業エリアとする。

 水素供給を担うのはJX日鉱日石エネルギーと出光興産。JXは「東京・杉並水素ステーション」を開設し、近く運用を始める。出光は2月中にも成田空港近くに「成田水素ステーション」を設置する。JX、出光の両社は、製油所などで製造した高圧水素ガスをカードルと呼ばれる容器に詰めて同ステーションまでトラック輸送する。

 同研究組合では「11年度以降も継続し、事業化のためのデータを収集したい」としている。経産省は11年度も水素供給インフラの事業委託を予定しており、研究組合の参加企業などは受託できるよう応募していく考えだ。

 一方、同研究組合は北九州市でパイプラインを通じて街に水素を供給する事業を1月15日に始める。マンションなど集合住宅や店舗、公共施設に設置した燃料電池用に水素を供給。電動アシスト自転車などへの充填(じゆうてん)も計画している。

 福岡県が進める「福岡水素戦略」の事業と連携する。同事業は新日鉄八幡製鉄所で発生する副生水素を使っており、そのパイプラインを分岐して有効活用する。

 水素利用のインフラが面的な広がりをみせており、実用化も近づいている。(粂博之)

センサーで消費電力「見える化」 セブンのエコ店舗

2011.01.08 12:00 MSN産経ニュ−ス

東京大学と産業技術総合研究所が共同で開発した親指大の小型センサー

 セブン−イレブン・ジャパンが、大学や研究機関などと連携し、店舗の電気使用量削減を進めている。店舗に電気使用量を計測するセンサーを設置して使用傾向をチェック。ムダな使い方をあぶり出すことで、効率的な電気使用につなげる。すでに東京・多摩地区などでセンサーを設置。来年度からは設置店舗を全国約100店にまで広げる計画だ。

 セブンは国内で約1万3000店を展開し、1店舗当たりの電気使用量は年間17万7000キロワット時。全店の電気料金総額は1990年には88億円だったが、店舗数の増加に伴い、2009年には352億円に増えた。電気料金の8割は本社で負担しているため、環境対策だけでなく、経費節減といった面でも使用量抑制が不可欠となっていた。

 今回、店舗に取り付けるセンサーは親指大で、東京大学、産業技術総合研究所と共同開発した。店舗内の配電盤に取り付け、電気使用量を計測する。計測データはセブン本社に送信され使用実態を分析、省エネ対策に生かす。

 セブン−イレブン建築設備本部の西口清治総括マネジャーは、「電気使用の実態をチェックすることで、自分の店がどこで電気の無駄遣いをしているか、という気づきにつながる」と、使用傾向を“見える化”する意義を強調する。

 このシステム導入のきっかけは昨年だ。省エネ法改正などを受け、今回とは別の計測器を東北地方の10店舗に設置して電気使用量を計測したところ、同じ大きさの店舗でも使用量にばらつきがあることが判明した。例えば200平方メートルの店舗では年間約14万5000キロワット時から約21万キロワット時まで、約6万5000キロワット時もの開きがあった。電気料金に換算すると、110万円以上の差になる。

 このデータを基に店舗にヒアリングしたところ、使用量の多い店は空調をかけたままドアを開放したり、空調機器のフィルター交換をあまりしていない実態が明らかになった。このほかにも、冷凍・冷蔵庫への搬入で扉を開ける時間が長かったり、揚げ物を調理するフライヤーの温度を上げたままにしているなどで差が出ていた。この調査を基に、本社で夏前に店舗向け省エネ指針を作成した。

 これを全国に広げるには1店舗当たり約30万円の費用がかかる点がネックだったが、東大と産総研の協力を取り付け、量産時には1個当たり数千円で経費を抑えられるセンサーを開発、昨年7月上旬から多摩地区の11店舗で導入した。

 その成果は徐々に出ている。猛暑だった昨年、全国の店舗で電気使用量が増加する傾向だったが、センサーを設置した店舗では使用量が前年同期比で0.6%減った。同じエリアで設置していない店舗では8.3%増だったのとは対照的だ。

 電気使用量の抑制は、商品の品質にも好影響を与えている。調理用フライヤーの温度に気をつけた店舗が増えた結果、調理油の劣化が抑えられ、揚げ物製品の味が向上。センサー設置の11店舗では秋以降、周辺店と比べ1日の揚げ物の売り上げが約5000円多くなった。廃油も減り、1店舗で年間約13万3000円削減されたという。

 将来的には、全店舗の電気使用量10%削減が目標だ。西口総括マネジャーは、「削減分は太陽光パネルなど新たな環境対策の原資に回したい」と、さらなる省エネ対策を進める方針を示している。(佐久間修志)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】バイオ燃料大増産 トヨタ、サトウキビ遺伝情報を解析

2010.12.25 12:00 MSN産経ニュ−ス

トヨタ自動車が九州沖縄農研と共同で行ったサトウキビ遺伝子解析実験の様子

 トヨタ自動車は、バイオ燃料の原料として利用が期待されるサトウキビの遺伝情報の解析技術を開発した。この技術を活用すれば品種改良にかかる時間を大幅に短縮でき、サトウキビの大幅な増産が期待できるという。環境に優しいバイオ燃料の増産に弾みがつくことが期待できるほか、他の植物への技術転用も可能で、食料増産や環境保護にも貢献できるとしている。

 新たな解析技術は、独立行政法人の農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター(熊本県合志市)と共同で開発した。技術の中核となる高精度のDNA解析技術はトヨタが開発し、この技術ベースにサトウキビの特性評価を九州沖縄農研、遺伝情報解析をトヨタが担当した。

 新技術により、従来の方法に比べ大量のDNAを高い精度で解析でき、サトウキビの育種期間の大幅な短縮と特性の向上が実現すると考えられている。

 トヨタによると、太陽エネルギーの固定効率が高く、バイオ燃料に変換しやすい糖を蓄積するサトウキビは、エタノール混合燃料に適しており、その増産と品種改良の加速が求められていた。

 ただ、従来はサトウキビなどの作物の品種改良は、過去の膨大な育種実績に基づき、選定や交配を繰り返しながら、多数の品種を評価することで耐病性などの特性を保有する品種を新品種として選抜していた。

 同じ植物でも、イネやトウモロコシの品種改良では遺伝子情報を利用し、交配で生み出される特性を予測する「マーカー育種技術」の実用化が進められている。しかし、サトウキビは持っているDNA量が多いため、遺伝子情報の解析が難しく、同様の育種技術の適用は困難とされていた。

 このため、サトウキビの新品種の育種には、交配から栽培、品質評価などの過程で8年以上の期間が必要だったという。

 今回、トヨタは対象となる生物の遺伝子情報を広範かつ迅速に解析する「DNAマイクロアレイ」と呼ばれる技術をベースにして、大量のサトウキビのDNAを高精度に解析することに成功した。

 遺伝子情報の高精度な解析が進んだことで、従来の5倍の精度を持つDNA配列の位置関係を示した「遺伝地図」の作成に成功。この結果、今回の遺伝子解析技術を活用すれば、育種期間の50%短縮に向けて大きく前進したという。

 効果は育種期間の短縮だけではない。品種改良にかかわる重要な遺伝子の位置特定と、品種改良への応用が可能になったことで、糖生産性の向上や耐病性強化によりサトウキビの増産が可能になると期待されている。

 自動車メーカーであるトヨタがバイオの研究を続けているのは、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減できるバイオエタノールの普及を促進するためだ。1998年にバイオ・緑化事業室を立ち上げ、植物の増産技術の開発などを進めてきた。同室は現在、バイオ・緑化事業部に昇格し、今回の開発も主導した。

 今回の技術開発の中核となった高精度DNA解析技術は、サトウキビと同様にDNA解析が難しいとされている他の作物にも適用することができるという。このため、トヨタでは「食料増産や環境保護にもつながると期待しており、幅広く活用するために情報開示・提供に積極的に対応したい」としている。(是永桂一)

