ロマンスグレー
「この間…」
少し間をおいたのに、意外とさらっと出た言葉だった。
「昔の彼女にあったんだ」
「へー」
「ほぼ20年ぶり?なのかな。元気だった。嬉しかったよ」
「変な気持ちはなくて?」
「…そう、嫌いで別れたわけではないからね。ずっと会いたかったから」
「…でも、奥さんと結婚したんでしょ?奥さん一番なんでしょ」
「大事だよ。…元カノに悩みを相談された」
話をそらそうとしたのに、当たり前のように戻ってしまった。
「変だよ。旦那と話せば良いのに…変だよ」
「そうかな?」
あまりそう思ってない表情。やな奴。
「…自分はさ、好きだった元彼と会いたいって思わない?」
「…」
返事に困る。
会いたいような、会いたくないような。
会ったら…期待してしまいそう。
ただ嬉しいで終わりたくなくなりそう。
「…ひどい別れ方したし、もう、どこにいるのか分からないし」
「知らないんだ」
「知らない」
「知りたいと思わないの?」
「…別に思わない」
「知る方法ないの?」
誘導尋問みたい。でも質問を断れない。
「携帯電話の電話番号知らないし、わたし、つき合ってた時、携帯持ってなかったし、ここではない場所の出身だし、きっともう会う機会なんて…ない」
知ってる。
もしかしたら残ってる。
あの場所に。
無いかもしれない。
でも…有るかもしれない。
自分でも忘れてしまった。
「よかったじゃないですか。会えて。それが嬉しくて」
「うん。良かったよ」
会話は終わった。