スターウルフ
宇宙を駆ける壮絶なアストロノーティカ・ドラマ!
わしがガキの頃、大好きだったTV番組のひとつに「スターウルフ」がある。
「アストロノーティカ・シリーズ」と銘打たれたこの作品が放送されたのは1978年。
1978年といえば、米国での「スターウォーズ」のヒットに触発され、日本中が空前の宇宙SFブームに沸いた時である。
劇場映画では東宝が「惑星大戦争」、東映が「宇宙からのメッセージ」を公開した。
一方TVではNHKが「キャプテンフューチャー」を、フジテレビは「SF西遊記 スタージンガー」を繰り出した。
このような中で、円谷プロによって生み出された実写特撮ドラマ「スターウルフ」は、ゴールデンタイムのTV特撮としては考えられないような、それまでの特撮ヒーロー番組とは全く異なる、色々な意味で「凄い」内容の作品だったのだ。
さすらいのスターウルフ
「スターウルフ」は、スペースオペラの名手として有名なSF作家、エドモンド・ハミルトンの代表作のひとつ、「スターウルフ・シリーズ」を原作としている。原作小説の魅力についてはこちらを見ていただくとして、ここではTV版の方について語っていこう。
恒星間航行が開発され、銀河系の様々な星に生息する様々な人類が、お互いに交流するようになった時代・・・。
高重力の惑星ヴァルナに住むヴァルナ人は、他惑星の人類よりもはるかに強靭な肉体をもっていた。彼らは他の惑星を襲撃し、略奪行為をおこなう宇宙の海賊集団「ウルフアタッカー」として全銀河で恐れられていた。
地球人でありながら悪の星ヴァルナで生まれ育った主人公ケンは、アタッカー随一の腕前を持ち、「スターウルフ」と呼ばれていた。
ウルフアタッカーが地球を襲った時、ケンは相棒のスサンダーと共に襲撃に参加するが、地球人の子供を殺そうとしたスサンダーを止めようと揉み合ううちに、誤って殺してしまう。
たちまち裏切り者として仲間から追われるケン。
宇宙へと逃れ、辛くも追っ手を振り切る事は出来たが、身体は傷つき、乗っていた宇宙船もついに動かなくなってしまった。
ケンは宇宙服を着て脱出、宇宙船を時限装置で爆破した。
命だけは助かったが、それも宇宙服の酸素が無くなるまでだ。
死にかけたケンを拾ったのは、金次第で危険な仕事を請け負う宇宙のプロフェッショナル集団「スペースコマンド」の宇宙船、バッカス三世だった。
ケンがスターウルフだという事が知れれば、たちどころにその場で殺されてしまうだろう。ウルフを生かしておく者など、銀河中どこを探したって、いるわけがないのだ……。
だが、コマンドのチームリーダーであるキャプテン・ジョウは、ケンの正体を見破っただけでなく、その腕前を見込んで、コマンドの一員として迎えいれるのだった。
ただ一人正体を知るジョウ以外のメンバーには素性を隠し、ケンは地球人「新星 拳」としてスペースコマンドの危険な仕事に身を投じていく。
そして、裏切り者を殺すため、ウルフアタッカーも執拗にケンを狙う。
スターウルフ・ケンのさすらいの旅は今日も続く……。
原作では仲間殺しの経緯が「略奪した戦利品の分け前をめぐるいざこざ」だったのが、TV版は「ケンいう名の地球人の子供とその母を殺すのにためらったため」となっている他、「スターウルフ」がヴァルナ人の総称ではなくケン自身についた異名であったりするなど、基本設定からしてTV向きに変えられた点は多い。
だが、それでも夜7時台の特撮番組としてはかなり異色である。
主人公は驚異的な肉体を持ってはいるが、決してスーパーマンではないし、ヒーロー的なマスクやスーツを着けて闘ったりもしない。怪獣なんか全然出てこない。
数多く登場する宇宙人もみな人類であり、せいぜい顔の色が違う程度だ。
原作を意識した描写やキャラクターなども随所に見られ、SF小説をTVドラマ化しようという意気込みがひしひしと伝わってくる。
特に、13話までは一本の連続シリーズとなっており、ファンの間での評価も高い。
銀河を駆けろ!バッカス三世
TV版は、正直に言って原作の持ち味が充分に生かされていたとは言い難い。
周り全てに自分の正体を隠し通さねばならないという緊張感や、悪の星ヴァルナに育ったケンの地球人とは違ったメンタリティ、ウルフとしての誇りといった「キモ」の部分が非常に希薄なのだ。それどころか、低視聴率による路線変更のために、途中からそういう部分は全く無くなってしまった。
だが、悪い事ばかりではない。原作から離れていったとはいっても、原作から離れたがゆえに出来た「熱い漢のドラマ」が毎週展開するのだ。
キャプテン・ジョウの妻と娘は、ケンたち「ウルフアタッカー」の地球襲撃で重傷を負っていた。ケンを拾ったバッカス三世が地球に帰り着いた時、ジョウは二人の家族の死に立ち会う事になる。
一方、怪我の為に病院に収容されたケンは驚異的な回復力で目を覚まし、医者を殴り倒して脱走、宇宙港へと向かう。停泊しているバッカス三世を奪って宇宙へ向かうつもりなのである。