携帯基地局で花粉測定 ドコモの新商売

2010.12.18 12:00 MSN産経ニュ−ス

センサーなどを併設したNTTドコモの基地局。花粉飛散量などを測定する(NTTドコモ提供)

 NTTドコモが、音声通話やメールのやり取りに使う電波を携帯電話に送る「基地局」を活用して、大気中の花粉飛散量などを測定し、データを製薬会社や気象情報サービス会社に提供する「環境センサーネットワーク事業」に乗り出した。全国に張りめぐらせた通信網というインフラを武器に情報をきめ細かく収集する一方で、技術パートナーとの提携でデータの精度向上も図っている。将来的には二酸化炭素(CO2)濃度などの情報提供も検討しており、新たな環境情報ビジネスとして育てるのが狙いだ。

 同事業では昨年12月に関東や静岡県の300カ所で試験運用を開始し、今年1月に商用サービスに移行した。ドコモが展開する第3世代携帯電話サービス「FOMA(フォーマ)」は今年9月末時点で、屋外に5万8600の基地局がある。この一部とその他の自社設備を活用して、来年3月末までに2500カ所でセンサーなどを併設する。これは碁盤の目に例えると、10キロ四方の格子に1つの観測拠点に相当するという。数年後には9000カ所に拡充する方針で、より高い密度で情報を集めるとしている。

 現在は、大気中の花粉飛散量のデータ収集のみだが、来年3月末までには気象情報(気温や湿度、風向き、風速など)にも幅を広げ、全国展開する方針だ。製薬会社や医療機関、食品会社などにデータを提供する「BtoB」モデルと、気象情報サービス会社に提供してウェブサイトや携帯サイトのコンテンツとして配信してもらう「BtoBtoC」モデルがあり、導入済みの企業・団体数はすでに10を超えた。

 ドコモはこの事業について「3年目で単年度黒字化、5年目で累積損失解消を目指す」(坪谷寿一・環境事業推進担当部長)と青写真を描く。

 事業開始にあたっては、花粉飛散予報や花粉濃度の測定・解析技術などに強みを持つウェザー・サービス(千葉県成田市)に約35%出資し、技術ノウハウの取り込みを図った。また、基地局に併設したセンサーが砂ぼこりや粉塵(ふんじん)、雪などを誤って花粉として検知・測定してしまい、精度が下がることもあるため、学会で発表された高度な除去技術を採用して精度の高い花粉実測値を得るようにするなど、情報の信頼性が大きなセールスポイント。また、近く商用サービスに着手する気象情報の提供でも、財団法人・気象業務支援センターによる検定に合格した観測機器を用いるとしている。

 この1年を振り返り、坪谷担当部長は「花粉症は人体にも大きな影響を及ぼす。花粉シーズンだけでなく、通年で花粉情報をリアルタイムで提供してほしいというニーズは、主に企業や団体を中心に根強い」と手応えを語る。国内の携帯電話契約数がほぼ頭打ちにある中で、基地局のような自社の資産を積極的に活用することで、新たな収益の種を育てていきたいとの狙いがある。

 ただ、坪谷担当部長は「顧客への見せ方や価格設定などで、もっと見直しの余地がある」とも語る。ドコモに対抗するように、ライバルのKDDIも気象情報サービス会社のウェザーニューズと提携。KDDIが持つ全国約3000の基地局に気象観測設備を配備し、そこで収集した気象データをもとにauの携帯電話やスマートフォン向けに新たなサービスの提供を本格的に始める。

 通信会社同士の競争が加速していく中で、「費用対効果をにらみつつ信頼性を高め、いかにリーズナブルな価格で提供できるか」(坪谷担当部長)が鍵になりそうだ。(森田晶宏)

紙のICカード 使用後はトイレットペーパーに

2010.12.05 07:00 MSN産経ニュ−ス

凸版印刷が開発した「RFID−KAMICARD」のサンプル。トイレットペーパーに再生利用できるのが特徴だ

 凸版印刷が、環境配慮型のICカードの開発に力を入れている。すでに発売を始めた2商品は本体がプラスチックではなく、紙素材で構成されており、トイレットペーパーにリサイクルできたり、廃棄しても土に還るのが特徴。世界的に環境意識が高まる中、欧米の企業を中心に納入先も拡大し始めた。ICカードは社員証などのIDカードのほか、携帯電話のSIMカード向けや入場券など多くの分野に拡大しており、凸版印刷は今後、世界的な拡販を進めていく考えだ。

 凸版印刷が開発したのは、接触型ICカードの「KAMICARD(カミカード)」と非接触型「RFID−KAMICARD」。カミカードは本体が100%純正のパルプでできており、土の中に埋めて一定時間が経過すると、自然に分解する。燃焼発熱量が高い素材を使っていることから、リサイクル業者を通じて固形燃料にすることもできるなど自然循環のサイクルに乗せられるのが特徴だ。

 紙製とはいっても、ぺらぺらの素材ではなく、独自の紙の精製工程を施した強化用紙を使用。耐熱性、耐水性も高め、「課題だった劣化のしやすさを克服した」(セキュアソリューション本部事業推進部の田中洵助氏)という。さらに、紙製では難しいとされていたICチップを乗せる機械加工も、印刷で蓄積したノウハウを生かし、「最高レベルの管理」(同)を実現。プラスチック製と遜色ない機能を持つという。

 今年3月には、携帯電話のSIMカードとしてポルトガルの通信事業会社「TMN」に採用された。本体に飲料水のペットボトルを再利用した素材を使用。背面に太陽電池パネルを搭載した韓国サムスン電子製の携帯電話「Blue Earth(ブルーアース)」に標準仕様として利用されている。

 この携帯電話はスウェーデンやドイツ、フランスなど欧州各国のほか、アジアでも販売されており、すでにSIMカードも数万枚出荷したという。「カミカードは、環境意識の高い欧州メーカーにまず興味を持ってもらっている」(同)といい、今後もカード発行枚数の多い海外の大手メーカーを中心に売り込みを加速させるという。

 一方、RFIDカミカードは、本体部分に一般用紙を使用。非接触型ICカードに使用されるアンテナを、独自技術で紙の中に定着させているのが特徴という。カミカードと比べると耐久性は少し弱いが、「紙としては非常に硬い」(同)。100%上質紙を用いているため、本体部分はトイレットペーパーにリサイクルできるほか、アンテナ、ICチップ部分も遠心分離すれば、強化剤としてセメント材料にも利用できるという。

 今年10月には、顔写真や名前などの文字情報を印字できる機能を追加し、販売を開始した。短期間のイベントでの入場券や、大型の学会などでの身分証明書としての用途を想定し、拡販を急いでいる。短期イベント用のカードはこれまで廃棄されていたが、RFIDカミカードの場合、回収業者に出すことで「トイレットペーパーとしての価値をつけられる」(同)のも新たなセールスポイント。現在は短期社員証向けとして、人材派遣会社とも採用の交渉を進めている。

 ICカードの世界市場は、SIMカードだけでも40億枚に上るなど、拡大を続けている。凸版印刷は「環境配慮カードとしての競争力を高め、市場での存在感を高めていきたい」としている。(森川潤)

社員証センサーで在室確認 賢くエコな照明・空調

2010.11.28 07:00 MSN産経ニュ−ス

大成建設のセンサーで照明、空調を制御するシステムのイメージ

 快適なオフィス環境を維持しながら、二酸化炭素(CO2)を大幅に減らすことができる全自動の照明・空調機能付き「次世代型オフィスシステム」を大手ゼネコン(総合建設会社)が競って開発している。社員証に埋めたセンサーやタグを使い、人のいる部分だけに照明と冷暖房をあてる仕組みで、全体を付けっぱなしにする従来オフィスよりCO2を2〜4割減らせるのが売りだ。オフィス部門は電子機器の導入拡大で、CO2の排出量が増加基調。ゼネコン各社はエコ先進企業向けに採用を呼びかけ、標準化を狙っていく。

 「一般的なオフィスよりCO2排出量を6割程度減らせる」

 清水建設技術研究所の矢代嘉郎技術研究所長は、同研究所に10月から実験的に採用した独自技術に並々ならぬ自信を示している。 同社が開発したのは、センサーで人を検知し、照明・空調を自動的に制御するオフィス向けの次世代システム。太陽光で発電した電気を蓄電池にため、その電気をフル活用しながら、人のいる部分のみの照明と空調を稼働させることでCO2を大幅に削れる。

 全自動型の照明、空調システム分野の先駆けは鹿島で、2007年7月に東京・赤坂の本社ビルに導入した。以降、研究所内など3棟に自社開発の省エネシステムを採用し、外部からも受注を獲得している。

 竹中工務店は今年6月から関連会社の本社ビルで導入し、大成建設も7月に都内のオフィスビルで運用を開始。大林組は9月に研究所内に制御システムを導入した。各社のシステムは、いずれも既存ビルに比べ2〜4割のCO2削減につながると試算している。

 大手ゼネコンがオフィス向けの新たな環境技術の開発を急ぐのは、国内CO2排出総量の2割弱を占めるオフィス部門のCO2が増え続け、テナント募集を行う不動産開発会社や入居企業から、CO2を大幅に減らす技術に対するニーズが高まっているからだ。

 環境省によれば、2007年度のオフィスなど業務部門のCO2排出量は、京都議定書の基準年の1990年度に比べ43.8%増の2億3602万トンに増加。今後も電子機器の利用増加に伴いエネルギー需要は高まる方向だ。このため、オフィスの消費電力の約7割を占める空調・照明の省エネ対策がオフィスのCO2を減らすには不可欠となっているわけだ。

 実際、次世代オフィスに対応したエコ技術に対する引き合いは不動産大手を中心に強い。入居を希望する製造業や外資系企業は最先端の環境技術が導入され、エコ対応の進んだオフィスを評価する傾向にあるためだ。

 オフィス仲介大手の三鬼商事によると、都心部のオフィス空室率は9%台と高い水準が続いている。このため、入居率を高めるためにも「さらにビルのエコ対応を進めたい」(大手不動産)という不動産開発会社は多い。

 ただ、全自動オフィスシステムの採用には課題もある。コスト面だ。蓄電池も同時に使う清水建設のシステムコストは、初期投資回収に15〜20年かかるという。エネルギーの抑制で電力会社から購入する電気代を年1割程度削れるが、それを加味しても割高なのは否めない。普及にはコスト面を是正する必要があるが、清水建設の矢代所長は「徹底したコスト見直しで初期投資を7年分程度で回収できるよう努力する」と話す。建設受注が減少を続ける中、先端エコ技術は差別化にもつながるだけに、コスト削減を含めた開発競争は激しさを増しそうだ。(今井裕治)

鉄スラグ活用で森と海を再生、鉄鋼各社

2010.11.21 12:00 MSN産経ニュ−ス

鉄鋼スラグを投入してから8カ月。海藻が生育し、魚が戻ってきた=2008年6月、北海道・函館沖(新日鉄提供)

 鉄鋼各社が、製鉄工程で出る副産物「鉄鋼スラグ」を活用し、海中の藻場や森林再生などの事業を強化している。スラグに含まれる鉄分が海藻の生育を促したり、土壌改良などによる生態系回復や二酸化炭素(CO2)削減につながる効果を持つ。スラグはこれまで道路基盤材などに活用するケースが多かったが、公共事業の削減によって新たな用途拡大を迫られている事情もある。自然環境の回復にも利用できるため、各社とも自治体や漁協に売り込み、市場開拓を図っている。

 「まさかニシンが戻ってくるとは」

 北海道西部の増毛町がわき上がったのは数年前。かつてはニシンの水揚げで活況をみせていた同町だが、沿岸部で海藻が死滅する「磯焼け」が広がったこともあり、20年以上にわたってニシンが姿を消していた。

 「豊かな海を取り戻したい」との地元の声を聞いた新日本製鉄は、海の鉄分不足に着目。鉄分は光合成の促進や葉緑素の合成に必要な栄養素で、海藻の生育にも必要だ。しかし、森林の伐採やダム造成などで、腐葉土などに含まれる鉄分が河川から海に流れ込まなくなったために磯焼けが発生したと考えた。

 スラグは高炉で鉄を作る際に生じる副産物で、微量の鉄分を含んでいる。そこで、室蘭製鉄所(室蘭市)などで発生したスラグを活用し、2004年から海岸にスラグと堆肥(たいひ)を袋詰めしたものを埋め込む実験を始めたところ、約半年で海藻が根付いた。その後も生育範囲が拡大し、ニシンの姿を確認できるようになった。鉄分を供給することで海藻や植物プランクトンが増殖、漁場の回復にもつながることが実証できた。


黒四発電所パワーアップ CO2削減に強み

2010.11.07 07:00 MSN産経ニュ−ス

関西電力の主要電源の一つ黒部ダム。黒部川水系で10カ所の発電所、計約89万キロワットの発電出力がある=富山県立山町

 電力各社が、二酸化炭素(CO2)排出削減のため水力発電の能力アップに取り組んでいる。政府のエネルギー基本計画で、発電時にCO2排出のない「ゼロ・エミッション電源」の比率を現在の約34%から2020年に50%以上とすることを求められているからだ。CO2削減の主役は原子力で、太陽光や風力なども注目されているが、水力は自然エネルギーと比べ安定性で勝る。それぞれの増強計画は小規模で目立たないが、各社とも細かな工夫の積み上げで既存発電所の出力向上を図り、着実にCO2排出削減に寄与している。

 関西電力は、黒部川水系(富山県)で発電能力を継続的に拡大する。すでに10カ所の発電所があり出力は計約89万キロワットだが、さらに新黒薙第2発電所(出力1900キロワット)を12年5月に着工、同年12月の完成を目指す。

 このほか、黒部川第2発電所(同7万2000キロワット)、新黒部川第2発電所(同7万4200キロワット)については、発電タービンに効率よく水が流れ込むように放水設備の構造改良などを実施する。発電効率に直結する水車の形状はこれまでも改善を続けている。関電北陸支社の伊藤好明マネジャーは「発電能力はほぼ上限まできているが、メンテナンスを続けることは重要」と話す。水に混じった細かな石などが水車の羽に当たってできた凹みも見逃さず補修している。

 長野県の木曽川水系では、11年6月完成予定の小水力発電所建設プロジェクト(同480キロワット)が進行中だ。これらすべてが完成する12年末には、関電の水力による発電電力量は年間1億キロワット時増加するという。同社の堺太陽光発電所9つ分に相当する電力量で、CO2排出削減量は年間2万8000トンが見込まれている。

 水力発電の出力向上は、他の電力も積極的だ。Jパワー(電源開発)は、一般水力発電所では国内2位の田子倉発電所(福島県只見町)の1〜4号機の機器を順次更新。すでに3機の更新が終わり、残る1機も12年に工事を終える予定だ。出力は更新工事前の38万キロワットから40万キロワットに増える。

 このほか、北陸電力が小見発電所(富山市)と上滝発電所(同)で計600キロワットの出力向上を図り、中国電力も土居発電所(広島県安芸太田町)で200キロワットを出力向上した。

 水力発電の利点は、安定性とコストのバランスが優れていることだ。再生可能エネルギーとして注目を集める太陽光発電は、夜間は発電できず、発電電力量は天候に左右される。そのうえコスト高も難点。1キロワット時当たり約49円かかるとされる。一方、風力は同10〜14円程度と安く、水力の同8〜13円と並ぶが、安定性では水力がリードする。