ケンの行動を読み、バッカス三世のコクピットへ先回りして、一人で彼を待ち受けるジョウ。ウルフへの恨みを胸に、船ごと自爆してもケンを殺す覚悟なのだ。
スペースコマンドの追跡をかわし、バッカスの操縦席に辿り着いたケンは、ついにジョウと対決する……!!(第二話)
このあたりは原作とは全然違うが、キャプテン・ジョウ役の宍戸錠の名演もあって屈指の名シーンとなっている。
ちょっと前まで翼に大穴あいてる飛行機を翔ばしたり、怪しい装飾を施した真っ赤な車を走らせたりしてた会社がつくったとはとても思えないハードさである。
カッコイイぜ!錠!!錠ファンなら必見だ。
その後も、ウルフの追撃を逃れる為にブラックホールへと突っ込んだり(第8話)爆発する恒星のそばをかすめて飛んだり(第9話)と、大宇宙を舞台に普通の子供番組では絶対に見られないようなSFドラマが続く。アニメでは「宇宙戦艦ヤマト」という前例があったものの、実写特撮では珍しい。意欲的なシリーズだといっていいだろう。
特に、ササール星の士官ヨローリンの最期(第12話)などは、ファンの間で今も語り継がれている名エピソードだ。
TV版にはTV版のよさがある。わしはどちらも大好きだ。
14話からは路線変更に加えてタイトルも「宇宙の勇者スターウルフ」となり、バラエティあふれる展開に変わる。原作ファンには不評だが、見所も多い(いろんな意味で、だが)。
円谷プロがキレるとコワいのは「戦え!マイティジャック」や「恐竜大戦争アイゼンボーグ」、「ウルトラマン80」などの作品でもおなじみだ。バッチリ楽しもう。
スターウルフの特撮
スーパーヒーローの着ぐるみバトルでない、宇宙のSFドラマ「スターウルフ」は、その特撮も非常に贅沢なつくりである。
宇宙船の飛行シーンはミニチュアをセット内で吊って撮る従来の方式ではなく、多くの場合、合成によって表現している。
特撮ファンでない人は簡単に「合成」というが、わずか数秒の光学合成シーンであっても、それを完成させる為には信じられないような金や手間が必要なのだ。
しかも、単純に背景に宇宙船をハメ込むだけではない。敵機や光線、防御シールドや爆発なども入れ込まなくてはいけないのだから大変だ。ちょっと特撮を見慣れた人ならば、「1978年のTV特撮で、よくこれだけの事が出来たものだ」と驚かされるだろう。
バッカス三世も、それまでの特撮メカに比べるとケタ違いにリアルでカッコイイ。
ロケットの噴射を火薬の炎ではなくフロンガスによって表現していたり、方向転換の時に補助ロケットを噴かしながら旋回したりと、かなり気合いが入っている。
「フロンを噴きながら合成で飛ぶ宇宙船」というのは非常に画期的だった。だが、それらのシーンが必ずしも上手くいっていたとは言い難い。
飛行する宇宙船の軌道が不自然だったり、重ねられている宇宙塵などのエフェクトと全然合っていなかったり、といった調子で違和感のあるカットも多い。
しかも、吊りで撮っているシーンの方が迫力があってカッコよかったりする。13話の、爆発の中を抜けて飛び立つバッカス三世や、最終回のステリューラーとウルフクローの空中戦などは本気でカッコイイ。
本当は合成で飛んでる事の方が凄いのだが、なんとも複雑な気持ちになってしまう。
特に前半の回では、バリバリ撃ち合う宇宙戦闘の場面も少ないし(全く無い回も多い!)地味な印象を視聴者に与えてしまったようだ。
ヘタなヒーロー番組よりもよっぽど金がかかっているのに、カワイソウな話である。
しかもまずい事に、放送は日曜の夜7時で、裏番組はフジテレビのアニメ「スタージンガー」だった。
SF西遊記という肩タイトルの通り、ジャン・クーゴ、サー・ジョーゴ、ドン・ハッカという名の三人の暴れ者サイボーグが、オーロラ姫を守って宇宙を旅する痛快娯楽アニメである。
毎週登場するスペースモンスターをカッコよくやっつける三人組の暴れぶりに人気は集中、「スタージンガー」は好評を持って迎えられた。
かくして地味なスターウルフは闇に消える事となる。
スターウルフとの再会、そして……
しかし、わしはスターウルフが大好きだった。
スターウルフ・ケンやキャプテン・ジョウの活躍が毎週毎週楽しみで仕方なかった。
バッカス三世はカッコよかった。宇宙船ドックでの整備シーンや、オープニングにも使われたドックからでてくるシーン、宇宙港での離着陸のシーンなど、数々の名場面がわしの心に焼き付いた。バンダイのプラモデルも買って作った。
おかげでわしはスタージンガーの前半は全く観ていない。
現在ではLD−BOXが発売されたり、CSで放送されたりして、再びスターウルフを観る事が出来るようになった。
だが、再見して思ったのは「なんて地味な番組なんだ!!」ということ。
今なら、主人公を取り巻くドラマを味わう事も出来るし、SF好き、特撮好きとしての眼で見れば、見所も多いと思う。
だが、これを大喜びで観る小学二年生ってのは、ちょっと……。
わし、本気でヒネくれた、カワイクないガキだったんだねえ。