 最も安いのは原子力の同5〜6円だが、建設に時間がかかり、トラブルがあった際の運転停止期間は長くなりがちだ。また、建設や燃料運搬などで排出するCO2も含めた「ライフサイクルCO2排出量」は、原子力が1キロワット時当たり22グラムなのに対し、水力は同11グラムと半分しかない。

 ただ、国内では水力発電の有望地はほぼ開発し尽くされた。このため、“新型”の水力発電所も登場している。中部電力は今年9月に須砂渡水力発電所(長野県安曇野市、出力240キロワット)の運転を開始した。本来は発電用ではない長野県所有の砂防ダムを利用するもので、電力会社としては初めてのタイプという。

 電気事業連合会によると、全国に水力発電所は1727カ所ある。09年度の総発電電力量は838億3200万キロワット時で、火力(7425億キロワット時)や原子力(2797億キロワット時)には遠く及ばないが、太陽光(1500万キロワット時)や風力(36億キロワット時)と比べてはるかに多い。

 水力という伝統的発電でも、工夫を積み重ねれば相当のCO2削減効果が期待できることが実証されている。(粂博之)

エコで低価格の一石二鳥 IKEAの家具

2010.10.30 12:00 MSN産経ニュ−ス

荷物の積載量を最適化できる段ボールの「フラットパック」

 日本法人が国内で5店舗を展開しているスウェーデン発祥の家具大手のイケア。同社がが目指しているのは「持続可能な環境への取り組み」と、原材料から製品の開発、輸送、消費者にへの販売に至るまであらゆる面で二酸化炭素(CO2)削減などに取り組むことだ。そうした取り組みや無駄の削減が、同社の低価格製品にも役立っている。

 環境配慮の代表例が「ローディング・レッジ」と呼ばれるイケアが特許を持つ荷台だ。従来の木製パレット台とは異なり、荷物のサイズに合わせて広げたり縮めたりできる。ポリプロピレン製プラスチックでできているので、荷台が傷んでもリサイクルして作り直すことも可能だ。コンテナやフォークリフトに合わせて形を自在に変えられるほか、軽量のため木製パレットに比べコンテナには2トンも多く荷物を積めるのも長所だ。

 また、ローディング・レッジに載せられる荷物は「フラットパック」と呼ばれる段ボールに入れられる。ローディング・レッジとの組み合わせで、輸送時に商品の積載量を最適化できる。イケアのアジア地区社会・環境部門のリン・ウァンマネジャーによると、「無駄な空気を運ばない」ことがCO2削減の大きな要因となるため、この商品積載量の最適化が大いに役立っているという。

 ウァンマネジャーは、「イケアは常に最小限の資源でできる商品をデザイン、開発している」という。そのために、製品を供給するまでのパートナーにもCO2削減などを求めており、「製品サイクルの最初から最後までをみている」という。原料段階では、主要原料の一つである綿花のプランテーション(大規模農園)で使用される水の量を減らすなど天然資源の消費削減にも取り組んでいる。

 原材料を少なくし、本来なら捨てられる部分も原材料として活用することは、環境への貢献だけでなく、商品の低価格化にも役立っている。例えば、同社のラックサイドテーブルは、丈夫で硬い木質フレームの中に、正六角形や正六角柱をくまなく並べたハチの巣のような「ハニカム構造」で再生紙を詰めている。使用する原材料が少なくなるほか、商品全体が軽量になることで、輸送の際のCO2削減にもつながっている。

 同社が店舗展開する国の主力輸送手段は陸上輸送で、その任を担うのは主にトラックとなるが、「イケアはこれも業者任せにするのではなく、排ガスを少なくするよう年代の新しいトラックを使うという厳格な規定がある」という。

 これらの取り組みで、イケアグループが排出するCO2の量は、2009年には約122万トンと前年の128万トンから減少した。06年から08年にかけては増加しているものの、これは店舗や物流センター、オフィスなどが世界的に広がっているためだ。ただ、イケア関連の建物や商品輸送などで生じたCO2を、1立方メートル当たりの空間から出るものとして換算すると、その排出量は06年の59キログラムから、09年には53キログラムに削減されている。

 このほかにも、店舗を風力発電などのクリーンエネルギーを使ったものに変えていくなど、挑戦は続く。ウァンマネジャーは、「進化を続けながら取り組みを持続させることが大事だ」と指摘。この「終わりなき取り組み」をイケア自身だけでなく、「原料供給や輸送を行うパートナーなどと意識を共有して続けていくことが最良の解決策だ」としている。(兼松康)

内装もエコ トヨタ、バイオプラを世界初採用

2010.10.23 12:00 MSN産経ニュ−ス

エコプラスチックを使った自動車内装用の床面

 持続可能な発展に向けて循環型社会を目指す技術の追求は、自動車の内装素材にまで及んできた。トヨタ自動車は、植物由来の原料を使用した「バイオPET」で作ったプラスチックを、世界で初めて自動車の内装に採用する。従来の石油系プラスチックと同等の品質を実現したのが最大の特徴。自動車の製造から廃棄までの過程で二酸化炭素(CO2)排出量を抑えるとともに、石油の使用量削減にも貢献できる。

 同社は2011年初めに発売予定のハイブリッド車(HV)「レクサスCT200h」の荷室の内装にバイオPETから作ったプラスチックを採用。さらに、同年中には内装の8割に採用した車種も投入するなど、さらなる適用拡大を図る。

 バイオPETは、ペットボトルなどに使われるPET(ポリエチレンテレフタレート)の原料のうち、石油化学系の物質をブラジル産のサトウキビ由来のエタノールに置き換えた。トヨタがグループの豊田通商と共同開発した。

 PETは合成繊維樹脂の一種で、衣料、自動車内装表皮や、ボトル、食品包装用フィルムなどに使われる。今回、トヨタなどはPET原料となるテレフタル酸とモノエチレングリコールのうち、重量構成比で30%に当たる石油由来のモノエチレングリコールをサトウキビ由来のバイオ原料に替えて製造した。

 植物は光合成によりCO2を吸収して成長するため、バイオPETを焼却してもライフサイクルでは大気中のCO2を増やさない「カーボンニュートラル」とされる。

 実は、トヨタが植物系プラスチックを開発したのはこれが初めてではない。03年から、植物由来成分を含むプラスチック「エコプラスチック」の開発と実用化を進めており、これまではフロアマットやタイヤカバーなどでエコプラスチックを採用してきた。

 03年5月に発売した小型車「ラウム」のスペアタイヤカバーとフロアマットに、自動車用部品として世界で初めてポリ乳酸を使ったエコプラスチックを採用。09年12月に発売したHV「SAI」では、エコプラスチックの採用面積を内装部品の表面積全体の60%にまで拡大させた。

 これに対し今回開発したバイオPETは、エコプラスチックよりも耐久性や耐熱性、耐伸縮性を一層高め、石油系プラスチックと同等の機能を実現。エコプラスチックでは不可能だった高い質が求められる座席表面やカーペットなどにも使用できるようになった。

 自動車の内装は現在、ほとんどPETでできているため「今後、かなりの部分でバイオPETを使える。計器板やバンパーなどの転用も目指して研究開発している」(同社車両材料技術部)という。

 植物系原料の課題はコスト。ただ、トヨタではバイオPETが量産できるようになれば、石油系プラスチックとほぼ同水準のコストでの生産が可能としている。しかも、バイオPETを使ったプラスチック製造には従来の設備を転用することが可能なため、新たな設備投資などは不要で、同社では早期の置き換えを目指している。

 車両材料技術部ではバイオPETの本格使用によって、「従来の石油系プラスチックを使用した場合に比べ、CO2排出量を約3割程度削減できる」と見込んでいる。(是永桂一)


【すごいぞ!ニッポンのキーテク】 駆動系「進化」で燃費10%アップ 三菱ふそう

2010.7.24 12:00 産経新聞

 ネットショッピングの普及などで小口物流は増加傾向にあり、小型商用車の需要は堅調だ。

 一方で、世界一厳しいとされる日本の「ポスト新長期規制」に代表されるように各国の排ガス規制が強化されており、メーカーは対応を迫られている。

 ハイブリッドトラックも登場しているが、三菱ふそうトラック・バスが選んだ解決策はエンジンなど駆動系システム(パワートレーン)の進化で、最大10%の燃費向上と排ガス浄化 を両立させた。

 新型の駆動系システムは、軽量で高効率の排気量3000ccのディーゼルエンジン「4P10」と、小型トラックとしては国内初の搭載となる尿素を使った排ガス浄化システム 「ブルーテック」、商用車で世界初となるデュアルクラッチ式トランスミッション「デュオニック」で構成される。

 2006年から開発を始め、主力の小型トラック「キャンター」の新型車への搭載を予定している。

 エンジンは、欧州の商用車に多く搭載されている伊FPT社製がベース。

 燃料噴射装置には従来に比べ小型で車両に搭載しやすい「ピエゾ方式」を採用。

 緻(ち)密(みつ)な燃料噴射と同時に噴射圧力を高めることができ、燃焼効率を最適化し、低燃費と排ガスのクリーン化に貢献する。

 オイルフィルターは従来のカートリッジ交換方式ではなく、外側のケースを再利用してエレメントのみを交換する新構造の「グリーンフィルター」を採用した。

 廃棄物を減らす狙いだ。

 小型トラックは積載量を確保するため本体の軽量化が求められ、新エンジンにより従来より23キロ軽くなった。

 排ガス対策の要となるブルーテックシステムは、尿素やフィルターを使って排ガス中の窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)を除去する。

 三菱ふそうの親会社である独ダイムラーの商用車や乗用車に広く採用されており、09年時点でダイムラーの商用車だけで26万台に搭載されている。

 ブルーテックと新型エンジンを組み合わせることで、NOxやPM排出はポスト新長期規制を難なくクリア。

 欧米などで今後導入される新規制も視野に入れており、アイケ・ブーム副社長は「(日本の)ポスト新長期規制を満たすだけで なく、それを超えたものを顧客に提供しなく てはいけない」とダイムラーグループが持つ技術力に自信をみせる。

 一方、デュオニックは、スポーツカーなど高性能車に多く用いられている6速トランスミッションだ。

 変速ショックがなく、変速時の一時的な駆動力の低下も解消した。

 ドライバーは運転に集中でき、「小型トラック用としては世界最高レベル」(川口能広プロジェクトリーダー)という。

 これらエンジンやトランスミッションの組み合わせで燃費は大幅に改善。

車両全体で従来より8〜10%向上したという。

 新型キャンターの価格などは発表していないが、「コスト高になるような新システムは開発 しない」(ブーム副社長)としている。

 コスト削減では、エンジンはFPTと共同開発し、供給もFPTから受けることで開発コストをほぼ半分に抑制。

 一方で、デュオニックは三菱ふそう独自に設計から制御プログラムの構築まで行っており、自社で生産し、他メーカーへの供給も視野に入れている。

 大型や中型トラックはすでに商用車メーカー各社が新規制対応モデルを発表しているが、小型トラックも開発されたことで規制対応が一層進んだ形だ。(田村龍彦)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】ケータイで省エネチェック ドコモのエコライフ

2010.03.28 18:00 MSN産経ニュ−ス

携帯電話で自宅の家電の消費電力がチェックできるエコライフサポートで使用する機器の試作品

 外出先から携帯電話で自宅の家電の使用状況などを確認・管理し、省エネを実践する時代がやってくる。NTTドコモは今年から、家電機器の消費電力量を見える(可視)化≠キる「エコライフサポート」を始める方針だ。消費電力のデータをチェックし、制御できる「スマートタップ(賢い電源コンセント)」の試作機を開発し実証実験を重ねてきたが、いよいよ実用化段階に入った。

 ドコモが準備を進めるエコライフサポートは、携帯電話契約者と無線通信機能を備えたスマートタップを組み合わせて実施する。タップを家庭のコンセントに差し込むと、家電機器の消費電力量のデータを収集してくれる。さらにインターネットに接続する通信機器「ホームゲートウェー」を使い、データをドコモのサーバーに転送。これで携帯電話やパソコンをネットに接続すれば、いつでも家庭内の消費電力量の推移などをグラフで確認できるようになる。また、携帯電話などからネットを経由し、外出先から家電機器のスイッチのON/OFFが可能になる。

 同社の高木一裕・フロンティアサービス部長は「家庭から簡単に環境活動に参画できる仕組みを提供したい」と話す。

 このサービスを普及させるには、契約者が「環境活動を通じて自分にメリットがあると実感してもらう」(高木部長)ことも重要。このため、継続的に利用してもらう仕組みとして、省エネに努力した契約者に「エコインセンティブ(仮称)」と名付けたポイントを付与する制度の導入も検討している。省エネの成果として「エコ口座」にポイントがたまり、エコマネーとしてエコ商品を購入できるなどのサービスを考えている。

 ドコモは、携帯電話市場が飽和で頭打ちとなる中、2012年には国内市場規模が約64兆円に上ると試算されている環境関連ビジネスに着目し、新規事業の育成を急いでいる。エコライフサポートもこの一環。このほかにも、環境関連情報などをサイトに掲載して会員を集め、エコ商品を開発している企業のマーケティングに役立たせる「エコポータル」事業も展開する。

 さらに携帯電話を軸としたリサイクルや個人間の排出量取引、カーシェアリングなどの環境関連事業を相次ぎスタートさせ、環境ビジネスの売上高を12年度には300億〜400億円に伸ばす戦略だ。

 ドコモは携帯電話を社会インフラとして進化させ、環境ビジネスを新たな収益源としたい考えだ。(西川博明)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】電池で走る路面電車 パワーは川重の「ギガセル」

2010.03.21 18:00 MSN産経ニュ−ス

川崎重工業が開発した電池で走る路面電車「SWIMO」

 環境にとっても優しい路面電車が実現間近だ。川崎重工業が開発した大容量蓄電池だけで走る路面電車「SWIMO」だ。架線がない場所でも10キロ以上走行でき、停止時に発生するエネルギーを有効利用することで、従来の路面電車に比べ、使用電力を3割削減できる。そのパワーは、高速充放電が可能な大容量ニッケル水素電池「ギガセル」が生み出した。

 充電可能なニッケル水素電池は、三洋電機が2005年に発売した充電池「エネループ」のような円筒型が主流だった。しかし、円筒型では電池の性能が低下する熱への対策が難しく、大容量化に限界があった。

 このため、川崎重工では正極板と負極板を折り重ねるような形で板状の単セル(電池の一群)を開発。この単セル同士の間に放熱板を挟み、内部に装着した冷却ファンで空気を送り、大容量化の際の最大の弱点、放熱の問題を解消した。

 大きさも最大で長さ1287ミリにとどまり、路面電車の座席にすっぽりと収まるサイズにできた。

 ギガセルは当初、風力や太陽光発電など天候に左右される不安定な電力網を補助する電池として開発された。

 ところが、瞬間的に発生した大量の電気を一気に充電し、必要な時に一気に放電できる特徴があり、路面電車などにも最適だった。ブレーキの際に生じるエネルギー(回生ブレーキ)を蓄電して必要な時に利用できるためだ。

 2007年11月に大阪市営地下鉄谷町線で行った実証実験では、ブレーキ時に発生する大容量の電気を貯めて利用することで、使用電力を2割程度削減できることが判明。回生ブレーキを多用することで、摩擦ブレーキの使用頻度が減り、メンテナンス費用も減らせる効果があることもわかった。

 ギガセルは頻繁に充放電を繰り返す地下鉄などでも、7年間の使用が可能。使用電力が2割程度削減できれば、国の補助制度も利用することで、7年程度で投資費用を回収できるという。

 このほか、バスや大型クレーンといった産業用機器などでも回生ブレーキの回収実験を実施。港湾でコンテナの上げ下ろしをする大型クレーンでは、40〜50%もの省エネ効果があった。

 ギガセルを搭載したSWIMOは、07年12月から08年3月まで、札幌市の路面電車で実証実験を実施。零下10度の屋外で一晩置いた後でも、ギガセルの電力だけで一発起動し、悪条件下でも十分に利用できることが証明された。

 省エネ効果が高く架線がない場所でも走れるSWIMOは海外からも注目されている。

 川崎重工車両カンパニーの宮本裕一ギガセル電池センター長は「最大のライバルは安い鉛蓄電池だが、ギガセルのメリットをアピールし、将来的には家庭の蓄電池用などとしても大々的に売り出したい」と意気込んでいる。

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】お家の壁が空気をきれいに TOTO魔法の塗料

2010.03.14 18:00 MSN産経ニュ−ス

ハイドテクトカラーコートを利用した住宅(TOTO提供)

 ビルや住宅の壁が植物のように空気の汚れを浄化する。そんな技術が実用化されている。衛生陶器大手のTOTOが2007年に発売した外装用塗料「ハイドロテクトカラーコートECO−EX」は、光触媒技術によって空気中の窒素酸化物(NOx)を分解。今年1月には光触媒工業会から「空気浄化(NOx)」分野の第1号に認定された。

光触媒で分解

 ECO−EXは、住宅の壁など150平方メートルに塗装すると、テニスコート4面(1000平方メートル)分の芝生と同じ空気浄化効果が生まれるという。

 酸化チタンなどを原料とした光触媒は、太陽光や蛍光灯から出る紫外線に当たると、接触する有機化合物や細菌などを酸化分解する特徴がある。このため、セルフクリーニング(防汚)や抗菌製品などに応用されている。

 ECO−EXは、光触媒をビルや住宅の外装用塗料に応用。外壁に色の付いた塗料を塗った後に、透明な光触媒塗料をコーティングする仕組みだ。

 TOTOは1960年から光触媒の抗菌・防汚などの効果に着目。この技術の権威である東大の藤島昭教授(現神奈川科学技術アカデミー理事長)と応用研究を進めてきた。90年代には光触媒を練り込んだタイルを商品化。02年には業界で初めて外装用塗料に応用した。

色の劣化防ぐ

 塗料は有機化合物の成分が多いため、光触媒が塗料の成分自体を分解してしまうため、商品化が難しかった。この難題を解決するため、同社は中塗りの色の層の表面に高機能のセラミックスの壁をつくる構造を開発。塗料自体が光触媒膜の影響を受けて色が劣化したり、分解されないよう工夫して製品化が実現したという。

 研究開発の過程では、光触媒で薄膜をつくると表面に水滴が付かず、水になじむ「親水性」を発見。光触媒の有機物分解性と合わせ、「ハイドロテクト」という技術ブランドを確立させた。皮膜に汚れが付着し、光触媒が分解する一方で、雨などが水滴になりにくく、そのまま流れ落ちてしまう。

 このため、外装の表面に汚れが残りにくい効果も加わっている。特に酸性雨や光化学スモッグなどの主原因であるNOxも分解する能力が高く、光触媒工業会の認証基準に対して約2.7倍の浄化力を持つことが確認された。

工業会のお墨付き

 同工業会では、光触媒製品の信頼を確保するため、抗菌、防汚、大気汚染物質の空気浄化について認証制度を設けている。抗菌や防汚については承認を受けている製品が多いが、「空気浄化で、しかもNOxという分野では初めて」(TOTO)という。

 外壁にタイルを使用する場合よりも導入コストが安く、「幅広い建築物に光触媒を利用できるようになった」という。

 また今回認証を受けた「ECO−EX」では、コーティングされる光触媒の密度を高め、従来に比べ約6倍もNOxの浄化力を向上させた。

 住宅やビルなどの建築物への利用だけでなく、高速道路の外壁材や工場の排気施設などNOxや硫黄酸化物(SOx)排出量の多い施設への普及が進めば、都会での光化学スモッグの発生などを抑制する期待も高まる。

 TOTOでは「光触媒技術はまだ発展途上。今後の研究次第では、さらに性能を高めることが可能になる」とその可能性を強調する。都会では緑地の確保も難しいだけに、今後の技術開発にも注目が集まりそうだ。(石垣良幸)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】魔法のヒートポンプ 熱水と冷水を同時供給

2010.03.07 18:00 MSN産経ニュ−ス

神戸製鋼所などが開発したヒートポンプ「HEM-HR90」 

 大気や川の水などに存在する無限の熱エネルギーを利用する「ヒートポンプ」。使用する電力エネルギーの3〜6倍ものエネルギーを生み出し、二酸化炭素(CO2)削減の“切り札”と期待されている。これまでは、給湯器やエアコン、冷蔵庫など家庭用が中心だが、神戸製鋼所と東京電力などが、90度の温水と7度の冷水を同時に供給できる高効率の産業用ヒートポンプを開発し4月から販売を始める。

 開発には2社のほか、関西、中部電力が参加した。エネルギー効率が高く、従来の設備に比べて維持管理費やエネルギー使用量、CO2排出量を大幅に削減できる。さらに温水を加熱殺菌や洗浄に使い、冷水を冷却や冷房に利用できる“一石二鳥”のメリットを前面に出し、飲料や食品、化学、電子部品の工場に売り込む考えだ。

 仕組みは、熱を吸収、放出する触媒「冷媒」で17度の水から熱を吸収し、7度に下げる。熱を吸収した冷媒は圧縮器で加圧されることで高温になり、凝縮器と呼ばれる装置の中で、熱を放出して、90度の熱水を作り出す。

 冷媒を循環させることで、冷水と温水を同時に供給できるようにした。

 これまでも温水と冷水を同時に供給できるヒートポンプはあったが、70度の温水しか供給できず、加熱殺菌などには使用できなかった。新開発のヒートポンプでは、熱の吸収・放出能力が高い冷媒を採用し、冷媒を圧縮する装置を二重にするなどで、高温水の供給を可能にした。

 現在、多くの工場ではボイラーと冷凍機を併用し、温水と冷水を別々に供給してきた。新しいヒートポンプは1台で温水と冷水を供給でき、コストと環境負荷を大幅に低減させることができる。

 神戸製鋼によると、新開発のヒートポンプは、エネルギー効率の高さを表すCOP値で4・5を達成した。これは、使用したエネルギー量(消費電力)の4・5倍の熱エネルギーを生み出せることを示している。

 具体的には、年間維持管理費(12時間運転の場合)が、ボイラーと冷凍機併用に比べ、約3分の1の1340万円まで低下。エネルギー消費量も約61%減の8484ギガジュール(1ギガジュールは26リットルの原油が持つエネルギーに相当)にまで減り、CO2排出量は72%減の299トンになるという。

 神戸製鋼では、省エネ性能とコスト削減効果をアピール。年間100台、約30億円の売り上げを目指している。

 ヒートポンプの普及促進に取り組む「ヒートポンプ・蓄熱センター」(東京都中央区)によると、産業部門(100度未満の熱利用)のうち、4割程度がヒートポンプに代替可能。家庭部門や業務部門も合わせて国内で広く普及が進めば、年間のCO2削減効果は、国内排出量の約1割に当たる約1・3億トンに達すると試算している。

 国も導入補助を実施して普及を後押ししており、ヒートポンプの需要はさらに拡大しそうだ。(中村智隆)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】秘密は“たわみ” 軽くて強いペットボトル

2010.02.27 12:00 MSN産経ニュ−ス

サントリーが3月末から売り出す国産最軽量ボトルを採用した「天然水」

 ペットボトルはどこまで軽くなるのだろうか。飲料容器のペットボトルを軽量化したり、植物由来の原料を使ったりと環境対応をめぐる「エコボトル競争」が激しくなるなかで、2リットルペットボトル(本体)で36.2グラムの最軽量を実現したのが、清涼飲料2位のサントリー食品だ。使いやすさにも配慮し、3月末からミネラルウオーター「天然水」に順次採用する。ミネラルウオーター市場が伸び悩む中で、今年は新ボトルの投入をアピールし、前年比3%増の販売をもくろむ。

 ペットボトルの軽量化のメリットは、大きく2つある。まず樹脂の使用量削減で容器コストを圧縮できること。もう1つが容器製造時や輸送時の二酸化炭素(CO2)排出量が減らせることだ。

 これまで国産2リットルボトルの最軽量タイプは、日本コカ・コーラが昨年売り出した「森の水だより」の38グラムだった。サントリーが採用する「天然水」のボトルの重量は現在40〜59グラム。36.2グラムの新ボトルに切り換え、仮に昨年と同じ量を製造したとすると、CO2排出量は年間で7000トンを削減できるという。一般家庭1400世帯の年間排出量に相当する量だ。

 軽量化にあたって、最大のハードルとなったのが加重強度の確保だった。ペットボトルは輸送時や店頭販売時に段積みされるため、一定の加重強度がないとボトルが壊れてしまう。当然、樹脂の量が減れば、加重強度は低下してしまう。

 この難題を解決するために、サントリーは、ボトルの下半分に凹凸を持つ「5段バネ」構造を考案した。上から荷重がかかっても、たわんで吸収させる仕組みだ。「プリフォーム」と呼ばれるペットボトルの原型となる試験管型の樹脂から独自に設計し、樹脂量が減っても加重強度を維持できることを突き止めた。

 軽量化はボトル本体にとどまらない。キャップも薄肉化と高さを削ることで、これまでの3.2グラムから2.1グラムに。商品名などを表示するラベルもこれまでの50マイクロ(1マイクロは100万分の1)メートルから30マイクロメートルに薄くすることで、0.4グラム減の1グラムにまで軽量化。この結果、キャップとラベルを含めたボトル総重量は39.3グラムと国産最軽量を実現した。

 新ボトルの真骨頂は、軽量化と同時に使いやすさも追求した点にある。持ちやすいように胴部中央の“くびれ”を細くしたほか、注ぐ際にしっかりグリップできるよう“指スポット”の深さをこれまでの3ミリから6ミリにした。こうした形状の工夫で強く握る必要がなくなり、軽量ボトルに起こりがちな「ペコペコ感」が解消できたという。さらに、使用後の「つぶしやすさ」にも配慮し、主婦でも簡単につぶせる設計とし、飲用時から飲用後まで一貫して利便性を向上させた。

 開発にあたったビジネスエキスパートの高田宗彦・新包装技術開発推進部長は「環境性能だけならもっと軽くできる余地があるが、使いやすさを考慮に入れると今の36.2グラムが限界に近い」と話す。

 サントリーは来年以降、新ボトルをミネラルウオーターのみならず、炭酸飲料やお茶などの容器にも応用していく予定。競争力を備えた新ボトルを清涼飲料拡販の切り札にする考えだ。(小熊敦郎)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】安全・低コスト・長寿…欲張りな次世代原子炉

2010.02.20 12:00 MSN産経ニュ−ス

次世代原子炉のイメージ図(エネルギー総合工学研究所提供)

 地球温暖化防止で、1基当たり年約600万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果がある原子力発電への期待が高まる中、政府と電力業界、原子炉メーカーの官民が一体となり、世界最先端の「次世代軽水炉(原子炉)」の開発に取り組んでいる。テロや地震などの安全対策に加え、建設コストの半減や運転期間の長寿化、使用済み核燃料の排出量削減を目指す欲張りな原子力プロジェクトだ。

建設コスト半減

 次世代軽水炉は、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機に採用された「ABWR」(改良型沸騰水型軽水炉)や、日本原子力発電敦賀3、4号機に導入予定の「APWR」(改良型加圧水型軽水炉)の後継機種と位置づけられている。

 08年度から15年度までの8年間の開発費総額は600億円で、現在は半分強を国が支援。2030年前後の稼働を目指す。

 最大の課題は「既存の原子炉よりも建設コストを半分にしてほしいという電力会社のニーズにどこまで応えられる」(エネルギー総合工学研究所原子力工学センターの笠井滋部長)だ。

 格納容器の建設工程に、造船などで応用されているモジュール工法を採用。あらかじめ工場で組み立てたブロックをつなぎ合わせることで工期を短縮し、大幅なコストダウンを図り、建設単価を現在の約半分の1キロワット当たり13万円に削減する計画だ。

 また、これまでの耐震設計は、原発の立地条件などに応じて個別に行ってきたが、マンションなどで使われている揺れを吸収できる免震設計とすることで標準化を図り、コストダウンにつなげる。

使用済み核燃料4割源

 燃料の研究開発にも取り組んでいる。ウラン濃縮度を現在の4%から5%超とする技術開発に世界で初めて挑戦。平均燃焼度を現在の約1・4倍に引き上げる。これによって使用済み燃料の排出量を3〜4割減らし、再処理コストも低減させる。

 電力業界が次世代炉に寄せる期待は大きい。

 「安全性が確保できれば60年は稼働が可能」といわれる原子炉だが、老朽化の影が確実に忍び寄っており、2030年以降には最大で170万〜180万キロワット級の原発が5〜6基、50年には20基以上が、更新時期を迎える。

 電力会社にとって、国内で大幅な電力需要の伸びが期待できない一方で、環境規制の強化で、火力発電の高効率化や太陽光発電などへの設備投資が増大し経営環境は厳しい。

 こうした中、原子炉の更新では、大幅に建設コストを削減したい。次世代原子炉は、その切り札となる。 次世代原子炉が目指す市場は国内だけではない。今後、“原発ルネサンス”と呼ばれる世界規模の建設ラッシュが見込まれる中、「次世代原子炉は受注競争を戦うための最大の武器」(同研究所原子力工学センター長の田中隆則氏)としても期待されている。

新興国にも狙い

 次世代原子炉はアジア市場なども視野に入れ、大型と小型の共通技術を採用。170万〜180万キロワット級の大型だけでなく、80万〜100万キロワット級の中型軽水炉にも対応できるようにする考えだ。

 さらに、新興国でもメンテナンスが容易に行えるよう、検査の際に分解が必要な部品点数を半減させる計画だ。

 日本勢の最大のライバルとなるのが、仏原子力大手アレバが開発した「欧州加圧水型軽水炉(EPR)」。と呼ばれる次世代炉を売り込んでいる。

 官民プロジェクトの事務局を務める笠井部長は、「コスト競争力や安全面で十分対抗できる」と、手応えをつかんでいる。

 次世代原子炉は、日本の優れた原子力技術を世界に発信する役割も期待されている。(上原すみ子)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】摩擦減ってもしっかりグリップ 低燃費タイヤの最高峰

2010.02.14 07:00 MSN産経ニュ−ス

ブリヂストンのエコタイヤを採用した日産自動車の「ハイパーミニ」 「環境にやさしいことを、基本性能に」

 ブリヂストンが2月1日に発売した環境タイヤ「ECOPIA」(エコピア)ブランドの新商品「EX10」のコンセプトだ。荒川詔四社長は「エコタイヤの最高峰」と胸を張る。

 EX10には、走行中のタイヤの転がり抵抗(路面との摩擦抵抗)を低減し、クルマの燃費を改善して二酸化炭素(CO2)排出量を減らす2つの独自技術が採用されている。

 転がり抵抗を低くすれば、当然、濡れた路面でのグリップ力(ウエット・グリップ)は弱くなり、滑りやすくなる。環境性能と安全性能をどう両立させるじゃが、腕の見せ所だ。

 その難題を解決した1つ目の独自技術が、「ナノプロ・テック」だ。

 タイヤゴムの分子(ポリマー)を、独自のバラバラにしたり、くっつけたりすることができるナノテクだ。従来のタイヤはは、グリップ力を高めるポリマー(シリカ)が互いに擦れ合って発熱し、転がり抵抗が増す要因になっていた。

 そこで、ナノプロ・テックを駆使してシリカを分散し、擦れ合わないようにした。

 もう1つが、同社独自のシミュレーション解析・予測技術だ。さまざまなタイヤの形状をシミュレートすることで、転がるときに発生するゆがみを抑制すると同時に、タイヤと路面の摩擦が偏ることを防ぐ、丸みを帯びた新しい形状にたどり着いた。

 この2つの技術により、同社の従来商品に比べて転がり抵抗を25%も

 同時に、高い排水性能を持つ「周方向ハーフサイプ」や、高い制動性能を発揮する「2in1ブロック」を取り入れ、ウエットグリップを従来商品より14%を向上させ、環境に優しくて、安全性も優れたエコタイヤが誕生した。

 エコピアは、「ECOLOGY=環境」と「UTOPIA=理想郷」の造語。1991年にすでにダイハツ自動車の電気自動車(EV)「ハイゼット」に採用された実績があり、エコカーと組み合わせれば、まさに鬼に金棒だ。

 日産自動車の「ハイパーミニ」にも採用されている。

 タイヤの性能は、クルマの燃費を多く左右するが、「これまでは、低燃費タイヤへの消費者の関心は薄かった」という。

 しかし、政府の減税や補助金による支援の追い風もあり、エコカー人気が高まるなか、エコタイヤの注目度も格段に高まってきている。

 荒川社長は「2014年には国内の乗用車の夏用市販用タイヤを100%、エコタイヤにする」と、意気込んでいる。(鈴木正行)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】ヤマハの燃料電池バイク メタパワーで疾走

2009.11.29 07:00 MSN産経ニュ−ス

DMFCシステムを搭載した燃料電池二輪車「FC-Dii」

 ヤマハ発動機が、燃料電池バイクの開発を進めている。コンセプトバイク「FC−Dii」に採用したのは、「ダイレクトメタノール燃料電池」(DMFC)だ。メタノール水溶液から水素を取り出し、酸素と化学反応させて発電した電気が動力源だ。最大出力は1キロワット。ヤマハ発の担当者は「群を抜く静粛性だけでなく、エンジン型発電機と同等の出力性能がある」と胸を張る。

メタノールが燃料

 従来の燃料電池車は、圧縮水素を利用するが、爆発の恐れがあるため、頑丈なタンクが必要だ。これに対し、メタノールは液体で発火性が低く安全性は高い。最大出力が小さいため、携帯電話用電源などとして開発が進められている。

 DMFCは、電池内部で炭素、酸素、水素が結びついたメタノール水溶液を電極触媒で分離させ、水素イオンを取り出して酸素と反応させて発電する仕組み。その際、有毒な一酸化炭素が発生するため、水と反応させて二酸化炭素(CO2)に変換し、外部へ放出する。

 ヤマハ発では、このDMFCを搭載した原動機付き二輪車の開発に取り組んでいる。

 平成15年10月の東京モーターショーには、DMFC搭載のコンセプトカー「エフシー06」を出展。16年9月には、「エフシー06プロト」が燃料電池二輪車として初めて登録ナンバーを取得し、公道での走行試験を行い、環境性能などのデータを収集した。

 さらに17年9月には「エフシー・ミー」を開発。静岡県がレンタルで採用し、その時点で、「将来のリース販売や市場導入が十分に可能」と、実用化にめどをつけた。

 エフシー・ミーのエネルギー交換効率は、50ccガソリン車の1・8倍。重量は車両全体の構成部品の見直しなどで約69キロとなり、エフシー06プロトより約6キロの軽量化に成功した。また同社が市販していた電気二輪車と同レベルの性能も達成した。

CO2排出量は半分

 19年10月にはコンセプトカー「エフシー・ディ」を東京モーターショーに出展した。発電用の燃料電池に加え、電気をためておくリチウムイオン電池も搭載。リチウム電池は取り外して充電できるようにした。

 エフシー・ディの1キロ走行当たりCO2排出量は19・4グラムで、ガソリンエンジンの原付の35・5グラムのほぼ半分だ。

 バイクへの燃料電池の搭載は、四輪車に比べて難しいとされる。搭載スペースが限られるため、小型化が必要なうえ、転倒や風雨などへの耐久性も求められる。

 ヤマハ発では、DMFCの市販化について未定としているが、多数のハードルを乗り越え、早期の普及を目指す。(鈴木正行)

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】在宅勤務でエコ NTTのテレワーク

2009.11.14 13:00 MSN産経ニュ−ス

NTTコムの在宅勤務ソリューション「ビズ・コミュニケーター」で利用するUSB端末

 NTTグループは、インターネットを使い家庭でもオフィスにいるかのように仕事ができる「テレワーク」と呼ばれる業務支援ソリューションの開発に力を入れている。社員が出社する必要がないため、移動に伴う二酸化炭素(CO2)排出量の削減できるメリットがあるほか、多様な働き方を提供することで雇用を安定させる効果も期待されている。最近は新型インフルエンザの流行を背景に、社員の感染拡大を防ぐ手段としても注目されている。

自宅で会社のPC操作

 「ICT(情報通信技術)を使った商品やサービスを提供することで、低炭素社会の実現に貢献したい」

 NTTの三浦惺(さとし)社長は、テレワークが、地球温暖化防止につながる強調する。

 テレワークを実現するツールとして、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が提供しているのが、「ビズ・コミュニケーター」だ。

 パソコンのUSBメモリーに内蔵した専用のキーを差し込むと、在宅したままインターネットを経由して会社のパソコン内のデータやソフトを操作できる。

 テレワーク用の技術や商品はさまざまな企業が提供しているが、その多くは会社のパソコンを家に持ち帰り、会社のネットワークにアクセスして業務システムなどを利用する仕組み。

 ただ、この方式だとパソコンにファイルをダウンロードすることが可能で、万が一、パソコンを盗まれた場合、情報が流出する危険性がある。

 しかし、ビズ・コミュニケーターの場合、自宅のパソコンを操作するものの、実際に操っているのは会社のパソコンだ。しかも自分のパソコンにはファイルをダウンロードできない仕組みを採用。このため、自分のパソコンを紛失しても情報が流出するリスクを排除できる。

インフル感染も防止

 NTTコムはこのほかにも、屋外から会社のネットワークにアクセスして業務システムを利用できる「モバイルコネクト」も提供している。

 今年に入り、新型インフルエンザの感染拡大を受け、在宅勤務に加え、会社から感染状況や緊急連絡を送信できる機能を加え、バージョンアップした。

 企業の環境意識の高まりや新型インフル対策として需要が高まっており、ビズ・コミュニケーターは受注が昨年の2倍のペースで推移している。

 CO2排出量の削減が重要課題となる中、総務省も、企業や家庭でのIT技術の活用拡大が大きく貢献すると訴えている。

 同省は昨年、インターネットを使った商取引や新聞、書籍などのコンテンツ(情報の内容)の電子化、パソコンを使った在宅勤務、テレビ会議などを積極的に導入すれば、物流や交通分野で2012年度のCO2排出量が、10年度比6800万トン削減できるとの試算を公表した。

 NTTグループでも、データセンターの省エネ化などの温暖化対策に加え、ITビジネスを通じて、地球環境に貢献していく考えだ。(黒川信雄)

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